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「コストを正しく把握する:ABC(活動基準原価計算)の勧め」

2010.05.05 株式会社オージス総研  宗平 順己

 「商品原価を把握していますか」と訊かれてわからないと答える経営者はまずいないと思いますが、「その原価情報は正しいですか」といわれると戸惑われる方は多いと思います。
 商品やサービスに関わるコストは、仕入れ代などの直接コストと一般に販管費などと呼ばれている間接コストがあります。直接コストは、その商品やサービスに関わることが明確なコストで、材料原価の他に作業費も含まれます。
 さて、「商品原価」といわれてほとんどの方が思い浮かばれるのが、仕入れ代や原材料費のことで、作業費も含めて把握できるケースは稀です。それは、従業員がどの商品やサービスのためにどの作業をどれだけの時間割いたのかを把握できていないからです。そのため、原価については、労務費を売上や生産数量で割り振りしてしまうというような原価処理が行われてしまいます。さらにあいまいな処理が行われているのが、販管費です。
 売上ベースで割り振られると、例えば非常に手間がかかっているのに売上が少ない顧客や商品のコストが小さくなってしまい、最悪の場合、大赤字の商品や顧客を、黒字であるような錯覚を持ってしまいます。
 もちろん、この逆もあり、実際は黒字の商品や顧客を赤字であると判断することもあります。この状態が継続すると、忙しいのに何故か収益は悪化してしまい、見かけの赤字の商品や事業をカットしてしまったために、事業の継続が困難になってしまったという、状況に陥った企業も多々あります。
 このような状態を改善するために考え出されたのが、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)です。物流業向けには、中小企業庁が「物流ABC」として広めているので、ご存知の方が多いかもしれません。
 ABCを適用することで、真のコストを把握し、商品間や顧客間、拠点間のコストの発生状況を比較することで、業務改善を行うことが可能になります。
 さて、ABCを使うことで、商品間や顧客間、拠点間のコストの発生状況を比較することが可能になります。Aというお客様は売上が多いのですが、注文単位が小さく、伝票処理や出荷処理にとても手間がかかっています。また、突発的な発注も多いです。一方Bというお客様は、売上は中程度ですが、まとまった量を早めに予告を頂いてから注文してくれます。
 従来ですと、売上高が多い顧客Aが上得意様と考えがちですが、実際ABCで計算してみると、この会社の利益の5割は顧客Bによるもので、顧客Aによる利益は5%にも満たないということがわかったりします。単なる仕入れ価格と販売価格の差額だけをみているとこのようなことは全くわかりません。
 この場合、極端な場合、顧客Aとの取引をやめ、顧客Bとの取引額を増やすことに人員を割く方が、会社としての利益を大きく向上させることが可能になります。
 しかしながら、実際にはこのようなことはしませんよね。では、どうしたら良いのでしょうか?
 ABCの事例をみると目からうろこのような解答がでています。顧客Aに発注形態の改善を要望するのですが、そのかわりに販売単価を少し下げますというような交換条件を提示するのです。まさに、Win&Winですね。
 このようなアプローチをとった事例では、顧客Aからの売上を担保しつつ利益率の改善、何よりも、顧客Aからの注文に追い回されていた社員を煩雑な業務から解放できたという非常におおきなメリットも享受できたようです。
 もう一つこのような話もあります。製品間のコスト構造を比較分析したところ、製品Xはリリース後、顧客からの指摘による仕様変更が多く、そのことによる製造ラインの変更やマニュアルの改訂などの追加コストの割合がとても高くなっていたことがわかりました。原材料費や工場の操業度だけをもとに原価計算をしていてはわからなかったことがABCの分析により明らかになったものです。この企業では、変更が柔軟な製造体制を作るという対症療法的な手段は採用せず、設計プロセスの大幅な見直しを行い、このような事態の再発を防ぐという手を打ちました。原価企画では設計段階でコストの80%が決定されるということが示されていますが、まさにこの理論に基づいて諸悪の根源を絶ったということです。
 このような事例は経営改革の参考になります。分析の数値が出たのち、如何にそこから真の原因をみつけるか、そのヒントが多く隠されています。ABCは書籍も多く出ていますし、簡単な計算はEXCELでも可能です(物流ABC用にEXCELシートが提供されています)。業務改善の基礎として、ABCの勉強を始められることをお勧めします。
 次月号では、ビジネスプロセスマネジメントとABCの組み合わせによる、To-Beプロセスの設計方法について解説します。


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