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「製造業のリファレンスモデルを考える 第二部 詳細プロセスリファレンス」

2012.10.16 株式会社オージス総研  宗平 順己

1.前号の振り返り

 前号では、世界的に有名なAPQC PCFとSCORという世界的に広く利用されている二つのリファレンスモデルの比較結果を紹介しました。
 この比較にあたっては、図1、図2に示すように両リファレンスの構造をモデル化しました。

APQC PCFのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)
図1 APQC PCFのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)

SCORのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)
図2 SCORのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)
図1、図2は、こちらからダウンロードすることができます。

 2つの構造を比較すると、次の3点が指摘できることがわかりました。

(1)バリューチェーンモデルでは支援プロセスとして位置付けられている調達をメインプロセスとする必要があること
(2)SCORの配送のプロセスが他の2つ比べると詳細すぎ構造化されていないこと
(3)SCORと比較してAPQC PCFの計画プロセスの構造化が不十分なこと

2.詳細プロセスリファレンスの作成

 両モデルの構造の違いを生み出している最大の原因は,SCORのコンフィギュレーションレベルにあります。ここでは生産方式の違いを示しているのであり,プロセスのレベルを定義しているわけではありません。
 このため,構造を可視化した際に,複雑なダイアグラムとなってしまうわけです。そこで,SCORのエレメントレベルは,APQC PCFのアクティビティと同じレベルの粒度であるのかを検証するために,2つのモデルの詳細比較を行いました。その一部を表1に示します。

表1.APQC PCFのアクティビティ(左)とSCORのエレメント(右)の対比例
APQC PCFのアクティビティ(左)とSCORのエレメント(右)の対比例

 紙面の関係で表1には一部しか表示していませんが,全ての要素について比較したところ,SCORのエレメントはAPQC PCFのアクティビティに対応し,かつ生産や返品などでは追加のプロセスを定義していることも判明しました。
 以上の検討結果から,APQCの調達,生産,出荷のプロセスのアクティビティをSCORのエレメントと置き換えることとしました。なお,SCORのコンフィグレーションレベルである生産方式の違いはレベルではなくケースの違いとして扱うこととしています。
 この結果の一部を以下に示します。
 全ての情報はElapizBEのモデルファイル、またはCSV形式で提供しています。個別にご連絡いただければ提供します

詳細プロセスリファレンスの一部(SCORとAPQC PCF を合成した範囲のみを示す)
詳細プロセスリファレンスの一部(SCORとAPQC PCF を合成した範囲のみを示す)

3.適用効果の推定

 ある案件でビジネスモデリングを実施した際,担当者ごとのプロセスの粒度の共通認識がなかったために,最終的に必要とされたものの3倍ものアクティビティ図(約450のビジネスユースケース)を書くことになってしまい,その結果工数が25%も増大してしまいました。
 今回ご紹介した詳細プロセスリファレンスは、このケースへの反省も含めて取り組んだのですが、先のケースで定義されたアクティビティ図(業務フロー)を今回紹介した詳細プロセスリファレンスと対比したところ、その半数がActivityレベル以下の小さい粒度をビジネスユースケースとして設定していることがわかりました。現場にヒアリングした際に陥る典型的なリスクケースに見事にはまってしまったわけです。
 読者のみなさんにおいても,同様に現場にヒアリングすると細かすぎる業務フローを書いてしまって、開発工数が異様に膨らんだ経験を多数お持ちだと思います。
 この詳細プロセスリファレンスがあれば,この事態は避けることができますので、ぜひご活用頂ければ幸いです。

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