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「IFRS強制適用延期」

2011.07.02 株式会社オージス総研  竹政 昭利

 金融庁の自見庄三郎担当大臣が6月21日に会見をして、IFRSの強制適用を2017年以降にするという考えを示しました。理由として、米国やインドがIFRS適用を後退させていること、東日本大震災の影響をあげています。
 企業からすれば、IFRSの準備期間に余裕が出てきたとも言えます。今まで、日本は、IFRSが何物かを落ち着いて考える暇もなく、アダプションについても、カーブアウトなども考えずに、IFRSをそのままの形で全部受けて入れて突き進んできました。この延期の期間を利用して、じっくりIFRSとは何物であるかを検討し、今対応すべきことを考えてみるのが良いのではないでしょうか。

○IFRSの本質と企業

 IFRSは、ヨーロッパが先行しています。アメリカの意見も取り入れられていますが、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、そして日本でも、各国それぞれ事情は異なっており、IFRSが全ての国にうまく適合するとは限りません。日本も積極的に意見を言い、日本の事情を考慮してもらおうという考え方もありますが、まずはIFRSの本質を捉え、現在各企業で行っていることと、整合性がとれるのか?どのように折り合いを付けるのかなどのスタンスを決めていくことが必要です。このとき、単にIFRSに引きずられるのではなく、そもそも企業にとって重要なことが何かをぶれずに持つことが重要なのではないかと思います。

○IFRSを中心に考えるべきか?

先月号の「IFRSと管理会計」で考察したように、IFRSはファイナンスの考え方が色濃く、金融機関などでは比較的親和性が高いですが、製造業においては、特に原価計算などを考える場合は、必ずしも親和性が高いとは言えません。
 IFRSをあくまでも投資家のためのものと割り切って捉えた場合、極端ですが、投資家が参考にするであろう、連結の財務諸表をIFRSベースで提供できれば良いことになります。
 そういった投資家向け情報より、会社の存続やさらに成長に必要な情報(財務情報および非財務情報)をどのように持ち活用すべきかを考え、それを情報(データ)の中心にすえるべきではないでしょうか。
 もちろん、こういった情報を考えるときに、IFRSが必要とする情報も考慮に入れ、保持しておく必要はあります。おそらく仮にIFRSに対応することだけを目的化したとしても、制度に引きずられ振り回される割に得られるものは少ないのではないでしょうか?

○企業にとって重要なことは?

 IFRSは投資家のための会計です。そして管理会計は、経営者のための会計です。投資家のためか、経営者のためか、どちらを重要視するかはバランスをとる必要はありますが、会社の業績や将来の成長を考える上では、経営者のための管理会計というのが重要になってくるのではないでしょうか?
 IFRSに限らず、財務、会計に拘らず、非財務も含めて、必要な情報を蓄積し、経営者やその他の管理者が必要としている形にいつでも情報を抽出して、最適な形で見ることができる仕組みをつくることが重要でしょう。

○そのとき標準化が重要

 各企業にとって重要な情報は、各企業がばらばらにシステム化して、独自の形式で持つのではなく、標準化を意識して管理しておくことが必要です。必要な情報は必要な人、企業、公的機関にいつでも提供することになると日頃から意識しておきましょう。
 誰でもが自由に使える標準化されたデータを使うので、企業機密などが気になるという意見があるかもしれませんが、競合他社に情報がもれるかもしれないリスクより、標準化を行わないことで、グローバルな電子商取引に乗り遅れるリスクのほうがはるかに大きいのではないでしょうか。
 電子商取引は、企業内、企業グループ内、SCM内などのレベルがありますが、標準化のレベルが上がれば上がるほど、企業、企業グループ、業界、国、世界の活力が生まれてくるでしょう。

○まとめ

 今回のIFRS強制適用の延期によって、各企業は、単にIFRSの検討を先延ばししたり他社や他国の様子見をして、立ち止まってしまうのではなく、IFRSに振り回されずに、各企業にとって何が重要かを考え、動き出すチャンスなのではないでしょうか。

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