デザイン思考では自分の強みを高めることが大事
昨年 (2013年) 9 月、デザイン思考研究所 代表理事所長の柏野尊徳さんにインタビューをしました。柏野さんはデザイン思考を活用したワークショップ開催や企業向けの教育プログラム開発・研修を行っておられるデザイン思考の大家のひとりで、弊社の客員コンサルタントにもなっていただいています。
社会心理学をバックグラウンドにもつ柏野さんは、デザイン思考を実践するチーム内のメンバーのパーソナリティやチームビルディングについて多くを語っていただきました。
なお、デザイン思考やイノベーションについて詳しく学びたい方は、デザイン思考研究所で無料公開されているテキストや動画、EnterpriseZineの柏野さんの連載記事、また、弊社の Web マガジンをお勧めします。
始まりは社会心理学から
藤井- では、柏野さんがデザイン思考にどのようにして興味を持たれたのか経緯をお聞きしたいと思います。
柏野- 最初の専門領域は社会心理学でした。「どうすれば個人の強みを生かし合えるチームが作れるか?」という問いの元、新しい価値を生み出すときにチーム内に働く力学に興味がありました。様々な人達や面白い人達が集まればそれだけで新しいことができるわけでもなさそうだけれど、一方でイノベーションの事例をみると「和気あいあいと仲のいい人達が朝まで議論する」みたいな話もある。最初は心理学で、その後に「新しい市場をいかに作るか?」といった形で興味が移っていきました。
藤井- 柏野さんご自身も、学生時代から仲間と一緒になにか新しいことをされていたのですか。
柏野- 新しいことではないですがバンドをやっていました。中~高校生にかけて 120 曲ぐらい作って、そのうち 5 曲を 1,000 枚の CD にプレスしましたね。地元のライブハウスで演奏したり、FM ラジオで流してもらったりとか。それで著作権ビジネスも勉強し始めました。そのうち「自分で著作権を持つより、著作権を管理する会社の社長のほうがいいな」と考えたりもして。
一同- 笑。
柏野- ビジネスも面白いけれど、それとは別の次元で仲間と一緒に何かをやること自体が楽しい。バンドって人の強みや特徴が出るじゃないですか。「自分はギター弾きながら歌を歌う。その後ろではベースとドラムがリズムをキープ。曲の途中で華やかなギターソロを弾く人もいる」。チームで何かをやることと、新しいことをするのが好きで、その 2 つがオーバーラップしていったという感じですかね。
藤井- 社会心理学という分野は分類して分析的に考えていくというイメージがあって、どちらかと言えば、それによって何かを生み出す可能性を追求するものではないと思ったのですけど。
柏野- 社会心理学に限らず、基本的に学問は分析して整理して体系化していくものだと思います。僕は現象を見た上で自分の頭で考え、そこから何か新しいものをつくるのが好きですが、考えるきっかけとして学問を使っています。例えば、渋谷で誰か 1 人が (上を指さすジェスチャーをしながら) こういうことやっても変ですけど、50 人が同じことをやったら「え、なんだろう??」と多くの人が上を見ますよね。こういった心理学の知見を踏まえながら、自分で何かを考えていく感じです。僕自身が好きなのは、新しいことを考えて実践することや、同じように新しいこと考えている人の話を聞くことです。そこに対して、たまたま学問的にやっていたことが繋がったわけです。「集団行動の中で生まれるイノベーション」ですね。だから最初は組織にはそんなに興味はありませんでした。あくまで個人が活かされる集団の方です。
藤井- その後、スタンフォード大学の d.school でデザイン思考を学ばれたということですが、どうやってそこに至ったのですか。
柏野- 慶應の SFC に学部で所属していたときに、スタンフォード大学やシリコンバレーで 2 週間学べる機会があって面白そうだなって思いました。テーマは「デザイン思考とソーシャルイノベーション」でした。その時はデザイン思考に全然興味なかったんですが、ソーシャルイノベーションの方に興味があったので参加しました。でも、実際にデザイン思考のプロセスを通じて行動することで、個人のパーソナリティをより活性化できることがすぐにわかりました。自分が今まで学んできた様々な知見をうまく統合できるものでもあったので「これは面白い。各プロセスを1つずつ掘り下げてみたい」と思って。基本的に飽き性なのですが、デザイン思考だと観察やったりアイデア出したり、プロトタイプ作ったりで飽きなくていいなと思って (笑)。
