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インタビュー

うつるソフトウェアコンテスト優勝者インタビュー

cupido林さん

チーム名「Cupido」
神戸大学 工学部情報知能工学科 林 亜梨沙さん

昨年11月17日に大阪で開催した学生の方々向けのソフトウェアアイデアコンテスト「うつるソフトウェアコンテスト」本選で見事に優勝されたチーム「Cupido」の林さんをお招きし、コンテストを振り返っていろいろとお話を伺いました。

なお、優勝した作品のアイデアについては「うつるソフトウェアコンテスト 本選レポート」の受賞作品のご紹介の中の「アイデアを説明する文書」のリンクからご覧いただけます。

(インタビュアー: アジャイル開発センター 藤井拓)
2015年2月12日

大学でもすれちがい通信を研究

藤井- まず現在は何年生なのか、大学でどのような分野を勉強されているのかということをお聞かせください。

林- 今、大学4年生で研究室に配属されています。自分の研究としては、発表した案の中にもあったすれちがいの部分を研究しています。DSとか、すれちがい通信とかあるじゃないですか。ああいうものを、スマートフォンとかタブレットとか誰もが持っているような端末で実現できないかなというのを考えています。

藤井- その研究テーマはご自身で設定されたんですか。

林- はい。その前に作りたいアプリがあって、その中で一番難しいのがすれちがいの仕組みで。そこが実装できれば実現できるかなっていうことになって、ちょうどそのタイミングで今の研究室に入ったので、すれちがいやりたいですって言ってやらせてもらってます。

藤井- 研究室に入られた方は、皆さん自分自身でテーマを設定されるんですか。

林- 学科としては、結構先生が何個かテーマを決めていらっしゃって、この中でやりたいのやってみる?という提案を受ける場合が多いんですけど、私の所属している研究室は比較的自分がやりたいことに近いこととか、得意分野にできるだけ近いように先生と相談しながら決めていくっていう形ですね。

インタビュー風景

藤井- 先生の指導も大変ですね。研究室に入られて、これまで研究発表とかされたんですか。

林- 神戸大学と他の大学の協定シンポジウムっていうのが研究科であって、たまたま神戸大学で協定シンポジウムを管理している先生とお話ししたことがあったので、やってみないですかって言われて、それでポスター発表はしました。すれちがい通信のテーマで。

藤井- うちの息子もすれちがい通信のDSにはまってますよ。常にポケットに入れて出掛けてます。

林- あれ、楽しいと思います。

コンテスト応募の動機

藤井- コンテストに応募された動機は?どうして応募しようと思われましたか。

林-コンテストのお話は、先生からポスター来たよっていうのを知らせてもらって、それで初めて知りました。もともとアプリケーションを考えるのが好きだったので。実装まで絶対しなきゃいけないっていう内容だったらちょっと厳しいかなって思ってたんですけど、アイデアで応募していいよっていうことだったので。一人でいいのかな、とは思いましたけど、出すだけ出してその後は通過してから考えようと思って応募しました。

藤井- これまで他のコンテストに応募されたことはあるんですか。

林- コンテストはないんですけど、3回生のときに企業さんが企画されたイベントみたいなのがあって、そういうのに顔を出したことはあります。

藤井- 今回すごくユニークなのは、一人のチームというところ。過去にも一人で応募してくださる方はいらっしゃったし、本選に出場して入賞された方はいらっしゃったんだけど。

林- 過去のコンテストのページを拝見したとき、一人のチームを見てちょっと安心しました。

藤井- ただ、一人だとやはりなかなか勝ち抜くのが難しいところがあるかなと思うんです。応募する過程で、他の人に一緒になってやってもらおうとは思われなかったんですか?

林- 全く思わなかったわけではないんですけど。もともと実装もそこまで得意ではなくて考えることのほうが得意なので、実装までしようと思ったら厳しいかな、とか、本選まで残ったらちょっと厳しいかなっていうのは思ってたんです。でも、内容のすれちがい自体がもともと研究している内容で、発表した災害時における安否確認システムっていうのも私が考えていた案だったので、他の人を巻き込むような形になるなと(気がひけたので)、今回は一人でやれるとこまでやってみようという結論になりました。

