LIXIL様:行動観察を取り入れたリスクアセスメントで安全意識の体質化を目指す

LIXIL様では、多数の製品を展開される中、それらを製造する工場の安全性向上にも注力しておられます。弊社オージス総研は2020年からLIXIL様と共により実践的なリスクアセスメントにしていくために、行動観察を用いて、継続的にご支援させていただいています。
安全性向上に向けた活動に行動観察を取り入れた背景や、プロセス、成果について、この取り組みに関わられた真狩様、奥田様にインタビューでお話しいただきました。

真狩 貴行 様
LIXIL Water Technology Japan 浴室事業部 浴室製造部 製造戦略推進グループ グループリーダー。入社当初はトイレの生産工場に配属。その後、工場の改革や海外拠点の立ち上げを経験し、2013年、浴室部門に着任。以降、4工場のサプライチェーンの改善、生産企画など全体最適に携わる。2020年から安全に関する業務に従事する。


奥田 幸司 様
LIXIL Water Technology Japan 浴室事業部 浴室製造部 上野緑工場 安全担当。INAX出身、浴室工場勤務36年目。製造技術、FRP事業(ポリエステル樹脂)で開発業務を主に携わる。2019年から安全担当として安全に関する業務に従事する。



1.事業内容と本活動の背景

インタビュアー: 御社の事業内容について教えていただけますか?

真狩様: 主な事業は2つで、ウォーターテクノロジー事業と、ハウジングテクノロジー事業になります。ウォーターテクノロジー事業はトイレやお風呂といった水回り製品の製造・販売を、ハウジングテクノロジー事業は窓や玄関ドアといった住宅建材の製造・販売をしています。弊社の強みは、100年に及ぶ「水回りの技術力」「生産力」「販売チャネル」となります。

インタビュアー: お二人が担当されているミッションはどういったものでしょうか?

真狩様: 私のミッションは、国内の浴室製造4拠点を全体最適にすることです。安定供給が一番のミッションだと思っています。併せて、労働災害を起こさないという安全と、品質・コンプライアンスが大切で、各所と連携しながら遂行できればと思っています。

奥田様: 私のミッションは、浴室製造4拠点のうち三重県にあり主に西日本地域に製品を供給している上野緑工場の安全を担当しています。安全管理者の役割として工場全体の労働災害をなくすことに努めています。真狩さんとも密に情報交換しており、浴室に関係する災害事象があると、4拠点と製造部が連携し、再発防止を検討しています。

インタビュアー: ミッションを遂行していく上での問題意識を教えていただけますか?

真狩様: 4工場それぞれに特色があるため、横並びに見ると、作業標準や治具・工具などの違いがあります。各工場の良い施策を展開できるように、俯瞰しています。標準化にあたっては、これまで各工場での独自施策が多いほど、変化に抗う部分があるので、その点も考慮しながらの調整が難しいと感じています。

奥田様: 私はこれまで、ユニットバスルーム製造に携わってきました。浴室の製造には、多くの人がさまざまな工程で関わります。多くの人が関わることで災害が発生するリスクは高まります。
作業を標準化することはリスクの低減に繋がりますが、作業標準と言っても、人によって右手で持つ・左手で持つなど、実際には細かな点で違いがあります。自分たちはそこまでをリスクと捉えることができていなかったところが以前の問題でした。

2.主な活動

インタビュアー: 御社とオージス総研との安全性向上に向けた取り組みは4件あります。
2020年: 課長・係長を対象にした「行動観察の概要理解」
2021年: 班長を中心に行動観察の理解者を増やすことを目的にした「行動観察の概要を現場メンバーに広める活動」
2021年から2022年: 班長を中心に行動観察の活用を目的にした「行動観察をリスクアセスメントに適用する方法の検討~実践~改善をする活動」
2023年: 「行動観察を適用したリスクアセスメントの実践を請負業者へ拡大する活動」
まずは、一連のプロジェクト全体の経緯について教えていただけますか?

