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「製造業でのグローバルパフォーマンスマネジメント(BPI:ビジネスプロセスインテリジェンス その4)」

2011.09.09 株式会社オージス総研  宗平 順己

 【デモサイトのご案内】
 先々月号からご紹介しているデモサイトですが、今月号の記事との関連がとても強くなっています。改めて、じっくりとアクセスして、これまでの記載内容の復習にご活用ください。

https://demo.ahasystems.com:8443/axel/
UserNameViewer@OsakaGas.example.com
(@を半角にしてください)
PasswordViewer

 アクセスするとダッシュボード(Flashboardと呼んでます)の画面が表示されますが、
 At a Glance
を選んでもらうとKPIの一覧をツリー構造でみることができます。
 Tier1がトップレベルですので、ここを選ぶと全部のKPIを見ることができます。
 KPIの表示内容については下記のPDFファイルを参照ください。
 Axel使用方法説明書(簡易版).pdf

 Flashboardの画面でも、KPIツリーからでも良いですが、KPIを一つ選択してクリックするとそのトレンドを示す画面が表示されます。Forecastingを選ぶと今後の予測もみれます。
 いろいろとパラメータをいじって遊んでみてください。

*デモシステムに関する問い合わせ
 Munehira_Toshimi@ogis-ri.co.jp
 (@を半角にしてください)

【本論】
1.グローバルパフォーマンスマネジメントの必要性

 多くの製造業がグローバル展開を加速させていますが,グローバル経営の成熟度が高まるに従って,グローバルでの統一オペレーションとローカルオペレーションとのバランスのとれたマネジメントが求められるようになってきます。
 その重要な成功要因として,適切なKPIを設定することがあげられます。「適切」には「意味がある」ということと「測定できる」という2つの意味があります。
 一般に企業活動は経営レベル,マネジメントレベル,業務レベルの3つのレイヤに分けられ,従って,意思決定ならびにそれをサポートするKPIも3つのレベルがあります。
 戦略レベルの意思決定は,経営陣の責務であり,組織全体の方向性を決定づける再決定のできない非常に重要なものです。マネジメントレベルの意思決定は,戦略の枠組み内において,短期的かつ限定された業務範囲におけるコントロールをするためのものです。
 一方,業務レベルの意思決定は,個々の顧客,一つの取引,ビジネスプロセス上の一つのタスクに対してのみ影響を与えるなど一つ一つのビジネス価値は小さいものの総量が多く,蓄積された場合の価値は大きなものとなるという性質があります。そのため,ルール化され標準として一連のビジネスプロセスに組み込まれているべきものであるとされています。
 この意思決定のレイヤ構造はバランスト・スコアカードにおいても戦略マップおよびBSCの垂直構造として表現されているわけです。
 この命題に対し,BSCとSaaSアプリケーションを用いたKPIモデルの構築方法について以下ご紹介します。

2.構築するマネジメントモデル

 図1が目的とするマネジメントモデルです。

対象とするマネジメントモデル
図1 対象とするマネジメントモデル

 全社視点のKPIをモニタリングしつつ異常の兆候があった場合は製造工程のプロセスのKPIまでブレークダウンして対象を特定します。
 製造プロセスに関しては,IEC62264-1:2000(ISA-95)において表1に示す4層の階層モデルが定義されています。この階層モデルとも対応したものとなっています。

表1.製造の階層モデル(IEC62264-1:2000)
製造の階層モデル(IEC62264-1:2000)

3.モデル企業の設定

 KPIモデルを構築するにあたって,現業の関心を引くためには,各自の問題意識に近いケースを設定する必要があります。そこで,グローバル展開している製造業をとして下記のモデル企業を設定しました。以降は皆さんの状況と照らし合わせながら読み進んで下さい。
【前提】
・一般的な組み立て型製造業を対象で、BtoCなど家電のイメージ
・量産品(見込生産)を対象とする

【背景】
◇第1次グローバル展開
・製造コストが低い地域での生産が必要なため,海外(東南アジア)に工場進出した。
・日本での製造スタイルを(そのまま)現地に適用。
・マーケットは日本が中心(国内のデリバリーネットワークは完成している)

◇第2次グローバル展開
・海外マーケット(欧州,北米,南米)への進出
・東南アジアでは引き続き日本向けの生産を続けている。
・各国の機能と品質については,以下の通り。

