・ | 情報システムの半世紀オンラインシステムの幕開けと言われる旧国鉄の座席予約システムが稼動したのが1965年なので、日本の企業が本格的に情報システムを適用し始めて、今年でちょうど50年ということになります。当初は膨大な情報量を処理するための労務費削減という目的が主で、会計や人事という領域で使われていたコンピュータシステムは、経営情報の分析やB2Cなどより広い分野へと適用範囲を広げてきました。比較的最近までは「古くなったら作り変えればいい」という発想で構築されていましたが、適用領域の拡大が進むにつれ、既存システムの更改ではなく新しい領域への投資が優先されることで、結果的に当初の想定以上に情報システムが長寿化することになりました。もう15年も前になってしまいましたが、「2000年問題」の背景も、当初想定(西暦2000年以前にはリプレースされるであろうというような)よりも長く使われ続けたという「誤算」があったわけです。最近では「古くなったら作り変えればいい」という発想は弱まったものの、新規開発の時点から維持管理のコストまでを意識して開発する例は、まだまだ少ないのではないでしょうか。その結果として、企業のIT部門として維持管理すべき情報システムの数よりも維持管理コスト方が、より早いペースで増えているように思います。 |
・ | 維持管理組織の現状私は以前から、アーキテクチャ構築や新しい方法論をお客様にお勧めする仕事をしていました。そういうかたちでお客様と接していたので、新規システムが話題の中心でした。しかし最近は、社内外のいろいろな現場のサポートをする役割も増えました。そうすると、新規開発よりも維持管理の現場の方が大きな問題なのではないか、それは現場だけではなく経営レベルでの問題なのではないかと感じることが多いのです。維持管理業務についての状況と課題の説明のため、ケーススタディ的にひとつ例を挙げてみると、下記のようになります。少し長くなりますが、読んでみてください。 |
| |
図1 維持管理組織の負のスパイラルとその加速 | |
このような状況なので、多くの場合、以下のような課題を抱えています。 | |
| |
そして、これはさらに次のような「負のスパイラル」とでも言うべき悪循環を招きます。 | |
| |
いかがでしょうか。「さすがにここまで極端な例は・・・」と、おっしゃる方も多いでしょうけれど、中には「まさにこのとおり」と思っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは自社のIT部門が直接IT運用の業務をしておられる例ですが、情報子会社に委託している、あるいは外部のベンダーに委託している場合でも、直接業務を担当しているチームをクローズアップすれば、ほとんど相似形のような様相になっています。 |
・ | 銀の弾丸はあるのか?正直言って、このような状態から抜け出すのは簡単ではありません。また私がこれまでお客様に提唱してきた手法だけでは解決できないことにも気が付きました。 |
・ | アジャイルは解決策なのか例えば、代表的なアジャイル開発手法であるスクラムを取り上げてみましょう。スクラムはシンプルで優れたな手法ですが、開発チームは全員ひとつのプロジェクトに従事していること、要求事項は一人のプロダクトオーナーによって優先順が与えられていること(絶対に一人である必要は無いが、一元的に優先度が決定される必要はある)、などを前提にしています。スクラムは新規開発だけでなく、維持管理にも適用することは可能ですが、維持管理チームが上述のような体制なのであれば適用をお奨めできません。まず、ひとつのチームが複数の実務部門、複数のシステムを維持管理しており、随時問い合せや障害に対応する必要があるのであれば、要求事項の優先順を一元的に管理することは出来ません。またスクラムには「反復期間中は要求事項の追加変更は出来ない」というルールがあります。反復ごとにチームの生産性や品質を把握してコントロールできるという効果があるのですが、このルールを適用することも難しいでしょう。 もちろん「そのままでは」解決策にならないという意味であって、スクラムの原理・原則をしっかり理解した指導者さえいれば、(応用形という意味で)チームを良い方向に導いてくれると思います。しかしそのような人を見つけるのは簡単ではありません。 |
・ | アーキテクチャ構築は解決策なのかまた私は、企業の情報システムのアーキテクチャをより良いものにすることで、変更対応力のある柔軟な構造にしましょうという提案もしてきました。エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)であり、サービス指向アーキテクチャ(SOA)です。これらの考え方は非常に良いものですし、また時間をかけてこの考え方を適用してきた企業は、まさにその恩恵を受けています。しかしEAやSOAを目指して既存システムを統合しようとした場合、その維持管理に携わるメンバーの知識とスキルに頼らざるを得ない部分は大きく、慢性的高負荷に苦しむ彼らの体力をどう捻出させるかが課題になってしまいます。維持管理とは別の体制を作って既存システムを統合する、あるいは将来の老朽化による更改を待って、徐々に統合していく等の方法も考えられるものの、時間やコスト、あるいはその両方を費やして進めるのは、経営層のよほどの英断が無い限り難しいでしょう。やはりまず現場から変わり始めることが必要なのです。 |
・ | 負のスパイラルを抜け出すためにはここまで否定的なことばかりを書いてきました。しかし策が無いわけではありません。現場のメンバーが腹をくくって取り組む意思を固めさえすれば、打てる手はたくさんありまるのです。紙面を次回に譲って、そのお話しをしたいと思います。 |
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。
『WEBマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。
同一テーマ 記事一覧
「組織文化とは何か(1)」
2018.04.26 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「サービスシフトのためのマネジメント改革」
2017.06.19 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「ソフトウェア維持管理の現場改善(4)」
2017.03.24 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「ソフトウェア維持管理の現場改善(3)」
2016.07.27 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「ソフトウェア維持管理の現場改善(2)」
2015.11.20 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「リーンで高機動な開発のススメ(1)」
2014.08.13 共通 株式会社オージス総研 山海 一剛
「デンマークからのアジャイラーII」
2010.06.08 製造 株式会社オージス総研 山海 一剛
「デンマークからのアジャイラー」
2010.05.07 製造 株式会社オージス総研 山海 一剛