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「見積に求められる客観的説明性 ‐けっこう使えるぞ!FP(ファンクションポイント)法!‐」

2015.09.16 株式会社オージス総研  礒部 大

Keywords:政府IT調達、政府共通ルール、FP法、IFPUG、JFPUG、NESMA、COSMIC
目次
1.FP法は当たらない?
2.見積の課題とFP法の特性~類推法との比較~
3.政府のIT調達ルール
4.FP法の組織導入~弊社の実績から~

1.FP法は当たらない?

FP法が我が国に紹介されてから20年以上経ちます。FP法(Function Point法:ファンクションポイント法)を、ご存知の方も多いでしょう。FP法はシステムの5大要素である「入力」、「出力」、「記憶」、「演算」、「制御」のうち、外的に観察できる「入力」、「出力」、「記憶」に注目し、利用者に提供される機能(Function)の数(Point)がシステムの開発規模、工数と比例することから見積を行うものです。
1979年に米国IBMのアラン・J・アルブレクト(Allan J. Albrecht)が提案しました。1986年には米国IFPUG(International Function Point Users Group)が、1994年に日本ファンクションユーザ会(JFPUG)が設立され国際的に広く定着し、JIS/ISOではFP法の規格を制定するに至っています
注:下記の他にもFP法の一手法であるCOSMIC法の規定が制定されています。
・JIS X 0135-1:2010ソフトウェア測定‐機能規模測定‐
・JIS X 0142:2010ソフトウェア技術‐機能規模測定‐IFPUG機能規模測定手法(IFPUG4.1版未調整ファンクションポイント)計測マニュアル
しかし、解説書を読んだことがある人、研修を受けた経験がある人、試しに実務で使ってみたことがある人等々、何らかの形でFP法を知っている人は多いものの、知名度に比べて実務でFP法を使っているという例は少ないようです。
それは、FP法のイメージが、複雑、抽象的、難解と思われているからということに加え、"当たらない"と思われているからかも知れません。あなたの身近にも、過去、FP法の研修や導入を試みた経験がある先輩がいて「FP法というのは面倒な割には"当たらない"もんだよ」と言っていたりはしないでしょうか?
しかし、見積値が"当たる"か、"当たらない"かは、何もFP法だけの問題ではありません。下図はIPA(情報処理推進機構)の書籍[1]に掲載されている図です。開発の初期段階で行う見積は誤差が上下に大きく、開発工程が進むにつれ誤差が小さくなっていくことを示しています。これは、特定の見積手法だけでなく一般的に当てはまる現象なのです。
[1]独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部 ソフトウェア高信頼化センター(SEC)「ソフトウェア開発見積りガイドブック」2006年4月25日
http://www.ipa.go.jp/sec/publish/tn05-001.html

「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部 ソフトウェア高信頼化センター(SEC)「ソフトウェア開発見積りガイドブック」2006年4月25日」より
図1 出典:IPA/SEC「ソフトウェア開発見積りガイドブック」[1] Copyright (c) 2004-2013 JISA

2.見積の課題とFP法の特性~類推法との比較~

見積には多くの手法が提案されていますが、知名度と適用実績の上位2種はともに類推法とFP法です。ここで、類推法とは過去の類似案件との比較から、当該案件の規模を類推する方法という意味です。ただし、類推するためのメソドロジおよび基準が確立しておらず各社あるいは各人で個々に判断する経験則のような存在です。つまり、『どこと、どこが、どうであれば、"似ている"と言っていいのか?どの程度"似ていれば"規模も同じ程度と判断して良いのか悪いのか?』といったものが曖昧なのです。ただし、予備知識が殆ど不要で気軽に始められるといった簡便さもあり実務では頻繁に用いられています。
一方、FP法は難解であり習得に一定のコストが必要ですし、作業自体も負荷がかかるとされています。しかし、解説書、雑誌記事、学術論文も多く、JFPUG他の団体で研修サービスも提供されているほか、JFPUGによりFP法の適用方法に関する研究が続けられており、その成果はFP法に関するノウハウを公表するCPM(Counting Practice Manual)注にも活かされています。外部統計[2],[3]が毎年公表されてもいます。また、FP法にはより簡便な概算に適用するためのNESMA(Netherlands Software Metrics Association:オランダ・ソフトウェア計測協会)法もある等、ニーズに特化した"亜種"も複数開発されています。
注:CPMの最新版は4.3.1です。また、より実務的な理解が進むようにケーススタディも公表されています。
ケーススタディには以下の種類があります。
・ケーススタディ1(リリース2、CPM4.1対応版)
・ケーススタディ2(目次) リリース1(CPM4.0対応版)配布終了
[2]独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部 ソフトウェア高信頼化センター(SEC)「ソフトウェア開発データ白書2014-2015」2014年10月1日
https://www.ipa.go.jp/sec/publish/tn12-002.html
[3]一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「ソフトウェアメトリックス調査2015」 2015 年4 月
http://www.juas.or.jp/servey/library/swm.html
以上、両手法を端的に対比すると以下のように要約できそうです。
類推法:簡便で柔軟に適用でき、組織内の納得性は高いが、客観的説明性に難がある
FP法:難解だが全く前例のない案件でも適用でき、外部との比較も可能で客観的説明性が高い
注:下図は、両手法の特性を抽出した際の筆者の思考過程を表現したものです。トヨタの"6つのナゼ"等をヒントに筆者がコンサル実務で使用している独自のダイヤグラムです。自分一人で簡易にブレストをしたり、問題を深化して考察したりするときに用いています。下図では左半分が類推法の領域、右側がFP法の領域で、図の中心((1)と付した四角枠)から外側(矢印に沿って(2)と付した四角枠)に向かう螺旋状に各手法の特性候補となる記述をして行きます。その時、できるだけ一つ前の要素に対する"反論"、"帰結"となるよう意識します。記述した要素は「+要素」、「-要素」あるいは「±要素(中立要素)」のいずれかに評価し色分けします。

