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インタビュー

寝かせて使うソフトウェアコンテスト優勝者インタビュー

優勝を目指して3人で挑んだコンテストはとても楽しかった
2024年2月21日
チーム「DC.DC.」
チーム「DC.DC.」
香川大学 横田 一晟さん、新田 宗史さん、奥野 唯織さん

昨年11月15日に開催したオージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテスト第14回 OSCA(OGIS-RI Software Challenge Award) 「寝かせて使うソフトウェアコンテスト」で最優秀賞を受賞された「DC.DC.」チームへのインタビューをお届けします。

インタビュアー:木村 めぐみ
(編集:木村 めぐみ)


インタビューはDC.DC.(デコデコ)チームが在籍されている香川大学 幸町キャンパスで行いました。DC.DC.チームは実は昨年度の「しきるソフトウェアコンテスト」で特別賞を受賞しており、今回、2度目の入賞で最優秀賞を獲得されたチームです。優勝したいという気持ちで挑んだコンテスト本選までの道のり、将来の夢についてお話を伺いました。

また、本記事後半には、DC.DC.チームに助言をされた香川大学 創造工学部 北村 尊義准教授に、造形・メディアデザインコースの教育内容や本コンテストに関して伺った北村先生へのインタビューを掲載します。

自己紹介 大学で取り組んでいる研究内容について

── はじめに、お一人ずつ大学での研究内容を教えていただけますか。

奥野さん

奥野- 香川大学 創造工学部 造形・メディアデザインコース4年 柴田研究室の奥野 唯織です。大学1年からプロダクトやプログラミングを学ぶ中でプログラミングにも興味があったのですが、ゼミの先生との関係でSFプロトタイピングというものに興味を持ちました。これはSF的な発想から新しいアイデアを生み出そうとするプロセスで、それが今回のコンテストのアイデア出しにも関わったのですが、そのような何かを作る時のアイデア出しなどプロセスの研究をしています。


新田さん

新田- 香川大学 創造工学部 造形・メディアデザインコース4年 北村研究室の新田 宗史です。卒業研究では、実は去年のしきるソフトウェアコンテストに応募した内容をそのままテーマにしています。去年のコンテストで提案したものが実際にあったとしたらどういう評価ができるか、という評価の部分です。

── 評価の部分、ですか?

新田- 去年のコンテストでは、作業中の人が、自分が作業中であることを周りに意思表示するパーティションをARで表示するという提案をしたのですが、では実際にそのパーティションがあったとして、話しかける側が本当に話しかけやすいのか、他にどのような情報を付与すればもっと適切なタイミングで話しかけることができるのか、話しかける側の人に注目して評価しています。

昨年度の「しきるソフトウェアコンテスト」応募作品の詳細は以下の文書からご覧いただけます。
しきるソフトウェアコンテストのアイデアを説明する文書「MoguRun」 (PDF: 約 1.2MB)

横田さん

横田- 香川大学 創造工学部 造形・メディアデザインコース4年 横田 一晟です。李 セロン先生の研究室に所属しています。研究室の専門分野は感性工学とパターンマイニングで、人の感性を数値的に表すにはどうすればよいのか、パターンマイニングという手法を使って数値化しています。

その中で私はコミュニケーションを数値化する、ということをしています。コミュニケーションを数値化すると、会話でよく出てくるパターンが取れます。そこから、他の人が会話の中でよく話している話題を推薦できれば、初めて話す相手としゃべりやすくなるのではないか、と話題を推薦してくれるシステムの研究に取り組んでいます。

チーム結成のきっかけの一つは瀬戸芸

── 皆さん同じ4年生ですが研究室は違うのですね。去年もこの3人で応募されていますが、チーム結成のきっかけは何でしょう。

新田- 横田君と私は大学3年の時に高専から編入してきたのですが、最初に横田君がコンペにいろいろ出てみたいと言い出しました。高専出身でバックグラウンドが情報系なのでソフトウェア系のコンテストを探していて、その中で見つけたのがオージス総研のコンテストでした。最初は2人だったのですが、もう少しメンバーが欲しいなと考えていて。

少し話が飛ぶのですが、ちょうどそれより少し前の去年の5月頃、香川県で瀬戸内国際芸術祭2022(瀬戸芸)があって、編入してから仲良くなった奥野君を含めた5~6人と見に行ったんです。いろいろなアート作品が展示されているのですが解釈が難しくて、そこで奥野君のユニークな発想の仕方などを知っておもしろいね、と話をしてメンバーに誘ったような形です。

奥野- それなのか。アート作品を見てこういう解釈があるね、みたいな話をしたんですけど。

瀬戸芸でのスナップ
一緒に見に行った瀬戸芸(写真提供:DC.DC.チーム)

── そうやって去年3人のチームができたのですね。そうすると、今年のコンテストの応募動機は?

