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「デジタルビジネス時代のEA-EAC&BPM2015に参加して-」

2015.08.19 株式会社オージス総研  明神 知

1.はじめに

キャサリン妃が5月2日に第二子のシャーロット・エリザベス・ダイアナ王女を出産して、89歳のエリザベス女王を祝う6月13日の祝賀パレードでジョージ王子が初のバッキンガム宮殿のバルコニーデビューを果たし、何かと王室の話題があった6月15日から19日までロンドンを訪問しました。
この時期は錦織選手が期待されたウィンブルドンの前衛戦も始まり、アスコット競馬にあわせてBBCアナウンサーも帽子を被って登場するなどロンドンは夏の始まる一番良い時期です。昨年に続いてエンタープライズ・アーキテクチャのカンファレンスに参加しました。昨年は一人だったのですが今回は日本から8名も居て幅広く情報収集ができました。カンファレンスのスポンサーも3社から7社に増えており、出展企業も「デザイン思考」コンサルや老舗のSoftwareAG、SAP BI HANAのデータスキーマ可視化ツールなど新顔もあって活況でした。
このカンファレンス[1]はIRM UKという英国でIT関連の教育などを行っている会社が主催するイベントです。毎年ロンドンでこの時期に開催しています。
相変わらずお元気なJohn Zachman(図1)やEAコンサルのChris Potts、前大会長のSally Beanなど懐かしい顔も見られ1年ぶりの再会でした。
さらに、今年も英国ガスのエンタープライズ・アーキテクトのJaneさんと自由化後のエネルギー業界の話も含めてEAやIT部門の変遷などの興味深い話も聞けました。また情報サービス産業協会(JISA)の紹介で英国政府(GOV.UK)のデジタルサービス改革についてUK Trade& Investment(英国貿易投資総省)ICTスペシャリストのChris Moore博士のインタビューも行い、実り多い訪英となりました。
日本ではエンタープライズ・アーキテクチャについては、あまり注目されていないのが実情です。ところが欧米ではデジタルで従来のビジネスが破壊されて新たなデジタルビジネスの立ち上げを加速する手法としてEAを位置付けています。IRM UKだけでなくガートナーも米国で毎年サミットを開催しています。今年はテキサスで6月に「デジタルビジネスのエコシステムの「アーキテクチャ」としてMITスローン校のデジタル・ビジネスセンター長のブルニュイソン教授やFedExのCIOの基調講演や事例紹介など大規模なカンファレンスを行っています[2]。UKの特徴はBPMカンファレンス・ヨーロッパとの共催でビジネスアーキテクチャやBPMも入れたチェンジマネジメントの形式的手法の演習などが入っているところです。

2.EAC&BPM 2015

2.1概要

今年のカンファレンスは「Digital TransformationとEA」がテーマでした。
大会委員長のChris Pottsは「Designing the Post‐Digital Enterprise」と題した基調講演で、
  • Post‐Digital Enterpriseはバーチャルとリアルをダイナミックに(Phy-gital)融合する
  • 顧客経験指向のEA+BPMで変革ポートフォリオをデザインすべし
ということで、Post‐Digital Enterpriseのデザインが今ほど求められているときはないと強調しました。
また、共催のBPM Conference委員長のRoger Burltonは10年間カンファレンスを継続したことをザックマンから表彰されていましたが、彼のポストワークショップには世界各国からビジネス変革を担うビジネスアーキテクトが参加していました。

いつも元気なザックマン氏
図 1 いつも元気なザックマン氏

参加者はヨーロッパおよび北米を中心に35か国248名(UK91、北欧61、中東14、日本8)で昨年とほぼ変わりませんがフィリピンのアジア開発銀行からを含めた日本人9名は最近では最多の参加です。皆さん異常なポンド高(円安)に苦労しての参加と思われます。サウジアラビアやUAEなどアラブ諸国からの参加者も多く、パプアニューギニアやオーストラリアの人もいました。
(1)プレ・カンファレンスワークショップ
Day1、Day2に先駆けてEA及びBPMの基礎的な話題が中心の14個のワークショップが本講演前に開催されました。以下代表的なものを紹介します。
・Michael Rosen「Architecture for Digital Transformation」
変革はあらゆるモノを変える(飛行機がDCへ、歯科スキャナから売上マシンへ、ベッドがクラウド連携のバイオセンサーとフィットネスプラットフォームへ)。ケーパビリティが各アーキテクチャを繋ぐもんのとして注目、1939年Franklin Rooseveltがオフィスで描いた全米SuperHighWaysのように「アーキテクチャ・ビジョン」を掲げてインクリメンタルに開発していくべきである!
図 2は最近のEA全体像として、それぞれの役割(機能)とともに理解するのに参考になります。

