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「なぜマーケティングが重要なのか?(16) -デジタルマーケティング(4)アドテクノロジー系(2)--」

2015.04.08 株式会社オージス総研  水間 丈博

前回は「アドテク(1)」としてアドテクの発展経緯とアドテクの肝とも言えるオーディエンスターゲティングの概略を見ていただきました。今回は個別の要素について掘り下げます。

今回取り上げるのは[図34](前回の図29 Display Advertising Technology Landscapeと同じ図)のDSP、SSP、RTB(DSPとSSP間で実施される)、さらにDMP活用とData Suppliers、オーディエンス拡張です。

「Display Advertising Technology Landscape」
[図34]Display Advertising Technology Landscape
出典:Jp chaosmap Hiroshi Kondo
http://www.slideshare.net/HiroshiKondo/jp-chaosmap-20142015

1.DSP/SSP/RTB

(1)DSP(Demand Side Platform)

DSPは広告主側の立場で効果的な広告配信を司るプラットフォームです。DSPの目的は、広告主側の要望
  • できるだけ狙いとするターゲットへ広告を届けること
  • できるだけ廉価に広告を配信すること
  • できるだけ簡便に運用できること
を実現することにあります。
この目的のため、DSPには主に以下のような機能があります。
  • 広告主の広告予算進捗管理
  • 広告の入稿管理
  • 広告主の設定するターゲット属性管理
  • 広告主の配信成果の管理
従って、広告主は
  • 広告予算
  • ターゲット
  • 広告(多くはバナー等によるクリエーティブの入稿による)
をDSPへ通知するだけで広告が打てるようになりました。

ただしDSPを経由させれば常に高い効果が得られるとは限らず、例えばプライベートDMPにデータを蓄積し、アドエクスチェンジを利用して既存顧客向けに細かく施策を打つ方が高い効果が得られる場合もあるようです。また、DSPは別途利用料が発生する一方、自社ターゲットに親和性の高いセグメントを選ぶことによって認知目的で潜在顧客へ周知するのに適しているといった特徴があるため、広告主側のマーケティング戦略に応じた使い分けが必要と考えられています。

参考までにDSPとSSPを中心に構成される著名な関係図を以下に示します。左側のDemand-Side PlatformがDSP、右側のSell-Side Platform(or Exchange)がSSPになります。

「The OpenRTB Ecosystem」
[図35]The OpenRTB Ecosystem
出典:"OpenRTB API Specification"The Interactive Advertising Bureau (IAB)
http://www.iab.net/media/file/OpenRTBAPISpecificationVersion2_2.pdf

(2)SSP

SSPも前回少し触れました。DSPとは逆に、メディア側の立場で広告枠に適切な広告を配信するプラットフォームです。SSPの目的はメディア側の要求
  • 確実に広告枠を活用できること
  • できるだけ高価格で広告を販売すること(収益の最大化)*1
  • できるだけ配信期間管理やインプレッション数制御などの手間が軽減できること
を実現することにあります。
この目的のため、SSPには以下のような機能があります。
  • アドサーバ機能(純広告・自社広告・RTBによる広告を出し分ける)
  • オーディエンスデバイス(PC、スマホ、タブレットおよびOSの違い等)に合わせて広告を適正化するマルチデバイス対応機能
  • 各社DSP(海外も含む)やアドネットワーク/アドエクスチェンジとの連携機能
  • RTB対応機能
  • 表示回数、クリック数、CTRなどの効果測定とレポーティング機能
  • 高価格のアドネットワークを自動的に選択して配信する機能(メディエーション機能という)
  • 広告の掲載可否機能*2

SSPはメディア社向けのプラットフォームで、国内の数々のアドネットワークと連携しており、それぞれ特徴・強みを持っています。留意点としては、"どこそこのSSPは効果が高い"といった一般的な評価に頼るよりも、広告を活用するサイトやアプリ(スマホなどでは増えている)によって最適な広告も変わる傾向が大きいため、こうした特性を十分考慮した上で選択する方が重要のようです。専門家でも"配信してみるまで分からない"といった意見があります*3

