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「なぜなぜ分析の効用」

2012.08.20 株式会社宇部情報システム  永山 弘

■はじめに

 前回、2011年9月に、「「インシデント管理」「問題管理」プロセスの導入から定着まで」、を投稿してから1年経ちました。ITILのスモールスタートとしての「インシデント管理」と「問題管理」について、実績に基づいて、プロセス導入のポイントを述べています。その中で、

 近年、私たちは、根本原因の分析に「なぜなぜ分析」の手法を取り入れている。システム担当者の分析能力の向上につながり、事前のリスク発見にも役立つのではないかと期待している。
 と、現在進行形として活動状況報告をしました。今でも進行中に変わりありませんが、管理職から担当者まで、いくらかの経験・実績を積んできました。今回は、その効果について、現場のインタビュー結果も交えて、ご紹介したいと思います。

■「なぜなぜ分析」とは

 「なぜなぜ分析」とは、その言葉から類推される通り、ある事象を分析するにあたり、「なぜか」と直接原因の連鎖を繰り返し辿って、根本原因を突き止める方法です。これを、もう少し具体的な手法にした用語として、トヨタ自動車さんの「なぜなぜ5回」が、一般的には有名だと思います。特に製造業の方は、QC(Quality Controlの略)7つ道具のひとつ「特性要因図」、別名「魚の骨図」、として、よくご存知でしょう。または、問題の原因分析というよりも、ロジカルシンキングとして有名なものに、漏れ無く、重複無く、分析するという意味で、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、ミーシーあるいはミッシーと読む)があります。
 たとえば、上司から、「この前の障害の原因究明をして、再発防止策を立案しなさい」とか、「上期の売上低迷の原因を分析して、下期の巻き返しをしろ」と言われて、対策レポートを作成するようなビジネスシーンが浮かびます。分析対象となる事象やシチュエーション(障害の再発防止か、マーケティングか等)は異なるものの、問題分析は日常的なビジネス活動です。これらの活動を一般化して表現してみました。
(1)ものごとを分析して要因の因果関係を解明する活動である。
(2)解明した因果関係から改善策を導き出すことを目的とした活動である。
(3)要因と、要因どうしのつながりを解明するため、論理的な分析力を要する活動である。
(4)多くのビジネス現場で日常的に実践されている活動である。
 うまく言い表せていますでしょうか。
原因分析したら終わる活動ではなく、目的は、その次のアクションを講じることです。いわゆるPDCAサイクルの、CA(チェック・アクション)から次のP(プラン)へ繋げる重要なプロセスになります。

■効果への期待

 私は、(少ないと幸いなのですが)しばしばデータセンターで発生した障害の報告を受け、復旧後、原因分析と再発防止策の立案を指示しています。出てきたレポートが論理性を欠くものであれば、ダメ出しするのも仕事です。担当者に二度手間をかけさせることになるので、本当は、一発でOKになるレポートを出せるようになってほしい。「分析の精度を高めれば、仕事の効率も上がるのだが」「どうやったら問題分析が上手になるのだろうか」と悩んでいました。
 そこから発展して、問題分析力を高めることが、
・事前のリスク検知力も高まり、障害予防になる
・障害発生時に、問題の切り分けが早まり、復旧時間を短縮できる
 といった効果に繋がるのではないかと期待しています。

 

■運用ルール

 インシデント管理・問題管理プロセスの推進・監視をしている「品質管理事務局」(仮称)の決めたルールでは、以下の様なインシデントを「なぜなぜ分析」の対象とします。
・人的要因による障害
・組織をまたがった要因による障害
・その他、改善の余地があるもの、類似障害の防止につながるもの
 対象とするかどうかを事務局メンバで協議して、当事者組織に「なぜなぜ分析」を指示します。従来の是正指示の対象よりも、更に絞り込んだインシデントが対象になります。

■トレーニングの必要性

 分析対象となるインシデントが発生しないと、分析する機会がありません。これでは、分析力を高めることに繋がらないので、チーム輪番制で「なぜなぜ分析」を実施することにしました。分析対象は、過去の重大障害、影響度の小さかった障害、改善の余地がある業務など、各チーム特有の問題・課題です。こうすることで、トレーニングの機会を作りました。
 実際に分析してみると、案外難しいことが分かります。自分では納得していても、他の人にレビューしてもらうと、要因の漏れが見つかったり、論理性の甘さに気付かされたりします。やればやるほど、トレーニングの必要性を感じます。

■分析結果の共有

 分析結果は部門内で情報共有します。ネットワーク障害だからネットワークチームだけで共有すればいい、というものではありません。根本原因の多くは、チームを超えて共通性があり、様々な気づきを与えてくれます。ネットワーク作業を例にとると、
・通信機器の部分的な更新により、系のバランスが崩れたケース
・通信工事業者への指示ミスを、最終検査で発見できなかったケース
・作業手順書の中の紛らわしい表現に対し、新規メンバが意味を取り違えたケース
 など、他作業でも起こりそうな障害を想起させられます。

