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書籍紹介

SAFe® 5.0 のエッセンス

スケールド・アジャイル・フレームワークによりビジネスアジリティーを達成する
  • 株式会社オージス総研訳
  • 株式会社エスアイビー・アクセス \4,400 (2021/9/27時点の税込)
  • 変形B5版
  • ISBN: 978-4-434-29546-1
2021年9月29日

注意:本書はリアル書店やネット書店で注文は可能ですが、初版の発行数がそれほど多くないので本書が店頭に並ぶのは一部のリアル書店に限られます。

目次

  • 第 I 部 ソフトウェアの時代で競う
    • 第1章 ビジネスアジリティー
    • 第2章 SAFe入門
    • 第3章 リーン-アジャイルなマインドセット
    • 第4章 SAFeの原則
  • 第 II 部 リーンな企業の7つのコアコンピテンシー
    • 第5章 リーン-アジャイルなリーダーシップ
    • 第6章 チームと技術的なアジリティー
    • 第7章 アジャイルプロダクトデリバリー
    • 第8章 エンタープライズソリューションデリバリー
    • 第9章 リーンポートフォリオ管理
    • 第10章 組織のアジリティー
    • 第11章 継続的な学習の文化
  • 第 III 部 SAFeの実装、測定と成長
    • 第12章 変革を進めるための連帯
    • 第13章 実装の設計
    • 第14章 アジャイルリリーストレインの実装
    • 第15章 さらにARTとバリューストリームを立ち上げる;ポートフォリオに拡張する
    • 第16章 測定、成長、そして加速

本書の旧版を読まれてない方々向けの本書の解説

本書のタイトルに含まれているSAFe(Scaled Agile Framework)[1], [2] とは、チームレベルを超えてアジャイル開発を活用して価値の高いプロダクトやシステムを作るためのフレームワークである。SAFeの生みの親は、本書の共著者であるディーン・レフィングウェルさんである。SAFeの中心となる複数のチームによるアジャイルリリース列車という開発体制は、レッフィングウェル氏の著作である ”Scaling Software Agility:Best Practices for Large Enterprises [邦訳:『アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス』[3] ]” において初めて紹介された。

その後、複数の開発チームを連携させるためのアジャイルリリース列車 (ART) をプログラムレベルと位置付けて、さらにその上位にプロダクトの企画の審査や投資の判断を行うためのポートフォリオレベルを追加したものが2011年に刊行された ”Agile Software Requirements:Lean Requirements Practices for Teams, Programs and the Enterprises [邦訳:『アジャイルソフトウェア要求:チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス』]” という書籍でSAFeと呼ばれるようになった。このポートフォリオレベル、プログラムレベル、チームレベルの3レベルのものがSAFe 1.0である。

SAFe 1.0のリリース後、SAFeの開発を推進するSAI (Scaled Agile, Inc.) 社が中心となりSAFeに4回の大きな改訂が加えられ、2020年に本書が解説するver 5.0 がリリースされた。SAFe ver5.0 の大きな改訂点の1つは、チームレベルとプログラムレベルが統合されてエッセンシャルレベルとなったことである。他の改訂点については、後の節で説明する。また、SAFe 2.x の開発時点から本書の著者であるリチャード・ナスター氏がSAFeの開発チームに加わったのである。

SAFeについて私が特に興味深いと思うのは、以下の3点である。

  1. 開発組織を超えたより広範な組織でリーン-アジャイルという理念を共有する
  2. アジャイル開発を中心に据えて、成果が出るように既存の組織構造を物理的に変えるのではなく、アジャイルリリース列車という仮想的な組織を用いる
  3. チームでのアジャイル開発が一般化した先におけるソフトウェア開発が関係するビジネスの将来像の1つを示してくれる

また、SAFeを構成する要素の説明がWebでオープンに提供されている点もSAFeの魅力の1つである。

その一方で、SAFeについてはスクラムと比べてイベント、役割、成果物が追加されており、「重い」、「複雑」との批判もある。ただ、私は現実の組織を複雑さや力学を完全にリセットしてシンプルにできない企業にとって、SAFeは現状の複雑さや力学と折り合いをつけながら組織を変革するためのヒントになるのではないかと期待している。

SAFeについてよく聞かれる質問の1つがSAFeを如何に組織に導入するかというものであるが、本書の第III 部「SAFeの実装、測定と成長」がその質問に対する回答を提示している。第III 部では、SAFe を組織に導入する典型的なステップである「SAFe の実装ロードマップ」を用いて、組織でアジャイル開発を適用する際に必要な適用分野の見極めや推進体制の確立、教育などを説明している。

本書は、まさに前記のA, B, Cに加えてSAFeのイベント、役割、成果物、導入ステップを包括的に解説する書籍であり、SAFeを知りたい人や、SAFeの導入を考えている組織の管理職、推進役、実践者の参考になる書籍だと思う。

本書の内容

本書を構成する各部の内容を以下に紹介する。

第 I 部「ソフトウェア時代で競う」では、デジタル時代で繁栄するための企業の能力をビジネスアジリティーとし、ビジネスアジリティーを実現するためには企業がデュアルオペレーティングシステムを持つことが必要なことを説明する。さらに、SAFeがデュアルオペレーティングシステムの実現の助けになることを説明する。続いて、全体像を中心にSAFeの概要を説明し、SAFeを構成する7つのコアコンピテンシーの概要を説明する。次に、SAFeの土台となるリーン-アジャイルなマインドセットと、SAFeの原則を説明する。