真狩様: このプロジェクトのきっかけはオージス総研の営業の方からのご提案です。2017年頃、私を含めた浴室事業の「若手育成のための新製品アイデア検討プロジェクト」に携わっており、オージス総研さんも伴走して支援してもらいました。その時に行動観察を知り、現場で起きている事実の大切さを学びました。
2020年から始まる一連の「安全性向上に向けた取り組み」のプロジェクトのきっかけは、2018年度に労働災害が例年より多く発生し、製造の部門長も含め危機感を持ったことです。その際に、現場の事実を大切にする行動観察を思い出し、これを用いた企画を検討しました。
企画を検討するにあたって、改めて労働災害の種類を分類すると人が関わる作業で起きており、特に通常作業と異なる非定常作業で起きていることがわかりました。手順書や作業標準の整備では防ぎきれず、一人一人のリスクに対する感性・感度を高めることが課題だと感じました。見慣れた風景から異常を見つけられる人をいかに増やすかが大切で、それが「強い工場」を作ることにも繋がります。このような見る目を養うためには、行動観察を学ぶことが適していると感じました。

奥田様: リスクアセスメントをしっかり行い、健全に正しく実施しようという流れが2020年頃から社内で始まりました。その時は生産設備だけに着目していましたが、本部からは、設備を取り巻くすべてを網羅するリスクアセスメントを求められていたという背景もあります。

インタビュアー: 2020年実施のプロジェクトは、「行動観察の概要理解」です。オージス総研から課長クラスの皆様に向けて、行動観察の研修と実環境での練習を実施しました。最初に課長クラスの皆様を対象にした理由を教えていただけますか?

真狩様: より現場に近い人に広めるためにも、課長・係長の理解は必要なので、まずはその役職の人に行動観察を理解してもらうことからスタートしました。

奥田様: 2021年実施の現場メンバーに広める活動は、課長以下、係長、工場の安全担当を対象にしました。私が担当している工場では、請負業者様がLIXIL社員と同程度の人数なので、請負業者様にも浸透させたい気持ちがありましたが、最初は刺さりこみが難しかったです。

インタビュアー: 2023年度は請負業者様を対象に実施しています。

真狩様: そうですね。これまで、外部の方が請負業者様に直接指導する取り組みはありませんでした。社員が指導を受け、伝達するという形を取っていましたが不十分でした。

奥田様: 2023年度はオージス総研さんに直接レクチャーしていただき、効果がありそうだと感じています。標準化された手順書、リスクアセスメントでリスクレベルを下げる取り組みを実施しており、今後の成果に期待しています。

インタビュアー: オージス総研を選んでいただいた理由、オージス総研の良さを教えていただけますか?

真狩様: オージス総研さんの良さは、実践に近く、手法レベルで教えていただけるのが他のコンサルティング会社とは違うところです。当初は、座学を中心に行動観察を知ることが目的でしたが、継続性を考え、普段の業務に近いリスクアセスメントの実践を重点的にすることにしました。
今思うと、以前は自分たちが安全を考える時に、「何が危険なのか」の捉え方がやや大まかだったと思います。それを細かく見ることで、今まで見てきた大まかなことも含めて捉えられるので、行動観察を上手く使うことで効果的・効率的に進められると考えました。より工場に浸透しやすいように、左手をどうする、右手をどうするなど具体的な行動に落とし込みました。
行動観察の本筋は現場にとことん足を運び、多くを見て、会話し、真因を掴むことだと思います。観点を増やすことでさまざまな気づきが得られるようになりました。また、安全だけでなく品質にも行動観察を取り込みたいという声もありました。行動観察は品質や生産性についても同様に活用することで効果が出ると感じています。

インタビュアー: 逆にプロジェクトを進めていく上で苦労したことは何でしょうか?

真狩様: 3年の長期にわたるプロジェクトなので、一貫して継続的に進めるのが難しかったです。新型コロナの影響があったり、学んだメンバーの異動があったりなど苦労しました。今年度、請負業者様に学んでもらうことで定着できると考えています。
オージス総研のコンサルタントさんは、思ったことをシンプルに伝えていただいています。変にオブラートに包まず、かといって、厳しすぎるわけではない。言うべきことを言っていただいてると認識しています。

奥田様: 私も的確に教えていただいてありがたいと感じています。もっとビシバシとメンバーに言ってもらってもいいくらいです(笑)。

3.プロジェクトの成果

インタビュアー: プロジェクトの成果について教えていただけますか?

