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DX

クラウドファースト時代の業務自動化(前編)

DX推進者の技術アンテナ
株式会社オージス総研
コンサルティング・サービス部
2020年9月24日



DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によって多くの企業がクラウドサービスの利用を始めています。クラウドサービスの利用によって、サービスインフラ構築が簡素になり、ビジネス検討から実現までのスピードが速くなっています。単一のクラウドサービスのみでサービスインフラを構築することはまれで、ほとんどの場合、複数のクラウドサービスを組み合わせて実現しますが、利用するクラウドサービスが多いほどユーザのオペレーションは複雑かつ煩雑になり、作業負荷は増えます。ユーザの作業負荷を軽減するためには、業務の自動化を行います。本稿では、クラウドファースト時代の業務自動化をうまく進めるポイントについて述べます。

クラウドサービスの利用動向

総務省がまとめた「令和元年通信利用動向調査の結果」によると、図1のとおりクラウドサービスを利用している企業は年々増加しており、2019年(令和元年)には6割を超えました。

図 1 クラウドサービスの利用状況

図 1 クラウドサービスの利用状況(出典:総務省「令和元年通信利用動向調査の結果」別添1 )

さらに、図2のとおり8割以上の企業が、クラウドサービス利用による効果があったと回答しています。筆者のお客様からも、クラウドサービスの利用の相談が増えています。

図 2 クラウドサービス利用の効果

図 2 クラウドサービス利用の効果(出典:総務省「令和元年通信利用動向調査の結果」別添1 )

クラウドサービスには多くの種類があり、どのように利用するかは企業によって異なります。図3のとおり2019年では、主に「ファイル保管・データ共有」を中心にクラウドサービスを利用しています。2020年のコロナ禍によるテレワーク導入に伴い、MicrosoftTeams、ZoomやWebExといったWeb会議システム、Slackといったチャットツールなど、複数のクラウドサービスを導入した企業も増えています。

図 3 クラウドサービス利用の用途

図 3 クラウドサービス利用の用途(出典:総務省「令和元年通信利用動向調査の結果」別添1 )

クラウドファーストがもたらす課題

クラウドサービスを利用して、とあるシステムの開発と運用のためにサービスインフラ構築した例を図4に示します。

図 4 複数クラウドサービスによるサービスインフラ構築例

図 4 複数クラウドサービスによるサービスインフラ構築例

この例では、以下4つのクラウドサービスを利用しています。

  • Zendesk:カスタマーサービスやヘルプデスクといったサービスデスク業務をサポート
  • Asana:チームや組織全体のプロジェクト管理をサポート
  • Gmail:メール機能によりチーム内のコミュニケーションをサポート
  • slack:チャット機能によりチーム内のコミュニケーションをサポート

ユーザ(顧客)からの問い合わせ対応を行うサービスデスク業務には、Zendeskを利用し、問い合わせ対応や進捗管理を行います。また、サービスの維持管理や、新規サービス開発といった開発プロジェクトの進捗管理にAsanaを利用します。チーム全体でのコミュニケーション方法として、メールはGmail、チャットはslackを利用します。

このプロジェクトには、以下の課題がありました。

  • サービスデスク業務の進捗管理は、Zendesk上、開発プロジェクトの進捗管理はAsana上で別々に行われている。PM(プロジェクトマネージャ)は、プロジェクト全体の状況を把握するため、サービスデスク業務・開発プロジェクトを合わせた全体の進捗状況を知りたい。
  • サービスデスク担当は開発メンバーが持ち回りで実施しており、専任の担当がいない。だれかがすぐ対応できるように、プロジェクトメンバーは、問い合わせが来たことと、その問い合わせの概要をすぐに知りたい。

人手で解決する場合、サービスデスク担当は問い合わせが来る度に以下のタスクを実施します。

  • サービスデスク担当は、Zendeskに登録されたチケットの内容を元に、Asanaに新規タスクを登録する。
  • サービスデスク担当は、slackを利用して顧客から問い合わせが来たことをメンバーに通知する。

問い合わせが少なければ大した手間はではありません。しかし、問い合わせが増えるほど、サービスデスク担当の負担は増し、作業のミスも増えます。作業者の負担を軽減するため、人手で行う必要のない定型的な業務は自動化を検討しますが、複数のクラウドサービスを利用していると簡単にはいきません。

RPAによる解決の問題点

さて、業務の自動化と聞くと、まず思い浮かぶのはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:ロボットによる自動化)ではないでしょうか。しかし、複数クラウドサービスを利用して業務を行うクラウドファースト時代では、RPAは業務自動化に向きません。

RPAは「ロボットが、人が行うPC上の操作をシミュレートするもの」です。テキスト入力やボタンのクリックといった画面の操作を行うためには、まずテキストボックスやボタンといった要素の位置を特定する必要があります。要素の位置を特定するための代表的な方法を図5に示します。