柏野- だから、最初からデザイン思考があったわけでもないですし、デザイン思考が全てだという感じはないです。自分の歩んできた人生や、僕個人のパーソナリティ、興味対象を考えたらこれがピッタリだなと思って。
デザイン思考とは、人間を中心にイノベーションを起こすこと
藤井- さて、基本的な質問ですが、デザイン思考の目的や思想を教えて頂けますか。
柏野- IDEO のティム・ブラウンが言っているのは、「人間中心のデザインをすることでイノベーションを起こす」ということです。往々にして、製品やサービスが組織の都合で作られることがありますよね。あくまで極端な例ですが、携帯電話のフォルムを決める時に、今の工場ですぐプレスできるような形を採用するようなものです。このようなアプローチでは、製造効率はいいけれど、ユーザーにとって非常に持ちにくい携帯電話になることがあります。それは全然人間中心じゃない。「提供者の視点だけではイノベーションは起きない。ユーザーのニーズをうまく反映できていなければイノベーションは起きない」というのがデザイン思考の考え方です。つまり、デザイン思考の目的はイノベーションを起こすため。その起こし方として必ずユーザー、つまり人間を中心に考えていくということです。
用語解説:IDEO と d.school
IDEO (発音はアイ・ディー・オー) はデザイン思考を広めたコンサルティング会社。d.school はスタンフォード大学内のデザイン思考を学ぶクラス。d.school は IDEO の創業者の助けによって設立された。
藤井- トヨタ自動車さんの新製品開発の話ですけれど、北米を実際に自動車で走ってユーザー体験を得てから新製品の構想を抱くという事例がありますが、それと同じですか?
柏野- 発想としては一緒だと思います。実はデザイン思考のプロセスはいくつかあって、スタンフォード大学の d.school と IDEO とでは違います。でも、どちらも発想といいますか、人間中心でやりましょうといった部分では同じなのです。デザイン思考が生まれ普及した背景の 1 つに、分析的な思考だけだと結局はユーザーの期待に応えられなかったり売り上げが上がらなかったりした。これまで論理学の流れを汲んで分析的にやってきたけれど、それだけじゃ駄目だよねって彼らは気が付いた。じゃあ、その先に何があるかって考えたときに「人」だと。本来は人から全て始まるので、たくさん分析した後に「人」っていうのも変な話なのですけど。トヨタの質問の例に戻ると、自分が車を運転することによってユーザー視点を得るということだと思いますから、大事にしようとしているものに違いはないと思います。
藤井- 他にもホンダ技研さんでは新車開発において、最初に合宿をして基本コンセプトや設計の基本思想をまとめるという話があります。こういった活動もデザイン思考と通じるものがあるのでしょうか。
柏野- そうですね。やっぱりそういった活動とデザイン思考は相性がいいですね。最近感じているのは、デザイン思考の本質はコミュニケーション量が増えることにあるということです。よいプロダクトを作ろうと思うと、「ユーザーからヒアリングして、まとめた要件を実現すればそれでいい」ということでは済みません。デザイン思考では「この要件って本当にこれでいいのか?」と問いかけるプロセスが最初から入っています。本来はそのようにお客さんやチームメンバーとガチンコでコミュニケーションした方がいいのですが、今は分業化され、整理され過ぎてそういうコミュニケーションがなくなっている。で、お客さんから「言われた」ものを作ったはずなのに、お客さんから「これじゃあ使えない」とクレームがきてしまう。お客さんからすれば「何が欲しいか明確にわからないから、プロに任せた。それなのに、私の発言を切り取って形にしただけなのか」となる。だから、お客さんの言えなかったことをくみ取るためには、効率が悪いように思えてもたくさん会話をしなきゃ駄目なんです。
柏野- それこそホンダ技研さんのワイガヤなんて、ある意味すごい効率が悪いかもしれない。3 日 3 晩時間をかけなくても、もっとスマートに無駄のない会議をすることはできると思います。でも、時間をかけて色々な角度から話をすることで、通常業務の中では共有できないお互いの考えや価値観を知ることができる。最初は雑談レベルの話に思えても、話が深まって「それ面白いね。コンセプトのヒントになるかもしれない」という流れに到るのだと思います。
藤井、竹政- なるほど
用語解説:ワイガヤ
ホンダ技研のアイデア創発の場のひとつ。役職等の垣根も越えて、文字通りワイワイガヤガヤと議論する形式でおこなわれる。