真狩様: 2022年に上野緑工場のメンバーがチェックシートを制作し、行動観察を用いたリスクアセスメントを実施しました。

奥田様: もともと本部でやっていた設備に着目していたチェックシートを、人の行動にも着目するように変更したことで幅が広がりました。このチェックシートがどんどん活用できるのではないかと思います。メンテナンスや段取り、定期作業、定常作業、非定常作業の中には、手順書があるもの・ないもの、リスクアセスメントが難しいものなどありますが、行動観察の観点を加えて置き換えられると思っています。
作業以外でも、災害に繋がる可能性がある行動に対して、今回作成したシートが使えると思います。

真狩様: リスクがある設備には接近しないよう徹底しても、それでも災害は起こります。人の感性を上げるのが次のステップとして大事だと考えます。

インタビュアー: 一連のプロジェクトを通じて、安全という観点で得られた成果は何でしょうか?

真狩様: 定量的には示しづらく、行動観察によるものかはわからないですが、一昨年は業務災害は0でした。昨年は2工場だけでした。災害の件数や内容を見ても、良くなっていると捉えています。社内での指標が改善された結果ではありますが、行動観察の物の見方も貢献していると思っています。

奥田様: オージス総研さんと別途2021年に実施した安全サーベイ(安全性診断サービス)の結果を受けて、浴室工場の強み・弱みがわかりました。行動観察をレクチャーしてもらったことで、メンバーが良い方向に変化することを期待しています。次回の安全サーベイの結果が良い方向に変わるのではと思っています。

インタビュアー: メンバーの行動や意識の変化などはいかがでしょうか?

奥田様: 昔からの手順書は、行動観察を知った今となってはもう少し詳細にしても良いかと感じています。細かい部分まで見ることをレクチャーしてもらいました。参加したメンバーはレクチャーしていただいた後、意識の変化がありました。定量的に言うのは難しいですが、見る力が強化され、リスクをより詳細に捉えられるようになったと感じています。
「行動観察」という言葉の意味はわかっても、本質はレクチャーを受け、実践しないとわからない、感性は磨かれないと感じます。プロジェクトに参加できたのは大きな収穫だと思います。安全担当として「正しい行動とは何か」「モノづくりとは何か」を考え続けています。

4.今後の展望

インタビュアー: 3年間ご一緒させていただいていますが、オージス総研の行動観察を一言で言うとどういったものと受け取られていますか?

奥田様: 人に関する見方が変わる!見る視点が変わる!

真狩様: 機械や物ではなく、人の作業に着目したリスクアセスメントができるようになるのが行動観察。

奥田様: 例えば、段差があると段差にばかり注目してしまいます。しかし、段差に対して人がどのようにアプローチしているかといった人に対する見る力が大事だとわかると、視点がガラッと変わります。「段差を埋める」ではなく、「そこに段差があると気づかせる」という対策が打て、安全の方策の幅が広がります。

インタビュアー: 最後に、今後の行動観察を含む取り組みの展開について教えていただけますか?

真狩様: 上野緑工場は、一連の行動観察のプロジェクトに積極的に取り組んでいます。これを工場内で広げ、さらには、他の工場に同じくらいの熱量を持ってもらえるまでに推進したいと思っています。長期的には、リスクアセスメントを行動観察で誰もが当たり前にできるようになっている姿が理想的です。

奥田様: 浴室4工場だけではなく、人の行動からの観察シートをLIXILの他の工場にも波及させたいと思っています。行動観察からのリスクアセスメントをKPIにして、KGIは災害ゼロとしたいと思います。品質目線でも、人の行動に頼る品質保証の工程などは、行動観察が活用できると考えています。安全のプロジェクトが完遂したら品質にも展開させたいと思います。

インタビュアー: 長時間のインタビュー、貴重なご意見ありがとうございました。

(インタビュー: 2023年6月28日実施、インタビュアー: 弊社ソリューション開発本部 渡會 健太)

2023年11月15日公開
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