機能品質
日本
欧米
南米

・ローカル仕様の製品を現地にて製造・販売,調達も現地にて実施。
・製品設計は日本にて集中実施。
・生産管理は現地にて実施。
・製造設備は現地にて調達。
・需要予測は現地にて実施。
・ローカルのデリバリーネットワークを整備。
・事業のグローバル展開に応じて生産拠点をマーケットに近接した地域に設置。
・マーケットのローカル特性に合わせた製造スタイルを適用。

【マネジメント上の課題】
・ローカル市場の特性に応じた生産システムを構築
・そのため本部から見ると入り組んだ管理状況となっており,均一的なマネジメントが難しくなった。

4.KPIモデル構築のプロセス

 以下に設計手順を示します(途中まで前号でご紹介しました)。手順4まではどのようなBIツールを用いようと共通的な手順です。

手順1BSC「戦略マップ」による戦略の可視化
手順2「戦略マップ」からKPIの設計
手順3KPIの階層化・整合化
手順4データ項目の設計(DWHへの要求事項の抽出)
手順5ツール独特の関数などの設計・定義・登録とデータ項目へのFB
手順6各階層・役割に応じたビューの設定

以下,各手順の概要を説明します。

4.1 手順1:BSC「戦略マップ」による戦略の可視化

(1)戦略の方向性設定
 戦略マップ作成に先立って,戦略の方向性を下記のように整理されています。

◇第1次グローバル展開:競合は国内企業
・生産力の確保
・価格競争力の維持
・利益率の確保

◇第2次グローバル展開:競合は各国の企業
○グローバルHQ
・マーケットの特性に応じたパフォーマンス管理
・同時にブランドの統一性の維持
・地域のポートフォリオ管理 ~ グローバルでのビジネスリスクマネジメント
○日本(ローカル、東南アジア)
・高機能品が要求されるが競争も激しい
・新製品の売れ行き状況を見てダイナミックに生産量調整が必要
→マーケットに支持されないことが判明した場合には,直ちに新製品を投入するか
 一つ前のバージョンの製品を増産
・常に新製品の最初の生産拠点となるために,生産性・品質のコントロールが最初は難しく調整が常に求められる
・生産技術が安定すると,東南アジア、ならびにグローバルに展開
・旧機能製品を低価格で,新製品を従来価格以内で提供する
○欧米
・現地競合に対する機能による製品競争力の維持
・価格競争力の維持
・利益率の確保
○南米
・生産力の確保
・現地競合の低価格に対する価格競争力の維持
・利益率の確保

(2)戦略マップの作成
 上記のような方向性を前提として,HQおよび3エリアの戦略マップへの落とし込みを実施します(図2)。戦略マップ作成にあたっては,正しく戦略マップを作成できるように、我流で進めるのではなく、これまでの連載でご紹介しているように「戦略マップ」の本に記載されている戦略マップのテンプレートを利用します。
 BSCの適用はしったかかぶりにならないように、かならず原理原則を参照して下さい。

戦略マップの作成
図2 戦略マップの作成

4.2 手順2:戦略マップからKPIの設計

(1)各エリアレベルのKPIの設計
 各エリアの戦略マップからKPIを設定します。このKPI設計にあたってもエリアレベルでは「戦略マップ」に記載されているKPIのテンプレートを参照します。ここもとても重要な点です。戦略マップ同様、誤った理解でKPIを設定すると全く使えないものになってしまいますので,必ず原理原則に立ち戻ってください。

(2)下位レイヤへの展開
 上位レイヤのKPIは事後的指標です。パフォーマンスドライバーを明らかにするためには,上位KPIをResults Chainを考慮して下位KPIに展開する必要があります。エリアレベルのKPIを設計後,図1に示したマネジメントモデルを実装するために,下位に工場,ライン,プロセスのレイヤを設定し(計5階層),KPIへと展開します。(図3)

