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「UXから「サービスデザイン」へ その6 顧客経験価値を実装する」

2013.12.17 株式会社オージス総研  宗平 順己

 前回、エクペリメントデザインを受託しているイギリスのサービスデザイン会社Engineのプロセス(図-1)ですが、7月に待望の翻訳が出版された、「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases - 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」[2]に示されているサービスデザインのプロセスと実は同じであることがわかりましたということをお伝えしました。

サービスデザインのプロセス[1]
図1 サービスデザインのプロセス[1]

 先月号ではこの4つの繰り返しプロセスについてご説明しました。今月号では、各プロセスにおいて用いられるツールの例をご紹介します。
 表1はサービスデザインやデザイン思考で使われるツールを表にまとめたものです。いろいろなツールがあるのですが、組み合わせて使う事が多い様です。この中で特に重要と考えているものについて○を付けました。その中でも中心となるのが、カスタマージャーニーマップとビジネスモデルキャンバスです。
 まずカスタマージャーニーマップですが、これは我々が提供する製品やサービスを利用するにあたって、顧客がどのようなプロセスを経てその際どういうことを感じているのかを書き出し改善ポイントを見つけていこうというものです。
 顧客と製品やサービスとの接点をタッチポイントと呼び、カスタマージャーニーマップはこのタッチポイントが連続したものとなります。そしてこのタッチポイントの中での顧客の経験価値を下げているところ(ペインポイントと呼びます)を見つけて、これを取り除く新しいジャーニーマップを再設計するということになります。
 このカスタマージャーニーマップですが、実はいろいろな可視化方法があります。

表1 サービスデザイン/デザイン思考で用いるツール
サービスデザイン/デザイン思考で用いるツール

 私たちは図2と図3を組み合わせた形式が使いやすいなと考えています。

プロセスを中心としたカスタマージャーニーマップ
図2 プロセスを中心としたカスタマージャーニーマップ
タッチポイントにおける顧客経験を中心としたカスタマージャーニーマップ
図3 タッチポイントにおける顧客経験を中心としたカスタマージャーニーマップ

 図2は顧客側のプロセスだけでなく提供側のプロセスも示しています。図3は各タッチポイントにおける顧客体験(良い体験、悪い体験)を中段に示し、最下段で解決策へのヒントを書き出しています。
 このカスタマージャーニーマップは対象とする顧客像ごとに書くのですが、この顧客像を定義するのがペルソナとなります。一般にはペルソナの定義を先にするのですが、カスタマージャーニーマップを書いているうちにペルソナを再定義した方が良いことが分かることもありますので、決してウォーターフォール的には作業しないでください。
 表1には、カスタマージャーニーマップはAs-ISとTo-Beの2つが示されていますが、図3は主にAs-Is、図2は主にTo-Beで使用します。
 As-Isのカスタマージャーニーマップを作る際に有効なのが行動観察の手段です。また記述した内容は仮説ですのでその検証のためにインタビューを実施することもあります。
 To-Beのカスタマージャーニーマップは机上での検証になってしまいますので、検証作業が必要です。これがサービスロールプレイなどの方法です。このロールプレイはできるだけ臨場感を持たせることが必要で、新しく設計した顧客経験の評価できるように工夫することになります。システム開発を伴う場合は、当然ですがアジャイル開発の手法を採用することになります。
 この試行錯誤をなんどか繰り返して、いけそうだという自信ができてくると、次に事業化の検討に入ります。ここで登場するのがビジネスモデルキャンバスです。ビジネスモデルキャンバスについては、「ビジネスモデルジェネレーション」という素晴らしい本がありますので、ここでは説明は加えませんが、顧客への価値提供とその収入モデル、その価値を提供するためのこちら側のリソースとコスト構造を一枚の絵で表現できる素晴らしいものです。
 ビジネスモデルキャンバスで事業化の検討まできちんとすませること、ここが非常に重要であると考えています。
 以上、今回はツールを中心に説明してきました。なんとなく雰囲気は掴めたのではないかと思います。
 次号からはいよいよ製造業をモデルに製品にサービスによる付加価値を検討するということを説明していきたいと思います。

[1]Engine社HP,http://enginegroup.co.uk/approach/, 2013/08/14
[2]「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases - 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」, マーク・スティックドーン, ヤコブ・シュナイダー (著), 長谷川敦士, 武山政直, 渡邉康太郎, 郷司陽子 (翻訳)」, ビー・エヌ・エヌ新社, 2013.7
[3]The Journey Mapping Guidance,
http://www.mpa.gov.tt/diamond/sites/default/files/Customer%20Journey%20Mapping%20Guide.pdf

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