第 II 部「リーンな企業の7つのコアコンピテンシー」は、そのタイトルどおりSAFeを構成する以下の7つのコアコンピテンシーを各々1つずつ章ごとに取り上げて解説している。コアコンピテンシーは、各々3つの次元で構成されており、付随する次元も併せて以下に示す。

  • リーン-アジャイルなリーダーシップ:「マインドセットと原則」、「お手本によりリードする」、「変革をリードする」の3次元
  • チームと技術的なアジリティー:「アジャイルチーム」、「複数のアジャイルチームで構成されるチーム」、「品質の作りこみ」の3次元
  • アジャイルプロダクトデリバリー:「顧客中心性」、「DevOpsと継続的デリバリーパイプライン」、「リズムに基づいて開発し、要望に基づいてリリースする」の3次元
  • エンタープライズソリューションデリバリー:「リーンなシステムおよびソリューションのエンジニアリング」、「頻繁に稼働中のシステムを発展させる」、「トレインとサプライヤーを調和させる」の3次元
  • リーンポートフォリオ管理:「戦略と投資資金の提供」、「アジャイルなポートフォリオ運営」、「リーンなガバナンス」の3次元
  • 組織のアジリティー:「リーン思考の人々とアジャイルチーム」、「リーンなビジネスの実行」、「戦略のアジリティー」の3次元
  • 継続的な学習の文化:「学習する組織」、「イノベーション文化」、「たゆまぬ改善」の3次元

第 III 部「SAFeの実装、測定と成長」では、まずSAFeの実装ロードマップの説明から始まり、そのロードマップを推進するための体制作り、価値のストリームに基づくSAFeの適用対象の選択を説明している。次に、ARTを立ち上げるために必要なステップを説明している。また、最初のART以降に変革を持続し、改善を進める上での注意点を説明している。さらに、SAFeの7つのコアコンピテンシーに基づくビジネスアジリティーアセスメントとコアコンピテンシーアセスメントと、これらを用いたビジネスアジリティーやコアコンピテンシーにおける成長の支援について説明している。

本書の旧版からの主な改訂点

SAFe 5.0 での主な改訂点は以下のとおりであるが、本書もこれらを組み込む形で改訂された。

  1. ビジネスアジリティーとコアコンピテンシーの導入(第1章、第2章)
  2. 顧客中心性とデザイン思考の導入(第8章)
  3. ポートフォリオビジョンとリーンな予算ガードレールの導入(第9章)
  4. 組織のアジリティーと継続的な学習の文化の導入(第10章、第11章)
  5. ビジネスアジリティーとコアコンピテンシーの現状評価と改善(第16章)

ビジネスアジリティーとは、現在進行しているデジタル化 (DX) のような破壊的なビジネス環境の変化に適応し、その中で繁栄するという企業のあり方を表現する言葉である。SAFe 5.0では、自らの大命題を、そのようなビジネスアジリティーを企業が持つように支援することと再定義している。さらに、ビジネスアジリティーを企業が持つために、企業が身に着けるべき能力として7つのコアコンピテンシーを提案している。本書のI部では、ビジネスアジリティー及び7つのコアコンピテンシーの概要が説明されている。

SAFe 4.xまでの大命題では、「リーンな企業」を掲げており、これは価値の高いプロダクトを組織が一丸となって持続可能な最短のリードタイムで提供することを目指すものだったが、この大命題にさらにより高い適応力を加えたものがSAFe的なビジネスアジリティーではないかと思う。

このより高い適応力を実現するために、より的確に顧客ニーズに対する仮説を立てたり(顧客中心性など)、企業や事業のあるべき姿を描き(ポートフォリオビジョン)、開発部門以外も含めて適応力のある組織になるために、組織のアジリティーと継続的な学習の文化の導入という2つのコアコンピテンシーが追加されたのではないかと思う。本書のII部では、各コアコンピテンシーに1章を割いて説明している。

コアコンピテンシーが提示されても、それらのコンピテンシーに対する組織の現状を把握し、弱い分を改善する仕組みがないとコアコンピテンシーは絵にかいた餅になりかねない。それに対応するために、SAFe5.0では、7つのコアコンピテンシーを各々3つの次元に分解して、それらの次元に基づいて企業のビジネスアジリティーの現状を評価する方法が提供されている。また、コアコンピテンシー単位での現状評価方法(コアコンピテンシーアセスメント)も提供されている。さらに、コアコンピテンシーアセスメントの評価結果がよくなかった部分を改善するための手段としてSAFe Web上のコンテンツを推奨する「grows(成長)」という仕組みも提供されている。これらのアセスメントや「grows(成長)」は、SAFeによる具体的な改善のサポートメカニズムとして非常に興味深い。本書のIII部では、先に言及した「SAFe の実装ロードマップ」とアセスメント、「grows(成長)」が紹介されている。

参考文献

[1] Dean Leffingwell, アジャイルソフトウェア要求―チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス, 翔泳社, 2014
[2] 藤井 拓, Scaled Agile Framework (SAFe) 3.0 入門, https://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/technical/IntroSAFe/
[3] ディーン・レフィングウェル, アジャイル開発の本質とスケールアップ 変化に強い大規模開発を成功させる14のベストプラクティス , 翔泳社, 2010