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「「BABOK(R)」の近況 ~BABOK(R)のアジャイル拡張版とビジネスアナリシス(BA)の認定資格の状況~」

2012.02.08 株式会社オージス総研  林 公恵

「BABOK(R)」「BA (Business Analysis)」ビジネスアナリシスの知識体系について、前回は「BABOK(R)」の概要を紹介しましたが、今回は「BABOK(R)」の近況として、BABOK(R)のアジャイル拡張版とビジネスアナリシス(BA)の認定資格の状況について紹介します。

1.BABOK(R)のアジャイル拡張版

2011年11月にIIBA(R)からBABOK(R) ガイドアジャイル拡張版(The Agile Extension to the BABOK(R) Guide(November 2011 Draft for Public Review))が発表されました。
BABOK(R)は、ビジネスアナリスト(ビジネスアナリシス活動の実践者)を支援するための「ビジネスアナリシスのプラクティスをまとめたグローバルなスタンダード」(ビジネスアナリシスの実務の中で実践され有効性が認められてきた活動の集合)として、ビジネスアナリシスの知識エリアとタスク、そこで使用されるテクニックが定義されています。現在のBABOK(R)ガイド2.0は特定の開発プロセスを前提にはしていませんが、どちらかというと「ウォーターフォール」的なテクニックが多く、「アジャイル」特有のテクニックは不十分でした。そこで、ビジネスアナリストがアジャイル開発プロジェクトへ効果的に支援するためにアジャイルプラクティスとそのビジネスアナリシステクニックを紹介すること、また、アジャイルチームで分析を担当している人に利用可能な方法論とテクニックや、チームやプロジェクト、組織に対して最高の価値を与えるにはいつ、どのようにテクニックを適用すればいいのかについての便利なガイドラインを提供することを目的にアジャイル拡張版が開発されました。
ここでは、今回発表されたパブリックレビュー用のドラフト版の2章以降について簡単に内容を見ていきます。

■ アジャイルライフサイクルにおけるビジネスアナリシス

2章では、Scrum、Extreme Programming (XP)、Kanbanについて、アジャイル開発の方法論やフレームワークの簡単な説明とビジネスアナリシスの位置づけとテクニックが書かれています。
Scrum、Extreme Programming (XP)、Kanbanにおけるビジネスアナリシスの位置づけとテクニックは以下のとおりです。

Scrumにおけるビジネスアナリシス
Scrumでは明示的にビジネスアナリシスのアクティビティとしていませんが、以下がビジネスアナリシスにあたります。

テクニックは、Backlog Management、Retrospectivesを使用します。

Extreme Programming (XP)におけるビジネスアナリシス
XPでは基本的に、最も価値のあるフィーチャーが何かを知っている少人数の顧客がいるということを前提にしており、そこではビジネスアナリシスのアクティビティについては明示的に示されていません。しかし、XPを大規模開発で適用したり、顧客がフィーチャーの価値について明確なビジョンを描けていないときに、ステークフォルダーが最大価値の共通認識を持つように、ストーリーマッピングなどのテクニックを使い、ファシリテートすることが、ビジネスアナリストの重大な役割としています。
伝統的なXPではユーザーがユーザーストーリーを作成し管理しますが、これについても、ビジネスアナリシスのスキルで潜在的な問題を明らかにしたり、ステークフォルダーの合意をとったり、最大の価値を生み出すために本来的な価値に欠けるストーリーをブロックしたりフィルターする、などの役割が期待されます。
テクニックは、UserStories、StoryMapping、StoryDecomposition、StoryElaborationを使用します。

Kanbanにおけるビジネスアナリシス
Kanbanにおけるビジネスアナリシスは、他のアクティビティと同様にライフサイクルを通じて継続的に実施されることになります。キューにある仕事の優先順位づけおよびその保守などにビジネスアナリシスのテクニックが活用されます。
テクニックは、要求の引き出しやスコープ決め、要求の管理と優先順位づけという標準的なビジネスアナリシスのテクニックを使用します。

■ アジャイルライフサイクルにおけるビジネスアナリシス

3章では、アジャイルにおけるビジネスアナリシステクニックについて、BABOK(R)の知識エリアのタスクにマッピングしており、それぞれのタスクでの使い方が書かれています。

4章は、アジャイルビジネスアナリシスの7つの原則とテクニックのマッピング、そして各テクニックの説明です。
原則はDiscoverとDeliveryの2つに分類されます。Discoveryはプロダクトのwhatとwhyを扱い、「See The Whole」、「Think as a Customer」、「Analyze to Determine What is Valuable」が該当します。Deliveryはプロダクトのhowとwhenを扱い、「Get Real Using Examples」、「Understand What is Doable」、「Stimulate Collaboration & Continuous Improvement」、「Avoid Waste」が該当します。

7つの原則とアジャイルビジネスアナリシステクニック、そしてBABOK(R)の知識エリアのマッピングを表1に整理しました。なお、知識エリアの番号は以下のとおりです。また、枠内の数字はそのテクニックを使用するタスク?です。

2:Business Analysis Planning and Monitoringビジネスアナリシスの計画とモニタリング
3:Elicitation引き出し
4:Requirements Management and Communication要求のマネジメントとコミュニケーション
5:Enterprise Analysisエンタープライズアナリシス
6:Requirements Analysis要求アナリシス
7:Solution Assessment and Validationソリューションのアセスメントと妥当性

表1.7つの原則・アジャイルビジネスアナリシステクニックとBABOKRの知識エリアのマッピング
7つの原則・アジャイルビジネスアナリシステクニックとBABOKRの知識エリアのマッピング

