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UX, ユーザーエクスペリエンス

おもてなしから学ぶUXの本質

株式会社オージス総研
技術部 仙波真二
2013年5月9日

私は海外旅行にいくことはめったにないのですが、初めて海外に行った際に、日本との文化の違いを感じたのが「チップ」でした。「チップ」を受け取るのは直接お客様と接する現場スタッフで、より多くの対価を得るためにはそれなりのサービスを提供しなさい、という店側の都合が見えてくるがなんとなくいやでした。

ゆのみ

そのような体験をしてから、日本の「おもてなし」は素晴らしいと再認識するようになりました。お客様の立場で考え、お客様にとっての価値を提供する。しかも、それをさりげなく気持ちよく提供できるのは日本人ならではの美意識ではないかと思うのです。

先日、おもてなしの光景をテレビでみたことがありました。そこで取り上げられた事例は、とあるホテルで、以前に宿泊したことがあるお客様に対してどのようにサービスを提供するかを紹介するドキュメンタリーでした。簡潔にまとめると以下のようになります。まず、お客様にどういうサービスを提供すればよいかをスタッフが集まって意見を出し合っていました。次に、以前に宿泊したときの食事の好みの記録や、今回の滞在の目的(ホテルでゆっくりしたいのか、イベントがあって来ているのか)などを推測してサービスの案をまとめます。最後にお客様がチェックインした際に、さりげなくお客様の意見を聞いて、検討した内容が妥当かを確認してからサービスを提供するということをされていました。

これはソフトウェア開発にも適用できることだと思います。みなさんはUX(User Experience)という言葉をご存じですか?UXは、見た目や操作性などのユーザビリティだけでなく、使っていて楽しいというような主観的要素も含んでいます。

身近なUXの例を挙げてみましょう。みなさんはSmartphoneを使っていますか?クールな画面と直観的なユーザインタフェース、そしてサクサク動作する快適さ。使っていて「いいな」とか「楽しいな」と感じる人は多いと思いますが、この感覚や経験がUXです。Smartphoneがこれほど普及したのは、UXが大きな要因の一つだと思います。

私たちのソフトウェア開発でもUXを向上させることは、エンドユーザーへの価値の提供に直結すると思います。では、どうすればエンドユーザーに価値を提供できるソフトウェアを作成することができるのでしょうか?そこで思いつくのが「おもてなし」の精神です。「おもてなし」の基本は「お客様の立場で考え、お客様にとっての価値を提供する」ことだと思います。ソフトウェア開発の場合も、お客様が要求している表面的な機能要求だけでなく、エンドユーザーが業務を遂行する際の行動に着目し、その背景にある経緯や潜在的な要求を発掘することが「おもてなし」につながると思います。

しかし、実際の開発の現場では、お客様(ソフトウェア発注者、ソフトウェアのオーナー)と開発者(ソフトウェア開発の受注者)は「必要な機能をスケジュール通りに予算内で開発する」ことに手一杯で、エンドユーザーの立場でソフトウェアを考えることがついついおろそかになっていることが多いのではないでしょうか。そして、現場のピリピリ感や疲労感。そういう状況では、開発スケジュールの遅延や予算オーバーになってしまう改善要求を言い出せるような空気感ではないでしょう。私は開発の現場で多くのシステム開発に携わってきましたので、そういう意識になってしまう感覚もよくわかります。しかし、最終的にエンドユーザーにとって価値のあるものを提供することができなければ、そのソフトウェアの資産価値は低くなってしまうことになると思うのです。結果的に、エンドユーザー、お客様、開発者ともに不幸になってしまいます。

では、どうすればよいでしょうか?いろいろと対応策は考えられると思いますが、私は「見た目のデザイン」「行動のデザイン」「開発現場への適用」の3点を挙げます。今年の2月にデブサミ2013でUXについて発表する機会をいただいたくことができましたので、この3点について発表させていただきました。「見た目のデザイン」「行動のデザイン」では、UXの価値を向上させるために必要と思われるポイントに言及し、「開発現場への適用」では、UXを開発の現場で適用する際に必要となるポイントを述べました。当日の資料はSlideShareで公開しいていますので、よろしければご覧ください。

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現場で役立つUX ~エンタープライズUXの現在とこれから~ : https://www.slideshare.net/shinjisemba/devsumi2013-14e5semba