SAFe® 4.5 のエッセンス
- 株式会社オージス総研訳
- 株式会社エスアイビー・アクセス \5,170 (2020/1/10時点の税込)
- 変形B5版
- ISBN: 978-4-434-27001-7
注意:本書はリアル書店やネット書店で注文は可能ですが、初版の発行数がそれほど多くないので本書が店頭に並ぶのは一部のリアル書店に限られます。
目次
- 第 I 部 概要
- 第 1 章 SAFeに対するビジネスニーズ
- 第 2 章 SAFeの概要
- 第 II 部 考え方、原則、リーダー
- 第3章 リーン-アジャイルな考え方
- 第4章 SAFeの原則
- 第5章 リーン-アジャイルなリーダー
- 第 III 部 エッセンシャルSAFe
- 第6章 アジャイルリリース列車
- 第7章 プログラムインクリメントの計画を策定する
- 第8章 反復する
- 第9章 プログラムインクリメントを実行する
- 第10章 検査と適応
- 第 IV 部 大きなソリューションSAFe
- 第11章 大きなソリューションSAFeの概要
- 第12章 大きく複雑なソリューションを定義する
- 第13章 ソリューション列車の実行
- 第 V 部 ポートフォリオSAFe
- 第14章 リーンなポートフォリオ管理
- 第15章 戦略と投資資金の提供
- 第16章 アジャイルなポートフォリオ業務
- 第17章 リーンなガバナンス
- 第 VI 部 SAFeの実装
- 第18章 変革を進めるための連帯
- 第19章 実装の設計
- 第20章 アジャイルリリース列車の実装
- 第21章 さらにARTと価値のストリームを立ち上げる――ポートフォリオに拡張する/li>
- 第22章 持続と改善
- 結論と先に進むために
本書の旧版を読まれてない方々向けの本書の解説
本書のタイトルに含まれているSAFe(Scaled Agile Framework)[1], [2] とは、チームレベルを超えてアジャイル開発を活用して価値の高いプロダクトやシステムを作るためのフレームワークである。SAFeの生みの親は、本書の共著者であるディーン・レフィングウェルさんである。SAFeの中心となる複数のチームによるアジャイルリリース列車という開発体制は、レッフィングウェル氏の著作である ”Scaling Software Agility:Best Practices for Large Enterprises [邦訳:『アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス』[3] ]” において初めて紹介された。
その後、複数の開発チームを連携させるためのアジャイルリリース列車をプログラムレベルと位置付けて、さらにその上位にプロダクトの企画の審査や投資の判断を行うためのポートフォリオレベルを追加したものが2011年に刊行された ”Agile Software Requirements:Lean Requirements Practices for Teams, Programs and the Enterprises [邦訳:『アジャイルソフトウェア要求:チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス』]” という書籍でSAFeと呼ばれるようになった。このポートフォリオレベル、プログラムレベル、チームレベルの3レベルのものがSAFe 1.0である。
SAFe 1.0のリリース後、SAFeの開発を推進するSAI (Scaled Agile, Inc.) 社が中心となりSAFeに3回の大きな改訂が加えられ、2017年に本書が解説するver 4.5 がリリースされた。また、SAFe 2.x の開発時点から本書の著者であるリチャード・ナスター氏がSAFeの開発チームに加わったのである。
SAFeについて私が特に興味深いと思うのは、以下の3点である。
- 開発組織を超えたより広範な組織でリーン-アジャイルという理念を共有する
- アジャイル開発を中心に据えて、成果が出るように既存の組織構造を物理的に変えるのではなく、アジャイルリリース列車という仮想的な組織を用いる
- チームでのアジャイル開発が一般化した先におけるソフトウェア開発が関係するビジネスの将来像の1つを示してくれる
また、SAFeを構成する要素の説明がWebでオープンに提供されている点もSAFeの魅力の1つである。
その一方で、SAFeについてはスクラムと比べてイベント、役割、成果物が追加されており、「重い」、「複雑」との批判もある。ただ、私は現実の組織を複雑さや力学を完全にリセットしてシンプルにできない企業にとって、SAFeは現状の複雑さや力学と折り合いをつけながら組織を変革するためのヒントになるのではないかと期待している。
SAFeについてよく聞かれる質問の1つがSAFeを如何に組織に導入するかというものであるが、本書の第III 部「エッセンシャルSAFe」と第VI 部「SAFe の実装ロードマップ」がその質問に対する回答を提示している。
「エッセンシャルSAFe」は、SAFe の最小構成であり、複数のアジャイルチームで構成されたアジャイルリリース列車という開発体制で価値の高いプロダクトを早く開発するものである。「エッセンシャル SAFe」は、SAFe を導入する際に最もよく選ばれる構成である。
一方、「SAFe の実装ロードマップ」ではSAFe を組織に導入する典型的なステップが説明されている。これらのステップでは、組織でアジャイル開発を適用する際に必要な適用分野の見極めや推進体制の確立、教育などを理解することができる。
