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「IFRSをGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)から考えると」

2010.06.04 さくら情報システム株式会社  遠山 英輔

  コーポレートガバナンス、内部統制、リスクマネジメント、コンプライアンス、CSRなどの相互に関連性の高い領域が、企業経営にとって一段と重要になってきています。こうした関連領域を、G(ガバナンス)、R(リスク)、C(コンプライアンス)の3者の統合管理、すなわちGRCフレームワークとして統合してゆく試みが、現在米国のOCEG(Open Compliance and Ethics Group)によって進められています。このGRCの考え方は、社内のさまざまな部署が執り行うガバナンス、リスク管理、コンプライアンスにかかわる様々なプロセスやツールなどを「統合」してゆくことによって、その取り組みをより効率的・効果的にしてゆく試みといえようと思われます。(詳細についてはOECGのホームページ http://www.oceg.org/ をご参照願います。)

 IFRS自体についてより深く理解し本質的な対応に取り組んで行く上で、またIFRSによる開示を前提とした企業経営を行ってゆくにあたって、こうしたフレームワークを参考にして、GRCのいわばサブセットとして考えてみることも有用なのではないかと思われます。そこで、本稿では「ファイナンス」とCOSOのフレームワークに着目しながら、下図にそってIFRSとGRCの若干の関連付けを試みたいと思います。

GRCのサブセットとしてのIFRS
図-1 GRCのサブセットとしてのIFRS

 前月のWEBマガジン「ビジネスイノベーションの土台としてのファイナンス」の一部再掲になりますが、IFRSの真髄は、企業のあらゆる資産負債を時価評価してその差額をもって企業価値とする時価ベースの包括利益概念-言い換えれば先にあげたValuationそのものの体系といえます。そして、時価評価(公正価値)という形であらゆるものを開示する必要性(財務諸表の時価感応度の劇的な増大)により、当局対応や制度上やむなく受動的にリスク管理を行う状況から、積極的なリスクコントロールによりバランスシートをターゲットに着地させる一連のプロセスへと進化してゆくことが要求される点が重要になってきます。従って、会計基準の変更が経営にインパクトを与えるというよりも、IFRSが前提とするパラダイムが、企業経営そのもののイノベーションを促していると考えるべきでしょう。また、IFRSは財務報告の基準であって会計・仕訳のルールや帳簿そのものとは本質的には別次元の要素を持っているという認識も前提として重要であろうと思います。

 Valuationは、IFRSの中では原則主義の視点で位置づけることがポイントになります。一例になりますが、資産は「経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源」と定義されますが、要は将来のキャッシュフローを生み出すものが資産であり、持ち続けることによって流入が期待されるキャッシュフローの現在割引価値がその価額となります。原則主義においては、その算出方法の細目が定められるわけではないですから、いかなる根拠とロジックでその価額を出しているかを各企業が自問自答しその説明(すなわち開示)を果たさなければなりません。もちろん、この開示のプロセスを通じてステークホルダーのチェックを受けることは言うまでもありません。

 言い換えるとValuationそのものが内部統制、さらにはその背景でもあるCOSOのフレームワークの体系そのものの中で行われることになるわけです。加えて、リスク管理は、こうしたValuationの産物である時価評価(公正価値)のブレの可能性をリスクとして認識し、許容できる領域(あるいはリスク量)の範囲内でコントロールすることにほかなりません。そのバックグラウンドとなるのが、COSOのフレームワークであり、その発展形であるCOSO-ERM(Enterprise Risk Management)と考えるべきものでしょう。

 最後に、実は一番根源的なことでもあるのですが、ある企業の存在意義(なぜ、何のために設立されたか)、自らの企業行動の境界条件(Boundary Condition)-何をやり何をやってはいけない(社会的に許されない)-などを形作るものが、GRCで言うところのC+C(Compliance&Culture)となります。或る私の上司の口癖は「君は儲かるのであれば麻薬でも売るのかね?」ですが、こうした視点がまさにC+Cということになるわけです。

 IFRSは、企業や経営そのものを洗いざらい開示する世界共通のフレームワークであり、それ自体が成熟したGRCのフレームワーク、すなわち経営そのものを要求するものであると言えそうです。このことを念頭に、小手先の会計対応ではなく腰を落として対峙してゆくこと、これがIFRS時代の真の経営課題なのではないでしょうか?。


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