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広場のたまり場

うまくいったことをパターンで書いてみよう

パターンライティングによる知識の表出
オブジェクトの広場
水野 正隆
2016年4月7日

オブジェクトの広場編集員の間で行われる軽い立ち話を書くこのコラム。第3回目はパターンライティングです。パターンは多くの方が使っていると思いますが、書く経験をされた方は少ないのではないでしょうか。今回は私がパターンを書いてみて感じたことを書いてみます。

身の回りで役に立つパターンから書いてみよう

みなさんはパターンを書いたことがありますか? 私はよくパターンを書きます。自分の仕事の成果(コツみたいなもの)をまとめるときや、社外や社内の研修や勉強会1、社内の技術コミュニティなど、様々な場でパターンを書きました。書いたパターンは慶應義塾大学の井庭崇先生が提唱されている第三世代のもの、人間行為を対象とするパターンです2 3

さて、最初は単なる興味でやってみただけなのですが、自分たちでパターンを書いてみて、それが持つ力を知り、それ以来パターンが大好きになりました。

パターンとは、ある「状況」で繰り返し発生する「問題」の「解決方法」をまとめたものに「名前」をつけたものを言います。また、状況を取り巻く様々な力、「フォース」を明らかにするのもパターンの特徴です。フォースは解決方法を制限し、簡単には解決できない問題であることを表します。

パターンの構造

パターンの例を挙げましょう。『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』という本4には、ブラウンバッグ・ミーティングというパターンがあります。ごく簡単に紹介すると、次のようなパターンです。(本から要旨を抜粋したものです)

  • 自分が組織にアイデアを広げる任を担っているが(状況)、
  • 就業中にミーティングに出席するには忙しい人が多い(問題)。
  • 任意のミーティングよりももっと重要でやらなければいけない仕事は常にある。多くの人は新しいアイデアを聞きたいとは思っていても、座学のために勤務時間を割くのが難しい場合がある(フォース)。
  • よって、お昼時にミーティングを開き、昼食持参で出席するよう呼びかけよう(解決方法)。

このように、パターンはいわゆるノウハウを一定の形式でまとめたものなのですが、状況やフォースが書かれてあることが特徴です。これらが明示的に書いてあるので、なぜその解決方法が使えるのかがわかりやすく示されます。このため、パターンは使いやすい知識(形式知)になるのです。また、パターンにはその内容を思い出しやすい素敵な名前をつけます。上の例のパターン名に含まれるブラウンバッグというのは、昼食のサンドイッチや果物などを入れる茶色の紙袋のことです。だから、ブラウンバッグ・ミーティングがお昼時に昼食を持ち寄って集まるミーティングということが名前から分かるわけです。

パターンは自分で書いてみてその良さがわかります。だまされたと思って、人を集めて一度書いてみてください。ただし、状況がある程度共有できる人達でないとうまくいきません。身近な人たちを集めるとよいでしょう。また最初はあまり身構えずに、自分たちのチームで役立ったノウハウなどをパターンとして書き始めるとよいです。様々なチームや組織で役に立つパターンを書くことはかなり難しいですが、自分たちのチームで役に立つパターンは比較的簡単ですから。

パターンライティングしている風景 写真は、みんなでパターンを書いているところ。情報カードを使ってパターンの候補を探している。

パターンはどうやって書くか?

どんな「状況」で、どんな「問題」が発生しやすく、様々な「フォース」があるなかで問題を「解決する方法」を書けばパターンになります。しかし、書く際は逆をたどり、

  1. 過去、うまくいった「解決方法」と、解決した「問題」を思い出す
  2. どんな「状況」で、どんな「フォース」があったのかを書き出す
  3. 名前をつける
  4. 1~3を繰り返し文章を洗練する

の順番で書く方が書きやすいです。実際におこなった解決方法や、対処した問題が一番思い出しやすいからです。「そういえば、こんなことやったら開発がうまくいったぞ」というようなことを思い出し、書きだすとよいです。

パターンを書く価値

パターンを書くときは、複数人で書いてみてください。結構盛り上がりますよ。

身近な人が実践している"うまくいく方法"を引き出し、共有することができます。また、多くの人が暗黙的にうまくいく方法だと思っていることを浮かび上がらせ、「そうそう! そうやるとうまく事が運ぶよね」と思わず言いたくなるような解決方法を形にすることもできます。さらに、良いパターンができれば、その名前を使って会話をすることもできます。先ほどあげた例でいえば、「じゃあ、ブラウンバック・ミーティングしよう」というように。

その他にも、パターンを自分で書いてみることの価値があると私は思っています。「状況」や「フォース」を改めて考える機会になるからです。自分たちのチームで役立ったノウハウなどをパターンとして書くときは、自分たちのチームを取り巻く状況を把握できるようになります。解決方法や問題に比べて、なぜその解決方法を採用したのかを示す状況は、自分が思っているよりきちんと理解できていません。パターンを書くことをきっかけに、チームみんなでそれを考える機会が得られるのです。それは、チームが共通認識を持つ助けになるでしょう。

みなさんも、ぜひ一度パターンを書いてみてください。


  1. ちなみに、社内で有志を集めた勉強会の一つに「禅問答によるパターン勉強会」というものがあり、パターンについて「あーでもない。こーでもない」と尽きることのない議論をしています。 

  2. 『パターン・ランゲージ 創造的な未来をつくるための言語』 井庭 崇[編], 慶應義塾大学出版会 (2013/10) 

  3. 井庭先生が研究されているものも、過去私が書いたものも、正しくはパターンを集めたパターン・ランゲージですが、このコラムではパターン・ランゲージを構成するパターンに着眼して書きます。 

  4. 『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』 Mary Lynn Manns[著], Linda Rising[著], 川口恭伸[監訳], 丸善出版 (2014/01)