利用シナリオでアイデアを説明する

藤井- 「アイデアを説明する文書」を、他の人に見せて意見をもらうようなことはされたんですか。

林- 文章の書き方がやっぱり慣れてないので、先生に言葉の使い方などを確認していただきました。研究室のみなさんに話を聞いてもらうこともありましたね。

藤井- 文書を拝見してすごく分かりやすい感じがしました。特に、今まで他チームの文書を見ていると機能について説明してることが多いんですけど、利用シナリオの形で説明されてるところが分かりやすさのポイントになってるかなという気がしたんです。どうして利用シナリオを書こうと。

インタビュー風景

林- 私の案が、すれちがいで情報を避難所に集めてもらって、それをいろんな人が検索で使うっていうものだったんですけど、技術について書こうとすると本当に専門的な話になっちゃうので、それよりはどうやって役に立つかということのほうがアピールポイントになるかなと思ったんです。利用シナリオは、機能説明したときに使うイメージができないだろうなって自分でも思ったんで入れさせてもらいました。

藤井- それはすごいですね。アピールポイントの一つになったかもしれないです。このシナリオがあると、使うシチュエーションが非常によく分かりますね。

林- そうですか。良かったです。

作品の着想

藤井- 作品はどのように考えていったんでしょう。どういったところから着想したのか。すれちがい通信をもともとやっておられたっていうことだったんですけど。

林- もともと去年ぐらいに考えていたアプリがあって、それを深めて出してもいいかなと思ったんですけど、それよりもすれちがいっていうのを練り込みたかったんです。

すれちがいじゃなきゃいけない状態ってどんな感じかな、というのを考えていたときに、災害時というのはやっぱり電波が途絶えてしまう可能性があるから本当に必要になるんじゃないかっていうことに気が付いた、というか、本当に必要なのはそのときかなと思って、そこから災害のときに必要なアプリってどんなんだろう、と考えるようになりました。

藤井- それと、チーム名「Cupido」がすごくユニークというか、最初読み方が分からなくて。このチーム名のネーミングは?

林- 本選で最初に読まれたとき、キューピッドって発音されたと思うんですけどそれで本当に正しくて。一応、読み方としてはクピドゥにさせてもらってるんですけど、クピドゥっていうのはキューピッドの語源なんですよ。

本当はもう一個出そうかなって悩んでた案があって。被災した人たちを応援するために使えるようなアプリを別で考えてたんです。その二つを出そうと考えたときに、両方に共通してるのがすれちがいでつながっていくということだったので。

キューピッドっていうと、ぱっと浮かぶイメージは恋愛などかもしれないんですけど、自分が誰かと誰かをつなげる存在になりたいなと思ったので、キューピッドの語源のクピドゥ、響きもかわいかったのでぴったりだなと思ってクピドゥにしました。

藤井- ということは、二つのアイデアのどっちを出そうかと悩んだとこもあった。

林- そうですね。ずっと二つ出そうと思って考えてたんですけど、書類を作るとなったときに、結果的に今回出した「みつける。」のほうが実用性の面ですごく大きいなと思って。もう一つの案は、うつるソフトウェアというよりは自分が考えたくて考えてたようなところがあったので、コンテストに応募するなら「みつける。」かなと思って一つに絞りました。

藤井- うつるというテーマからアプリの機能っていうのを考えたわけではなくて、そこは機能が先だった。

インタビュー風景

林- どっちもというのか。すれちがいの時点で移る要素があるので、つながるかなと思って考え始めたっていう意味では、すれちがいが先にあったんですけど。

藤井- 移るっていう部分が最初からあったということですけども、そこからもうちょっとうつるという。3ポイントぐらい設定されてますよね。人の存在が写る、すれちがい情報が移る、命が映る、というところまでさらに膨らませていって。

林- はい。一番最初に考えたときはすれちがいで移るとうまくつながるなと思って考え始めて。書き込みで移るというのは、多分技術がちょっと先かなと思うんですけど。命が映るというのは、安否確認サービスにしようと思ったときに、命が映るというテーマにもできるなと思って取り組んだので、どっちが先かな、一緒にっていう感じですね。

私の考えられるものは詰め込んだ自信がありました

藤井- 一次審査に応募してくださったとき、自信はどれくらいあったんですか。

林- 自信ですか。案に関しては結構頑張って考えたので、通過できるかと言われると微妙なんですけど、私の考えれるものは詰め込んだっていう自信はありました。時期が院試とすごくかぶっていて、院試が終わって2日後ぐらいに締め切りがあったんです。さすがに院試直前は集中できないのでずっと勉強してて、書類は2日間に詰め込んだ作業もあったので、そういう意味で書類が伝わるかなという不安はありました。