全員- リベンジです!

新田- 去年は最優秀賞を取れなくて、今年は!と。

締切直前に思い切って案を変更。大事にしたのは使う人の気持ち。

── コンテストの応募に向けてどのように進められたのか教えていただけますか。

横田- まずは「寝かせて使う」アイデアを個人で出して、それを週に1回持ち寄る会議を何回か重ねました。個人で考えたアイデアを他のメンバーが評価して、更に改造したり、いろいろな案を出したりしました。

アイデア出しのスケッチ
アイデア出しの時に書かれたスケッチ

新田- 「HearZ」のアイデアになったのは提出のぎりぎり前でした。それまでは別の案で進めていたんです。

優勝したアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「HearZ」 (PDF: 約 1.4MB)

奥野- やっぱりおもしろさも大事ですが、おもしろさを斬新だとすると、斬新さを追い求めれば求めるほど実用性やターゲット層が考慮できないまま進んでしまって、でも提出直前になってターゲットは絞った方がいいよね、と結果的に「HearZ」に変えていきました。もともとのアイデアのおもしろさは活かしながら、今回のターゲットである恋人に絞ったらどんな形に変わるかと極めていきました。

── 本選の受賞コメントで、去年はおもしろいところを意識しすぎて、というようなことをおっしゃっていましたね。

奥野- テーマに対して私は大喜利的にアイデアを出して、大喜利的な意外性も大事にしつつアイデアを出したところはあるのですが、去年の本選で審査員に、そもそも話しかけづらい上司は良い上司じゃないのでは、と言われて確かにそうだなと。だから今回もアイデアの話し合いで大事にしたのは使う人がどのように考えるのかというユーザー中心主義で考えるということでした。去年より、使う人がどう感じるかを考えて最終的にこの案になりました。

── 提出ぎりぎり前のタイミングでアイデアの変更を決断するのは大変そうな気がしますが、意見が割れたりはしませんでしたか?

横田- それまでのアイデアについては、それぞれ思うところはあったとは思います。このままでは微妙というような。

新田- 完ぺきではなかったです。優勝を狙うつもりでアイデアを出していたので、これで優勝を狙えるのかなと思っていて、「HearZ」の案になった時はみんな納得できていました。

── 切り替えようというきっかけがあったのか、それとも何となくだったのでしょうか。

奥野- 同じコースの1学年下のSoliチームがコンテストに向けて結構いい案を持っていて、もしかしたら負けるかも、というのもありました。

横田- Soliチームは早くにアイデアが決まっていたのに対して、自分たちが少し微妙なまま進んでいたというのはあった気がします。

ゲスト審査員賞を受賞したSoliチームのアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「おとねだり」 (PDF: 約 0.4MB)

奥野- ちなみに、最初のアイデアはそもそもコミュニケーションツールではなく、寝る前に話した言葉を録音して文字起こしをして日記を作る「枕草子」というものでした。でも、今の若者をターゲットにしたときにどれくらいの人が日記をつけているのか、あまりつけていないのではないかと考えて、コンセプト自体はおもしろかったのですが考え直しました。そして、寝る前の言葉を相手に伝えてコミュニケーションする別のアイデアがわっと出てきました。

── 寝る前のメッセージというのは共通していますが、それ以外のところで枕草子とHearZは結構違うような気がしますが。

新田- 枕草子も自分の一日の日記を枕にしゃべって、それを友達や恋人と交換日記にする遠隔コミュニケーションというキーワードはあったんです。でも日記をつけるターゲットが少ないことにずっと引っかかっていたので、遠隔コミュニケーションの方をメインにしました。

