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UX, ユーザーエクスペリエンス

5歳児とAgileUX

株式会社オージス総研
技術部 仙波真二
2013年11月7日

私には5歳の息子がいるのですが、手先が器用で紙を切ったり貼ったりして、いろんなものを自分で作ります。ところが彼にも限界があるようで、家をつくろうとしたところうまくいかず、大泣きをしてしまいました。「薄い紙なのでうまくいかないよ」というアドバイスは全く効果がありませんでした。そこで「次の休日に一緒に家をつくろう」という提案をしたところ、素直に受け入れられました。とはいえ、どんな家を作りたいかはかなり漠然としており、相手はこだわりの強い5歳児。さて、どうなることやら・・・。

まず、今回のケースを整理したいと思います。お客様&エンドユーザーは5歳児で開発者は私です。お客様は、かなりこだわりが強く、期待レベルも高いと想像できます。要望が漠然としていることと、お客様の特性を考えると、受注はリスクは高いですが、今回は受け入れざるを得ませんでした。ゴールはお客様が期待する家をつくること。家は、ミニカーと人形(プラキッズ)と一緒に遊べるものであること。

さて、どう取り組もうかとまず考えたのですが、要望がかなり漠然としているので、AgileUXの手法を使うことにしました。今回はのケースでは、実際にモノをつくりながら、どう感じるかを確認しつつ、その際に感じた要望を柔軟に受け入れ、軌道修正しながら作っていくという対応をとることにしました。

次の休日、まず要件を口頭でヒアリングしました。お客様から出た要件は以下の通りです。

1. 大きさ・・・トミカタウンのセブンイレブンよりも少し大きい
2. 形・・・四角い
3. 色・・・白ですっきりと

これ以上の要望はでてきませんでした。

そこで、次に、お客様に絵を描いてもらいました。最初に描いたのは以下のような絵でした。

4. 四角い家と車庫。

ここで「住人は車を所有している」ことが発覚しました。

一旦、絵を描く手がとまったので、次に、家の間取りや仕様を具体的に質問していきました。すると、絵にいくつか描きこみが追加され、以下のような仕様が明確になりました。

5. 家は2階建て
6. 1階には玄関がある
7. 1階には窓が1つがある。
8. 2階には非常口と階段が設置されている
9. 2階には窓が3つある
10.1階と2階は階段でつながっている 11. 駐車場は2階建て(住人は車を2台所有している)
12. 駐車場の1階にはシャッターが設置されている
13. 1Fの室内には、テレビとテーブルと椅子がある
14. 2Fの室内には、椅子とテーブルがある

これらの仕様は、最初から明確になっているものではなく、お客様とコミュニケーションしながら、具体的に絵でイメージ化することで「このようにしたい」という要望が形になったものだと思います。ここでの気づきは「絵を描きながら仕様を確認することの重要性を認識することができた」ということです。とはいえ、予算と工数は度外視。更に、物理的な実現可能性を度外視した要望満載ですが、この時点ではあえて言及せず「実現不可能な点については実際に作りながらお客様の納得を得て仕様変更を行う」という作戦をとることにしました。

要望がひとまず明確になりましたので、近所の文具店に行き、その場で原材料(白い厚紙)の確認をし、帰宅後、工作を開始しました。まず、簡単な図面を描いて、切り抜いて、折り曲げて、立体的な箱型の造形物ができあがりました。ここで、お客様に確認したところ、以下のような追加要望がでました。

15. 室内が暗いので窓を追加

「おお、そんな点に気づきましたか!」と少し嬉しくなりました。窓を一つ追加してみると、まだ暗いということで、結局以下のようになりました。

16. 最終的に四方に窓を追加

最終確認をとってから、両面テープでのりしろをはりつけて1階が完成しました。

ここでの気づきは「実際につくってみることで、室内が暗いことが発見できた」ということでした。これは、私も設計段階では全く気付きませんでした。実際に作りながら仕様を確定していくことの重要性を改めて実感しました。

2階も1階と同様に作成していきました。順調に思えた家づくりですが、終盤にきてピンチ到来。「思ってたんと違う!」発言がでてしまいました。「何が違うの?」と聞いたところ「大きさが思ってたんとちがう、もう少し大きいと思っていた」とのこと。「お客様のご要望通りの大きさなんですけど」と心の中で思いつつ、8割ほど出来上がっていたので「一旦、最後まで作って、実際に遊んでみて大きさを確認したら?」と提案したところ受け入れられました。

いろいろありましたが、ひとまず家が完成しました。私としては作るまでのプロセスも重要なのですが、お客様からすると「自分が期待していたものが出来上がったか?」ということと「実際に使える価値があるか?」ということしか興味ないのは言うまでもありません。出来上がった時点で感想を聞いたところ「いい感じ!」と満足しているようでした。外見はただの白い箱にに窓をつけただけの家なので「デザイン、超シンプルだけどいいの?」と聞いてみたところ「MUJIの家みたいにシンプルだからOK。ごちゃごちゃしてない方がいいよ」とのコメント。結構センスあるかも。

最後に、今回の気づきをまとめてみます。

  • お客様とコミュニケーションしながら具体的に絵でイメージ化することで仕様を明確にできた。
  • 実際につくってみることで、設計段階では気づかない仕様に気づくことができた。
  • 物理的に実装不可能な仕様は、実際に作りながら確認することで却下、または仕様変更することができた。
  • 最初は要望を出すだけのお客様も、途中で実装に参画し、前向きな仕様を提案するようになった。

さて、実際に使ってみた満足度はどうでしょう? 日々、楽しく遊んでいる姿をみていると、ユーザー経験も合格レベルと思われます。