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「イノベーションの育て方～ハナさんのストーリー～　（２６）」

2020.09.24 株式会社オージス総研　　山海　一剛

2019年9月3日(3)

ブレインストームの１回目が失敗した原因を佐野さんは２つ挙げた。まずアイデアに対する思い込み、さらに心理的安全性の低さ。

「まずアイデアについてですが、要するに難しく考え過ぎなんじゃないかということです。新しいビジネスは、最新のITを活用したものだという思い込みがあって、でも自分はITに詳しくないので、アイデアを出すにはハードルが高い...。もちろんそんな前提は無いですし、例えばITを全く使わないサービスでもいいんですけどね。」
佐野さんが続ける。
「その証拠に今日は、"私は詳しくはないので"、"間違ってるかも知れないけど"、"もっといいやり方があるかもしれないけど" ...とか言いながら付箋を貼る人がほとんどだったでしょう。」

「つまり、実現性の無いアイデアを出したら、無知だと思われるのではないか。アイデアがぶっ飛び過ぎていると、ワークショップの邪魔をしているだけなのではないか...と思ってしまうんですね。」
大森くんが言う。
「それが、心理的安全性の低さです。」
と佐野さん。
「じゃぁ、アイデア出しには、ITの専門家に参加してもらうべきなのでしょうか」
と私。
「それは賛成できませんね。必要なのはユーザーに対する深い理解、つまり共感の深さであって、ITの知識ではありません。共感ステップでインタビューの経験を共有し、良い議論を積み上げた人たちでないと、ユーザーに寄り添うような良いアイデアは考えだせません。チームがひとつになって知恵を出し合うことが一番大切なんです。」
なるほど。それに今日のような状態では、ITに詳しい人を参加させると、その人に頼って自分のアタマでは考えなくなってしまいそうだ。

「それに普段皆さんもスマフォを使いこなして、その上SNSもやっておられます。家の中でも街に出ても、いろんなITがあります。そこからヒントはたくさん得られるはずだと思います。」

「日常の身の回りにあるITと、仕事として考えるITは別物っていう思い込みもあるんですね」
と、大森くん。

そういうことか。
「でも実現性の無いアイデアを出して、それが選ばれてしまったら困りますよね。やはり今の技術で実現できるかどうかを判断できる程度の知識は必要なんじゃないでしょうか」

「では、面白い事例を紹介しましょう。ある人がこんなアイデアを思いついたんです。主婦のために、近所のスーパーマーケットで売られている食材を使って、夕食のレシピを提案するサービスです。近所のスーパーマーケットで売られている食材で提案するところが、このアイデアの面白いところです。」

レシピサイトはたくさんある。でもネットで見つけたレシピに必要な食材が近所のスーパーに無いと、探し求めて店を渡り歩くことになる。なるほど、よい着眼点だ。

「で、そのアイデアを検証するためにその人は、最初にどのようなIT機能を作ったと思います？」

「あー、それって難しいですね。まずスーパーの店員さんに、その日に売り出している食材を登録してもらう機能が必要ですね。それとユーザーごとの料理の好みや、行きつけの店などの情報を管理しないといけない。その上でお店の食材とユーザーの好みをもとにお薦めのレシピを提案する部分は、人工知能とかを使いたいところですね」
すらすらと答えた大森くんに、内心舌を巻く。うーん、やはり彼の才能を私は活かせていない。

「大森さん、素晴らしいですね。でも、価値があるかどうかわからないアイデアに、そんなにお金をかけられますか」

「確かにそうですね。うーん、こういう場合、最も重要な機能に絞り込んで検証するんですよね。えーっと、やっぱり食材とユーザーの好みからレシピを提案する部分を作ったのかな」

「大森さん、素晴らしいお答えです。でも違います。正解は...」
少しもったいぶってから佐野さんが答える。
「実は何も作らなかったんです。すべて手作業で検証したんですよ」

「え？」と私、
「え？」と大森くん、
二人顔を見合わせて、もう一度、「ええーっ」
思わず息の合った二人を見て面白そうに笑う佐野さん。

「それって、ひょっとして...」「そうです。まず、知人の料理人にパートナーになってもらいました。次にモニターになってくれる人を探してきます。もちろん最初は一人だけ。その人の行きつけのお店に行って並んでいる食材から、料理人の人がレシピを考え、そのレシピをメールで送る...」

「そんなんじゃ、ユーザーが増えたら回らなくなる。せいぜい5-6人で破綻するでしょう。」
と、目を丸くしながら大森くん。

「はい。でもアイデアを検証するのに、そんなに沢山のモニターは必要ないですよ。たとえ一人か二人であっても、想定したユーザー像にマッチしてさえすれば。」

この事例のポイントは、以下のようなことだろうと思った。
・実装は後で考える（何とでもなる）。アイデアの価値検証を優先する
・価値検証の結果ダメならアイデアを捨てる
・未練なく捨てるために極力お金と時間をかけない

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「たくさんアイデアを出して、これだと思ったものから早く安く検証する。ダメなら未練なく捨てて別のアイデアを試す。チームでこういう動きが出来ないといけません。岩崎さん、今のチームに出来ると思いますか」
今日のぎこちない空気感を思い出すと、とうてい無理って気がする。
「ですから、アイデア出しのためだけではなく、これから先のために、チームメンバーの関係性を１段階上げておく必要があります。」

「でもどうやって。」

「チームビルディングを活動に加えましょう！」

＜つづく＞

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