先日、Experience Design 2014 というセミナーに参加しました。「体験をどうデザインするか?」という魅力的なテーマに加えて、基調講演に frog design の Director を招くというセンスのよさ、ロフトワークさん素晴らしいです。
私は初代 Macintosh のデザインが大好きで、それが frog design を知るきっかけでした。そう、frog design は、初代 Macintosh をはじめとする80年代の Apple のプロダクトデザインを手がけた会社なのです。あれから 約20年の時を経て、UX, CX という接点で frog design に再会できたことに人知れず感慨を覚えていました。少し大げさでしょうか。
前置きが長くなりましたが、今回のコラムでは Brandon Edwards 氏(frog design 社 Executive Creative Director)の基調講演をご紹介しようと思います。簡潔に記述するために、編集・要約している個所が多々ありますことをご了承ください。
まず「forg design の Experience Design コンセプト」についてのご紹介です。
「コンセプトとしては『ダイナミズム』『共生』『システム』の3点がある。」
「ダイナミズムは、変化に適応していくということ。環境や技術の変化への適応も必要であるが、ユーザーの行動に合わせていくということが重要。この視点からプロダクトを考えていく必要がある。」
「共生は、地球上の生命が何百年もかけて作り上げてきた食物連鎖のようなもの。鷹と野ねずみの接点も共生の関係。プロダクトやサービスを作る際には共生の視点が必要。どんなものと共生できるかを考える必要がある。」
「デザインのスケールは大きくなっている。具体的な個人のためにブランドをデザインすることが必要であり、社会の規制や制度なども考慮しないといけない。そのためには、関係者が集まって、システム的に考えるプロセスが必要になる。」
frog design のコンセプトを聞いて私の印象に思ったのは、時間と空間という軸の中で、ユーザーの体験をデザインしていくというスケールの大きさでした。UX が注目されるようになってから、機能重視からユーザー体験重視という大きな変化は起きていますが、時代とともに変化していくユーザーの行動に合わせていく必要があるという視点は、製品やサービスも常に変化していくべきであるというメッセージが込められてると思います。作り手側にとっては、コストや手間がかかるので目をそむけたくなることかもしれませんが、作り手側の都合で考えていてはダメですね。あと、UX とともに、デザイン思考も注目されるようになっていますので、「共生」や「システム」に関する認識の広がりや、理解の深まりも今後増してくると思います。
次に「体験をデザインする際のデザイン、開発プロセス」についてのご紹介です。
「frogはチームでデザインを行っている。多様な分野の人が取り組む共創のスタイル。すべてカスタムメイドで、一定の形はない。」
「ビジョンからスタートする。最初のアイデアを有形なものにしていくが、その際に地に足がついていることが重要。」
「ドメインを特定する。誰のためにデザインしているか?を考える。そして仮説を立てる。」
「マーケティングは机上でなく、現場に出向いてフィールドワークすることが重要。そこで得られた気づきと洞察から、仮説とのギャップを検証する。フィールドリサーチは長く行うこともある。その際に大事なのは、妥協しないこと。新しいニーズ、洞察、ニュアンス、これまでになかったものをフィールドワークで得る。新しいビジネスチャンスは何かを考える。実際のコンセプトに結びづけて考える。そして、お客様のジャーニーマップとして文書化する。」
「アーティファクトは、ペルソナ、カスタマージャニーマップなど。そこに、エクスペリエンス全体を記録する。そこから、より深く意味のある要素(感情や体験)を抽出し、根本的な課題は何かを見極める。」
「各プロジェクトは、初期段階からマーケットの現実を取り入れること。コンセプトのためのコンセプトはNG。実現できるものが重要」
「チームは、クリエイター、デザイナー、開発者で構成している。スキルを持った人が集まることが重要。」
「開発は.アジャイル、リーンにて行っている。ダイナミックに柔軟に開発を行う。スプリントは基本的に2週間単位。並行して開発こともある。」
「テストは、それぞれのタッチポイントで繰り返し行う。ペーパープロトタイプで行うこともあるし、モックを作成して行うこともある。実際の試作品を作成して行うことも。実際のユーザーテストは、時間の経過も考慮する。
例えば、10週間実際につかってもらって検証することもある。」
frog design のデザイン・開発プロセスは「デザイン思考」「サービスデザイン」の基本に則ってますね。私たちも、Brandon 氏 に紹介してもらったプロセスと同じような手順でデザイン・開発を行っているのですが、そのことが確認できたのはよかったです。私自身が特に参考になったのは「すべてカスタムメイドで、一定の形はない」という点です。つまり、プロジェクトごとに課題はさまざまで、それぞれの状況にあわせて手法や取り組み方を変えて、柔軟に対応してくことが必要、すべてのプロジェクトに万能な方法論はない、という点です。
以上が、Brandon 氏 の基調講演メモと私の所感です。UXに関心のある方のご参考になれば幸いです。UX志向でアイデアを考える際や、UX志向で製品やサービスを構築していく際に有用な情報をたくさんいただくことができました。Brandonさん、そしてロフトワークさん、ありがとうございました。