Enterprise Architecture Framework
図 2 Enterprise Architecture Framework[3]

・Michael Rosen「Enterprise Security Architecture」
多くのCSO(Chief Security Officer)が受講していました。最近のサイバーアタック事例紹介やEnterprise Security Architecture として有名なSABSA(Sherwood Applied Business Security Architecture)とTOGAFとの連携などの紹介がありました。オープングループでネットワークセキュリティの境界消失問題を扱っている「Jericho Forum」の「De-perimiterization」(脱「境界化」)原則[4]とアセスメント[5]は今でも有効です。
・John Zachman「Enterprise Architecture: The Issue of the Century」
ザックマン・フレームワークは方法論ではなく、あくまでも検討を行う際のOntology(例:周期表)のようなものだと強調。Enterprise Architectureを考える際はフレームワークに則り検討を行うことが有用である。
・Sandy Kemsley, Kemsley Design「The Future of Work」
技術革新や顧客、従業員の価値観の変化に対して、どのような働き方に変えていく必要があるのか。Post Digitalの現代社会では、効率化や迅速さなどを追い求めるクラシックなシステムでは人々の欲求に応えられなくなっている。人々の欲求にこたえるためには、より人間的な(人の感情や関心に配慮した)システム(あるいはシステム作り)が必要との主張です。
・Lightning Talks given straight after each other - 5 minutes - 6 speakers/subjects
今回初めての試みで著名講師5名による5分間スピーチ。話が長いことで有名なZachmanもザックマン・フレームワークを5分のマシンガンスピーチで説明したのには会場は抱腹絶倒でした。
(2)本講演:
・Day1
EAC大会委員長のChris Potts(図3)「デジタルエンタープライズ後のデザイン」に始まり、Hands on EA,Innovations in EA,Business Architecture,The Process-Centric,Business,Process-Centric Designの5トラック並行でワークショップが25講演に加えて、ランチタイムにも2セッションがありました。

Chris Potts(右)とRoger Burlton(左)
図 3 Chris Potts(右)とRoger Burlton(左)

・Day2
Eddie ObengのPlenary Keynoteトーク「学びが追い付かない変化に対応するには」から始まり、ワークショップ25講演とランチタイムのパネルセッションという盛りだくさんの内容でした。最後にCloseトークが行われ本Conferenceが終了しました。
(3)ポスト・カンファレンスワークショップ
カンファレンス企画側に近い3名の有名講師が有償の研修内容を披露していました。通常2-3日の講習をコンパクトにまとめた有意義な内容でした。
・Roger Burlton「Getting Business Change to Stick」
世界各国からビジネス変革を担うビジネスアーキテクトが参加。
・John Zachman「Enterprise Architecture for Practicing Enterprise Architects」
・Chris Potts, Dominic Barrow「Mastering Enterprise Investment: Combining Enterprise Architecture with Investment Portfolio Management 」
戦略を実行に移すまでの過程の中でEAと共にInvestment Portfolio Managementを合わせて実行する必要があります。プロジェクトが100%成功する事はあり得ないので、リスク管理を行いながら目標を達成した方が良いからです。また、成功の可能性を上げるためには所属する企業の文化を把握した上で変えていくように働きかける必要性があります。