柏野- ただ、違いがあるとすれば、デザイン思考の方はもう少し明確に「今はインタビューをしてお客さんの話を聞く段階です」「プロトタイプをつくりましょう」といった形で、フェーズに区切りがあります。ですから、今どこの段階にいるかを参加者全員が理解しやすく、共同で進めやすいという点は特徴でしょうね。体系化されていることの良さと言えます。
藤井- デザイン思考に不勉強で申し訳ないのですけど、誰がそのデザイン思考と名付けたり、今言われたプロセスの概要を定めたりしたのでしょうか。
柏野- 最初の出版物は建築家のピーター・ロウによる『デザインの思考過程』という本です。ただ、その本で言及されている内容は、現在の「イノベーションを起こす」という文脈とは少し違います。基本的には、都市計画における建築というような限定された範囲のものでした。そのような状態から、現在使われているような形へ一般的に広めたと言われてるのは IDEO です。IDEO がデザインシンキングという言葉を積極的に用いてコンサルティングをしました。ですので「デザイン思考の源流は?」と言われても、誰かが最初に明確に定義したわけではないので、明確な答えは難しい部分もあります。それこそ「ロジカルシンキング」や「ビジネスモデル」みたいなものですね。創始者というものは厳密には存在しなくて、人によってその言葉が何を意味するのか若干違っていたりします。よくも悪くも一般名詞だと言えるのではないでしょうか。
自分がエクストリームユーザーになる
藤井- 次に、デザイン思考を実践する段階のお話についてお聞きしたいのですが、例えばワークショップでデザイン思考を体験学習して、その後実践に入ったとします。その実践の段階で様々な難しさに直面してくじけたり、あるいは助けてくださいっていう依頼が来たりしませんか?
柏野- ありますね、やっぱり。中でも興味深かったのは、オフィスの内装の壁を作っている会社の例です。「業務でデザイン思考を使いたいがどうしたらいいか」というお話でした。確かにどうしようかなと思って。壁と人間の関係ってそんなに明確じゃないですよね。「オフィスの壁についてどう思いますか」ってユーザーにインタビューしてもなかなか意見が出ないでしょうし (笑)
竹政- 壁は、あまり覚えてないですよね。
柏野- そうですね。几帳面にプロセスを全部やろうと思ったら、どこかで詰まってしまいます。もちろんプロセスを踏むことが基本的ですけど、やらなくてもある程度できるということをどううまく伝えていくか、もしくはその方法を我々がどのように提示できるかっていうところが大切だと思います。
柏野- だから、インタビューできないっていう問題でいえば、インタビューできなくても良い製品はできるわけです。例えばスティーブ・ジョブズなんか街頭インタビューをしたことないと思います。彼は自分でこれがいいと思うものを突き進んでいく形ですね。だとすれば、社員の中にプロダクトにすごくこだわりがある人を探せば、その人の話を聞くだけでいいかもしれない。技術的なこだわりじゃなくて、ユーザーとしてのこだわりを持った人ですね。要はやりようはある話だということです。
柏野- インタビューの例で話を続けると、インタビューはユーザーのこだわりをピックアップする感じでやります。だから、自分達が手がけている製品に対していちユーザーとしてファンであれば、インタビューはいらないかもしれません。どんな製品がいいのかは、感覚的であっても自分たちが分かっているのですから。製品を好きなもの同士でワイワイガヤガヤやっていたら、アイデアが生まれるでしょう。ただ、大きい会社になると、分業が進んでいます。上からのお題で企画を立てたとして、その企画に 100 パーセント人生を注ぎたい人の方が少ないですよね。だからこそ、フィールドに出てその企画に心底興味を持ってくれる人の話を聞かなきゃだめなんです。
竹政- やっぱりエクストリームユーザーを見つけることが重要なのでしょうか。
柏野- そうです。で、難しければ自分がやってみる。結局、最後は自分がやるしかないですよね。情熱や夢の話になるのですが「何としても良い製品を作りたい」という状態になれば、自分で実際に使うはずです。そして、自分がエクストリームユーザーになりきる必要があります。難しいかもしれないけれど、そういう姿勢がない限りイノベーションは起きないでしょうね。
藤井- やっぱりそれとプラス、全く異なる体験の中からヒントが出てくることもあるのですよね。
柏野- そうです。それもあります。組み合わせというか … デザイン思考はそういった体験を行き来するから直感が出やすい、広がりやすいという面があります。
アメリカ人、ヨーロッパ人、日本人-デザイン思考の違い
藤井- 少し話は変わりますが、ヨーロッパとアメリカでデザイン思考に何か違いがありますか?
