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アジャイル

DtoDに基づくアジャイル要求入門

第3回:DtoDの事前ビューの計画/分析セッションの例(続き)
オージス総研 技術部 アジャイル開発センター
藤井 拓
2015年9月4日

本記事の前半では、第1回の記事で導入した「地域リユースオークションサイト」を題材にして事前ビューの計画/分析セッションの進め方の続きを説明します。さらに現在ビューの計画/分析セッションの進め方を簡単に説明します。

事前ビューの計画/分析セッションの例(続き)

調査し、評価する(続き)

オプションボードに貼りつけられた優先度の高いプロダクトオプションから以下のような(粒度の大きな)ストーリーを組み立てることができます。

粒度の大きなストーリー

確認する

プロダクトの7側面に沿って優先度の高いプロダクトオプションからストーリーを組み立てたら、それら優先度の高いストーリーに対するシナリオを記述します。

事前ビューのシナリオは、ユーザーの観点に立ってプロダクトを利用する具体的な状況を記述したものです。シナリオの登場人物を考えるため、出品者や購入希望者というユーザーロールの具体的な人物像をペルソナで表現します。

例えば、出品者や購入希望者としてA市で小学生の男の子を持つお母さんを考えます。販売希望者を理子さん、購入希望者を湯子さんとします。さらに、リユース品としては「小学校の制服」を考えるとシナリオとして以下のようなものが考えられます。

理子さんは、わが子が着られなくなった小学校の制服を使ってくれる人を探したいと思い、「地域リユースオークションサイト」にその制服を衣類、子供服という商品種別で学校名、男女の区別、制服のサイズ、販売希望価格1,000円、受け渡し店舗の希望、入札期限とともに登録した。

このようなシナリオを考えることで、優先度の高いアクションオプションのユーザーから見た妥当性を確かめられるとともに、以下のようなことに気づきます。

  • 子供服のリユースを行うお母様方を考えると、モバイルデバイスのクライアントの優先度を上げた方がよいかもしれない
  • リユース品の画像を掲載できた方がよいかもしれない

このようにして、「確認」では優先度の高いストーリーのユーザーから見た妥当性を確認するとともに、全体として最低限必要な機能が網羅されているかを確認します。

見積もりと計画

前節で妥当性が確認できたら、それらのストーリーを開発する労力を見積もり、次のリリースで予定している労力でそれらの機能が開発可能かを確認します。

機能の妥当性が確認できて、次のリリースで予定している労力で開発可能なストーリーが次のリリース目標になります。

事前ビューセッションの入出力

前節の計画で、事前ビューセッションの検討は終了します。事前ビューセッションのまとめとして、その入出力を図示すると、以下のようになります。

事前ビューセッションの入出力

このような事前ビューのセッションにおいてプロダクトの 7 側面に渡るプロダクトオプションを調査、評価、確認することで、価値の高いプロダクトのスライス(薄切り)を得ることができます。

オプションからプロダクトへ出典: エレン・ゴッテスディーナー、メアリー・ゴーマン 著, 『発見から納品へ:アジャイルなプロダクトの計画策定と分析』, BookWay, 2014. 90

現在ビューの計画/分析セッションの例

現在ビューの計画/分析セッションでは、顧客パートナーとしてユーザーの代表者や技術パートナーとして開発チームのメンバーが入って開催します。

現場ビューの計画/分析セッションの調査、評価では、より詳細なプロダクトオプションを検討するために以下のようなツールやテクニックを使います。

  • プロトタイプ(モックの意味): インターフェイス側面
  • ビジネスプロセス:アクション側面
  • (粒度の小さな)ストーリー:アクション側面

これらはほんの一部にすぎず、これ以外のツールやテクニックについては文献[1], [2]をご覧下さるようにお願いします。検討する内容がより詳細になった以外の検討の進め方は、事前ビューの計画/分析セッションの調査、評価と基本的に同じです。現在ビューの計画/分析セッションの調査、評価の結果として、優先度の高いストーリーが得られます。

確認のステップではこれらのストーリーに対するシナリオや例を作成し、開発したプロダクトの受け入れテストのテストケースを作成します。作成されたテストケースは、現在ビューで計画した反復で作成されるプロダクトの受け入れテストに使われます。

現在ビューセッションの入出力

最後に

これまでの3回の連載でDtoDの概要を説明しました。本記事の説明が長すぎてエッセンスがつかめなかったという読者の皆様には、DtoD紹介ビデオ(日本語字幕付き)[3]の視聴をお薦めします。また、さらに詳しくDtoDを知りたいという方には書籍「発見から納品へ:アジャイルなプロダクトの計画策定と分析」を読まれたり、弊社が提供する「DtoDに基づくアジャイル要求トレーニング」を受講されることをお薦めします。なお、オブジェクトの広場の 書籍「発見から納品へ:アジャイルなプロダクトの計画策定と分析」紹介 には書籍の目次や各セクションの概要が記されていますのでそれもご参考にして頂ければ幸いです。

さらに、2015年の秋ごろにオブジェクトの広場でDtoDの考案者の 1 人であるMary Gormanさんへのインタビュー記事を掲載する予定です。このインタビュー記事では、Gormanさんにお聞きしたDtoDを実践する上でのいくつかの疑問点に対する回答が記されていると思いますので、ご興味がある方はそちらもご覧下さるようにお願い致します。

謝辞

本記事の作成にあたり、「発見から納品へ:アジャイルなプロダクトの計画策定と分析」の図を使用することを許可して下さったEBG Consulting社のEllen GottesdienerさんとMary Gormanさんにこの場を借りて感謝を致します。

参考文献

[1] エレン・ゴッテスディーナー, メアリー・ゴーマン, 発見から納品へ: アジャイルなプロダクトの計画策定と分析, BookWay, 2014
[2] エレン・ゴッテスディーナー, 実践ソフトウェア要求ハンドブック, 翔泳社, 2009
[3] DtoDの紹介ビデオ(日本語): https://www.youtube.com/watch?v=YF0Kv4bRKbI&feature=youtu.be (短縮URL: https://youtu.be/YF0Kv4bRKbI )