IT業務の内製化を実現するための効果的なIT人材育成とは

昨今のVUCAの時代、企業が成長し続けるには競争力維持・強化のために社会や顧客のニーズにスピーディに応え、他社と差別化したサービスを提供することが求められています。こうした時代の変化に対応するため、IT業務の内製化を目指す企業が増えています。
内製化を実現するために欠かせないのがIT人材ですが、外部からIT人材を集めようと思っても、人材を獲得する競争が激しくなかなかよい人材が集まらないのが現状ではないでしょうか。

IT人材不足がさらに深刻化するといわれている「2025年の崖」が迫る中、どのようにIT人材を確保すればよいのでしょう。
本コラムでは、IT業務の内製化を進めるために社内のIT人材育成にどう取り組むべきか、そのポイントをお伝えします。

IT業務の内製化

現実的な内製化とは

「内製化」と聞くと、ITベンダーに頼らず自社ですべてのシステム開発ができるようになる状態をイメージするかもしれません。そのため、これまでシステム開発の多くをITベンダーに委託してきた企業にとっては、開発に必要な設計やプログラミング、テストなどのスキルを身に付ける必要があり、先の読めない"コスト"と"時間"がかかるため現実的に難しい、と感じられているのではないでしょうか。

IPAが2022年10月26日に公開した「DX実践手引書 ITシステム構築編(完成版)」(以下、DX実践手引書)では「内製化」について以下のように説明しています。

開発・運用の内製化

  • 内製化とは自社でプロダクトをコントロールすること。それが出来れば外部エンジニアを活用しても問題ない

DX実践手引書 ITシステム構築編 完成第1.0版より抜粋
https://www.ipa.go.jp/digital/dx/dx-tebikisyo.html(外部サイト)

さらに「DX実践手引書」では、内製化にもレベルがあり、最終的には内部エンジニアを育成して社内に一定の内製開発力(社内開発力)を備えることが望ましい、とも述べています。

内製化を目指す目的は「自社ですべてのIT業務が行えるようになること」ではなく「競争力維持・強化のために他社と差別化したサービスを提供する企業になること」です。
そのためには、すべてを内製化するのではなく、外部のITベンダーと協働しながら内製化比率を高めて「他社との競争力維持・強化」を実現できる体制も一つの内製化と捉え、そのためのIT人材として、自社でプロダクトをコントロールできる人材、さらに、よりスピーディな対応を実現するための開発力のある人材が必要だと考えてよいのではないでしょうか。

ベンダー任せにしない、IT業務の内製化が企業の成長に繋がる

では、なぜ「プロダクトをコントロールできる人材」「開発力のある人材」を内製化すると「他社との競争力維持・強化」を実現できるのでしょうか。
外部委託における課題と、それに対する内製化の効果について見ていきましょう。

外部委託における課題

DX実践手引書(P15より一部抜粋)では、以下3点を外部委託における課題として挙げています。

  • 課題①
  • 外部委託開発はトライアルからのフィードバック、サービス実装者へのニーズの正確な伝達や設計実装などに時間的オーバーヘッドがかかりすぎることが問題となる。特に、企業の競争優位性を確保すべき領域では、一般的には、高いリリース頻度で俊敏に開発しながら試行錯誤を繰り返していくことになる。従来型の外部委託によるシステム開発、運用のスタイルでは、スピードの低下、費用の高止まり、取り組みの方向性の硬直化などの面で、プロセスに致命的な問題を生じさせやすい

  • 課題②
  • DXに取り組む上での課題を設定する際には、現場の人材の課題意識やニーズ、自社の強みを深堀りすることが重要であるが、それらの本質的な理解を外部の人材に求めることはそもそも難しい

  • 課題③
  • システムの開発を完全に外注頼りにしてしまうと、ロックインやブラックボックスの温床になり費用対効果を悪化させる可能性がある

内製化により期待される効果

これらの課題に対して、IT業務を内製化すると将来的に以下の効果が期待できると考えられます。

  • 効果①
  • 社員がITベンダーと一緒に開発プロジェクトに参加してプロダクトをコントロールできるようになると、開発スコープやスケジュールの調整、仕様変更、成果物へのフィードバックなどに素早く対応できるため時間的オーバーヘッドを軽減することができます。そのため、高いリリース頻度で試行錯誤を繰り返すことができるようになります。