2.2 注目すべき講演内容

(1)Chris Potts「Designing the Post‐Digital Enterprise」
顧客経験指向のEA+BPMが重要で、自社が関与する外部プロセスをモデリングして、変化のポートフォリオは目的指向でアジャイルに軽い資本投下でスタートすべき。
Post Digitalの時代は、ITの目的は効率化や合理化だけではなく、低ストレス、楽しさや気持ちよさなど人間の心理・感情の改善に重点が移ります。従来型の費用対コスト削減効果という指標でIT投資判断をしていると、効果的なIT活用を妨げますが、その抵抗「Enterprise inertia」を打破し、Post digital社会に即したビジネス判断を行うためには、外部環境、ビジネス要求、その組織の現在の能力などを「見える化」してステークホルダー間で共有した上で戦略すなわち「これから何をすべきか」の議論を行う必要があります。その「見える化」および「意識共有」の枠組みこそが「Enterprise Architecture」ということです(Experience oriented EA)。
Pottsは人間の心理・感情の改善に役立つ手段を次の4点にまとめていました。
collaborate(協働の実現)、engage(つながりの強化)、entertain(楽しませる) 、inspire(やる気を引き出す)
(2)Professor Eddie Obeng, Henley Business School「How to Survive in a World Which Changes Faster Than You Can Learn」、学ぶよりも変化が速い世界で生き残るには
イギリスの「Pentacle」という仮想ビジネススクールの創設者でもあるビジネス教育者でTEDスピーカーのEddie Obengは、多くの人が思っているよりも、世界は速いスピードで変化していると言います。新しいことをしようと思っても、世界のスピードに追いつけません。生産性を向上させるには、3つの重要な変化(スピード、スケール、繋がり密度)を理解すべきであること、「賢い失敗」を許す文化が求められていることを主張。受講者とのインタラクションを楽しみ、手書きペンでノートに書き込みながら(図4)プロジェクターに移ったバーチャルな教室[6]の映像を駆使してエネルギッシュに「Smart Failure」をアジテートしていました。

エネルギッシュなEddie Obeng
図 4 エネルギッシュなEddie Obeng

(3)Ewan Ashley、Sandeep Thandi「Architecture Thinking: Not the Final Frontier」[7]
英国ガスにおける試行錯誤の中からツール群を選択したEAを「Architecture Thinking」と名付けて戦略から誤った投資を防ぐアーキテクチャ思考を提唱していた。Janeさんの同僚による講演でしたが、EwanはITからビジネスアーキテクトになった技術者。ビジネス動機モデル(BMM)とOGSP(目的、目標、戦略、計画)の利用や組織の状態目標を表現するビジネスケーパビリティの実践的活用、変革の全体的で戦略的なロードマップで組織幹部を巻込むことをアピールしていました。図5のように上流と下流を繋ぐ共通言語としてケーパビリティモデリングを位置付けています。