また、Display広告はオーディエンスが魅力を感じるコンテンツがあってこそ成立するはずです。ところが、現実は「面白いコンテンツを作れば広告が売れて、収益が上がるというエコシステムはコンテンツメディアの実情を知らない者が考える"絵空事"であり、従来のネット広告ビジネスの枠組みでは、どんなに面白いコンテンツを作っても制作コストを賄えるだけの収益を広告であげることは不可能だ」とし、だからこそSSPを中心とした広告マネタイズの仕組みを安定化させ、こうしたコンテンツクリエーターを支えるべきである、といった意見もあります*4
Display広告は"薄利多売"でようやく成立するビジネスですから、コンテンツ制作コストとのアンバランスをどのように解決していくかは今後の大きな課題です。

(3)RTB (Real Time Bidding)

RTBは文字通り、リアルタイムに1インプレッション(1回の広告表示)単位で広告を取引する'競りの仕組み'です。
今まで何度かRTBについて言及しましたが、具体的な仕組みを見てみましょう。

「RTBの仕組み」
[図36]RTBの仕組み

(1)広告と入札条件の登録
複数のDSPが存在し、それぞれに様々な広告主が入札条件を提示しています。入札条件として、予算、広告の掲載基準、上限入札価格、ターゲットユーザ属性などを指定します。
(2)ユーザアクセス
あるユーザが、パブリッシャーの持つサイトにアクセスします。
すると画面に埋め込まれたタグ(Java Script)が起動し広告枠がリクエストされます。
(3)広告枠発生検知
パブリッシャーは、アドサーバで広告枠が発生したことを検知し、SSPへユーザ情報とともに広告リクエストを出します。このユーザ情報には、前回説明したCookieによって獲得したユーザIDやサイト情報などが含まれています。またアドサーバには、この広告枠を手持ちのDisplay広告等を表示するか、RTBにかけるかを自動で判定する機能を持つものもあります。
(4)ビッドリクエスト生成と通知
広告リクエストを受け取ったSSPは"ビッドリクエスト"を生成し、接続しているDSP群へ送ります。このビッドリクエストには、入札に必要なユーザID、IPアドレス、ブラウザ、OS、掲載先ドメイン、カテゴリー、広告枠ID、広告サイズ、許可広告主、業種、最低入札価格(フロアプライスといいます)、入札締切時刻などのデータが含まれています*5
SSPが別途連携しているDMPやデータサプライヤーが存在する場合、ビッドリクエストを生成する際に、入手したユーザIDから詳細なユーザプロフィール(興味対象分野など)が付加されることもあります。
(5)ビッドリクエストの解析
各DSPは、受信したビッドリクエストを解析し、自身のDSPに登録されている広告主の入札条件を比較し、入札するかしないか、入札する場合はどの広告主のどのクリエーティブを単価幾らで入札するかを決定します。DSP内で入札可能広告主が複数存在した場合も、入札価格や掲載適性などの基準によって入札広告を1つに絞り込みます。
さらに解析の際にDSPは受け取ったユーザIDから、DSP自身で保持するオーディエンスデータや提携DMPとCookieSyncなどを利用してユーザ属性を識別し、広告主のターゲティングカテゴリーとの適合性を判断します。
(6)DSPからの入札
各DSPからSSPへ入札価格、広告主の出稿広告などの情報をレスポンス(入札参加)します。
(7)ビッディングと結果通知
SSPは、各DSPから送られた価格を比較し、勝利DSPを確定します。勝利DSPへは勝利通知と成約価格が送られます。RTBで決められる価格は、セカンドプライス方式が採用されています。(この場合、2番札価格\12+\1=\13)*6
同時にパブリッシャー側アドサーバへも勝利DSP経由で掲載広告主の情報が通知されます。なお、応札時に広告情報が送付されなかった場合はこのタイミングでDSPから情報が送られます(アドマークアップといいます)。
(8)掲載広告の通知
パブリッシャーのアドサーバからユーザへ掲載広告情報が送られます。
(9)インプレッションリクエスト
ユーザ画面に埋め込まれたタグが掲載広告情報を受け取り、広告をDSPへリクエストします。
(10)ユーザ表示
DSP(またはDSPと連携したアドサーバ/アドネットワーク)からインプレッションがユーザへ送られ、画面に広告が表示されます。

