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オージス総研の本

SAFe® 4.0 のエッセンス

組織一丸となってリーン-アジャイルにプロダクト開発を行なうためのフレームワーク
  • リチャード・ナスター、ディーン・レフィングウェル 著
  • 株式会社オージス総研 訳
    藤井 拓 監訳
  • 出版社:エスアイビーアクセス(2018/7/20)
  • 変形B5版, 定価 4,200円+税
  • ISBN: 978-4434248511
2018年7月12日


注意:本書はリアル書店やネット書店で注文は可能ですが、初版の発行数がそれほど多くないので本書が店頭に並ぶのは一部のリアル書店に限られます。

目次

  • 第 I 部 概要
    • 第 1 章 SAFeに対するビジネスニーズ
    • 第 2 章 SAFeの概要
  • 第 II 部 SAFeの基礎
    • 第3章 リーン-アジャイルな考え方
    • 第4章 リーン-アジャイルなリーダー
    • 第5章 SAFeの原則
  • 第 III 部 プログラムとチームレベル
    • 第6章 アジャイルリリース列車
    • 第7章 プログラムインクリメントの計画を策定する
    • 第8章 プログラムインクリメントを実行する
    • 第9章 検査と適応
  • 第 IV 部 価値のストリームレベル
    • 第10章 価値のストリームの概要
    • 第11章 大きく複雑なソリューションを定義する
    • 第12章 ARTとサプライヤーを連携させる
  • 第 V 部 ポートフォリオ
    • 第13章 ポートフォリオレベルの概要
    • 第14章 リーン-アジャイルな予算編成、予測、契約
  • 第 VI 部 SAFeの実装
    • 第15章 変革推進チーム
    • 第16章 実装の設計
    • 第17章 アジャイルリリース列車の実装
    • 第18章 持続と改善
    • 第19章 エッセンシャルSAFe

本書の解説

解説:オージス総研 藤井 拓


本書のタイトルに含まれているSAFe(Scaled Agile Framework)[1], [2], [3]とは、チームレベルを超えてアジャイル開発を活用して価値の高いプロダクトやシステムを作るためのフレームワークである。SAFeの生みの親は、本書の共著者であるディーン・レフィングウェルさんである。SAFeの中心となる複数のチームによるアジャイルリリース列車 (Agile Release Train: ART)という開発体制は、レフィングウェル氏の著作である”Scaling Software Agility:Best Practices for Large Enterprises [邦訳:『アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス』[4] ]”において初めて紹介された。

その後、複数の開発チームを連携させるためのアジャイルリリース列車をプログラムレベルと位置付けて、さらにその上位にプロダクトの企画の審査や投資の判断を行うためのポートフォリオレベルを追加したものが2011年に刊行された”Agile Software Requirements:Lean Requirements Practices for Teams, Programs and the Enterprises [邦訳:『アジャイルソフトウェア要求:チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス』”という書籍でSAFeと呼ばれるようになった。このポートフォリオレベル、プログラムレベル、チームレベルの3レベルものがSAFe 1.0である。

SAFe 1.0のリリース後、SAFeの開発を推進するSAI社が中心となりSAFeに3回の大きな改訂が加えられ、2016年に本書が解説するver 4.0がリリースされた。また、SAFe 2.xの開発時点から本書の著者であるリチャード・ナスター氏がSAFeの開発チームに加わったのである。

SAFeについて私が特に興味深いと思うのは、以下の3点である。

  1. 開発組織を超えたより広範な組織でリーン-アジャイルという理念を共有する
  2. アジャイル開発を中心に据えて、成果が出るように既存の組織構造を物理的に変えるのではなく、アジャイルリリース列車という仮想的な組織を用いる
  3. チームでのアジャイル開発が一般化した先におけるソフトウェア開発が関係するビジネスの将来像の1つを示してくれる

また、SAFeを構成する要素の説明がWebでオープンに提供されている点もSAFeの魅力の1つである。

その一方で、SAFeについてはスクラムと比べてイベント、役割、成果物が追加されており、「重い」、「複雑」との批判もある。ただ、私は現実の組織を複雑さや力学を完全にリセットしてシンプルにできない企業にとって、SAFeは現状の複雑さや力学と折り合いをつけながら組織を変革するためのヒントになるのではないかと期待している。