Architecture Thinkingフレームワーク
図 5  Architecture Thinkingフレームワーク

(4)Mustafa Dulgerler, National Bank of Abu Dhabi「What is the Breaking Point for Standardization?」[8]
標準化を導入する際の一般的な手法について、具体的に自社の企業戦略を知るところから始まり標準化の効果の検証、再度自社の企業戦略を見直すまでの9つのステップ(自社を知り戦略を理解、標準化の識別、現在と将来の組織モデル定義、自社のオペレーティングモデル識別、標準化項目のリストアップ、何をどこまで標準化すべきか見極め、標準化実施、評価、戦略再評価)を説明していた。オペレーティングモデルにはMITスローンRoss教授のEnterprise Architecture as Strategyの4モデルを使っていた。
(5)Kendal Maher, Janine Snodgrass, Business Process Architect「Development of a Business Process Management Capability at John Lewis」[9]
John Lewis社における、ビジネスプロセスマネジメントプロジェクトの紹介。John Lewis社はデパート43店舗や高級スーパーWaitrose(336店舗)などを傘下に抱える英国の流通グループ。150年の歴史と9万人以上の従業員を抱える英国の老舗大企業です。売上は約11bポンド(約2.2兆円)。
歴史があり安定していることが災いすることもあり、顧客との関係やバイヤー業務の属人化・ブラックボックス化が進み「組織として長年培ってきた貴重な記憶の喪失」というリスクに危機感を募らせていた。また、ビジネス環境もネット販売が急増し、近年はMobileからの販売が全体の50%に達するという大きな変化にさらされていた。これらの課題とビジネス環境変化への対応強化を図るため、ビジネスプロセス可視化プロジェクトを開始。調達系の業務から可視化と共有を進めた(2013年Business Process Unitを創設)。当初の2名から現在は11名まで拡大された。ManagerのMaher氏はマーケティングの人でITの経験はないようであった。現場側で「可視化」を進めてくれる人材の発掘と育成に非常に力を入れているようです。ツールは、当初VISIOで今はARIS。
現在は、CMMI的なGartnerのProcess Maturity Model指標を設定しつつ、プロセスマネジメントの成熟度を逐次・個別に評価して、改善につなげることにまで活動の幅を広げている。
(6)Filip Callewaert、「Adaptive Case Management as Process to Manage 'The Long Tail of Knowledge Work'」[10]
アントワープ港湾局における、頻度が非常に少ない業務プロセスに関する蓄積・共有事例の紹介。
Long tail knowledge work、すなわち頻度が少なく専門特化したようなプロセスを蓄積・共有していこうという話である。ノウハウが散逸しやすいのは、こうした頻度が少なくニッチな業務なので、理に適っているが事例をあまり聞かない。ニッチな業務が管理しづらいのは、うまく分類整理(information management)ができないからです。この問題を解決するために、彼らがとった方法は人間系での対応。Contents curation(情報の整理・集約)をやってくれる専任スタッフを多段的に配置するという方法です。情報の発信元(現場の人たち)を、まずはある程度のコミュニティに分類した上で、そこにもCuratorを配置。さらに、全体を見るCuratorを中央に配置して、Contents Managementを行うという方法です。知的労働のロングテールは非定型、非構造化、半構造化は軽視されてきたが、今後は知的労働の生産性向上で注目されるエリアになるとのこと。
(7)Jenni Dahlkvist Vartiainen & Boel Olin「How Can Business Architecture Contribute to Meet Business and IT Challenges?」[11]
スウェーデンでの新規農業制度を導入するにあたり、5年間で10個の大規模システム構築(40億円程度)を含む抜本的な改革を試みた。当初は制度の詳細が決まらない事や、目的の共有化が図れていない事等により困難を極めた。コンセプトを明示的に示し、ビジネスプロセスの可視化等により問題を解決した。
(8)Greger Hagstrom, Peter Tallungs「Capability Modeling in Practice」[12]
Business Capability Modelingとは、能力は知識により定義され、能力は知識とそれを使う資源のコンテナであることを踏まえた暗黙知の可視化である。
Visible→Sustainable→ecoシステムへとケーパビリティモデリングを進める。
3つのメインパート(Management, Environment, Operation)からなり、Managementは、Delivery ManagementとDevelopmentとPolicyからなり、CoordinationとTrustがManagementとOperationを関連づける。
上記をシステム1~5のセットにして、複数のセットが有機的に結合する。
日本人の考えるモデルよりももう一段抽象度レベルが高いイメージで、戦略マップ、新しいプロセスの実装、プロジェクトポートフォリオ、SOA導入、ビジネスとITの架け橋などに使える。
(9)Pierluigi Fasano,「Enterprise Architecture Driving Digital Transformation」[13]
スイス・リー・グループは、再保険、元受保険、および保険ベースのリスク移転に関する、世界をリードするホールセールプロバイダーです。社会的・経済的な変化(新市場立上がり、住居者の変化、経済シフト、人口シフト、規制変化)とデジタル変化(オムニチャネル、全てが繋がり、顧客体験、Y世代のデジタルライフ、スマートデータ)にさらされた中でEAの役割はListen & understand、Envision & shape、Align & connect、Design & changeと位置付けて各種ツールを活用しています。
(10)Roger Burlton, Sasha Aganova「Getting Business Change to Stick」[14]
有料コースを1日にしたもの。15人4班でホテルプロセス改革と各自課題のワークを行いました。参加者はサウジの水ビジネス事業者、ケンブリッジ大のテストのデジタル化担当、ベネズエラのコンサル、ブラジルの中央銀行、UK、オランダ、ベルギーと大変国際的でした。アイスブレークはレゴで要求の家をチームで作り途中で要件が変わり、リーダーも変わることで生まれるチームの波紋やリーダーの動揺などからチーム形成を学ぶもの。課題はホテルプロセスの変革、チェンジマネジメントのプロセスの実践。「Process Renewal Group」のチェンジサイクル(起動・現状評価・ビジネスデザイン・ギャップ評価・実施計画・実行・維持)の演習です。「Process Scope Diagram」や意図と戦略、ポリシーとルール、人的資本、イネーブラー(IT)、サポートインフラ、組織構造といった「Gap Assessment」を行っていきました。

