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朝会カイゼンのコツー5本指朝会

オージス総研
原田 巌
2019年2月28日

朝会が上手くいっていないことはありませんか?朝会というイベントが上手くいかない場合、目的を見失って形骸化している可能性が高いです。ある現場で効果があった、たった一つのアクションによって朝会が生き返った事例からカイゼンのコツをお伝えします。

朝会とは

アジャイル開発の現場で、よく目にするものが朝会と呼ばれる活動です。朝会自体は スクラムガイド に記載されてはいません。スクラムガイドに記載されているものはデイリースクラムです。近いものとして、Extreme Programingでは デイリースタンドアップというプラクティス があります。では、朝会は何で定義されているかというと、『プロジェクトファシリテーション実践編:朝会ガイド』で言及されています。それぞれの定義を簡単にまとめて比較すると以下の様になります。

朝会 デイリースクラム デイリースタンドアップミーティング
目的 チーム全体が、必要な情報を短い時間で共有することで、朝、気持ちよく仕事のスタートを切る スプリントゴールとスプリントバックログの進捗を検査し、チームのコラボレーションやパフォーマンスを最適化する チーム全体のコミュニケーション
行うこと 昨日やったことをふりかえり、今日やることを各自が認識 ・コミットする デイリースクラムの構成は、開発チームが設定 開発者は少なくとも、昨日達成されたこと、今日試みられること、そしてどのような問題が遅れを引き起こしているのかの3つを話す
開催時間・場所 毎朝 、全員で15分以内のミーティングを行なう 毎日、同じ時間・場所で開催 毎日立ち上がってミーティング

今回紹介するプラクティスは朝会と名付けしていますが、上記に上げたどのイベントやプラクティスでも共通する内容となっています。

朝会でありがちな問題と解決の糸口としてのパターン

ここから先は朝会デイリースクラムを厳密には分けずに話を進めようと思います。多くの現場で朝会が行われているもののマンネリになり、最終的には「意味がない」と結論付ける現場も見たことがあります。私が直面した現場でも以下のような現象が見られました。

よくある朝会の姿と問題点

朝会というイベントが形骸化して、その目的を失っている状態になってしまっていると感じ、朝会を行う目的を再考するためにScrum Patternsで公開されているデイリースクラムパターンを確認しました。

デイリースクラムパターン

デイリースクラムScrum Patternsとして公開されている ので、その定義を見てみましょう。以下は筆者がデイリースクラムを翻訳して要点を抜き出したものになります。

デイリースクラム

Daily Scrum
  • (スプリント計画で決めた)タスク計画は問題の発覚やメンバーの体調不良などでその通り進むことはなく、計画を調整する必要がある
  • 再計画はコストが高く、しかし、問題を提起して関係者全員の合意を取るにも時間がかかる

⇒したがって
毎日短いイベントを開催し、目標到達に向けて調整する機会を最適化します。しかし、開発時間が奪われないようにタイムボックス化します。

私が直面したような朝会が形骸化しているプロジェクトにおいては、スクラムガイドにあるようなイベントのやり方は分かっていても、スクラムガイドやスクラムパターンで挙げられているような解決しようとしている問題や目的を忘れてしまっていたようです。

現場で導入した5本指朝会

朝会が形骸化した現場で、朝会の目的を達成するために導入した5本指朝会の内容を説明します。まず、デイリースクラムのスクラムパターンを参考にしつつ、朝会の再定義を行いました。

よくある朝会の姿と問題点

次に、朝会で行うことは変えず、単に「今日やること」を話す際に以下のような表明を追加しました。

  • 5本指:今日のタスクは終わって、他の人を助けられる
  • 4本指:今日のタスクは確実に終わる自信がある
  • 3本指:今日のタスクは終わると思っているが自信はない
  • 2本指:今日のタスクは終わらない。助けが必要
  • 1本指:自分ではどうしようもないので相談が必要

特に新しいコストが掛かるわけでもなく、朝会の時間を全く伸ばす要素もない他愛もない1動作を加えただけです。しかし、この何気ない追加の報告が、私のいる現場では劇的な変化を生みました。

5本指朝会の効果

現場では以下のような効果がありました。

  • 報告が分かりやすく、作業をコミットしてくれるようになった

今まで「開発します/テストします」と言っていたメンバーが「xx開発をしてxx辺りを実装します」と詳しく「何が」「どの程度」できるのかを話してくれるようになりました。また、作業終了時にヒアリングしてみると朝会での宣言と大差がなくなってきました。

  • 自然に困っていることと助け合いが生まれた

朝会で問題や困りごともあまり出なかったのですが、「xxを実装していてxxの方法が余り得意じゃなくて」のように困りごとが自然と出るようになりました。更にここまでは期待していなかったのですが、自然と「5本指」の人が積極的に「2本指」「3本指」の人を助ける、または逆に助けをお願いするようになりました。

結果として、メンバー間で何をしているか理解し、より良いコミュニケーションが取れるように変わりました。コミュニケーションがカイゼンされると他の問題も自然と上手く解決されていくのがチーム作業の面白いところです。

よくある朝会の姿と問題点

プラクティス適用のコツ

世の中には様々なチームが様々な現場で頑張っています。プラクティスの多くは簡潔な方法が書かれていますが、実際は、プラクティスによって解決したい問題と解決方法を合わせていくことが肝要です。そのために「なぜプラクティスを実施するのか」という目的を知ることで、チームの現状と照らし合わせてその差分を埋められるように意識して振る舞えるようになります。それにより、プラクティスが真に活きるようになります。

みなさんもプロジェクトファシリテーションやScrum Patternsなど、先人のまとめた文献をあたり、プラクティスの目的を理解した上で、自分たちの直面している現場へ適用することを考えてみてはいかがでしょうか。

参考