藤井- 一次審査を通って二次審査までの間、また期間が少しありましたよね。そこでは改訂というか、何かしたんですか。

林- 大きくは変えてはないです。一次審査のときにぼんやりしていた実際に通信をする場合に具体的にできるのか、というところをもう少ししっかり考えようと思って詰め始めたらいろいろ選択肢があって、どういう仕組みでいこうかなっていうのは考えました。

でも二次審査に提出した書類に関しては、図を増やしたことと、一次審査のときに、写真でイメージみたいに載せてしまったのが多かったので、そこをもうちょっと具体的な図に落とし込むというか、イメージの写真だけじゃなくて自分の考えた仕組みの図をしっかり書こうと思って、そこは直しました。

藤井- それが皆さんにも見ていただく「アイデアを説明する文章」になったということですね。

優勝作品「みつける。」のアイデアを説明する文書は以下からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「みつける。」(PDF:約406KB)

魅力的な動きで見せるプレゼン資料

藤井- 二次審査を通過してからプレゼンを作成されたんですよね。プレゼン、Prezi(プレジ)でしたっけ。あれ、コンテスト本選で見るの初めてなんです。世の中では何回も見てるんですけど。以前から Prezi を使ってらっしゃったんですか。

林- いえ、全然使ってないです。PowerPoint ってどうしてもページが重なってめくっていくイメージじゃないですか。私のイメージ的にふわっと動いてほしかったというか、めくっていくんじゃなくて動いていってほしかったんです。PowerPoint で最初やろうとしたんですけどイメージにあるものが私の力では作れなかったので、他のないかなと思って探して、Prezi に出会いました。

藤井- そこの感覚があるっていうのがすごいですよね。こういうふうに説明したいという思いがまずあって、それを実現する方法っていうふうに探すというのは、割りとユニークですね。

林- 本当ですか。良かったです。内容が災害時というアプリなので真面目なほうがいいかなとは思ったんですけど、真面目な内容でいつも通りプレゼンをまとめるとすごく堅苦しくなりそうだと思って、そこはもうちょっと魅力的な動きで見せれるものがあったほうがいいかなと思って探しました。

優勝は無理かなと思ってました

藤井- 本選当日、発表は1番目でしたっけ。1番という順番はどう思われました?

林- 私、到着がぎりぎりになっちゃって着いてすぐにくじ引きして、1番、みたいな。1番を引いてしまったときはびっくりしたというか、動揺したんですけど。でも準備する順番とか、これをセッティングして、これだけ確認してっていうのも決めてたんで、まあいいかと思って準備しました。

結果的には、1番で良かったかなって思ってます。最初にナレーション入れてたので、途中だったらみんな寝ちゃうかなと思って。そういう意味では、最初なら始まるぞっていう緊張感でみんな聞いてくれたと思うんで。

インタビュー風景

藤井- そうですか。発表された後に、他のチームが次々と発表されたわけじゃないですか。それ聞いてどういうふうに思われましたか。

林- もう、なんか楽しんでました。自分のが終わって緊張もほぐれてたので。最後まで聞いたときは、私も同じ出場者であることを忘れて、ああそれ欲しいとか思ってる案も何個もあったんで、優勝とかは無理かなと思ってましたね。

藤井- 特に魅力的だったというか、これは欲しいなと思ったアプリは。

林- 興味を持ったのは、地域の人と支えあう・・・。

藤井- 買徒(バイト)。

「買徒~BAITO~」の詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「買徒~BAITO~」 (PDF: 約 2.1MB)

林- そうですね、買徒さんがすごくスライドもきれいだったし、デモもバーコードとか本当に印刷して持ってきてたので、すごいなと思って。あと、ゲスト審査員を取った、視覚障害者の・・・。

藤井- Friendly Viewer。

「Friendly Viewer」の詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「ユニバーサルデザイン支援アプリ Friendly Viewer」 (PDF: 約 760KB)

林- はい。あのアプリもすごい実装されてて、あとは申請が通ったら実際にインストールできます、みたいにされてたのですごいなと思って見てました。

藤井- ということで、表彰式に臨まれたわけですけども、どんどんゲスト審査員賞から発表があって、どう思われました?優勝チームが発表されるまでの間って。自分が優勝できそうな期待とか。