奥野- 遠距離恋愛の恋人をターゲットにしたのは実は当事者というか経験者がここに2人いたので。

── 本選でも遠距離恋愛している人はいるのか、ニーズはあるのか、と質問が出ていましたね。

DC.DC.チームのプレゼン
本選でのDC.DC.チーム「HearZ」のプレゼン

新田- 質問されるとは思っていました。

奥野- 多分、異様な光景と言うか、男3人で遠距離恋愛というふわふわした甘いアイデアを提案して結構おもしろい絵だったとは思います。

新田- 去年のコンテストで自分たちは経験したことのないオフィスでの提案をして、実際にオフィスで働いている審査員から指摘が出たのですが、他のチームは学生目線でアイデアを持ってきていたので、学生目線がよいのではないかと考えて自分たちの目線で作ってみました。

横田- 切り替えてからは、自分たちの中ですごくいい感じで進んでいったと思います。

奥野- すんなり腑に落ちた感じです。ターゲットがしっかりしていて、おもしろさも実用性もニーズもあって、自分たちが納得できた。

距離も時間も離れている遠距離恋愛の課題を解消するアイデア

── 「HearZ」のアイデアについて、遠距離恋愛で存在感を共有するコミュニケーションが欲しいけれどプライバシーも保ちたいという相反するような2つの課題が出されていましたが、そのような相反する課題に対してアイデアを出していくのは難しいと思ったのですがどうでしたか。

横田- 大学で研究している中で、今あるものの問題点を見つけてそれをどう良くするかに着目して考えてアイデアを出す、ということをたくさんやってきました。その経験によって、現状の課題を良くする要素を詰め込んでできたものだと思います。

奥野- デザイン思考の考え方で言うと、まずターゲットの今の問題点をリサーチしてインサイトという気付きを得ました。今回得たインサイトは”遠距離恋愛だけどずっとつながっていたい、けれどもLINEなど返信をしないといけないのは少しうっとおしい”で、この2つの特徴の中間地点のような、良いところを伸ばしつつ悪いところをカバーするようなアイデアが「HearZ」だと思っています。

── プライバシーの確保については先行研究があったのでしたか?

新田- はい。先行研究でも、長時間にわたって生活を共有するコミュニケーションはトレンドになっているが、プライバシーを気にするデメリットも同時にあると言われていて同じだなと。

奥野- アイデアの構造は入れ子なんです。まず先行研究で相手の存在を感じたいけれどプライバシーも守りたいという課題が満たされました。今回、自分たちが更にアップデートしたのが、時間のすれ違いという課題です。寝る前なら絶対に相手のメッセージを聞けるよね、と。遠距離恋愛は距離としても離れているけど時間的な距離も離れている。それらを解消しようとするのが今回のアイデアです。

HearZの提案
HearZの提案(DC.DC.チームのプレゼン資料より引用)

── 光と声のメッセージを送ることにした理由は?審査員からは声だと起きてしまうかもというコメントもありました。

横田- 光だけでも声だけでも片方だけだと存在感を感じづらいとも思っていて。

奥野- なぜチャットではなく声かと言うと、メッセージを送る側も受け取る側も安心して寝られるようにしたかったからです。メッセージを送る側も安心して眠れるように、寝る前にデバイスの光を見せたくなかった。言葉だけなら画面を見なくても送れるので、寝る前に精神的なコストがかからないと考えました。

新田- 光と声になったのは、奥野君が言った通り、離れた場所にいてもお互い安心して眠りにつきたいという「安心」がキーワードです。もっと情緒的な表現にすることを狙って、言葉と柔らかい光を届けるという表現の仕方を考えました。

── 穏やかな感じがイメージされますね。

奥野- 感性を工学しているので。

横田- 新田君が去年のコンテストのアイデアで研究しているように、私も今回のアイデアに関して安心感を数値化したいと思っていて、それを研究しようかと計画中です。

造形・メディアデザインコースで教わったことが自然に活きた

── 「HearZ」のアイデアは声のメッセージと光を送るシンプルなアイデアでした。ついいろいろな機能を盛り込みたくなったり、ターゲットを広げたくなったりするところをぐっと絞っていると思いましたが、どのように意識すればそういうことができたのでしょう。

横田- 詰め込み過ぎは良くない、と常に造形・メディアデザインコースでは言われているので。シンプルかつ感情的に良いと思わせるものがプロダクトとして良いと教わってきました。

