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「製造業のビジネスモデルとエンタープライズ・アーキテクチャ その3」

2013.01.18 株式会社オージス総研  宗平 順己

 多くの製造業は今グローバル化などビジネスモデルの転換が急務となっています。一方で硬直化したシステムがビジネスモデル転換の足かせとなることが多いというのも事実です。
 このような企業のビジネスモデルと企業システムのアーキテクチャとの不一致を解消する手段として、本シリーズでは,戦略との企業システム全体の適合を図るフレームワークであるEAに改めて焦点を当ててみたいと思います。EAの実践的な手法であるアーキテクチャ成熟度ステージの考え方に基づいて,企業のビジネスモデルをEAと関係づけることができるのか,具体事例を踏まえて検証していきます。
 先月号では、先々月号の最後に触れたオペレーティングモデルというものの解説と、それに基づく、標準化についてご紹介しました。
 今月号では、オペレーティングモデルの認識マップを見事に表現した事例について考察します。

1. ビジネスモデルとEA

 図-1は、2011年9月9日に開催されたJUASスクエア2011において、株式会社リコー IT/S本部、IT/S企画センター長の石野普之氏が、同社の目指す全社システムの方向性を示されたものです。
 同社では、「事業の創造と集中」、「高効率経営の実現」を第17次中期経営計画の基本戦略として掲げており、この実現を図るため、ITガバナンスの一貫としてEAを定め、ユーザ部門と「目指す姿の共有と業務改革の共同推進」を図っています。
 文献1においてオペレーティングモデルの検討と標準化範囲の決定はシステム部門がファシリテータとなり、ビジネス部門が主体となって進めるべきであるとされていますが、まさにこの取り組みを行った結果が図-1に示されています。
 グローバル比率が5割を超えている状況を反映して、この図では企業機能(第一階層のビジネスプロセス)を世界各地域でどのように展開するのかが示されています。図の左側に示されるように、設計・生産だけでなく、調達、販売、全体マネジメントなど企業活動のすべてのプロセスが網羅されています。

RICOHのビジネスモデルとEA
図-1 RICOHのビジネスモデルとEA[2]

 また、この図の右側には、それぞれの業務プロセスの方針が示されており、各業務はその方針に基づいて、レプリケーション、ユニフィケーションどちらのパターンを選択するのかが示されています。そして、この方針検討の最深部にあるのが、先月号でご紹介した製品アーキテクチャと生産アーキテクチャの考え方です。
 同社が得意とする「画像&ソリューション分野」は競争の厳しい領域です。その中で何を他社との差異化要素とするのか、すなわち自社のコアプロセスは何かという議論の結果はこの図には明確に反映されています。例えばProductionをみると、差異化要因としての「Ricoh Production System」というものが明示され、但し工場の特性に対応すべくReplicationパターンで展開することが示されています。
 この図は以上のようにビジネス側の方針とシステムの展開方針が一枚の図で示されており、BAのベストプラクティスともいえる内容となっています。

2. まとめ

 以上、Ricohの事例も踏まえて、ビジネスモデルとEAとが、オペレーティングモデルの検討を通じて「ビジネス・アーキテクチャ」によって密接に関係することを確認しました。
 先月号の文献3の引用部分に示しましように、企業のビジネス・アーキテクチャは所与のものではありません。マーケットとの関係においてもモジュラー化から統合化への転換は容易に起こりうるものであり、この変化に柔軟に対応できるように、ビジネスもシステムも柔軟な仕組みにしておかなければならないということです。
 この検討プロセスについて、改めて、次月号で整理したいと思います。

(参考文献)

[1]Jeanne W. Ross、 Peter Weill、 David Robertson、 "Enterprise Architecture As Strategy: Creating a Foundation for Business Execution"、 Harvard Business School Press; 2006/8/8
[2]石野 普之、 「イノベーションを支えるグローバルIT/S戦略~ミッションとチャレンジ~」、 JUASスクエア2011、 2011.9
[3]藤本隆宏、 武石彰、 青島矢一 編、「ビジネス・アーキテクチャ : 製品・組織・プロセスの戦略的設計」、 有斐閣、 2001.4

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