WEBマガジン
「製造業のリファレンスモデルを考える 第一部 ビジネスプロセスリファレンス」
2012.07.12 株式会社オージス総研 宗平 順己
今月号から、製造業のリファレンスモデルについて考えていきます。
その第一部として、ビジネスプロセスモデルのリファレンスモデルについて、これから数回にわたって紹介します。
1.はじめに
ビジネスプロセスを設計する際に問題となるのが,プロセスの粒度(対象とする業務範囲の大きさ)です。従来のシステム分析のアプローチでは,ユーザ業務をヒアリングし,業務を体系化するボトムアップアプローチが中心であり,この場合,例えば小分類と位置付けられているプロセスの粒度がヒアリングの回答者によって異なりやすい、また,SCMなど企業間の業務プロセスの同期と統合化は難易度が高く,労力を要するといった課題があります[2],[3]。
この問題の解決策として,業務階層についてのプロセス粒度の決定に際して参照できる詳細プロセスリファレンスの構築しました。
2.リファレンスに求められる要件
2.1.対象とするビジネスモデリング手法
ビジネスモデリングの手法は,DFD,IDEF,BPMNなど複数存在しますが,ここでは筆者らが提案するビジネスモデル設計手法を対象とします[4]。
筆者らの提案によるモデル要素をこれまでの経営学の主張との比較において示したのが表1です。
表1 筆者らのビジネスモデル設計でのモデル要素
表1に示すように,作成するモデルは,企業のビジネス構造を示すビジネスモデルと,その実行プロセスを示すビジネスプロセスモデルとで構成されています。
筆者らの手法は以下のように,その成果をシステム開発へとつなげ,作成されたモデルが情報システムを用いて実装されることを目的としています。
1)ビジネスモデル設計
・ビジネス構想
・ビジネスモデリング
・ビジネスプロセスモデリング
2)システムモデル設計
・システムモデリング
3)情報システム開発
・情報システム実装
このため,これらのモデルの記述にあたっては,システムモデルへのシームレスな連携を担保するために,システムモデルの表現言語であるUML (Unified Modeling Language)を用いており,ビジネス領域に適用するためのUML拡張を定義しています。
粒度問題については,表2に示すような,トップダウンアプローチを採用しています。取引先を含めプロセス全体を鳥瞰し,徐々に詳細を定義するようにしています。
表2 プロセスの階層構造
このモデル化のベースとして,図1に示すポーターのバリューチェーンモデルを用いていますが,大分類までしか定義されていないため,その下位プロセスの定義は,現状では個人差が生じてしまいます。そこで,この下位プロセスを定義するための詳細プロセスリファレンスを作成しました。
2.2.求められる要件
以上の前提を踏まえ,詳細プロセスリファレンスに求められる要件を次のように設定しました。
- 階層構造を持っていること
表2のようにプロセスを階層構造で定義していることによる。 - バリューチェーンモデルと類似の構造であること
これは,筆者らのモデル構造がバリューチェーンモデルに基づいていることによる。 - サプライチェーンモデルの表現ができること
表1,表2に示すように,最上位のモデルは企業間ビジネスモデル(サプライチェーンモデル)であることによる。 - 評価指標との紐付けがあること
表1にある目標ビューはBPRの目標をBSC(Balanced Score Card)で示すものである。同様の考えを持っていることが求められる。
これらの条件に合致しそうなリファレンスモデルとしてAPQC PCFとSCORという世界的に広く利用されている二つのモデルを対象にしました。
次号では,この2つリファレンスモデルについて紹介します。
(参考文献)
[1] | 伊丹敬之, 加護野忠男:「ゼミナール経営学入門」, 日本経済新聞社(2003) |
[2] | 塩見英治: "SCMの構築と課題", 企業研究, 2, pp.1-14(2002) |
[3] | 松尾博文:"SCMの成功要因と課題", Business insight, 15(1), pp.6-19 (2007.Spr.) |
[4] | 森雅俊, 宗平順己, 左川聡: "ビジネスモデル設計とUML表記に関する研究", ビジネスモデル学会論文誌,Vol.3.(2005) |
*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。
『WEBマガジン』に関しては下記よりお気軽にお問い合わせください。