柏野- これは結構面白いのですが、ヨーロッパは人間工学的な発想で、アメリカはマーケティング的な発想なんです。かなり極端な例ですが、何かすごくおいしい食べ物があるときに、いかにおいしく見せるかを考えるのがアメリカ式です。「いかに人間の味覚にマッチする上質な肉を作るか」ということよりも「肉のジューシーな音を売れば人は買う」 --- そういう発想です。一方ヨーロッパでは、味覚であったり「一口に切って食べやすいサイズはどういうものか?」といった視点が含まれている。もちろん、実際は混合しているので一概には言えないですけどね。
柏野- あえてわかりやすく言えば、ヨーロッパが古代ギリシャの源流を汲んで哲学的な思考に重きを置いています。「よい製品とは何か?」というイメージです。一方、アメリカはキャッシュを回すことも非常に重視する。そう考えると、ヨーロッパはデザインを通じて「いかに普遍的な真理を追究するか」といったニュアンスがデザイン思考に含まれやすくなります。伝統や文化を大事にするヨーロッパらしいと言えます。ところが、アメリカでデザイン思考というと「新しい経済的価値を生む」という意味での「イノベーション」になるでしょう。「デザイン思考でイノベーションを量産する」という感じです。もちろん、この視点はビジネスを継続させる上で非常に重要です。言うならば、両者はアウトプットに対する意識が違うわけです。世界を横断してデザイン思考で共有できるものはかなりあるとしても、最初の動機や最終的なゴールは結構違っているんじゃないかと思います。
藤井- 今言われたように、デザインというとヨーロッパのほうがアーティスティックに優れている感じがする、すごいいいものがありますよね? で、ハードウエアのプロダクトもヨーロッパの方って素晴らしいじゃないですか。だけどアメリカのモノって割と論理的で、ソフトウエアみたいなものは強いけれど、ハードウエア的なデザインとかではあまり長けていないような気がして。それで根本的な疑問なのですが、なんでデザイン思考なのだろうなと。
柏野- まず、デザイン思考の言葉の意味の話をしますが、デザインとは問題解決です。ハーバード・サイモンの定義でいえばデザインは、現状をより良い状態に変えていくことです。お客さんが「もっと快適な車が欲しい」と言った時に「じゃあ車幅を広げよう」「いや、心理的な快適さを追求しよう」と、色々な解決方法があるはずです。デザイン思考では、色々な解決策の中でもイノベーションにつながる方法でその問題を解決しようとします。
用語解説:ハーバード・サイモン
経営行動と意思決定に関する研究におけるノーベル経済学賞受賞者。人工知能や意思決定支援システムの先駆者でもある。『システムの科学』は名著。
柏野- 次に、アメリカのハードウェア的なモノがあまり長けていないという先程のご意見の話をします。アメリカは抽象的な思考能力がすごく優れている国なのですが、一方で日本のように具体的な細やかさや繊細さは弱い。
柏野- 私達人間にはそれぞれ違った特徴があります。すごく抽象的な思考が得意で、アイデアがどんどん出てくる人もいれば、具体的な思考が優れていて、目の前の一個一個の細かいところの細部について判断できるような人もいます。分析的-統合的、具体的-抽象的という軸で分類すると、日本人は、文化的には分析的かつ具体的な領域が得意といえます(ノートに描いた図を指す)。弱みは「分析可能な前例がないと、前に進めない」と言えますし、強みは「前例のアラを探して劇的に改善する」とも言えます。アメリカは、どちらかというと抽象的で統合的ですね。細かいところの改善はあまり得意じゃないけど、コンセプトを出したり、何か人々に刺激を与えたりするような、ゼロから1を生み出すのが非常に得意です。だから、人を引き付ける新しいモノは生まれやすいのかなと。具体的な例としては Apple の iPhone。部品は日本のメーカーが 50%以上を占めています。そういう意味でデザイン思考的なコラボレーション結果による製品とも言えます。
藤井- 日本もアメリカも、そういう傾向であるとは思うのですが、個人差も結構ありますね?