3.英国ガスのエンタープライズ・アーキテクチャ

3.1 概要

昨年に引き続いて英国ガス(BG:British Gas)のエンタープライズ・アーキテクトであるJane Changさんとの情報交換を、彼女の出身大学であるImperial College Alumni Visitor Centre(図7)で行いました。今回はUKガス自由化後のビジネスプランを作った元BG常務で現在は独立コンサルのPetter Allisonさんが同席してくれて自由化後のエネルギービジネスとITへの影響について話し合いました。

3.2自由化後のエネルギービジネス

日本のガス業界の自由化も含めた現状について共有した上で、BGの現状とEnterprise Architectチームの役割についてヒアリングを行いました。まず図 6に示すようにイギリスのガス業界はかなり細分化されており自由化が進んでいます。

自由化後の英国エネルギー市場の役割
図 6 自由化後の英国エネルギー市場の役割

注記:自由化後のBritish Gasは製造、配送、販売に分断されて、輸送部門を中心とするBG plc(公開会社)と 販売部門を中心とするCentrica plcに1997年に分社された。
輸送配給(パイプラインの運用、託送)はBGが独占維持し、卸取引や小売は様々なプレイヤーが参入、競争している。製造会社が原料調達して貯蔵し、配送会社がパイプを所有してメーターオペレーションを行い、販売会社はメーター資産プロバイダーや、保守会社、検針会社と契約して販売する。国の関与はラインセンス付与と監督。ガス配送は基幹パイプを一社(National Grid)が保有して11のローカル配送会社が末端にある。

こういった状況でEnterprise Architectチームは、BGが規制されていないサービスに如何に打って出ていくかの検討を行っています。当初はITサービスが中心であったが、最近は新規ビジネスの策定にはITの知識が不可欠であることからITに詳しいメンバとビジネス面に明るいメンバがセットになって検討を行っています。
Petterさんによると、自由化後に市場拡大があったそうで、独占時代は顧客を見ず、メーターを見て来たのでCRMが重要になるとのこと。メーターはあまり変わらないが顧客は常に変わるからで、リテール競争になり他と競争するマインド変化が必要とのことでした。また、チャネルが重要になり、供給会社が新たに生まれて、繋げることが目的になったので効率重視のパイピングと顧客重視のマーケッターは対立することになったそうです。対立の調整はホールディングの会長の役割となるそうです。
新規参入者へストレージへのアクセスを許して共有管理が発生し、規制を取り込んだアーキテクチャにする必要があるそうです。
メーターは競争状況から魅力がないとの判断から手放して、今は銀行資産となっているそうです。BGはメーター保有よりもデータアプリケーションが重要だとみておりデータコントロールを担っているそうです。
モバイルペイ、プリペイ、PPMIP (Prepayment Meter Infrastructure Provider)やGISが重要になってくる(地域区分)とのこと。ある顧客に対して電力とガスの二つの価格設定が必要になってくるのでNightmare(悪夢)だそうです。エネルギー価格、スマートメーター、スマートグリッドなどケーパビリティを考えてアーキテクチャを考える必要があるのでEAが重要になってくるそうです。JaneさんはITもわかってビジネスに橋渡しができるエンタープライズ・アーキテクチトで稀有な存在だそうです。
UK.GovのICTについて聞いてみたところ、金を使いすぎ。Digital Marketplaceでの調達は中小企業に門戸を開放したことは評価できるが、対応が不十分な企業が受注している弊害も聞いているとか。視点が違うと様々な意見があります。