以上が大まかなRTBの仕組みですが、(2)~(10)の処理が0.1秒以下で実施されると言われており、ユーザがその遅延を認識することはできません。また近年ブロードバンドによる大容量高速ネットワークが普及したことにより、Display広告のクリエーティブは動画広告などのストリーミング配信が増えつつあります。

このようにRTBは
  • 大量高速
  • 1インプレッション毎
  • フロアプライス(最低入札価格)
  • セカンドプライスオークション
などの特徴があり、大手RTBでは一日25億件を処理し、その99%が5mm秒以内に完了している、と言われています。この技術基盤には、ロードバランサー直下にフロントサーバ群を並列に配置し、バックエンドにMySQLだけでなくHadoopやKVS(キーバリューストア)型の軽量DBサーバを採用するなどの工夫が凝らされているようです*7
現在はスマートフォン向けの専業SSPやアドネットワークも立ち上がっていることから、今後もRTBによる取引量は拡大することが予想されています。
パブリッシャーの立場からは、時間・月・日・曜日・天候・季節などの違いでDSPからの入札需要が大きく変動するため、収益を最大化できるようなフロアプライス設定が重要といわれています。

RTBは米国のアドテク業界団体の一つである"The Interactive Advertising Bureau (IAB)"によってOpenRTBという標準が公開されており、"ビッドリクエスト仕様"などのObject群が定義されています。多くのRTBの仕組みはこれに準拠しています*8

*1:媒体の広告枠をできるだけ高価格で販売するための最適化をイールドマネジメント(Yield Management)と呼ぶ。一部のSSPはこれを自動で制御する機能を持つ。イールドマネジメントは、本来、"企業の収益を最大化するマーケティング戦略の一つ"であり、アメリカの航空会社で初めて導入されたといわれている。
参考:『イールドマネジメントとは』日経ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20070202/260501/
*2:広告の掲載可否機能
メディアが自社で持つサイトの広告枠に掲載する広告をドメイン単位またはクリエーティブ単位に拒否できる機能。競合会社の広告やサイトイメージに相応しくないクリエーティブを排除する目的のもの。
なお、逆に広告主側が広告を出したくないサイトか否かを判定する仕組みがヴェリフィケーション(Verification)である。
参考:『意外と知られていないSSPの掲載可否機能』ScaleOut inc.
http://www.scaleout.jp/26995/
*3:出典『広告事業者でなくメディア視点で作ったSSP「アドフリくん」(4/4)』Appreviewbr
http://app-review.jp/news/146057
*4:出典『儲からないコンテンツビジネスに、アドテクノロジーは変革を生み出せるか』The Haffington Post (2014年11月15日更新版)
http://www.huffingtonpost.jp/yusuke-iguchi/advertisement_b_5822132.html
参考『SSP活用でメディアが広告収益を最大化するためのポイント』ITmediaマーケティング (2012年11月15日)http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1211/15/news004.html
*5:出典:『DSP/RTB オーディエンスターゲティング入門』横山 隆治・菅原 健一・楳田 良輝 (著)   インプレスR&D (2012) ほか。
*6:セカンドプライス方式
最終的に最も高い価格を入札した買い手に販売されるが、支払額は2番目に高い価格(競合者の最高提示価格。競合者がない場合には売り手側の提示した最低金額)に設定される競売方式(以上Wikipedia「競売」より引用)。参加者による駆け引きの余地を排除し、全員の適正な評価価額が証明されるため、公正さが保たれる方式とされる。国内RTBでは第二位入札価格+\1で設定されているといわれている。
この方式は"Yahoo!オークション"で採用されている。例えば、開始\500の商品を'最高価格\1,000まで'で入札すると、現在価格\500と表示され、競合者が\600で入札しても\610で応札し第1順位が保持される(自動入札)。これで終了した場合、\610で落札できる。
*7:出典『Web広告配信のインフラを探る』gihyo.jp (2013年1月18日)
http://gihyo.jp/admin/serial/01/microad/0001
*8:出典『OpenRTB API Specification』(IAB)
http://www.iab.net/media/file/OpenRTBAPISpecificationVersion2_2.pdf
なお、[図35]も本ドキュメントからの引用である。