■ツール

 アナログ方式では、思いついた障害原因を、大きめの付箋紙に次々書いて、ホワイトボードまたは模造紙に貼りつけます。人数が多い(といってもせいぜい4人程度)ときは、このアナログ方式のほうが、意見が出やすいようです。マネジャーはファシリテータ的な役割をして、付箋紙をレイアウトしながら、論理ツリーを構築していきます。KJ法のようなイメージです。
 十分に意見がでたところで会議を終え、ホワイトボード上の論理ツリーを表計算ソフトで電子化します(付箋紙がセルに対応)。その後の見直し結果は、表計算ソフト上で編集して完成させます。
 私が個人で分析するときは、マインドマップのフリーソフトを使って、障害原因を構造化していきます。表計算ソフトに比べると、論理ツリーの組み換えが容易なので、思考に集中できます。

■現場インタビュー

 ここまで、「なぜなぜ分析」の導入・運用について、具体的にご説明しました。まだ2年足らずの運用実績しかありませんが、業務担当者と管理者にインタビューして、分析現場の状況や、肌で感じている効用などを聞いてみました。

Nマネジャーに聞く
 私のグループでは、3度(3つのインシデントについて)行いました。管理者(私)と、担当者本人と、第三者を入れて、合計3~4人で分析します。最初に、なぜ「なぜなぜ分析」をするのか説明し、ミスした人を責めるものではないことを宣言します。分析テクニックは、関連書籍を参考にしています。
 初回会議の前に、ある程度骨格を作っておくと効率は良いのですが、先入観にとらわれてしまうかもしれません。私のグループでは、今のところ、白紙で臨むようにしています。
 分析するメンバは入れ替わりますが、私は3度とも参加しているので、経験を重ねるうちに、分析のコツがつかめてきたと感じています。原因が出尽くしていないことや、因果関係のおかしな点にすぐ気づくようになり、その場で指摘できるので、後の見直しが少なくなりました。
 以前の是正処置のやり方に比べて、いろいろな改善策のアイデアが出るようになりました。マニュアルの改定や、チェックリストのチェック項目追加といったような、単純な対策だけではなくなりました。メンバの分析力が向上しているかどうかは、まだ何とも言えません。

F マネジャーに聞く
 私も、Nマネジャーの進め方とほぼ同じです。5度行っています。初回会議の前に、自分なりの分析案を作っておきますが、メンバには見せません。Nマネジャーが言うように、分析するメンバに先入観を与えないためです。
 何度か経験するうちに、最初の「なぜ」、つまり1レベル目の原因洗い出しが最も重要だと感じました。事象の捉え方、日本語での表現の仕方によっても、下位レベルの方向性が大きく変わってきます。逆に言えば、1レベル目をしっかり展開できたら、その後はさほど難しくないと思います。
 従来の是正処置では、当事者本人だけで原因を整理し、対策を考えて、その後複数人がレビューをしていました。「なぜなぜ分析」のように、最初から複数人で分析するほうが、視野が広がって、様々な対策のアイデアが出るようです。
 ただし、未知の不具合や、うっかりミスの理由が不明、といった場合には、原因の追求ができません。因果関係が複雑な場合には、原因分析が難しくなります。こうなると、「なぜなぜ分析」したからといって、そうたやすく是正処置の案がでてくるとは限りません。
 また、ミスをした本人にとっては、「なぜ自分はそうしたのか」を自ら問い詰めるわけですから、強いプレッシャーがかかるようです。逆に言えば、以前は、本人への気遣いがブレーキとなって、追求が甘くなっていたかもしれません。

U 担当者に聞く
 従来の「是正処置計画書」では、様式の限られた枠内に、簡潔に表現することが求められます。そのため、詳しい状況や背景を記述しきれませんし、主語を省くこともあります。その結果、抽象的な表現になることもあります。
 その点「なぜなぜ分析」では、5W1Hを明確にするため、とても具体的に表現できます。枠の制限がないので、些細なことも取り上げられますし、ユーザ・開発者・自部門の別担当者など、複数の視点で見ることもできます。その結果、自分の周辺だけでは思いつかないような、より効果的な対策がとれているように思います。
 「なぜなぜ分析」の手法は、最初は難しく感じましたが、今はそう思いません。まだ、最終結果に至るまで時間がかかり過ぎているので、もっと短時間で分析できるようになりたいと思います。
 自分のミスを取り上げられるのは、正直、良い気分ではありません。しかし、そこは開き直って、第三者の気持ちになって、冷静に分析することにしています。
 是正・予防に取り組む目的意識と、上手に分析できるようになりたいという向上心を持って臨めば、分析力の向上といった波及効果に繋がると思います。とにかく、分析メンバのヤル気が重要です。

 インタビュアの私が、意見誘導してしまっている可能性を割り引いたとしても、現場への運用の定着、分析方法の理解、是正策の有効性向上、などの効果が現れていると判断しました。一方で、分析会議の時間が増え、担当者の精神的負担が増えたようです。これらのマイナス面は、インシデント予防のための先行投資と考え、またメンバーの精神面での成長を期待するところです。

■おわりに

 「なぜなぜ分析」で検索すれば、たくさんのWebサイトや、書籍が見つかります。私は敢えて、URLも書籍名も紹介しません。ご興味がありましたら、インターネットや書店で、ご自身の「腑に落ちる」手法を探してみてください。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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