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「製造業のビジネスモデルとエンタープライズ・アーキテクチャ その1」
2012.11.14 株式会社オージス総研 宗平 順己
多くの製造業は今グローバル化などビジネスモデルの転換が急務となっています。一方で硬直化したシステムがビジネスモデル転換の足かせとなることが多いというのも事実です。
このような企業のビジネスモデルと企業システムのアーキテクチャとの不一致を解消する手段として、本シリーズでは,戦略との企業システム全体の適合を図るフレームワークであるEAに改めて焦点を当ててみたい思います。EAの実践的な手法であるアーキテクチャ成熟度ステージの考え方に基づいて,企業のビジネスモデルをEAと関係づけることができるのか,具体事例を踏まえて検証していきます。
1.エンタープライズ・アーキテクチャ
1.1 EAの実際的な適用
EAは以下の4つの階層を用いて企業情報システムの全体像を表現するとともに,企業戦略と整合のとれたIT投資計画を立案することを目的とするものです。
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図-1 Enterprise Architectureのフレームワーク |
出典:ITアソシエイト協議会「業務・システム最適化計画について(Ver.1.1)~ Enterprise Architecture策定ガイドライン~」平成15年12月 |
日本では2003年ごろからブームになり,「業務・システム最適化計画」として電子自治体や電子政府への取り組み中核となっているほか,システム管理基準にも取り入れられ,一般企業でも取り組みが進められました。
このEAの取り組みについての成熟度はOMBやGAOから示されており,ITマネジメントレベルでは,評価のしくみができています。
OMBのものは表-1に示すEA評価フレームワーク(EAAF:EA Assessment Framework)、GAOのものは表-2に示すEA管理成熟度フレームワーク(EAMMF:EA Management Maturity Framework)と呼ばれ、EAMMFはEAの個々のコンポーネントを評価するのに対し、EAAFはEA全体の利用状況を評価します。[1][2]
いずれも成熟度モデルに基づく評価であり、技術的にどのような状態とすれば良いかについての指針は示されていない。
表-1 EAAF
出典:村岸由紀, 小橋哲郎,「【第6回】米国GAO電子政府レポート」, 行政&ADP, 2005年10月号
表-2 EAMMF
出典:村岸由紀, 伊藤正樹,「【第14回】米国GAO電子政府レポート」, 行政&ADP, 2006年6月号
一方,EAの手法を用いて企業が情報システムを段階的に発展させるためのフレームワークとしてArchitecture Maturity Stagesというものがあります。当社の「百年アーキテクチャ」はこのフレームワークに準拠したものです。
EAの成熟度モデルとは異なり,Architecture Maturity Stagesでは,各ステージでインフラやデータ,アプリケーションがどのような状態にあるかが記載されており,技術レベルで自社の状態と比較検証することができます。
1.2 Architecture Maturity Stagesとは
Architecture Maturity Stages は,MIT Sloan のCenter for Information Systems Research (CISR)が,1995年から2006年にかけて 456 の企業を研究調査した結果をまとめたもので,企業がEAの最終ターゲットであるSOAの導入成果を得るためには,図-2に示すように次の4つのステージを順にステップアップしていく必要があるということを分析しています。
(1)Business Silos: |
個々の利用部門のビジネスニーズやシステムへの要求を最大限満たすことに注力している |
(2)Standardized Technology: |
技術の標準化や集中化を通じて,ITの効率化を追求する |
(3)Standardized Technology: |
企業のビジネスモデルに応じて,全社視点からのコア業務とコアデータの標準化を進める |
(4)Business Modularity: |
疎結合状態でサービス化されたビジネスプロセスコンポーネントを再利用して,コア部分はグローバル標準を担保しつつ,ローカルの自由度を許している |
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図-2 アーキテクチャ成熟度ステージ |
出典:文献「Jeanne W. Ross, Peter Weill, David Robertson, "Enterprise Architecture As Strategy: Creating a Foundation for Business Execution", Harvard Business School Press; 2006/8/8」をもとに筆者らで日本語化 |
1.3 Architecture Maturity StagesにおけるEAの設計時期
アーキテクチャ成熟度ステージでは,Stage3おいてコアの最適化を図る場合,自社(グループ)の事業モデル(Operating Model)が,表-3の4つのモデルのいずれに該当するか見極めたうえで,コアプロセスの標準化を進めるべきであるとしています。
表-3 4つのOperating Model
このコアプロセスの標準化にあたって,EAの本格的な検討が必要となります。
Stage2において技術の標準化(TA)への取り組みを行いますが,実はこの段階の標準化は本格的な全体最適化ではありません。サイロ状態でのインフラの運用管理の煩雑さ,無駄に気付き各システムのステークホルダーが標準システムを決めるのがこの段階での標準化であり,BAからTAへと展開するEAの全体最適には至らないアプローチです。
実際、リーマンショック以降、情報化予算が切り詰められた時期で中で多くの企業グループにおいて、唯一投資が盛んであったのが仮想化の導入でした。これは運用費用の削減につながるという理由が主であり、決してグループ情報化基盤の整備といったような名目で進められたものではありませんでした。
次号では、このオペレーティングモデルというものの解説と、それに基づく、標準化についてご紹介します。
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