2.DMPの活用

広告主は、このようにDSPやRTBを活用して"出したい人に出したい広告を配信する"ことができるようになります。しかし多くのDSPで提供されるセグメントデータはあくまで"デモグラフィック情報(年齢・性別・居住地域など)"とサイトアクセス履歴から類推される嗜好性を分類したものに過ぎません。広告主としては"よりターゲットとしての高い精度を求めたい"と考えます。

例えば"Aという銘柄の化粧品を過去1カ月以内に購買した30代の女性"とか、"Bというディーラーサイトに過去1カ月以内に訪問したマリンスポーツに興味がある男性"といった細かな要求が出てきます。
こうした要望に応えるものがDMPです。DMPの活用方法として本連載第13回で取り上げた、(1)プライベートDMPを活用する方法と(2)データセラーDMPを活用する方法、の2通りがあります。

(1)プライベートDMPを活用する方法

プライベートDMPは、広告主が自社のCRMデータや自社メディアにおけるユーザ行動ログ(EC購買履歴、広告配信履歴、WEB回遊履歴など)を統合し、効果的な独自施策に活用するためのプラットフォームであることは既に述べました。このプライベートDMPとDSPを連携させる例が増えています。例えば自社で"会員データ"としてセグメントした情報をDSPと連携させることで、会員向けの広告と非会員向けの広告を出し分けたり、自社の"TypeD"の広告を過去何回表示したか(これを"フリークエンシー"と言います)によって表示する広告を出し分けたりすることが可能になります*9

(2)データセラーDMPを活用する方法

データセラーDMPは、一般消費者のネット上のあらゆる行動履歴(アクセスサイト、検索ワード、購買履歴など)を集積してデモグラ情報と紐付けし、様々なセグメントに分けてDSPやSSPでの活用に供するためのプラットフォームです。こうした外部の商用DMPを活用することによって、今までリーチが難しかった潜在顧客層にアプローチできる可能性が高まり、新たな顧客を効率的に獲得することが期待できるようになります。
このDMPを商用目的で持つ事業者は、目的を持ってデータを集めるという意味で別名データアグリゲータ(Data Aggregator)とも呼ばれます*10

例えば米国大手DMPサプライヤーBluKai社は3億件のオーディエンスデータ(匿名化されたもの)を保持していることを公言しており、全米ネットユーザの80%以上をカバーしているとされます。さらにこの膨大なデータは3万もの属性で分類され、日々データサプライヤー(後述)からの供給を受けて更新されています。
このビッグデータは"Audience Data Marketplace"として主に広告主に販売されており、決められた契約期間中何度でも利用できるようになっています。
以下にデータのタイプメニューを抜粋します(翻訳:筆者)*11

「BlueKai Audience Data Marketplace: Data Types」
[図37 ] BlueKai Audience Data Marketplace: Data Types
出典:http://bluekai.com/audience-data-marketplace.php

*9:参考『5分で完璧に理解できる!DSPの仕組みと新しい手法』ウェブ部
http://webbu.jp/dsp_mechanism-276
*10:参考『TURNを選ぶ理由』TURN社国内WEBサイト
http://turn-jp.com/why-turn.html
TURN社はDSP事業者と分類されるが、多くの外部DMP等と連携し膨大なオーディエンスデータを擁することによって広告主の多様なターゲティングニーズに応えている。
*11:Blukai社のオーディエンスデータ販売
この会社は「特定データを扱わない」、「顧客に対しても利用後Inspireする」、「個人の健康データは扱わない」などデータ保全に留意していることが認められる。
参考:『あなたのデータも取られてる?【BlueKai】に学ぶ日米の差』Startup.lab
http://startup-lab.tumblr.com/post/29950570185/bluekai