新田- 要素を詰め込み過ぎても説明しきれない。

横田- そういうことを考えると、機能を盛り込み過ぎたり、ターゲットを広げすぎると良くないというのが3人の共通認識だと思います。

奥野- 多分、ちゃんとリサーチしていくと自然とターゲットは絞られていくと思っています。

── 北村先生にはどのような助言をいただいたのでしょうか。

横田- 北村先生はアイデアのおもしろいところやそうではないところなどのポイントをすごく分かりやすく見つけてくださる先生なので、去年も今年も自分たちが出したアイデアについてそういう点を見ていただきました。

新田- どちらかと言うと北村先生は枕草子推しだったのですが、私たちが締切直前に「HearZ」の方に振り切ったので、そこからは相談する時間はありませんでした。先行研究は北村先生に教えていただいて、知識の部分でも助けていただきました。

スケジュールが厳しい中、分担してプロトタイプと資料を作り上げた

── プロトタイプの話も聞きたいのですが、これはいつ頃作られたのでしょう。

新田- 書類審査の通過が決まってからです。案が固まったものの見栄えがちょっと弱く、コンテストは見栄えも必要だし物があった方が良いのでは、と作りました。資料には3Dモデルをレンダリングしてきれいに見せたものを載せたのですが、その時点でまだ物はできていませんでした。

横田- 物ができたのは本選資料提出の1~2週間前だった記憶があります。まずプロトタイプを作ろうという話になりましたが制作に必要な回路の知識が自分たちになく、奥野君だけ過去のプロジェクトで電子工作の経験があったので、話を聞きながら、高専の知識も活かして買い出しに行って作っていきました。

3Dモデルと3Dプリンタの出力は新田君、私はプログラミング、資料は私と奥野君で分担しました。

── 3Dモデルは時間的にどれくらいかかりましたか?

新田- モデル自体はあまり時間はかかっていないです。ガジェットが好きなのでPinterestなどで良さそうな照明やマイクを探していたら、途中で糸電話の画像を見つけて、今回のコンセプトと合っているしアナログな糸電話をデジタルな機器に盛り込むのはおもしろいなと思ってその日のうちに作りました。

HearZの3Dモデルの一部
HearZの3Dモデルの一部(写真提供:DC.DC.チーム)

新田- 出力は3Dプリンタでパーツ毎にそれぞれ印刷しました。

3Dプリンタで制作したHearZ本体
3Dプリンタで制作したHearZ本体(写真提供:DC.DC.チーム)

── 3Dモデルを作る技術はもともと持っていらっしゃったのですか?

新田- 大学に入ってからCADの授業を取りました。もともとCADがおもしろそうだと編入してきたので絶対授業を取ろうと思っていて、1年間授業を受けて、3Dモデリングを学びました。3Dプリンタの出力については北村研究室に3Dプリンタがあるので、自分の興味でいろいろ作る中で知識を得ました。

新田さんのデスクにある3Dプリンタの制作物
北村研究室の新田さんのデスク横に飾られた3Dプリンタで制作したロゴ

奥野- 言わなくていいの?このために・・・。

新田- このためにという訳ではないのですが、本選資料提出の数週間前にちょうど3Dプリンタが安くなっていたので自分用に3Dプリンタを買って、そのプリンタで作りました。

奥野- 勝つことしか考えていない。

新田- もともとずっと欲しくて迷っていて、ちょうどタイミングが合ったのでここで買うしかないと。

── プログラミングは横田さんが担当されたのですね。

横田- ずっとプログラミングをしていた気がします。ラズパイ(Raspberry Pi)でプログラムを書くのは初めてだったので試行錯誤しながら。

新田- スピーカーにつなぐアンプモジュールと配線をはんだ付けする作業などは横田君と2人でやりました。

アンプモジュールと配線のはんだ付け
アンプモジュールと配線のはんだ付け(写真提供:DC.DC.チーム)

── 資料は奥野さんと横田さんのお2人でどのように進められましたか?

横田- 一旦、骨組みとなるページ構成を作ってからデザインや動きを検討して、アニメーションは奥野君が作りました。物ができたのが資料提出の1~2週間前だったので、そこからぎりぎり写真や動画を撮って資料にして提出した記憶があります。

本選当日と受賞後のこと

── 本選はいかがでしたか?

新田- 一番気になっていたのは、どの大学が来ているかでした。

横田- 本選会場で他のチームに大学名を聞くと去年の優勝校がいたので、がんばらないと、と思いました。

新田- 表彰の時もドキドキしていました。印象に残っているのが最優秀賞と発表されたときです。発表された後、机の下で3人でグータッチしたんですよ。やったぞ!とうれしさを噛みしめて静かにグータッチして、その瞬間が一番印象に残っています。

── そうだったんですね。私は会場にいましたが気付きませんでした。最優秀賞と分かって、周りの方の反響はどうでしたか?

