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「実験部門におけるスケジューラ紹介 -複雑な資源制限での実施計画作成-」

2011.05.04 株式会社宇部情報システム  柘植 秋勝

1 初めに

 実験部門においては通常のスケジューリングと要件が大きく異なる多々の特殊性が要求されます。今回は、弊社が実験管理システムを開発させていただいた中で確認出来た特殊性及びその解決方法をご紹介します。

2 実験・試験における特殊性

1) 複数部門よりの依頼

開発部門と実験部門では次の特徴が有ります。
 ・開発部門:客先・製品別の組織となっており、それぞれから実験の依頼が発生
 ・実験部門:設備、要員の有効利用の為に、集約管理をするために、1部門となっています。
 これらの関係より、実験実施部門は、複数の開発部門より実験の依頼を受けるため、特定の部門に偏ることなく公平で、且つそれぞれの要求に合った実施日程の遂行が要求されます。
 実験の実施日程の計画原則は、以前に計画した日程を守りつつ、新たに依頼された実験を、依頼部門に関係なく、納期の急ぐものを優先的に割り付ける方式です。
 とはいえ、必ずしも、納期順に依頼が来るわけでは無く、時には以前の依頼より優先しての飛込依頼が発生する事もあります。
 このため、本問題に対しては、対象部門を指定し、既に割り付け済みの未着手作業を全て割り付け解除の上、納期の急ぐ順に再度割り付けしなおす機能を提供しています。(図1 参照)
 これにより、全てとは言えませんが、飛込みの特急依頼も、対応可能とし、依頼元の要請に応えるようにしています。

依頼部門内での予定の再配置例<
図 1 依頼部門内での予定の再配置例

 尚、これらの要求を満たすためには、下記2)以降の種々の要件を満たした上での実施可能日の算出がスケジューラに求められます。

2) 膨大な資源組合せ及び複数工程での資源制限

 実験を実施するには、恒温恒湿槽等の装置、実験時の性能を計測する計測機器及び治具そして、作業を担当する要員が必要となってきます。
 これらの組み合わせを考えてみると大略次のごとくとなります。
  組合せ数=装置数 * 計測器数 * 治具数* 要員数
 となり、1実験で数十~数百の組合せとなる事が通常です。(図2参照)

実験における供試体と作業の関係<
図 2 実験における供試体と作業の関係


 又、実験の品質保証の為に、複数の供試体を同一実験で実施し、且つ、この際に利用する設備、測定器具、治具、要員は同一でなければなりません。
 スケジューリングとしては、これらの膨大な組み合わせの内より、全実験作業を通して、最も早く完了する組合せを探し出し、実験予定を計画します。
 尚、スケジューリング計算においては、資源群毎の負荷集中度合いを考慮し、負荷集中資源群を中心に割り付け可能な組み合わせを検出する方式を採用し、無駄な処理を除外する事により、処理の高速化を実現しています。

 

3) 供試体の適用順制限

 供試体は開発コストを低減するため、複数の実験で同一供試体が使用されます。
 但し、供試体は、実験を実施するレベルにより、供試体の機能損傷、破損などを受けます。このため、後で実施する実験の評価を損なわないレベルでの実験となるように、各実験の処理順番を考慮する必要が有ります。このため、システムでは、各実験で利用する供試体と、実験間での処理優先順を設定いただき、スケジューリング計算時の制限事項として反映しております。
 図3では一つの供試体が4つの実験に使用され、且つ、実験04を最後にする条件の例です。(左図がユーザ設定の条件イメージで、右図が計算後の割り付けイメージです。)

実験と供試体の適用事例<
図3 実験と供試体の適用事例

4) 見える化

 今回のシステムでは、各依頼実験の実施予定のみならず、設備、測定機、要員の使用予定をWebから簡単に閲覧可能としています。
 これにより、
  ・依頼部門で、依頼した実験の完了日が簡単に把握できる。
  ・設備の負荷状況等が簡単に把握できる事
  ・負荷状況の把握により、おおよその終了予定の見通しが立つ事により、
  依頼部門での客先との調整が容易となってきました。
等を可能とし、業務の効率化に寄与しております。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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