参考:『平成 24 年度我が国情報経済社会における基盤整備(「データ・エコノミー社会」を見据えたデータ流通環境整備に関する調査事業)調査報告書』(平成25年3月)一般財団法人 日本情報経済社会推進協会
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2013fy/E002841.pdf
(注記:この報告書の中にBluekai社の例が引かれている。)

3.オーディエンス拡張

前回"オーディエンスターゲティング"について触れましたが、DMPとDSPを連携させることによって威力を発揮するのが"オーディエンス拡張"と呼ばれるテクニックです。
オーディエンス拡張とは、実際に"ある行動過程を通じてアクション(購買など)に至った事実(人)"を成功モデルとし、同様の行動過程途上にある人々を一つのカテゴリーとしてまとめ、その人々へ成功したモデルと同等の広告を打つことによってアクションへ効果的に誘導する手法です。

例えば、"40代、男性、既婚、A社のミニバンサイトを閲覧、B社のミニバンサイトを閲覧、A社ミニバンの見積依頼を実行"といったオーディエンスデータがあるとします。ここでは"見積依頼=コンバージョン"と仮定します。ここまでのデータが明らかになると、"子供がいて、快適に家族旅行ができるミニバン購入を検討中の人物"と推測できます。
そこで、膨大なオーディエンスデータから"40代、男性、A社ミニバンサイトを閲覧、(または)B社ミニバンサイトを閲覧、(または)C社ミニバンサイトを閲覧・・・"といったオーディエンスデータを一括りとして、自動車会社は効果的なDisplay広告を出稿するチャンスが生まれます。これがオーディエンス拡張です。同じデモグラ(年齢、性別、居住地域など)で、かつ同じ興味関心分野を持つ条件で括れるため、広告がタイムリーに表示され、クリックの確立が高くなります。ECサイトにおける、リコメンデーションや"これを購入した方はこんな商品も見ています"といった情報もオーディエンス拡張の一つと言えるでしょう。

以下にオーディエンス拡張のイメージを掲げます。なお、オーディエンス拡張の際には、PrivateDMPのデータが同時に活用されることが通常です。

「オーディエンス拡張(イメージ)」
[図38]オーディエンス拡張(イメージ)

(1)ある目標KPIに達し既存顧客となったオーディエンスモデルをCRMやプライベートDMPなどの履歴から選定する
(2)外部DMPで提供されるオーディエンスデータから、選定した行動パターンを持つ潜在顧客層を一つのカテゴリーとする
(3)このカテゴリー潜在顧客層に対し、モデルのコンバージョンに至る前のシナリオ設計されたあるタイミングでアドテクを活用しDSP(またはアドエクスチェンジ)からDisplay広告を配信する

4.オーディエンスデータの獲得

(1)データサプライヤー

米国には前述の通り数多くのデータサプライヤーが存在します。以下にBlueKai社と協業しているプロバイダを掲げます。

「米国のデータプロバイダー(例)」
[図39]米国のデータプロバイダー(例)
出典:http://bluekai.com/audience-data-marketplace.php

米国は日本と同様、匿名化情報の利用に関する包括的な規定が無い状況であるほか、国土が広大で多様な文化背景を持つ人々が数多くの都市に分散していることから、効率的にターゲティングしたいとする広告主側の需要が大きいためにデータ取引市場が発達したという背景があります。
日本では、個人が特定できなくても個人から集められたデータを売買することへの心理的抵抗が強いこと、アドネットワーク拡大期に大手ポータルサイトやECが中心となって独自にデータ収集が続けられてきたこと、パーソナルデータの扱い方のルールや法整備が遅れており統一的見解が成立していないこと、などの理由から米国のように手軽にオーディエンスデータを流通させる仕組みが発達していません。国内版Chaosマップでは、T-POINTの「CCC(カルチャ・コンビニエンス・クラブ)」、総合生活情報サイトの「Allanout」、価格情報比較サイト「価格.COM」などが挙げられている程度です。
国内でもSNSのデータを活用する例が増えつつあります。SNS大手Twitterは、NTTデータやIBMと提携し膨大なツィートデータを分析して企業に提供するビッグデータビジネス向にデータを提供しています。例えば、新製品を発売したが反応がどうだったのか、ポジティブ/ネガティブの傾向はどうか等を知ることができ、競合品比較も可能になっています。現在はツィートを分析し株価予測をする試みなどへも活用されています*12

