事例
行動観察知見を活用した組織開発コンサルティング事例
ヤマハ株式会社様
ヤマハ様が取り組む探索型リサーチ
顧客を起点とした調査プロセスを可視化、実践する組織へ変革

ヤマハ様は、顧客理解を軸とした新価値創造に取り組んでいましたが、実践経験や人的リソースの不足が課題でした。オージス総研はヤマハ様の探索型リサーチを基盤とした組織開発を伴走型で支援し、「顧客調査MAP」による調査フローの可視化やナレッジ共有・指標づくりを実施。これにより社内共通認識が醸成され、調査の質および社内での理解が向上し、新価値創造を推進する土台が築かれました。
機能重視の製品開発からお客様の価値観や行動を起点とした新価値創造に変革したい
「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を目指し、「感動を・ともに・創る」ことを理念に、楽器事業、音響機器事業、部品・装置事業などグローバルに事業を展開されているヤマハ様。研究開発にも力を入れており、「良い音」「良い音響空間」をめぐる感性に関する深い理解と知見を活用し、アコースティックやデジタル・エレクトロニクスなどのさまざまな技術を組み合わせることで、他社にはないユニークな製品を提供されています。今日では、楽器事業をはじめとする既存領域に加え、新規事業にも積極的に取り組まれています。
ヤマハ様は、そのビジョンの実現に向けて、機能面に重点を置いた従来型の製品開発ではなく、お客様の価値観や、行動とその背景までを深く理解した上で製品の新たな価値を見出すことが重要だと考え、顧客調査に取り組まれてきました。
この顧客調査はコーポレート部門が主導しており、事業部門から寄せられる多様な相談に対応しながら進めてきましたが、その過程で3つの課題がありました。1つ目は新価値創造という領域における顧客調査の経験値やノウハウの不足、2つ目は調査がうまく進まない時、その原因がヤマハ様特有の課題なのか、他の企業でもよく見られるものなのか明確にならず、解決策や判断に迷いが生じていたこと、3つ目はプロフェッショナル人材が限られる中で、少人数でいかに効果的に会社に貢献できるかという難しさです。
こうした課題を抱えていた時期に、オージス総研の「GMC[1]」というプログラムに参加したことが伴走支援のきっかけとなりました。主任の池部氏はGMC[1]を振り返ります。
「新価値創造のプロセスを実践的に学ぶ中で、講師の豊富な知識や実績に触れ、当社がこれまで抱えていた違和感や迷いがクリアになっていく感覚を得ました。」
このプログラムで得た学びを社内に持ち帰るだけでなく、課題解決に向けてオージス総研と共に取り組みたいという想いへと変わり、その後、支援プロジェクトが始動しました。
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[1]GMC…Growth Mindset Community(グロースマインドセットコミュニティ)の略で、価値づくりに取り組む、あるいは興味をお持ちのお客様をお招きし、業界・会社を超えたチームとして、新価値創造のプロセスを実践的に学んでいただくプログラム。グロースマインドセットとは、アメリカの心理学者キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)が提唱した概念で、「能力や知性は努力や学習によって伸ばすことができる」という考え方を指し、新価値創造に不可欠な姿勢であるため、本プログラムはその名前を冠している。
"探索型リサーチ"の過程を形式知化し、"価値創出"につながる顧客調査を推進
プロジェクトは、月2~3回の定例会議をベースとして、ヤマハ様の顧客調査の課題解決に向けオージス総研がナレッジの共有やワークの進行を担うという、顧問コンサルの立ち位置で支援を行いました。
はじめに、ヤマハ様のビジョンや目標に対する理解を相互に深め、プロジェクトの解像度を高めるためのワークショップ(通称・スタートワーク)を実施。オージス総研がその思いを叙述式で言語化したことで、メンバー間の目線が揃い、真に取り組むべき課題が明確化したと評価するのは主任の村上氏。
「スタートワークで、顧客調査に関する当社の課題や想いを洗いざらい引き出していただいたことで、私たちが目指すべきは、検証ではなく、探索型リサーチなのだと、改めてチームの認識を揃えることができました。」
近年注目されている「探索型リサーチ」とは、仮説検証型とは異なり、n=1(1人に深く向き合う)ことを通して、人と場の関係性を観察し、その行動の文脈や構造を読み解くことで、潜在的なニーズを探索し、新たな価値や仮説を生み出す手法です。新しい価値を創造する上で、極めて重要なアプローチといえます。
この探索型リサーチを組織に根付かせるため、オージス総研が支援した中でも特に象徴的だったのが『顧客調査MAP』の作成です。当時、事業部門からの多種多様な顧客調査の相談に都度対応していたため、全体像がつかみにくい状況でした。そこで伴走支援のもと、受け皿となるポータルサイトを構築し、調査のステップをすごろく形式で可視化しました。陥りがちな失敗を「あるあるな落とし穴」として表現するなど、探索型リサーチを実践する上で重要な視点を落とし込むために、メンバーの発案を活かした工夫が施されています。サイト構成やMAPの中身には、オージス総研が長年の実践で培った知見も数多く反映されています。
| <顧客調査MAP> |
主事の稲岡氏は当時の課題と成果をこう語ります。
