前号では、製造業SCMシステムを題材に業務と情報システムの整合の度合いを比較的簡単に推し量るための方法(簡易手法)を紹介しました。
本号では、前号での結果に基づき機能の再配置を検討する過程を簡単に紹介します。
1.簡易手法のおさらい
ここで簡易手法を簡単におさらいしておきます。詳しくは前号をご参照ください。
(1)基本アプローチ
既存システムの構造を「標準業務モデル」と照らし合わせ、システムの機能配置を可視化することで業務と適合していない可能性が高い機能を効率的に抽出することを基本アプローチとしています。
(2)簡易手法の構成作業
簡易手法は、次のように大きく三つの作業で構成されます。 | |
・ | 既存システムの機能構造の整理 |
・ | 標準業務モデルとの比較 |
・ | 比較結果のまとめ |
前号では、説明のために筆者が用意しました製造業SCMシステムの販売機能を対象に簡易手法を適用し、結果的に業務と不整合の可能性が高い機能として「部材支給」と「請求」が得られた状態になります。
この結果を出発点に以降では、「部材支給」と「請求」に対し差異理由を明らかにすることを経て最終的に機能の再配置を行うべきか否かを判断する流れをご紹介したいと思います。
2. 差異分析
差異分析は、標準業務モデルとの差異部分に着目し、違いを生んでいる理由を調べることが中心的な作業になります。
当然ですが、情報システムの機能配置は、なんらかの事情や経緯があって現在の姿に至っているのが通常です。差異を分析することは、機能配置を見直すために実施することが一義的な目的ですが、差異を一方的に見直し対象とし短絡的にシステムを改変してしまうことを防止するという意味もあります。何れしましても理由を明らかにすることは必須のことと思います。
前号の結果に基づき筆者が簡単な差異分析をしてみた結果を次に示します。理解しやすくするために差異が際立つようにしておりますので、少し現実味がないと思われるかもしれませんが、その点はご容赦いただきたいです。
・ | 「部材支給」 |
どのような理由からこの機能が販売機能に含まれるに至ったのでしょうか。これを調べていきますと、次のことが判明しました。
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・ | 「請求」 |
「請求」にかかわる機能としては債権機能が該当すると考えらますが、債権機能は出荷サブシステムにて実現されています。これは、出荷の時点で売上実現を認識するという業務ルールがあるために出荷サブシステムにて債権機能を実現した、という経緯があることが分かりました。 |
これで差異理由が明らかになりました。次に行うことは機能の再配置を行うべきか否かを判定することになります。
3.再配置の判定と配置先の決定
差異分析の結果に変化対応力の向上という視点を加えて対象機能の再配置を判定し具体的な配置先を考えてみましょう。筆者なりの考察を加え判定してみますが、読者のみなさんも上記の差異理由を前提に判定してみていただければと思います。
・ | 「部材支給」 |
題材の製造業SCMシステムにおける部材支給とは、協力工場へ部材を有償支給する業務を支援するためのシステム機能です。有償ではあるものの本業の売上向上を目指す販売業務とは、位置づけと業務主管組織の双方において一致しません。したがって、当該機能が支援する主管部門に対応するサブシステムに再配置することが合理的ではないかと考えられます。環境変化がないであれば現状のままでも問題ないかもしれませんが、昨今、変化がないことを前提にはできないと考えますのでこの機会に是正してはどうかと思います。 | |
・ | 「請求」 |
債権機能の配置は、先の「部材支給」に比較し判定は悩ましいところです。確かに業務ルールとしては、出荷により売上実現を認識することになっておりこのままでもよいように思えます。出荷業務の目的・役割を考えてみますと、販売部門(あるいはシステム)からの出荷指示どおりに安全・確実に顧客に出荷を行うことにあるように思えます。つまり、請求の条件やタイミングはそもそも出荷業務にとって関心事ではないのでは、と。変化対応力の点で考えてみますと、仮に業務ルールの変更により債権の発生タイミングが出荷時点から顧客着時点に変化した場合に業務的に関心事ではない変化事象により出荷サブシステムが影響を受けることになります。このように考えてきますと、債権機能はやはり販売サブシステムに配置されることが合理的ではないかと考えられます。 |
以上より、最終的には、機能を再配置すべきではないか、というのが筆者なりの結論ということになりましたが、さて、みなさんの結果はいかがでしたか。
4.まとめ
本号を含め計3回にわたり業務と情報システムの整合について連載を重ねてきましたがいかがでしたでしょうか。
本号でご紹介した差異分析や機能の再配置の検討を簡易化することは現状では困難ではないかと考えますが、何れにしましても、基幹システムの間取りと機能の配置とを階層的に視覚化することは有意義と考えます。この機会に是非、この簡易手法によって自社の情報システムを可視化してみてはいかがかと思います。きっと新たな発見があることでしょう。
最後に、3回という短い連載ではありましたが購読いただいた方々には感謝申し上げます。ありがとうございました。また機会がありましたらこれに懲りず連載できればと思います。
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