また、現在普及が完了したとも言えるGPSデータによって都市部昼夜の移動動向を調べたり、道路の渋滞状況の把握や予測したりする分析などに応用されています。源を辿れば個人が発信している情報ですが、大量に集めることによってBigdataとなり、統計的手法も組み合わされて有意な情報として提供されています。

(2)Cookie問題

前回からオーディエンスデータの収集方法として"Cookie"が活用されていることを述べてきました。確かに「ユーザID」、「パスワード」をいちいち入力しなければならない手間を軽減してくれる、という意味では大変便利な仕組みです。WEB開発者にとっても、利用が容易で必須の機能とされてきました。一方で、ユーザが認識しない間に個人のアクセス情報などがPC内に記録され、送受信されているためプライバシー侵害に抵触しないかという問題が西暦2000年以前から指摘されていました。さらに悪意あるスクリプトが仕込まれる危険性もあり、成りすましやパスワードの不正取得などの危険性もありました。特に3rdPartyCookieのトラッキング機能が問題となり、IE、Firefox、Google Chromeなどのブラウザは3rdPartyCookieの扱いを巡ってブロックするかしないか、ユーザ設定にするかなど、仕様がここ10年程の間に度々変更されてきました。しかし対応はまちまちで、アドテク業者の他、アフィリエイトサイトが数多く立ち上がっている現状もあり、一様にブロックすることも困難であるため統一的な扱いにならず現在に至っています。

米国では、ユーザ側でプライベートブラウズをしようとキャッシュを削除しようと、常にユーザをトラッキングし続ける"ゾンビクッキー"が問題になりました*13。米国でもプライバシー侵害への恐れが高まり、最近はAppleがiPhoneのSafariで、デフォルトではCookieを無効に設定するなど、Cookie対応しないブラウザも増えてきました。

(3)固有IDの発行

こうした問題への対応として、Google、Yahoo!、楽天など大手ポータル/ECサイトでは固有IDを利用者ごとに付与しグループ会社や提携各社と共同利用する方向へ動いています。
例えば、ECの世界ではGoogle Ad Id、Yahoo ID、楽天ID、などの話題があります。昨年YahooIDとCCCのTポイントが連携を開始し、Yahoo!で商品を購入する際にTポイントが利用できるようになりました。
最近は"ソーシャルログイン"が消費財サイト等の新規会員獲得手段として主流になっています。ユーザから見ると普段使いなれているSNSアカウントでログインできるため、煩わしい氏名や住所登録の手間が省けるわけですが、SNSに登録している個人情報がそのまま"筒抜け"になっているとも言え、それが企業側の狙いでもあります*14