横田- 先生、同級生、先輩、後輩、みんな喜んでくれました。受賞して帰ってきて、いろんな人におめでとうと言われてうれしかったです。

新田- いつの間にか先輩が知っていて、すれ違った時におめでとうと言われました。なんで知っているのかびっくりしましたがSoliチームが言ってくれたりしたのかな。北村先生もとても喜んでくださいました。2回連続の入賞は君たちの能力だよと言っていただけました。

受賞後
受賞後、一人ずつ受賞コメントを述べた。

デコデコあるいはデコボコ。このメンバーで組めて本当に良かった。

── コンテストを振り返って、全体の印象としていかがでしたか。

奥野- 去年のコンテストの経験があったので、今回どのように進めたら良いか、どういうことを考えながら進めると良いかが頭にあってスムーズにできました。去年があったお陰かなと思っています。このコンテスト自体、ソフトウェアコンテストでありながらアイデアの側面もあって、私はアイデア出しが好きなのですごく楽しかったです。

今回の「寝かせて使う」は難しかった。去年の「しきる」はいろいろ考えられたのですが「寝かせて使う」は動詞が2つあるので。今後もアイデアの発想の余地のあるテーマにしていただけるとありがたいです。

新田- 総じて楽しかったです。アイデア出しもおもしろいし、その先の過程も。アイデア出しで言うと、奥野君がとてもユニークなアイデアをバンバン出すんです。100%ネタに振り切ったアイデアやSFっぽいアイデアがあって、それについて話すだけでもおもしろかったです。

アイデア出しから更に会議を重ねてターゲットを絞ってアイデアを固めて、コンセプトに沿って自分で形を考えてモデリングして、3Dプリンタで出力して、更に中のプログラムまで作るという体験は初めてでした。これまでそれぞれを単体で経験したことはあるのですが、一連の流れを体験できたのがすごく楽しかったです。

横田- 私としてはまずこの3人でチームを組めて良かったというのがあります。私はこれまでプログラミングをしてソフトウェアを作るのがメインでしたが、自分一人ではこのようなハードウェアは作れないですし、それこそアイデアの発想も一人ではそこまでできないので、このメンバーで組めて本当に良かったです。

新田- デコデコだからね。

── チーム名のDC.DC.(デコデコ)ってどういう意味なのですか?

横田- 凸凹(デコボコ)は凸(デコ)と凹(ボコ)が組み合わさってはまるようなものだと思うのですが、自分たちはそれぞれバックグラウンドが違って、できることが違うメンバーが集まっている。だからこそ「デコデコ」という名前にしたんです。

新田- みんな違う方向にとがっている、というような意味です。

横田- でもこうやってHearZを見るとちゃんと全員のものがぴったりはまってできている・・・。

新田- デコボコか。

奥野- 確かに。

── なんだかこちらが感動してしまいました。今後「HearZ」をどうしたいというのはありますか?研究という話もありましたが、世に出したいなどは?

奥野- あー、出したいです。

新田- まずはもう1台作らないといけないですね。

── 資料には実験したいとも書かれていましたが。

横田- 遠距離恋愛をしている人に実際に使ってもらいたい気持ちはあるので、これだけで終わらせるのはもったいないと思っています。更に発展できるようにしていきたいです。

新田- 去年のコンテストのテーマを卒論で扱っているように、コンテストである程度固めた案は研究に連携しやすいところがあるので、これもこのまま研究としての課題を設定すれば学術的にも発展させることが可能だと思っています。

奥野- 製品として出すとしても研究しないといけないですね。

横田- 研究と製品という両方は学生の間しか多分できないと思うので、今の大学生という身分を最大限活用して両方行えたらいいと思います。

会議を重ねた研究室で当時を思い出しながら
会議を重ねた研究室で当時を思い出しながら。

将来の夢

── 最後に、お一人ずつ将来の夢を教えていただけますか。

奥野- 私はアーティストになりたいです。そのために来年からは芸術系の大学院に行きます。音楽鑑賞の体験を扱うアートを作りたいと思っています。

新田- 将来の夢はないです!ないと言っても目標がないという訳ではなく、目の前のおもしろいことに取り組んでいきたいというのはあります。与えられたり巡り合ったおもしろい機会はがんばっていきたいと。将来の夢は決まっていないですが、今回のようなおもしろいことをずっと続けていきたいと思います。