3.3 Jane Changさんとの会話から

Janeさんの他にはキッチン、ボイラー、サービスセキュリティ、ビジネス開発、ガスサプライヤなどインダストリーごとにエンタープライズ・アーキテクトが居るとのことです。
Janeさんは「サービスセキュリティ」と「BGのエネルギーインダストリ」の担当です。JaneさんはCentricaのStrategy & Planning(IT全体)とBGのエンタープライズ・アーキテクト(エネルギービジネス)を兼務しており、それぞれのカンパニー間にはファイアーウォールがあります。Centricaの本部及び各グループ会社にはITの部署があり、本部のIT部門は全体の予算調整及びポリシーの策定等を行うとのことです。1グループ会社であるBGに新規システム導入を行う際にはシステムのカバーする業務範囲によって他グループ会社との調整(予算、仕様決め)のためにロビー活動が必須であり泥臭い調整が必要だと話していました。
IT部門は1998年の法的分離後に400名だった維持管理要員のうち少数精鋭の40名が離れて360名まで成長して現在はITベンダーと競争している。残った360名がSAP導入で現在2000名(自社700名)まで膨らんだそうで人員削減と新たな人材政策が必要とのことでした。
ビジネスとITをつなぐのはケーパビリティであり、データアナリティクスが重要になってきている。SAPから受けたサービスデザイン研修後に社員のマインドセットの問題に取り組んでいるそうです。 EAはゴールに対する目的毎に異なるので、目的に応じた成果物を作成しています。Janeさんの最近の関心事はスマートシティなど分散エネルギーにおいてITが運営技術に組み込まれている領域での組織ケーパビリティ開発です。

Jane Changさん、Petter Allisonさんと
図 7  Jane Changさん、Petter Allisonさんと

4.英国政府のデジタルサービス改革

JISAから英国大使館を通じて紹介いただいたのは、UK Trade& Investment(英国貿易投資総省)のICTスペシャリストのChris Moore博士です。キャメロン政権5年間の英国政府のデジタル改革についてインタビューを行いました。その内容は先月のWEBマガジンで報告していますのでご覧ください[15]。

5.おわりに

参加者と、なぜ日本でEAやBPMが普及しないのか議論しました。私の持論は、日本人が面倒くさいと「変化を嫌う」からだと思うのです。欧米は変化が当然だし進化と考えているために、変化の本質と内容を伝えるニーズが大きい。日本の変化はトップダウンが必要なことが多く、ニーズが少ないのです。明治維新、終戦といった大変化が起こった割には日本人の気質は変わらず「律儀にルールを守る」だと思うのです。この気質は美点も多いのですが課題先進国のこれからの日本では「変化を嫌う」では乗り切れなくなってきています[16]。今回のカンファレンスのテーマ「デジタル変革を担うEA」、デジタルビジネスの立ち上げを加速する手法としてのEAが今こそ必要とされているのではないでしょうか?
なお、ティージー情報ネットワークの島田悟志様、東京ガスの横山智弘様には本稿作成にあたりご協力いただいたことを感謝いたします。

(参考文献)

[1]Enterprise Architecture Conference europe 2015
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/
[2]Gartner Enterprise Architecture Summit 2015
http://www.gartner.com/technology/summits/na/enterprise-architecture/
[3]Pre Conference Workshops - 15 June 2015、Michael Rosen講演資料より
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/workshops.cfm#w5
[4]Jericho Forum? Commandments
https://collaboration.opengroup.org/jericho/commandments_v1.2.pdf
[5]Jericho Forum? Self-Assessment Scheme
https://collaboration.opengroup.org/jericho/SAS_Guide.pdf
[6]worldaftermidnight
http://worldaftermidnight.com/
[7]Architecture Thinking: Not the Final Frontier...要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day2.cfm#Day2S19
[8]What is the Breaking Point for Standardization?要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day2.cfm#Day2S23
[9]Development of a Business Process Management Capability at John Lewis 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day1.cfm#Day1S6
[10]Adaptive Case Management as Process to Manage 'The Long Tail of Knowledge Work' 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day1.cfm#Day1S12
[11]How Can Business Architecture Contribute to Meet Business and IT Challenges? 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day2.cfm#Day2S14
[12]Capability Modelling in Practice 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/workshops.cfm#w3
[13]Enterprise Architecture Driving Digital Transformation 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/day1.cfm#Day1S3
[14]Getting Business Change to Stick 要旨
http://www.irmuk.co.uk/eac2015/postworkshops.cfm
[15]「「英国(GOV.UK)」のデジタルサービス改革 -住民・民間と一体となった政府デジタル戦略の推進-」
http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/1234958_6728.html
[16]オージス総研グループ ビジネスイノベーションセンター「「律義さ」が生む功罪: 面倒くさいと変化を嫌う日本人!」
https://www.facebook.com/BusinessInnovationCenter.OGIS?fref=nf

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