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「「ITコストが高すぎる!」から考察するITコストの意味」

2011.05.03 株式会社オージス総研  島本 道夫

 はじめに
この度の東北東日本大震災でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

1.なんでこんなにお金がかかるのだ?!

 新年度になりまして、異動も落ち着いて、皆様の会社や部門の年度方針や年度計画などが出揃った頃かと思われますが、「我が社のITコストは、高すぎる!」「ITコスト一律30%削減!」などトップの意向や方針を聞かされて、頭を抱える情報システム部門の方もいらっしゃるかもしれません。
 ここ数年の景気低迷の中でコスト削減は、ITにもメスが入れられていますし、逆に理解されないがゆえに標的になっているような声も聞かれます。

 そこで、今立ち止まって、ゆっくりと考えて見ましょう。ITを活用して、業務をしている限り、ITにコストはかかります。今からITを使わずに業務をしろ!ということであれば、諦めて、業務を手作業に戻してください。しかし、それを本当に望んでいるトップがいるとは思えませんし、単に「なんで、こんなにお金がかかるのだ!」「ITは、金食い虫だ!」と言わないといけないお約束かもしれませんし、単なる感情論で論理的に考えることをしていないからかもしれません。

 では、そんなにお金がかかるというのであれば、何にかかっているのでしょうか?そもそも、何を指して、ITコストと言っているのでしょうか?それは、情報システム部門の予算かもしれませんし、各事業部門のIT予算と言われるものかもしれませんし、外部委託費用かもしれません。つまり、それらはそれぞれの会社の事情であり、一般論で論ずるには無理があるということです。それを十把一絡げにITコスト高いというのは、無理筋で何の解決にも至らない不毛の議論と言えます。

2.隣の芝生は青いのか?

 「他社よりもお金をかけすぎているのではないか?」「他社は、もっと上手にITコストを安く上げているのではないか?」など隣の芝生は青く見えるものです。では、他社とは何を指すのでしょうか?社長のお友達の会社でしょうか?同業他社でしょうか?同規模の従業員数あるいは同規模の売上げあるいは同規模の利益や配当を達成している会社でしょうか?

 ここで、意味があると思われるベンチマークは、一つは業種、一つは規模です。ベンチマーク指標は単位あたりのITコストになりますが、売上げに対する割合については、毎年JUAS(日本情報処理ユーザ協会)から発行される「企業IT動向調査」(例えば、 「第17回 企業IT動向調査2011(10年度調査)」)に掲載されています。
 ちなみに2010年調査の業種別ITコストについては、以下のような割合になっています。

出典:JUAS 『第16回 企業IT動向調査2010
図 1 出典:JUAS 『第16回 企業IT動向調査2010』

 ご覧いただくと一目瞭然で、金融業界の割合がダントツで高く、重要インフラやサービスで1%を超え、残りの業種は、1%未満で、全体平均が、ほぼ1%というところです。
 視線を高めにすると、金融業界を除いては、1%前後であり、それを基準に考えてよいかと思われます。
 もう少し細かく自分の業種とマッピングさせたいということであれば、どのグループに属する業種かを一覧にしました。

表1 属する業種とITへの依存度
属する業種とITへの依存度<

 IT費用にかかる割合は、逆説にすると、その業種がどれだけITを使いこなしている/依存しているかであり、それに関するコメントも表中に差し込んでいます。

 弊社の経験上、「隣の芝生は、こんなにも青かったのか!」と驚く方は、少ないです。ただし、「少しくらいは隣の方が青いかな?そこを何とかしたいな。」という印象をもたれた方は、いらっしゃると思います。
 そこを何とかしたければ、自分自身を知らないといけません。

3.結局、ITコストって何よ?

 IT機器を購入するのにお金がかかります。恐らく、プリンター本体の購入費用はITコストでしょう。では、そのプリンターから出てくる用紙だって、どこかで購入しているはずです。これもITコストかと言うと、全社/部門の消耗品代かもしれません。さらにその紙の上にのせられたトナーは、どうでしょうか。消耗品かもしれないし、ITコストかもしれない…と考えていくと何らかの定義が必要になることがおわかりいただけると思います。

 大項目を例示として書き出してみますと、

  • ハードウェア費用
  • ソフトウェア費用
  • 移行費用
  • 人件費
  • 外部委託費
  • その他

 のような感じになるでしょうか。
 さらに、システムにかかるコストを検討する場合に大きく分けて考えないといけないことがあります。一般的にシステム導入時のいわゆる初期コストと導入したシステムを稼動させ、活用していく運用コストの2区分に分けられます。

 初期コストと運用コストの2区分に分けた上で、先ほどの大項目を中項目レベルに一段落として、例示してみます。

 まずは、初期コストの例示ですが、初期コストは、運用コストよりも高額で短かい期間で使われるイメージになります。

表2 初期コスト
初期コスト<

 運用コストの例示を下記に示しますが、運用コストは、初期コストより低額で長い期間で使われるイメージになります。

表3 運用コスト
運用コスト<

 ここまで来ると何となくイメージが湧いた気になります。
 さらにそれぞれの項目に、例えばこんな費用が入るというような例示を入れていくとご自身の会社のITコストの内訳が見えてきます。

4.現状がわかったら、打つ手が見えてくるか?

 おおよそ、うちの会社ではITにこれだけお金を使っているらしい、ということが、わかったとしましょう。では、次のアクションはどうしたらよいのでしょうか。
 区分のレベルでのベンチマークはなかなか難しいのが、実情です。それは、区分が標準化されておらず、各社仕様になっているからです。
 せっかくなので、区分ごとの支出額順に並べて、ABCパレート分析をしますか?それとも支払い先別のランキングを作り、値引き交渉に進みますか?

 弊社は、せっかくコストの把握までできたのだから、ここでしっかりと立ち止まって、次のアクションを考えることが重要だと認識しています。コストがかかりすぎているのではないかと思うのであれば、なんらかの原因があるはずです。その原因に遡っていくためには、無駄なところはどこかを診断した上で、次のアクションを考えるというアプローチです。

 ITにかかるフェーズは、大きくは「企画」「開発」「運用」に3分類され、それぞれに「計画」「実施」「把握」「見直し」の4STEPからなります。それぞれのどのフェーズのどのSTEPにおいて、問題がありそうかを診断するツールを用意しています。

「ITスリムチェック」

 このチェックにより、自社のITのどのフェーズ・STEPにコスト高の要因がありそうかの当たりがつき、そこから対策を検討する土台が築かれていくものと考えています。

 まずは、例示したような中項目レベルでの把握を行い、それからさらに小項目レベルまで考えていく道をつけてみては、いかがでしょうか。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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