あとは北村研がUXをやっているのでUXデザインをしたいです。UXデザインと言うと幅が広いと最近思っているのですが、UXデザインの中でも今回作ったようなIoTプロダクトとユーザーの間のUXといった軸を中心に取り組んでいきたいという思いはあります。

横田- 初めはおもしろい事と言おうとしたのですがかぶってしまうので・・・。この造形・メディアデザインコースは、デザインやプログラム、企業に対してどう行動するかなどいろいろなことを学べる場なんです。私はもともと高専で情報系を勉強していて、でも結局デザインが良くないと人は使ってくれないと思い情報系から離れてデザインを学びにここに来たのですが、今やっていることはほとんどプログラミングだったり、デザイナーとエンジニアの間をうろうろしているような状態です。

将来的に何になりたいかと言うとどちらにもなりたくて、デザイナーとエンジニアの両方の良さを持った人になりたいと思っています。おもしろい事に手を出して、デザインもエンジニアもどちらもできる人になりたい。そう考えるきっかけにもなったのが今回のコンテストだと思っています。

── ありがとうございます。デコデコだけに3人それぞれの道に個性を感じました。これからの皆さんのご活躍を心から応援しています。

創造工学部 北村 尊義先生訪問編

インタビュー後、DC.DC.チームにご助言をされた北村先生に大学やコンテストに関してお話を伺いました。

香川大学 創造工学部 造形・メディアデザインコースについて

北村准教授
香川大学 創造工学部 北村 尊義准教授

── 早速ですが、香川大学 創造工学部 造形・メディアデザインコースについて教えていただけますか。

北村- こちらのコースでは、プロダクトやメディアデザインなどを学べるのですが、単にデザインができるだけではなく、さまざまなプロジェクトを主導・先導できる高度人材を養成しています。そのため、デザイン思考を中心にヒト・モノ・コトの見方や考え方、作り方を1年生から学べるようになっています。

教員にはメディアデザイン、エンジニアリングデザイン、プロダクトデザイン、ソリューションデザインの各専門家が集まっており、家電製品や家具などをデザインしてきた方もいれば、素材や宇宙工学、感性工学、経営工学などの専門家もいます。一見、バラバラのように映りますが、ベースとしてデザイン思考があり、私たちの暮らしを良くする研究に取り組んでいます。

── デザイン思考をベースに勉強されるのですね。

北村- そうですね。デザイン思考はユーザーの視点に立ち、サービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを発見するところから始まります。このユーザーの視点に立ってアイデアをより多く導出するには、一人よりは複数人でのほうが圧倒的に有効です。そのため、本コースではグループワークに力を入れてます。

そのため学生はグループワークに慣れており、どちらかというと得意な人が多いです。コミュニケーション能力も高いです。コミュニケーションが苦手だと言ってる人も、いったん話し合いの席に座ると、司会や議事録係などの役割を決める作業や、ブレインストーミングに参加します。スケッチブックやホワイトボードに絵を描いてイメージの共有を即座にはかり、それを見ながらディスカッションする能力にも長けています。

── グループワークなどに興味がある学生さんが来られるからできていることなのでしょうか。

北村- 最初からグループワークを想定して入ってきた学生は少ないです。しかし、彼らが欲しいスキルの習得や構想の実現のためには、グループワークをうまく遂行したり、アクティブなチームを形成したりするのが有効なんだと実感できる授業を設計している科目が多くあります。そのため、自分の夢の実現のために授業に参加した結果、グループワークが得意になった人の方が多いと思います。

── 入学後はコースの中で興味のある領域に進むことになるのですか?

