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「UXを考える その3 顧客経験価値を実装する」

2013.09.18 株式会社オージス総研  宗平 順己

 UXは使い勝手ではなく、そのシステムを使って提供されているサービスや企業そのものの価値にも大きな影響を及ぼす重要な要素であることであることを前回述べました。
 この経験価値については、Pine & Gilmoreが「経験経済」において製品、サービスまでもが急速にコモディティ化しつつある現在において、企業は自社製品を経済価値の次のステージである経験経済に発展せざるを得ないと述べています。[1]
 また、Schmitt は経験価値の概念を「経験価値マーケティング」という枠組に体系化し、以下に示す5つの顧客経験価値(戦略的経験価値モジュール(SEM)」にその基礎があるとしています。[2]

[1]感覚的経験価値「SENSE」
[2]情緒的経験価値「FEEL」
[3]創造的・認知的経験価値「THINK」
[4]肉体的・行動的経験価値「ACT」
[5]準拠集団や文化との関連付け・関係的経験価値「RELATE」

 Schmittはさらに「経験価値マネジメント」において、CEMのフレームワークには図2に示す5つの段階が存在するとしています。[3]

経験価値マネジメント
図1 経験価値マネジメント

 以上が経験価値についての説明なのですが、概念的で良くわからないというのが皆さんの正直な意見だと思います。(私もです)
 そこで、多くのITベンダが立ち上げようとしているクラウドサービスについて、図1の5段階を適用してみました。

第1段階:感覚的経験価値「SENSE」
第2段階:当社のクラウドサービスの経験価値は?どういう嬉しいことが顧客企業は経験できるのか
第3段階:どのようにクラウドにおける自社ブランドを定着させるのか
第4段階:顧客とのインターフェイスはどうするのか」
第5段階:継続的なサービス投資のしくみは

 ユーザが要件を定義してくれる受託開発とは全く異なる新たな発想が、特に第1段階、第2段階、すなわち顧客インサイトを検討する段階で必要となることがこれでわかると思います。
 さて、難しいのが、この顧客インサイトの検討です。
 この顧客インサイトを具体的にはどのように得れば良いのでしょうか。エクペリメントデザインを受託しているイギリスのサービスデザイン会社Engineのプロセスは図-3の様に紹介されています。[4]

Engine社のエクスペリメントデザインプロセス
図2 Engine社のエクスペリメントデザインプロセス

 そしてその特徴を当社は以下のように示しています。

 「Highly collaborative」が一番に挙げられていますが、これは顧客インサイトを得るのに有効な手段とされているのもので、「参加型デザイン」とか「コ・クリエーション」と呼ばれている創造の方法です

 これが、デザイン思考につながるのですが、次号ではその前に、この7月に待望の翻訳が出版された、「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases - 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」に、サービス・デザインのエッセンスが書かれていますので、その内容をご紹介します。

[1]B・J・パインII , J・H・ギルモア, (訳)岡本 慶一、「(新訳)経験経済」、ダイヤモンド社 、2005.8
[2]Bernd H. Schmitt, (訳) 嶋村 和恵, 広瀬 盛一、「経験価値マーケティング」、ダイヤモンド社、2000.12
[3]Bernd H. Schmitt, (訳) 嶋村 和恵、「経験価値マネジメント」、ダイヤモンド社、2004.3
[4]Engine社HP, http://enginegroup.co.uk/approach/, 2013/08/14

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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