  • 効果②
  • 社内でプロダクトをコントロールできるようになると、社員が把握している顧客の課題意識やニーズ、自社の強みなどへの理解度が上がり、企業の競争力に繋がる価値をプロダクトに適用しやすくなります。その結果、企業の競争優位性を確保できます。

  • 効果③
  • 内製化により社員が一連の開発業務に関われるようになると、開発に関する実践的なスキルやノウハウ、業務プロセスが身に付き、ITベンダー任せにならない体制を構築できます。その結果、外注する範囲の削減や見積もり精度の向上による外注費の削減が実現できます。また将来的に社内にIT業務のノウハウが蓄積されれば、作業の効率化やプロセス改善などによる生産性の向上を図れます。

    こうした内製化の効果を出すためには、社内でその役割を担う人材が必要ですが、冒頭で述べたように外部から即戦力となるIT人材を獲得することは困難な状況です。そこで、社内のIT人材育成が必要となります。

    ここからは、内製化を実現するためのIT人材育成について説明します。

内製化に向けたIT人材の育成

内製化を実現するために、どのように社内のIT人材を育成するとよいのでしょうか。

ITスキルの習得だけでは内製化できない

IT業務を遂行するためには専門的なスキルの習得が必要です。スキルを習得する方法は様々で、育成対象の社員の立場や身に付けるスキル、受講形態や費用などによって異なります。

「独学」で学ぶ(例:eラーニング、動画コンテンツなど)

  • 主に受講者が一方的に視聴(もしくは参加)して知識を得る学習方法
  • あらかじめ必要な知識や学びたいことが明確に定まっている場合に有効
  • 手軽で時間や場所を選ばず、単独で受講可能
  • 集合研修に比べて、比較的安価で受講できるカリキュラムが多い
【留意点】
  • 自分で計画的に取り組まないと成果がでない
  • 受講するための前提知識が備わっていない場合、外からのフォローが得られないため学習に時間がかかる

「集合:オープン」で学ぶ(例:定期開催のオンサイト/オンライン研修など)

  • 講師が存在して、受講者と相互にやりとりしながら学習を進める方法
  • 受講者の理解度に合わせて講義が進行されることが多く、講師とインタラクティブなやりとりも可能
  • 多くの場合、受講者同士のグループワークやハンズオンを通して、知識をアウトプットしながら理解度の促進を図ることが可能
【留意点】
  • あらかじめ開催日が確定しているため、受講者が必要とするタイミングに合わない可能性がある
  • 決められた開催日からの受講選択であり、人数が集まらないとキャンセルとなる場合がある

「集合:オーダーメイド(カスタマイズ)」で学ぶ(例:企業研修、階層別研修、新人研修など)

  • 「集合:オープン」の特徴を踏襲
  • 受講者のレベルや達成目標、目的、受講条件に対応した学習内容
  • 自社の事業方針や自社独自の都合などを盛り込める(演習ツールや開催頻度を指定、など)
  • 個人ではなく企業や部署など組織で実施する必要がある
  • 受講者に合わせてオーダーメイドするため、既存コンテンツに比べて学習効果は高い
【留意点】
  • 社内で研修を企画し、受講者を集める必要がある

しかし、いずれも知識として得ることが主体となるため、習得したスキルがすぐに業務で発揮できるようになるわけではありません。内製化に向けてはもう一歩、取り組みが必要です。

i コンピテンシ ディクショナリ(iCD)の考え方を適用

習得したITスキルを業務で発揮してビジネス成果に繋げるために参考になるのが「i コンピテンシ ディクショナリ」(以下、iCD)の考え方です。

iCDとは、企業においてITを利活用するビジネスに求められる業務(タスク)と、それを支えるIT人材の能力や素養(スキル)を「タスクディクショナリ」、「スキルディクショナリ」として体系化したもので、IPAが企業の経営戦略などの目的に応じた人材育成を支援する枠組みとして定めたものです。