SAFeについてよく聞かれる質問の1つがSAFeを如何に組織に導入するかというものであるが、本書のVI部「SAFeの実装」はその質問に対する回答を提示している。特に、第VI部で説明されている以下の2点はSAFeの導入を考えるうえで非常に大事なポイントである。

  • SAFeの実装ロードマップ:SAFeを組織に導入するための典型的なステップ
  • エッセンシャルSAFe:SAFeの最少構成でSAFeの導入の出発点になることが多い

本書は、まさに前記のA, B, Cに加えてSAFeのイベント、役割、成果物、導入ステップを包括的に解説する書籍であり、SAFeを知りたい人や、SAFeの導入を考えている組織の管理職、推進役、実践者の参考になる書籍だと思う。

本書の内容

本書を構成する各部の内容を以下に紹介する。

第I部「概要」では、まずSAFeの基となる知識体系を説明し、SAFeの導入した結果として得られたビジネス上の効果を紹介している。次に、SAFeを構成する各レベルの概要、それらのレベルを組み合わせた構成のバリエーションを説明し、それらの各レベルの土台となる基礎レベルの概要を説明している。

第II部「SAFeの基礎」では、まずリーンとアジャイルの両方を尊重するというリーン-アジャイルな考え方を説明し、変革をリードする上でのリーダーの役割を説明している。さらに、SAFeのイベント、役割、成果物などの根拠を理解するのに役立つSAFeの原則を解説している。

第III部「プログラムとチームレベル」では、まず「アジャイルリリース列車」という複数のチームによる開発体制とチームレベルのイベント、役割、成果物を説明している。次いで、プログラムインクメント(PI)という8-12週間の周期で評価可能なシステムを作る際に、その起点となるPI計画策定イベントをアジェンダに基づいて概説している。また、PIと反復のサイクル、実行において重要な品質の作り込みに関するプラクティス、カンバンの活用やDevOpsパイプラインについても説明している。さらに、PIのサイクルの最後で作成したプロダクトのデモや振り返りを行う「検査と適応」というイベントを概説している。

第IV部「価値のストリームレベル」では、まずこのレベル固有の役割と適切な意思決定を迅速に下すための経済的枠組みを説明し、このレベルで使う「システム能力」というバックログ項目を説明している。次に、このレベルの開発対象となる大規模システムやシステム製品において求められる標準、法令順守、追跡可能性に対応するために、システム能力で表現できない仕様、設計、テストを格納する「ソリューションの意図」というリポジトリーを併用することを説明している。さらに、このレベルで必要になる複数のARTやサプライヤーを横断した計画策定や統合の方法を説明している。

第V部「ポートフォリオレベル」では、まず「戦略テーマ」と呼ばれる大きなプロダクトの方向性を起点にして、どのようにエピックと呼ばれる企画を立案し、審査するかを概説している。さらに、プロジェクトや長期計画に基づく中央集権的な予算の編成という従来のやり方からより柔軟な予算の編成方法への移行や、請負契約や準委任契約のような従来の契約に代わるSAFeの管理投資契約を説明している。

第VI部「SAFeの実装」では、まずSAFeの実装ロードマップの説明から始まり、そのロードマップを推進するための体制作り、適用対象の選択を説明している。次に、ARTを立ち上げるために必要なステップを説明している。また、最初のART以降に変革を持続し、改善を進める上での注意点を説明している。最後に、SAFeの最小構成であり、SAFeの導入の際によく適用される「エッセンシャルSAFe」を実装する際に重要な10個の要素について説明している。

参考文献

[1] Dean Leffingwell, アジャイルソフトウェア要求―チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス, 翔泳社, 2014
[2] SAFe日本語サイト, http://www.scaledagileframework.com/jp/
[3] 藤井 拓, Scaled Agile Framework (SAFe) 3.0 入門, https://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/technical/IntroSAFe/
[4] ディーン・レフィングウェル, アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス , 翔泳社, 2010