北村- それぞれ興味のある領域に進んでいくのですが、プロダクトデザイン領域に行かなければプロダクトデザインの知識や技術が身につかないというわけではなく、困ったことがあれば気軽に教えを請いにいったり、相談したりできるフラットなコースになっています。

── 先ほど新田さんがCADの授業を1年間受けたとおっしゃっていました。

北村- 新田さんは私の研究室でヒューマンインタフェース系の研究に取り組んでいます。しかし、研究室ではCADを教えていません。ヒューマンインタフェース系の学会の先生方からも、実際の製品のような画像を作れる新田さんのスキルやそれを習得できる環境はうらやましいと言われることがあります。それは、新田さんがスキルの習得のために幅広く手を出してきたというのもありますが、このコースの特性がよく出た結果かなと思います。

── このようないろいろな分野を学べるようなコースを展開されている大学はまだ少ないのでしょうか。

北村- 学際的な学部やコースは他の大学にもありますが、デザイン思考を中心にすえて、さまざまな専門家を揃えているところは少ないと思います。また、プロダクトデザイナーとして現役で活躍中の先生もいれば、私のようにアカデミアで研究してきた人間らが融合していますので、人脈やスキルがとても豊富な場でもあります。

── 卒業後は皆さんどのような進路を選ばれるのでしょう。創造工学部が2018年創設ということなので、まだそれほど実績はないでしょうか。

北村- 卒業生が2期分、大学院も最近できたばかりでようやく大学院1期生が修了します。内定先は本当にさまざまで、エンジニアリング系やデザイン系でほとんどが相性のよいところとの縁を得ています。卒業と同時に起業した学生もいます。

── チームの皆さんのお話や今の先生のお話を伺っていると、学べることが多く、とても魅力的な大学に思います。

北村- 専門学校のように特定のスキルを身につけるのもよいですが、ここは大学なので会社の役員クラスに求められる力も習得してもらい、高度な人材として活躍してもらえるよう教育指導しています。その成果として卒業生から入社後の新人研修のグループワークで活躍したと嬉しそうに報告してくれたケースもあり、良いスタートを切れているようです。

── 特定の専門知識ももちろん必要ですが、他の分野も知っていると力になりますね。

北村- 世の中で求められることのアップデートはとても早いです。大学で身につけた技術を、この先、何十年も使い続けることは難しいです。そのため、必要な技術や知識をその場で学習して、すぐに活かせるような能力が必要だと考えています。

こちらのコースでは、個性的な学生が集っているので、多彩な同期や先輩・後輩のいる学びの場が実現しています。そのため、自然とアウトソーシング力が身についているようで、「何々については得意な誰々に聞いてみよう、頼んでみよう」という文化ができあがっています。1学年は50名弱ですが、先輩後輩の結びつきも強固で、みんなとても仲良しですね。

オープンフィールドでの評価を目指す青空UX研究室

── 北村先生の研究室についてお聞きしたいのですが、「青空UX」と掲げられているのですね。どのような内容なのか興味があります。

北村- 「青空UX」は研究室を立ち上げたときに掲げたものです。これまで何でもオープンな場でシステムの提案や評価をしてきました。研究はオープンにすることで得られることのほうが多いですし、楽しいと思っています。青空UXの「青空」はオープンフィールドを指し、「青空UX」はオープンフィールドでの評価や評価方法をやっていこうという意味を込めています。

また、「理屈で間違っていても良い。それはきっと間違っている。それでもちょっと試してみよう。考えてみよう」という研究を推奨しています。欧米の CHI 系の国際会議には Provocation (挑発)という発表ジャンルがあるのですが、既成概念や既存の知識にとらわれないチャレンジしたい気持ちも「青空UX」に込めています。

[編集注]CHI:ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)の分野で最も重要な国際会議の1つ

── オープンフィールドで評価するというのは、学生の方も身に付けられているのでしょうか。

北村- 私のところには他の研究室やコースの学生も来ます。「研究室が違ってもプロジェクトは関係なしに進めてよいし協力するよ」といってますので、楽しく一緒に研究しています。

── 外に出て行こうというのは、コンテストや学会に出すことで得られるフィードバックを次に活かすことを期待されているのでしょうか。

北村- 自分たちのやっていることが世間的にも受け入れられ、おもしろいと言ってもらえるものだとわかると、学生にとって大きな自信になります。また、他の大学の先生や学生と交流することで今の自分の実力を知ったり、自分の知らない人生のルートがあるのだという発見があったり、得ることが多いと思います。スポーツでも対外試合が大切ですよね。とにかく外に出るのは大切ですね。

── そうですね。社会人にとっても外に出ることによる発見は多いです。

コロナ禍におけるオンラインの経験と対面での経験

北村- 外に出るということについては、彼らはコロナに苦しめられた世代でもあります。奥野さんは入学した頃からずっとオンライン授業だったのでコミュニケーションにすごく飢えている世代で、そういう意味でも特徴的だと思います。