柏野- 個人差はかなりありますよ。単に人口分布でいうと日本はこっちが多くてアメリカはこっちが多いというだけなので、みんなそうだというわけではありません。多いと言っても、この 4 分類の分布をパーセンテージで分けたらそれほど大きな値の差がある訳ではありません。ただそれによって社会の文化とか、何を評価するかはやっぱり変わってきます。日本では新しく何かを始める人を否定的に見ますよね、足を引っ張るというか。一方、アメリカで新しいことをすると評価される土台があります。もちろんアメリカでもボストンみたいな東の地域だったら保守的な度合いが高まります。日本人の多くの方が大企業で感じているような閉塞感を感じることもあるでしょう。しかし、国全体として何かを打ち出すときに何に重きを置くかっていうと、日本の方は「前例があるのか」「これは本当に大丈夫で安全なのか」「具体的にちゃんと動作するのか」という点が重視されます。アメリカは、あるコンセプトが追求することで可能性が広がるのか、といった点を重視しているように思えます。
得意・不得意を補い合って
竹政- デザイン思考をやる場合、人の特性を考えてどう役割分担を考えるべきか、あるいは、デザイン思考によって人の特性を教育するのか、そのあたりはどうお考えでしょうか?
柏野- 心理学の知見から言えば基本的にはその人がもっている資質は変わりません。僕もその前提にたっています。まずは、デザイン思考のプロセスの中で、自分が一番価値を発揮できるか段階はどこかを自覚することが最初ですね。
柏野- (上記の図を書きながら)最初のインタビューは「知覚」ですね。具体的にユーザーの声を聞いたりして、良い意味で受動的、ちゃんと受け止めて感知する。その次、「定義」でどこに問題があるかを抽象化してテーマを作る。「跳躍」では問題点から刺激を受けて抽象的なコンセプトを生み出す。この段階になると、そのコンセプトが本当に適切なのかという明確な根拠はない。つまり、「知覚」のインタビューであればお客さんが言った事実ですし、「定義」の分析もデータを統合した結果なのでそれも事実です。でも「跳躍」では「このアイデアが良いよね」とは言えても、エビデンスとして本当にそれがいいのかは確かではない。次の「体験」は具体化です。実際触れられるものにまとめ上げていく。技術者とかデザイナーの方が、具体的に作っていく。
柏野- 大雑把に言っても、「知覚」、「定義」、「跳躍」、「体験」でかなり得意、不得意が出るんですよね。お客さんの話を丁寧に聞こうと思っているんだけど、聞いている瞬間から解決策を考えちゃう人もいます。僕は「跳躍」の傾向がすごい強いのでお客さんの話はあんまり聞けないんです。聞いてるうちに解決策が出てきちゃうからインタビューにならない(笑)。一方で、ブレインストーミングや戦略立案といった抽象度が高い領域では、チームメンバーの中でいつも一番多くのアイデアを出します。他にも、抽象的に分析することが得意ないわゆるMBA的な人は、マトリックスを作って「この左上が空いてる。ここに市場機会がある」ということを事実に基づきながら可視化させることができます。ただ、それを言うにはある程度データがないとできない。得意不得意は誰にでも必ずあるというところです。
柏野- デザイン思考をやっていく中で「自分はここが全然できないな」「ここはすごいできるな」と見えてくれば「自分は『知覚』が得意だから『跳躍』が得意な人と一緒にパートナーシップを組めばいいんだ」という発想にもなりますよね。デザイン思考のプロセスの中で、自分の強みが生かせる段階を把握して、パフォーマンスを高めていくということが重要じゃないかな。
柏野- 最後に日本とアメリカの比較をもう一度言うとすれば、日本人は「知覚」がすごい得意。だから空気を読んだりとか、察知する能力がすごいですよね。おもてなしとか。一方のアメリカ人はおもてなしというより「契約に基づく対価提供のサービス」っていう発想ですよね。おもてなしは少し違っていて「目の前の人が喜ぶからやりましょう」という部分はありますね。
来月号のインタビュー後半は、日本国内の企業に対して多くの研修やコンサルテーションを行なわれている柏野さんならではのお話を紹介します。