「顧客調査において重要なのは、実査そのものだけでなく、企画や仮説設計、結果に基づく分析・考察です。ところが事業部からの相談は、ほとんどが実査の実行のみにフォーカスされていました。そこで『顧客調査MAP』により、事業部門の調査担当者に対して、実査の前後に複数の工程があること、現在の相談が顧客調査のどの段階にあるのかしっかり理解してほしいという思いがありました。このMAPによって探索型リサーチの全容とステップ、ポイントを示すことができ、事業部門との共通理解が進むことは大きな成果です。」
池部氏は、その成果までのプロセスについてこう振り返ります。
「『顧客調査MAP』には、『目指す状態』の明確化や『陥りやすい失敗』なども盛り込みました。表現1つで受け手の印象は変わるため、オージス総研の実践知も落とし込みながら、何度も壁打ちをし、言葉を精査して解像度を高めていきました。」
顧客調査は単なるオペレーションではなく、そこからどのような価値を見出すかが重要です。その認識を社内に浸透させる土台が整ったことで、主体的に顧客調査を活用しやすい環境が生まれました。
また、『顧客調査MAP』の作成以外にも、オージス総研が得意とする「言語化を促す取り組み」により、効果的な可視化・指標づくりが推進されました。
チームの変化について、リーダーの望月氏は次のように語ります。
「オージス総研の支援により、プロジェクトで得たナレッジを属人化せずに抽出できました。言語化の精度を高めてくれる問いかけは、非常に心強いものでした。」
社内にプロジェクトにおける理解促進、共通認識が確立されたことで、顧客調査の主幹部門としての活動は一層深化し、新価値創造組織への貢献に向けて着実に歩みを進めています。
顧客理解の深化が、組織変革の原動力となる
ヤマハ様は、2025年4月より新しい体制に移行し、これまでコーポレート業務として培ってきた顧客調査を事業活動の中で実践する取り組みを始めています。顧客調査機能をミュージックコネクト事業推進部[2]の中に設置し、お客様の楽器演奏体験充実を目指す事業活動に入り込みながら、顧客理解力強化によるコアコンピタンスの確立を目指しています。
「顧客調査に重きを置くのは、私たち自身がお客様のことを最も深く分かっている存在でありたいという強い思いがあるからです。顧客調査の本質を理解し、実践する人材を増やし、継続的に取り組める組織にしていきたいです。」(望月氏)
今後の展望について、プロジェクト推進メンバーからも抱負が語られました。
「探索型リサーチは、実査そのものよりも前後のプロセスが重要です。そのマインドセットを変えることを社内に浸透させ、より計画的で効果的な事業活動につなげていきたいです。」(井上氏)
「『顧客調査MAP』を活用することで、新事業推進においてもより説得力と自信を持って提案できるようになり、他のメンバーも巻き込みながら、前向きに進められると期待しています。」(吉川氏)
顧客調査のあり方そのものを重視する姿勢が、ヤマハ様の掲げるビジョンの実現と組織変革につながるという信念につながっています。
「私たちの価値は、実査そのものではなく、目的の明確化や結果の分析を通じて事業を前進させることにあります。組織変革にあたっては、自分の半径数メートルのところからでも影響を広げることは可能です。探索型リサーチの普及によって、その草の根的な活動を実現できていると信じています。」(村上氏)
最後にオージス総研への期待を語っていただきました。
「実践に基づく専門知を惜しみなく提供してくれたことに感謝しています。取り組みを通じて、私たちが直面しているのは自社固有の課題ではなく、業界全体に共通するテーマであり、新しい挑戦だからこその難しさがあることにも気づかされました。今後は、自社のみならず業界全体にも良い影響を広げていけるよう取り組みを続けたいと思います。
また、リサーチャーという専門職の価値を社会的に認知・向上させていくためにも、暗黙的に行っている仕事を形式知化し、専門性の共有を通じて新たな価値創出の土台を築いていきたいと考えています。」(稲岡氏)
「事業課題に直面した際に、課題をブレイクダウンし、顧客起点で探索型リサーチから事業活動を始めることで、成功確率を高めていきたいです。今後もオージス総研と連携しながら、実践知を活かした価値創出に取り組んでいきたいと思います。」(望月氏)
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[2]ミュージックコネクト事業推進部
テクノロジーのチカラで人と音楽の可能性を広げることを目指し、オンラインレッスンやミュージックツール、コンテンツマーケットプレイス、コミュニティサービス等、お客様ひとりひとりの充実した楽器演奏体験や、時間・場所を超えてつながる事業を推進。
<プロジェクトを支援したオージス総研担当者の声>
お客様がまだ気づかれていない価値にも目を向けながら、それらを少しでも多く引き出し、形にできるよう意識して支援させていただきました。今後も、ヤマハ様の「ビジョンドリブン・イノベーティブな組織への変革」に寄り添い、お役に立てるよう、伴走力を活かした支援を続けていきたいと考えています。お客様プロフィール
ヤマハ株式会社
ピアノや電子楽器ほか楽器事業を主軸に、音響機器事業、電子部品、ゴルフ用品、リゾート事業など幅広く事業を展開。長年培われたクラフトマンシップと最先端テクノロジーの融合による「音」への深いこだわりが強み。
関連サービス
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行動観察コンサルティング
行動観察とは、さまざまな”場”における人の行動を観察し、定性的な事実から非言語化領域のニーズやリスク、暗黙知を導き出す手法。事実を起点に、これまで常識とされてきた枠組みを新しい視点・発想で前向きに作り直し、新たな仮説、価値を生み出します。