── 飢えているからこそコミュニケーションしたい、というのもあるのでしょうか。

北村- どっちなんだろうとアンケートデータを集めてみたりしていますが、なかなか面白いですね。この世代は本当に特徴的なところが多いです。一因として、 Zoom や Teams 上でのコミュニケーションでは、参加者の顔が映る画面が等間隔に分割されていますよね。あのような状況でグループワークを実施してきたのですが、そのスタートが良かったのではないかと思うこともあります。

── まさにオンラインでのフラットなコミュニケーションについて、去年、コンテストを題材にヒューマンインタフェース学会誌に共著で書かせていただいたのですが、そこではオンラインだからこその良さもあると述べました。

[編集注]北村先生はヒューマンインタフェース学会誌の編集委員をされています。

北村- やっぱり対面だ、という世の中の流れもあって、確かに対面で学会に行くと交流があってわいわいできますが、だからと言ってオンラインをなくして欲しくはなく、両方良いところがあるので、できるだけハイブリッドでやって欲しいです。

── それぞれ良いところはありますね。実際、今回は大学を訪問させていただきましたが、対面だからこそ感じられることもあるように思います。

北村- オンラインだとこの部屋の壁にこんな絵があるんですよ、と紹介はしにくいですね。

研究交流棟の会議室の壁にはたくさんの人が描かれている。創設時にみんなで描いたそう。
研究交流棟の会議室の壁にはたくさんの人が描かれている。創設時にみんなで描いたそう。

北村- もしかして彼らはちょうど良い思いをしているのかもしれません。オンラインでコミュニケーションをしっかりする経験もできて、ひざを突き合わせた対面でのプロジェクトも進められて。

DC.DC.チームのコンテストでの取り組み

―― コンテストに関してはどのように見ていらっしゃいましたか。

北村- 昨年度はディスカッションに乗ったり、このアイデアはどうかと聞かれたりしていましたが、今年度に関してはそれほど指導した感覚はありません。

昨年度、社会人を例に説明した内容に対して指摘があったと聞いていますが、もともとあのアイデアは自分たちの問題から発生していたはずなんです。造形系のコースなので、制作に集中している人に声をかけにくいという。それがプレゼンの時にあえて社会人を例に出した。今年度もそのような流れになりそうだったときに自分たちの話をした方がいいと話をしたり、遠隔地コミュニケーションの研究を知っていたので情報提供したりはしました。

彼らのすごいところはとても自主的なところです。自主的に計画して自分たちで集まって、横田さんは人を誘ったり引っ張ってくる力があって私に空いている時間を聞いてきたり、彼らみんなで自主的に進めていました。

―― 先ほどチームの皆さんからSoliチームの存在も大きかったというような話を聞きました。自分たちのアイデアを切り替えたのは彼らの「おとねだり」が良いアイデアだったという理由もあった、というような。

北村- 危機意識を持っていたというのは初めて聞きました。両方おもしろいアイデアで、2つとも行けるところまで行くのではないかと思っていました。

―― 資料自体からもちゃんと考えているというのが伝わってきました。香川大学さんは2018年度にもゲスト審査員賞を受賞されていて、その時のアイデアも人への優しさを感じたのですが、去年も今回も作品から優しさを私は感じました。

北村- 優しい子たちが多い気がします。まじめで、大切に育てられてきたと感じられるような。デザインのコースということもあって、絵を描いたり物を作ったりするのが好きな子たちがいますが、彼らは自分の作品を作るのに一生懸命で、気が付いたら何十分も経っていた、というようなピュアなところがあるのかもしれません。そんな彼らの事を私は大好きですね。

―― 知れば知るほど魅力的な大学です。今後もさまざまな分野で活躍される方が輩出されることを楽しみにしています。本日はお忙しいところありがとうございました。

※ 本文中に記載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

北村先生、コンテストでゲスト審査員賞を受賞した「Soli」チームの高橋 怜生さん、吉森 日菜さんと一緒に。
北村先生、コンテストでゲスト審査員賞を受賞した「Soli」チームの高橋 怜生さん、吉森 日菜さんと一緒に。


こちらの研究室ではUXのためのデザインを提案し、そのプロトタイプをオープンフィールドで試し、要求仕様を明らかにします。また、オープンフィールドで試す方法そのものも研究しています。