本書は、まさに前記のA, B, Cに加えてSAFeのイベント、役割、成果物、導入ステップを包括的に解説する書籍であり、SAFeを知りたい人や、SAFeの導入を考えている組織の管理職、推進役、実践者の参考になる書籍だと思う。
本書の内容
本書を構成する各部の内容を以下に紹介する。
第I部「概要」では、まずSAFeの基となる知識体系を説明し、SAFeの導入した結果として得られたビジネス上の効果を紹介している。次に、SAFeを構成する各レベルの概要、それらのレベルを組み合わせた構成のバリエーションを説明し、それらの各レベルの土台となる基礎レベルの概要を説明している。
第II部「考え方、原則、リーダー」では、まずリーンとアジャイルの両方を尊重するというリーン-アジャイルな考え方を説明し、SAFeのイベント、役割、成果物などの根拠を理解するのに役立つSAFeの原則を解説している。さらに、変革をリードする上でのリーダーの役割を説明している。
第III部「エッセンシャルSAFe」では、まず「アジャイルリリース列車(ART)」という複数のチームによる開発体制とチームレベルのイベント、役割、成果物を説明している。次いで、プログラムインクメント(PI)という8-12週間の周期で評価可能なシステムを作る際に、その起点となるPI計画策定イベントをアジェンダに基づいて概説している。また、PIと反復のサイクル、実行において重要な品質の作り込みに関するプラクティス、カンバンの活用や継続的デリバリーパイプラインについても説明している。さらに、PIのサイクルの最後で作成したプロダクトのデモや振り返りを行う「検査と適応」というイベントを概説している。
第IV部「大きなソリューションSAFe」では、まずこのレベル固有の役割と適切な意思決定を迅速に下すための経済的枠組みを説明し、このレベルで使う「システム能力」というバックログ項目を説明している。次に、このレベルの開発対象となる大規模システムやシステム製品において求められる標準、法令順守、追跡可能性に対応するために、システム能力で表現できない仕様、設計、テストを格納する「ソリューションの意図」というリポジトリーを併用することを説明している。さらに、複数のARTやサプライヤーを束ねたソリューション列車という体制での計画策定や統合の方法を説明している。
第V部「ポートフォリオSAFe」では、従来のプログラムポートフォリオ管理の3 つの領域(「戦略と投資財源」、「プラグラム管理」、「ガバナンス」)に対応するように「戦略と投資資金の提供」、「アジャイルなポートフォリオ業務」、「リーンなガバナンス」という領域を設定した「リーンポートフォリオ管理」を提案している。リーンポートフォリオ管理の3 つの領域により、アジャイル開発と戦略や予算とのリンク、開発体制を横断した支援の在り方、ガバナンスにおける考え方の切り替えに基づくあるべき姿を提示している。
第VI部「SAFeの実装」では、まずSAFeの実装ロードマップの説明から始まり、そのロードマップを推進するための体制作り、価値のストリームに基づくSAFeの適用対象の選択を説明している。次に、ARTを立ち上げるために必要なステップを説明している。また、最初のART以降に変革を持続し、改善を進める上での注意点を説明している。
本書の旧版からの主な改訂点
SAFe 4.5 での主な改訂点は以下のとおりであるが、本書もこれらを組み込む形で改訂された。
- 「価値のストリーム」レベルが「大きなソリューション」レベルに名称変更した
- 「継続的デリバリーパイプライン」という概念が導入された
- ポートフォリオレベルが「リーンポートフォリオ管理」という考え方で整理された
1.は、レベルの名称変更に留まらず、開発体制の呼び方も「価値のストリーム」から「ソリューション列車」に変更され、役割や成果物の名称も一部変更されている。
2.で挙げた「継続的デリバリーパイプライン」は、継続的探索、継続的インテグレーション、継続的デプロイメントで構成されるものであり、新たな価値の探索、開発、配置を継続的な価値のフローとして実行するものである。そのために、SAFe はDevOps を「継続的デリバリーパイプライン」の実現の基礎になるものと位置づけており、DevOps に向けたCALMR アプローチを提案している。
3.の「リーンポートフォリオ管理」について、前節の第V部「ポートフォリオSAFe」のところで説明したのでそちらを参照して下さい。
これら3 点以外の書籍における改訂点として特筆したいのは、第19 章「実装の設計」である。従来から SAFe の導入を進める際にSAFe の適用対象となる「価値のストリーム」を特定することを推奨していたが、このステップが旧版より具体的に説明されている点が個人的に非常にうれしいと感じた。
参考文献
[1] Dean Leffingwell, アジャイルソフトウェア要求―チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス, 翔泳社, 2014[2] 藤井 拓, Scaled Agile Framework (SAFe) 3.0 入門, https://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/technical/IntroSAFe/
[3] ディーン・レフィングウェル, アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス , 翔泳社, 2010