前回も触れましたが、金融庁の自見庄三郎担当大臣が6月21日に会見をして、IFRSの強制適用を2017年以降にするという考えを示しました。理由として、米国がIFRS適用を後退させていることをあげています。
それでは、米国はIFRS適用に関してどのように考えているのかを見ていきましょう。
米国では5月26日、SECのOffice of the Chief Accountantから、IFRSの「コンドースメント」アプローチを提示したスタッフペーパーが公開されました。
○米国と「コンドースメント」アプローチ
「コンバージェンス」アプローチや、「アドプション」アプローチは聞き慣れていると思います。ご存知のように、「コンバージェンス」アプローチはIFRSを一気に採用するのではなく、IFRSに自国の会計基準を近づけていくアプローチです。また、「アドプション」アプローチは、IFRSを自国の会計基準として採用することを意味します。
それでは「コンドースメント」アプローチとは、どのようなものでしょうか?
まず、コンドースメント(Condorsement)という言葉ですが、コンバージェンス(Convergence)とエンドースメント(Endorsement)を合わせた造語で、2010年12月に米国公認会計士協会(AICPA)の全米会議で、SECの次席アカウンタント、ポール・ベスウィック氏により提案されました。「エンドースメント」アプローチは、EU等で用いられている用語で、IFRSを自国の会計基準として承認する手続きです。ほぼ、「アドプション」アプローチと同意と捉えて良いようです。
つまり、「コンドースメント」アプローチは、最終的には、「エンドースメント」アプローチと同様IFRSを採用することになりますが、一気に採用するのではなく、移行期間中、IFRSと米国基準との差異に関して、「コンバージェンス」アプローチを併用することになります。
米国基準に徐々にIFRSを取り入れていくことにより、急激な変化を避けると共に、IFRSに対して意見を言うことで、米国基準に近づけ、IFRSへの移行をよりスムースに行うことを考えているようです。
このように、米国はIFRSの適用を単純に後退させている訳ではなく、米国また米国企業にとってより良い会計基準を採用すべく、米国基準およびIFRSに対する変化に影響を与えようとしているようです。その意味で、非常に積極的且つ前向きにIFRSに対峙しているとも言えます。重要なのは、単純に良いと言われているものを、丸呑みするのではなく、より良いものは何かを考え、仕組み(プロセス)を作り、実行していくことではないでしょうか?
○日本企業がやるべきこと
日本でも、大臣の話によれば、IFRSの強制適用を2017年以降にするということなので、何か良いのか考え、仕組み(プロセス)を作り、実行していく時間が生まれました。
最終的に、日本はIFRSをどのように採用していくべきかという議論になっていくと思いますが、それよりも前に、個々の企業が、本当に自社で必要としていることを考えることが重要だと思います。
システム面から自社で必要としている事を洗い出すには、以下の(1)-(6)の作業を検討しなければなりません。
(1) | IFRSの調査 |
(2) | 各企業の経営者が必要としていることの検討。(経営情報、管理会計、財務会計等) |
(3) | 現状のシステム、人、組織(AS-IS) |
(4) | 目指すべき人、組織を含めたシステム(TO-BE) |
(5) | 上記実施の(プロセス)構築(システム開発計画、人材育成計画等) |
(6) | システム開発 |
「(1)IFRSの調査」に関しては、IFRSがムービングターゲットなので、継続的に行う必要があります。その意味で、「(6)システム開発」はIFRSに関係する箇所の、詳細な仕様を詰めることは難しいと感じるかもしれません。
しかし、「(6)システム開発」より先にやるべきことはたくさんあります。自社にとって本質的で重要なことを考え、中心にすえて、それとIFRSをどのように折り合いを付け、どのようなプロセスで実行してくのかを考えることが重要です。((2)~(5))。
単なるアドプション的な丸呑みではなく、また単にIFRSに自社を合わせるコンバージェンスだけでもなく、まずは、自社にとって本質的で重要なことを考え、検討して、必要に応じて良いところを取り入れていく、そういったエンドースメント的なアプローチも各企業にとっても有用なのではないでしょうか。
○まとめ
今回の大臣の政治的決断によりIFRSの延期の方向に向かっていますが、IFRS推進派とIFRS反対派の議論があまりなされていないように思います。
さらに言えば、賛成か反対かを先に表明して、議論すること自体おかしく、本来ならIFRSのメリット、デメリットを議論し、最終的に賛成か反対か表明するものだとも思います。結論として、単純な賛成、反対ではない場合も多いと思います。
各企業においても、まずは純粋に自社にとっての、メリット、デメリットを議論し、議論し尽くした中から、何が重要なのか?どのように対応すべきなのか?がはっきりしてくるのではないでしょうか。
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