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「製造業のビジネスモデルとエンタープライズ・アーキテクチャ その4」

2013.02.12 株式会社オージス総研  宗平 順己

 先月号では事例を踏まえて、ビジネスモデルとEAとが、オペレーティングモデルの検討を通じて「ビジネス・アーキテクチャ」によって密接に関係することを確認しました。
 企業のビジネス・アーキテクチャは所与のものではありません。マーケットとの関係においてもモジュラー化から統合化への転換は容易に起こりうるものであり、この変化に柔軟に対応できるように、ビジネスもシステムも柔軟な仕組みにしておかなければならないということです。
 この検討プロセスについて、以下整理したいと思います。

1.EAのプロセスとオペレーティングモデル

 EAのフレームワークを整備プロセスとして書き直したのが図-1です。[1]
 この図に示すように、これまで、EAの検討では4層全てについてTo-Beあるいはその前段階である次期モデルを描く必要があると考えられていました。

これまでのEAの整備プロセス
図1 これまでのEAの整備プロセス

 ところが、本連載でご紹介しましたようにアーキテクチャ成熟度ステージでの取り組みをみると、Stage2において技術の標準化(TA)への取り組みを行いますが、実はこの段階の標準化は本格的な全体最適化ではないことを理解されていると思います。サイロ状態でのインフラの運用管理の煩雑さ、無駄に気付き各システムのステークホルダーが標準システムを決めるのがこの段階での標準化であり、BAからTAへと展開するEAの全体最適には至らないアプローチとなっているからです。
 本格的にBA層からの検討を行うのは第2回、第3回で説明したようにStage3になってからであり、その際オペレーティングモデルの考慮が非常に重要であることを述べてきました。
 これまでのEAの検討ではオペレーティングモデルを考慮せず、EAガイドライン[2]を見る限りにおいては、標準化すべき範囲、してはいけない範囲などの議論をせず、業務の類似性などから標準化対象を定め、その結果体系化されていない標準化を進めていることが懸念されます。
 以上を踏まえると、EAの検討においては、以下の手順を追加するべきであると考えています。

(1)まずは自社のオペレーティングモデルを見極める。
(2)次にオペレーティングモデルと標準化との関係を踏まえて、自社における標準化の状況を認識する。すなわち、As-Isのモデル化においてオペレーティングモデルを組み込む。
(3)現状分析を踏まえて、成熟度ステージを認定する。この際も全社を画一的に判断するのではなく、オペレーティングモデルはもちろんのこと、リコーの事例に示すように、業務ドメインごとに成熟度ステージの認定を行う。
(4)この成熟度ステージの認定を踏まえて、次に目指すステージを設定する。例えば、全社インフラの共通化もなされていない状況で、業務の標準化を進めようとしているのであれば、一旦業務の標準化は保留とし、まずはステージ2の完成を目指すといったことが考えられる。
(5)次にステージ3、ステージ4の到達時期を、ビジネス環境や自社の戦略と照らし合わせて決定する。
(6)そして、ステージ3の検討に入る。オペレーティングモデルにあわせて、標準化すべき部分とローカライズ化を許す部分との見極めを行う。ただし、このプロセスは一度ではなく繰り返し実施する。グループ経営をしている場合は、グループとして共通化できるのはTA範囲だけであるが、事業群においてはレプリケーションパターンを採用できることが多い。さらに、リコーの事例に示すように、事業ドメインごとにオペレーティングモデルを検討し、組み合わせて検討する。

2. まとめ

 EAAS[3]に記載されているオペレーティングモデルと適用事例を紹介し、従来型のEAに組み込む方法をご紹介しました。重要なのはEAの検討はIT部門ではなく利用部門が実施すべきであるということです。IT部門はそのファシリテータとならなければならないということを改めて認識頂ければ幸いです。

(参考文献)

[1]加藤正和、「かんたん!エンタ-プライズ・ア-キテクチャ」,翔泳社,2004.8
[2]ITアソシエイト協議会「業務・システム最適化計画について(Ver.1.1)~ Enterprise Architecture策定ガイドライン~」平成15年12月
[3]Jeanne W. Ross, Peter Weill, David Robertson, "Enterprise Architecture As Strategy: Creating a Foundation for Business Execution", Harvard Business School Press; 2006/8/8

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