林- 一応頑張ったのと、ゲスト審査員の方が質問の時間にいろいろ聞いてくださったので、あり得るとしたらゲスト審査員賞かな、と思ってたので、そこが違うチームだったときに、あ、もう無いなと思いました。でも本選まで来れたし、と思って聞いてたら優勝だったのでびっくりしました。

優勝後の反響は

藤井- コンテストに優勝された後の、周囲の反響はどうでしたか。お祝いがわーっと来たとか。

林- 研究室の人には出しますっていうのも言ってたし、行ってきますみたいな感じで送り出してもらってたので、「優勝したんや、おめでとう」ってなりました。

あとは家族も。コンテスト自体初めてだし、家族の中でも理系で院に行くのが私だけだったので「えっ、すごいね」「詳しいことは分かんないけどすごいね」って感じでしたね。

友達にはコンテストに出ることはあんまり言ってなかったんですけど、優勝させてもらったのでせっかくだし、Facebookに実はこんなコンテストに参加させてもらって、というのを書いてみたら、あ、勉強でそんなやつやってるんやね、って結構興味持ってくれる子が多くてうれしかったです。

藤井- 素晴らしい。今回コンテストに出場して良かった点って、なんかありますでしょうか。

林- 研究ですれちがいをもともと扱おうと思ってたんですけど、より具体的なシーンを想定して考えられたのでそこはすごく良かったなと思います。

あと、災害時というのも、いつかはたどりついてたかもしれないですけど、もともとは普通に、どっちかというと遊びだったり、現実とバーチャルな世界を結ぶきっかけにすれちがいがあったらいいなぐらいにしか考えていなかったので、そこが具体的に詰めれて、実際にBluetoothの勉強も深められたりとか、そういう面は自分にとってもすごく良かったなと思ってます。

藤井- そうですよね。いろんなアプリケーションの分野を考えることによって自分自身の研究の方向性も学ぶものがあるのかもしれないですね。

林- (すれちがいは)エンターテインメント性はもともとあると思うんですけど。それを実際に使えるもので、しかも災害時って、本当に自分が力になりたくてもなれないことがすごくあるじゃないですか。情報系の道に進む人間としてそういうところにソフトウェアの面から助けられるものがあるといいなと思って、それは今回のコンテストで本当に初めて考えたことだったので良かったなと思ってます。

今後の夢

藤井- 今後の夢は。どんなことを目指していらっしゃいますか。

林- あまりはっきり何になりたいというようなワードはまだ決まってないです。大学院に進学することは決めているので、すれちがいを研究したり、災害時のアプリを作ったりする中でもっと深めたいことがあれば、ドクターのコースも視野に入れてます。

もしも、私のしたいことができると思う企業さんと出会えたら、就職活動に入るかもしれないです。実際に就職活動するのは院の2回生になると思うので、そのタイミングで移るかどうか決めようかなと思っています。

インタビュー風景

藤井- 興味として、アプリケーションを考えるのが強いのか、それとも仕組みですよね、すれちがい通信みたいなアーキテクチャーとか、どっちを今後施行されるんですか。

林- 興味があるのは、どんなアプリケーションがあればいいかを考えるほうが好きで、得意なんですけど、でもアプリを実現しようと思ったら、仕組みを考えたり作れなきゃいけないので、そういう勉強は必要だなというふうに感じています。仕組み作りが好きっていうわけではないんですけど、自分が作りたいものを実現するために勉強していこうかなと思っています。

研究以外の大学生活

藤井- コンテストとは関係ない質問ですけど、ご趣味は何でしょうか。

林- 趣味って言っていいのかな、今、大学でアカペラサークルに所属しているので、今やってることだと歌になるのかなと思います。高校まではすごく本を読むことが好きで、小説が中心だったんですけど、ずっと趣味って聞かれたら、読書とか、あと楽器を習ってたので、そういうのを答えてました。大学に入ってからは、本当に勉強とアカペラサークルという感じです。音楽は何らかの形で続けていきたいなと思ってます。

藤井- アカペラサークルって、コンテストのようなものに出場されることはあるのでしょうか。

林- ありますね。でも、私がいるグループは楽しく好きな歌を歌おうっていうグループなので、あんまり競争しなきゃいけないようなのには参加したことないです。

藤井- 本日は、ありがとうございました。