戦略マップからKPIの設計
図3 戦略マップからKPIの設計

4.3 手順3:KPIの階層化・整合化

(1)整合化の必要性
 手順2では上位KPIをプロセス階層モデルに展開しました。この方法をResults Chainと呼んでいます。一般的なBSCの設計ではこれで十分なのですが,この展開結果を各プロセス階層においてマネジメントできるのかというチェックをすると、例えばラインレベルに工場レベルのKPIが設定されているなどの不整合が見つかります。
 このため,KPIの展開はResults Chainに従って単純に階層展開するのではなく,その指標はどの階層でみるべきなのかを同時に判断し,因果関係では上限関係であっても同一階層で管理すべきものについては,その階層内での上下へのKPIの展開を設定する必要がります。このためプロセス階層については上下ではなく左右に展開する表形式を採用します(図4)。

KPIの階層化・整合化
図4 KPIの階層化・整合化

 このため,KPIの展開はResults Chainに従って単純に階層展開するのではなく,その指標はどの階層でみるべきなのかを同時に判断し,因果関係では上限関係であっても同一階層で管理すべきものについては,その階層内での上下へのKPIの展開を設定する必要がります。このためプロセス階層については上下ではなく左右に展開する表形式を採用します(図4)。

(2)グローバル統一指標とローカル指標の識別
 整合化を進めると,HQから生産プロセスまで展開される統一指標を決めることができます。この過程を通じて,エリア,工場単位でローカルに管理したい指標との区別が可能になります。

4.4 手順4:データ項目の設計(DWHへの要求事項の抽出)

 KPIの設計では同時にそのKPIの計算式も定義しています。この定義にしたがって,どのようなテーブルが必要となるのかを検討するのがこの手順です。これはDWHへの要求事項となります。
 データ項目の設計段階になると,どの周期やタイミングでデータを収集するのかを決めないといけないことに気付きます。
 プロセスとラインは日単位,工場は週単位,エリアとHQは月単位でモニタリングすることとしています。(図5)

データ項目の設計(DWHへの要求事項の整理)
図5 データ項目の設計(DWHへの要求事項の整理)

4.5 手順5:ツール独特の関数などの設計・定義・登録とデータ項目へのFB

 ここまで完成すると定義したものをBIツールに載せ替えるだけとなります。今回採用したのはAha!Soft社のAxel (http://ahasoftware.com/axel.html)で、2010年5月にフロリダ開催されたBSCのエグゼクティブセミナーで紹介されたものです。
 このソフトはExcelの関数を定義するような感覚で定義できるため,この試行に際しSEの支援は不要でした。ただし,どのようなBIソフトであれ,それぞれの癖はあります。Axelへの載せ替えに際しても準備されている関数表現の制限からデータ項目やKPIの定義式,KPIそのものの変更が多少必要となっています。(図6)
 詳細は,冒頭にご紹介しているデモシステムにアクセスしてみて下さい。

ツール独特の関数などの設計・定義・登録)
図6 ツール独特の関数などの設計・定義・登録

4.6 手順6:各階層・役割に応じたビューの設定

 マネジメントモデル(図1)に示したように,企業内で用いるパフォーマンス指標は、マネジメントレイヤによってその関心が異なります。
 そこで、Axelの機能を用いて,いろいろなロール毎にどのKPIを見るのか,ビューを設定しました(図7)。(デモシステムでもViewを切り替えてご確認ください)

各階層・役割に応じたビューの設定
図7 各階層・役割に応じたビューの設定

 なお,現状の延長線上でのKPIの推移予測や,指定期間での最大,最小および平均値,モニタリング間隔(日,週,月)の切り替えなどはAxelの基本機能として準備されていたので,その機能を活用しています。

5.データの作成からわかること アジャイル型の必要性

 以上の検討を経て,さてデータを登録しようとすると,この時点で過不足に気付くことが多々あります。デモシステムの構築において最も時間を要したのが,実はデモデータの作成でした。
 KPIモデルの設計段階だけでは気付かなかった不足事項がデータ作成の過程で発見されます。例えば,計算式と必要なデータ項目は設定したものの,現実の工場でのオペレーションを考えるとそのようなデータをとることはできない,あるいは無意味であるといったようなことがわかります。
 加えて,実際にKPIツリーでモニタリングをはじめると,KPIの追加、変更は必ず出てきます。採用するBIツールは変更が容易なものを選択しておく必要があります。

 以上で,構築手順の説明は終わりです。
 次号は,このように構築されたシステムとBPMとの関係について説明します。

 

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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