以下簡単に大手各社の動きをまとめます。
  • Yahoo Japan
    YahooDSP/YahooDMPを開発、Yahooで購買する人やオークションを利用する人の履歴を蓄積する。YahooDMPは、事業会社の持つCRM情報と掛けあわせることで精密なターゲティングを実現できるとする。OPEN化戦略を採り、積極的に外部事業者に活用してもらうことを企画している。この動きに合わせ、2015年1月、国内大手CRMソリューション企業であるシナジーマーケティングを買収している。
    [参考]:「ビッグデータマーケティングという新戦場--ヤフー自信の根拠」ネットビジネス研究所(ブログ)
    http://blog.livedoor.jp/markn0613/archives/2084444.html
  • Google
    Googleは、かねてより独自アドネットワークであるGDN (Google Display Network)や買収したDFP (Doubleclick For Publishers)を持つ。DFPは独自SSPとも言うべき機能があるため、独自IDをユーザに付加することが噂されていた。RTBでは現在もCookieSyncを活用しているが、ついに2014年8月、自社で持つAndroidOSで稼働するモバイル向けアプリ提供事業者が広告を掲示する際には、CookieではなくGoogle Advetising IDをGooglePlayService上で条件付きながら利用することを義務付けた。
    ユーザ向けには分かりやすいオプトアウト手段を提示し、透明性の確保と利用者同意の上での広告効果の向上を狙ったものと考えられる。
    GoogleはYoutube、Gmail、Google+などのユーザ向けインフラを提供しているほか、Adsense、Admobなどのアプリ向けADネットワークを擁しており、これら日常使われることが多いサービスにログインすると、SSO(シングルサインオン)機能によりすべての行動履歴が把握されることになる。
    [参考]:「アドテクのcookie sync - DSPとDoubleClick Ad Exchange」パーソナルデータ(Personal Data)ブログhttp://personal-data.jp/cookiesync_adexchange/
  • Facebook
    Facebookは基本的に実名による登録者が多いことで知られる。この強みを活かし、戦略としてFacebook圏外の商業広告との連携を積極的に進めていると考えられ、マイクロソフトから買収したATLASというADプラットフォームで態勢を強化し、ここもSSOの仕組みと先にあげた"ソーシャルログイン機能"を最大限活用したユーザのパーソナライズ化の精度向上を進めている。またInstagramやWhatsUpなども傘下に組み込み、マネタイズの時期を検討しているとみられる。
    [参考]:「クッキーは死んだ:そして Facebook/Google/Apple の広告が激変している」
    http://agilecatcloud.com/2014/11/12/
  • その他国内事業者
    楽天(楽天カード)、CCC(カルチャ・コンビニエンス・クラブ:Tポイントカード)、7&Iホールディングス(nanacoカード)、イオンホールディングス(AEONカード)なども自社および自社グループ圏内のDMPへデータ蓄積を進めていると考えられる。
    かつてコンビニやGMS群はPOSデータと粗いデモグラ(性別と年代)によって嗜好性や売れ筋・死に筋を把握し、商品開発や仕入れ方法に反映することが主流だった。その後会員カードにより個人データと購買データのマッチングが可能となり、分析の精度は飛躍的に高まった。そして、現在オーディエンスターゲティングによってネットとリアルの消費者行動が把握できるようになり、OnetoOneマーケティングやOMNIチャネル化が現実化した段階に進化したと言える。
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*12:SNSデータの活用
参考:『Conversion Measurement: A Win for Direct Response Marketers』Facebook Awards
https://www.facebook-studio.com/news/item/conversion-measurement-a-win-for-direct-response-marketers
参考:『自社サイトやブログに訪れた人に、Facebook内でリマーケティング広告を出稿しよう【ウェブサイトのカスタムオーディエンス作成方法】』REX
http://socialmedia-rex.com/facebook-marketing-2/fbad/1547
参考:『ビッグデータを活用!Twitterによる株価予測手法』Naverまとめ
http://matome.naver.jp/odai/2141016933230023301
参考:『GPS機能を活用した観光行動の調査分析』総務
http://www.soumu.go.jp/main_content/000313134.pdf
*13:『ひとまず終息?米国Verizonのゾンビクッキーが巻き起こした携帯事業者とアドテク企業によるプライバシー侵害への懸念』Global Adtech
http://global-adtech.jp/blog/1396
*14:参考『ソーシャルログイン機能』ソーシャルPLUS ?フィードフォース
https://socialplus.jp/tour/social_login.html
参考:『ソーシャルログインのメリット・デメリットと効果』Gyro-n
https://www.ubicast.com/gyro-n/ja/column/social-login/

次回も引き続きアドテクの様々な技術要素を概観していきます。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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