図 5 RPAにおける要素位置の特定方法

図 5 RPAにおける要素位置の特定方法

  1. 座標の事前指定
    あらかじめX,Y座標で位置を指定しておく方法です。当然、操作する際にブラウザ等の表示位置が変わる場合、要素の位置を特定することはできません。
  2. 指定画像の検出
    事前に用意した画像(テンプレート)と操作画面をマッチングし、要素の位置を検出する方法です。座標より安定しますが、ボタンの文字や形が変わるだけで要素を特定することができなくなります。
  3. 構成要素から検出
    HTMLタグなどの構成要素から、要素を検出する方法です。安定して要素の位置を検出できますが、この方法を利用できるRPA製品は限られています。また、構成要素が変わる場合、要素の位置を特定できなくなります。

RPAは業務自動化を推進する強力なツールですが、画面の仕様変更には弱く、要素が検出できなくなるとロボットの処理が止まってしまいます。複数クラウドサービスを利用したシステムでは、いずれかのサービスの画面仕様変更によりRPAの処理が止まるリスクが高く、RPAを頻繁に改修することになります。

クラウドファーストによる解決

クラウドサービスを利用する業務の自動化には、各サービスのAPIを活用するべきだと筆者は考えます。多くのクラウドサービスが公式のAPIを公開しており、API仕様が変わることはほとんどありません。しかし、APIを利用した業務自動化では、ツール等の開発・維持管理が必要となるため、専門の知識やスキルが必要となります。エンジニアを調達する、開発・維持管理を外注する、といった方法もありますが、本稿では専門スキル不要でクラウドサービスを連携し、業務を自動化する方法について述べます。

コネクタを利用した個別連携

ほとんどのクラウドサービスには、他のクラウドサービスと連携するためのコネクタ(プラグインやアプリとも呼ばれます)が用意されています。図6はAsanaのコネクタ検索画面ですが、slackやGmailと連携するアプリが用意されています。

図 6 Asanaのコネクタ(アプリ)検索画面

図 6 Asanaのコネクタ(アプリ)検索画面

図7は、各クラウドサービスのコネクタを利用して、クラウドサービス間の連携を実現した場合のイメージです。コネクタを利用することで、APIの知識や専門スキルがなくても業務の自動化を実現できますが、コネクタが用意されていないサービスへの連携はできません。例えば、本稿執筆時点ではZendeskとAsana間にはコネクタは用意されておらず、連携はできません。さらに、1つのコネクタに対して連携するクラウドサービスは1つのみであり、利用サービスが増えるほどクラウドサービス間の連携が複雑になるため、連携状況を管理する必要があります。

図 7 コネクタ利用によるクラウドサービス間の連携イメージ

図 7 コネクタ利用によるクラウドサービス間の連携イメージ

iPaaSを利用したフルクラウド

iPaaS (Integration Platform as a Service) は、複数のアプリケーションやサービスを連携し、データを統合するサービスです。iPaaSと呼ばれるサービスには様々な製品がありますが、本稿では、Zapier、Microsoft Power Automate、IFTTTを代表とする、以下の特徴を持つ製品をiPaaSとして述べます。

  • クラウドネイティブである
  • 多数のクラウドサービスとのコネクタが用意されている
  • ローコードでクラウド間のサービス連携を容易に実現できる

図8にiPaaSを利用してクラウド間連携を行うイメージを示します。各クラウドサービスとの連携が一元化され、管理が容易になります。

図 8 iPaaS導入によるクラウドサービス間の連携イメージ

図 8 iPaaS導入によるクラウドサービス間の連携イメージ

また、iPaaSでは複数のクラウドサービス連携が容易に実装できます。図9はZapierでのクラウドサービス連携の開発画面です。Zapierには、日本国内のクラウドサービスも含めた1500以上ものサービスとのコネクタが用意されており、画面上でコネクタを組み合わせるだけで容易に複数クラウドサービス間を連携し、業務の自動化が実現できます。

図 9 iPaaS製品「Zapier」開発画面

図 9 iPaaS製品「Zapier」開発画面

クラウドファースト時代の業務自動化のポイント

ここまで述べた内容をまとめると、クラウドファースト時代の業務自動化のポイントは以下の通りです。

  • 複数のクラウドサービスを利用する業務の自動化にはRPAは向かない
  • クラウドサービスを連携し、業務の自動化を実現するには、コネクタの利用や、iPaaSの導入を行うとよい。
  • iPaaSの導入により、複数のクラウドサービス間の連携を容易に実現し、一元管理することが可能

次回後編では、iPaaS製品を利用して、クラウドサービス間の連携を行って、業務自動化を行います。

参考リンク