両手法の特性を抽出した際の筆者の思考過程
図2

3.政府の新たなIT調達ルール

さて、我が国の政府ではこれまで、各府省、独立行政法人等において「業務・システム最適化計画」を推進して来ました。「業務・システム最適化計画」の対象となった情報システムの調達に関しては「業務・システム最適化指針」が、それ以外の情報システムの調達に関しては「情報システムに係わる政府調達の基本指針」に記述があり、各府省、独立行政法人等ではそれに沿った情報システムの調達が行われていました。下図に示すように、平成27年4月1日から、それらが統一化され内容も見直しされました。

標準ガイドラインの整備と指針等の関係
図3 出典:総務省「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン <概要>」http://www.soumu.go.jp/main_content/000352681.pdfより

見直された内容は多々ありますが、中でも画期的なのが見積についてです。下図の7)-イのとおり、FP法が原則化されたのです。

経費の見積り
図4 出典:総務省「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン 事業者向け説明会資料
2015年3月、4月」http://www.soumu.go.jp/main_content/000353305.pdfより

4.FP法の組織導入~弊社の実績から~

弊社ではFP法の中の一手法であるCOSMIC法に関して業界でも先進的な研究成果を蓄積していますが、FP法の"本家"であるIFPUG法等、その他の手法を否定するものではなく、お客様のご要望に応じて組織導入を支援した実績もあります。
その経験から言えば、FP法を組織導入する際のポイントは、以下4点になります。
◆システム部長様にFP法導入による効果を理解して貰うこと
FP法を導入することの最大のメリットは、やはり客観的説明性が向上することです。何故、それだけの費用が掛かるのか、もし、費用を低減化するならば何を削らなければならないのか等を工業の視点から疑問の余地無く説明できるようになります。それは、経営層へ説明を行うIT部門長様の強力な"武器"になる筈です。
◆FP法を現場レベルで理解できるよう努めること
JIS規定およびJFPUG/IFPUGのCPMは長期にわたって内容の正確性を保つ必要があるためか、難解で抽象的な記述が多いようです。日常的にFP法が定着するには現場レベルの実務者に対し表面的に留まらない理解を浸透させることが重要です。そのためには、JIS規定やCPMを解釈して導入する組織の文化、各種リテラシーに合った補助資料類の作成が不可欠になります。刊行されている解説書も平易で分かりやすいものなので、知識面はそれらで代替するとしても、学習を主目的に書かれているため、定常的な運用段階では各種ワークシート類の整備は避けられません。下図は、FP法の作業ステップをフローチャート的に表現したものです。例えば、業務フローを日頃見慣れている、業務部門からシステム部への転入者も定期的に発生するといった組織でのFP法導入時に作成したものです。

FP法の作業ステップ
図5

◆組織文化を考慮した導入プロセスを工夫すること
IT部門の全員の頭で理解、腹落ちして納得、心で共感が得られるようにするために、例えば説明会の開催についても説明すべき関係者の範囲の検討、参加者のグルーピング、1回の参加者数、実施回数、説明コンテンツ等を工夫します。弊社が導入を支援した例ではFP法試行実施、階層別説明会、協力ベンダー向け説明会、類推法・FP法並行評価、それらに対する問い合わせ等支援を行いました。
◆外部専門家の活用
IT統制の真価は、情報システムの調達プロセスに集約的に現われるものです。特に、金額に直接係わる見積は、組織文化を反映しデリケートな領域で変化を嫌う傾向があります。そこに、新風を吹き込むには、組織の内部からでは言い難いこともあります。また、他の組織での事例を参考にしたい場面もあります。そのような時は、経験と知見を備えた外部の専門家を活用することが有効です。

おわりに

筆者がFP法の導入を支援した独立行政法人J機構では、システム部長様の英断により未だ「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」が策定される前に永年採用していた類推法から変更を実施しました。根強い抵抗感もありましたが、部長様の強力なバックアップと担当者様のご尽力により移行を完遂することが出来ました。その際に、筆者が考えていなかったFP法のメリットを担当者I様から聞くことができたので、最後に紹介します。
『FP法では、最初にシステム境界を明らかにするために"ポンチ絵(下図例示)"みたいなものを描きますが、この絵は実現したい要件が整理できていないと描けないですね。この絵を描くことで、こちら側の要件の考慮不足に気付くことができるし、この絵を"共通言語"としてベンダーと会話することも出来るので、より良い要件の実現策を提案してもらうことも出来るんですね。』

FP法のためのポンチ絵
図6

注:本図はJIS X 0142:2010ソフトウェア技術‐機能規模測定‐IFPUG機能規模測定手法(IFPUG4.1版未調整ファンクションポイント)計測マニュアルに記載されている設例から作成したもの。図中の頁数は同規定の記載箇所を表している。。

執筆者について
礒部大 公認システム監査人(CISA),中小企業診断士,元国立公文書館CIO補佐官
株式会社オージス総研 コンサルティング・サービス部 所属

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