なお、3章の最後にはBABOK(R)ガイドで記述されているテクニックと7つの原則のマッピング表もあります。

以上が、BABOK(R) ガイド アジャイル拡張版の概要紹介です。なお、今回公開されたパブリックレビュー用のドラフト版は、IIBA本部サイトよりダウンロードできるようになっており、2012年2月29日までフィードバックを受け付けています。IIBA会員以外でも受け付けていますので、興味のあるところから読んでみることをお勧めします。

2.ビジネスアナリシス(BA)の認定資格の状況

■ CCBA(R)日本語試験の開始、国別資格所有者「世界第1位!」

ビジネスアナリシス(BA)の認定資格についての2011年の特筆すべきことは、認定資格CCBA(R)日本語試験の開始です。
IIBA(R)は、ビジネスアナリシスの経験と知識を有する人材を認定する資格として、CBAP(R)(Certified Business Analysis ProfessionalTM)とCCBA(R)(Certification of Competency in Business AnalysisTM)があります。CBAP(R)は、さまざまな規模や複雑さを持つプロジェクトにおいて、スキルと専門知識を使ってBAワークを行う、上級ビジネスアナリストのための資格で、CCBA(R)は、ビジネスアナリストとしての経験が認知され、そのキャリアのマイルストーンを達成したいと願うビジネスアナリシスの実践者のための資格です。CBAP(R)資格保有者は、2012年1月28日現在で、1662名、内日本では16名になりました。(2010年3名、2011年13名)
一方CCBA(R)は、2011年1月から英語でCBT(コンピュータ)試験が開始されました。IIBA日本支部では、まず受験資格のハードルの低いCCBA(R)資格保有者を増やすことでビジネスアナリシス・BABOK(R)の普及の助けとなるように、本部と粘り強く交渉して日本語で受験できるようにしました。日本語試験第1回目は2011年11月26日ペーパー試験で実施され、69名が受験し28名が合格しています。その結果CCBA(R)資格保有者は、2012年1月28日現在で18カ国93名の内、日本が29名(日本語試験以前に英語・CBT試験で1名合格)となり、国別ではアメリカを押さえ、世界第1位となりました!
なお、多数の受験者を確保した実績が認められ、2012年1月4日から日本語試験もCBT試験で受験できるようになっています。

1月29日のIIBA日本支部2011年度年次総会では、今後の目標として、「CBAP(R)試験の日本語化」、「出願プロセスの日本語化」、「試験センターの増設(現在東京1箇所)」を挙げていました。BABOK(R)ガイド日本語版の実績とCCBA(R)日本語試験の成功により、本部も日本支部に注目しているとのことでしたので、受験環境が整備され、受験しやすい環境もそう遠くなく実現できることでしょう。

■ BABOK(R)資格が「いる資格」にランクイン

日経コンピュータが毎年調査している「いる資格、いらない資格」で、2012年版にBABOK(R)(CCBA(R),CBAP(R))が初めて調査に追加されました。(日経コンピュータ2011/12/8号)
結果、ユーザー企業のシステム部長の22.2%がITベンダーの技術者に取得してほしいと回答し9位に入りました。また技術者が取得済、取得したい資格でも6位にランクインしました。営業担当者に対しても同様で、ユーザー企業が営業担当者に取得してほしい資格では4位(6.3%)、ITベンダーが自社の営業担当者に取得させたい資格では2位(13.3%)にランクインしています。

背景として、アジャイル開発や低予算で始める新規事業などでは従来型の分業が困難になっており、上流からの案件獲得が重要になってきたため、「多能スペシャリスト」が必要になってきており、超上流工程の人材育成を強化するITベンダーが組織的に社員の受験を促していることが理由であるようです。PMPは、「プロジェクトマネジメントの重要性に対する認知度」、「PMBOK(R)という資格の基盤の整備」、「資格取得を会社施策として推進」の3本柱でPMP資格取得者が大幅に増加しました。また、PMP資格保持者を入札要件にしている、といったような国の後押しも普及促進要因です。BABOK(R)についても、認定資格CCBA(R)の日本語試験が始まり、会社施策として資格取得を促進するところが増えることで、PMBOK(R)と同様に技術者の認定資格取得が一気に増加するだろうと思います。また、失敗プロジェクトを発生させないためにも、プロジェクトマネジメントと同様にビジネスアナリシスの普及についても国の後押しがされるようになることを期待したいところです。

今回は、BABOK(R)の近況として、BABOK(R)のアジャイル拡張版とビジネスアナリシス(BA)の認定資格の状況について簡単に紹介しました。
アジャイル開発については、昨今国内においても当社も含めて活用する企業が増えており、アジャイルによるプロジェクトに従事する開発者が増加してきました。アジャイルのプロジェクトでは、1つのイテレーションで、要求分析→開発→テストを行い、それを短期間で反復するため、プロジェクトチームの体制によっては、開発チームも積極的にビジネスアナリシストの役割が求められるようになります。アジャイルによるプロジェクトの増加に伴い、技術上の専門性に加えてリエゾンとしてのビジネスアナリシススキルを備えた多能的な開発者が、今後ますます求められるようになるでしょう。
BABOK(R)アジャイル拡張版が、アジャイルに臨むビジネスアナリストだけでなく、今までビジネスアナリシスのスキルは自分とは関係ないと考えていた開発者にも活用され、アジャイルなプロジェクトの成功に繋がるようにしたいものです。また、今までは困難だとされていた大規模開発にもアジャイルを適用する機会が増えるでしょう。大規模なアジャイル開発を成功させるためにも、是非多くの人にビジネスアナリシスについて関心を持ってもらいたいと思っています。

(株式会社オージス総研は、BABOK(R)の趣旨に賛同し、その普及と利用促進のために法人スポンサーとして、活動しています。)

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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