ビジネス成果とタスクとスキルの関係

なぜ、スキルの習得だけでは人材育成として足らず、ビジネス成果やタスクを意識して人材育成をする必要があるのでしょうか。

例えば「ソフトウェアテスト」を担当する人材を育成する場合を考えてみましょう。
ビジネス成果として必要なのは「テスト自動化によるデグレの早期発見と将来的なテスト工数の削減」を実現できる人材です。
では、ソフトウェアテストに必要なスキルを習得すればそれは達成されるのでしょうか。
下図に示すように、ビジネスに必要な成果を出すには「スキル」を備えた人材が、そのスキルを発揮して「タスク」を遂行することで達成できることが分かります。

iCDにおけるタスクとスキルの関係

iCDではタスクとスキルの関係性を下図の通りに示しています。

  • ビジネス成果はタスクの遂行によって実現され、タスクを遂行するためにスキルが必要である。
  • タスク遂行時に発揮するスキルは学習から習得し、タスクの遂行によって向上させることができる。

IPA「i コンピテンシ ディクショナリ解説書」(P5)図2-1-1を一部改変
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/history/icd.html(外部サイト)

つまり、内製化の実現に向けてビジネス成果に繋がるIT人材を自社で育成するには、スキルを習得するだけではなく、スキル習得とそれをビジネス成果に繋げるタスク遂行のセットで取り組むことが重要であると考えます。

ビジネス成果へ繋げる育成の3ステップ

習得したスキルをビジネス成果に繋げるにはタスクの遂行が必要だということが分かりましたが、初めから独力でできるものでしょうか。
まずは支援を受けながら業務で実践し、そこから徐々に独力でできるよう段階的に進めていくことが効果的です。

  1. スキル習得
  2. IT業務を遂行するために必要なITスキルをIT研修やeラーニングなどで学習して習得します。

  3. 支援を受けながら実践
  4. 習得したスキルを業務で活用できるようになるために、有識者と伴走しながら業務で実践します。

  5. 独力で実践
  6. 取得したスキルを活用して、ビジネス成果に繋がる業務を独力で実践します。
    業務の実践を通して、さらにスキルを向上させます。

支援を受けながら業務で実践する方法として社内OJTが有効な手段の一つですが、IT人材が不足している中、育成まで自社で賄うのは厳しいという企業や現場も多いのではないでしょうか。

そこで、この枠組みで育成する考え方の一例として「ITベンダーを活用した人材育成」をご紹介します。

ITベンダーを活用した人材育成とは

システム開発を委託しているITベンダーに、その案件に関わっている社員(もしくは今後関わる社員)の人材育成まで支援してもらう「伴走型」の育成方法です。

ITベンダーを活用する理由

ITベンダーを活用した人材育成が効果的と考える理由は以下の通りです。

そもそも開発案件を担っているため、案件に関する理解度が高い
案件をよく理解しているITベンダーに育成してもらうことで、実案件で活かせる能力を社員が習得できます
育成対象の社員が遂行すべきタスク(業務)を把握できる
実際に開発案件に従事しているITベンダーであれば、育成対象の社員の立場や役割に応じて必要なタスクを判断できます。ITベンダーに伴走してもらいながら必要なタスクを遂行することで、OJT形式で社員を育成することができます
専門知識を有しているため、タスク(業務)遂行に必要なスキルを見定めることができる
開発経験のあるITベンダーであれば、タスク遂行に必要なスキルやノウハウを把握している可能性が高く、社員が担う役割に応じて遂行すべきタスクと備えるべきスキルを見定めることができます

上記より、ITベンダーと一緒に自社社員が開発案件に関わり、OJT形式でITベンダーに育成支援してもらうことで、実業務で活かせるスキルの習得およびタスク遂行に必要な能力を習得することができるようになると考えます。

ITベンダーとの伴走型で取り組むIT人材育成

実際にITベンダーを活用して伴走型でIT人材を育成するには、どのように取り組めばよいのでしょう。

  1. 内製化する範囲を決める
  2. 自社のリソースや開発案件の規模などから、どこを内製化するべきか、どこをITベンダーに頼るべきかを決定します。
    例えば、高度なIT技術を要する部分や即時対応が必要な部分はITベンダーを頼り、全体のプロジェクト管理や進捗管理、仕様調整といったマネジメント業務は社員が遂行できるようにする、などを検討します。

  3. 社員で役割を担う人を選出する
  4. 内製化するための要員を、社内から選出します。このとき、育成対象の社員のあるべき姿をできるだけ具体的にITベンダーと共有しておくことで、1.で決めた内製化の範囲から大きく外れることなく必要な人材を育成できます。

  5. 必要なスキルを習得する教育を行う
  6. 選出した社員が、タスクを遂行するために必要なスキルが不足している場合は、まず初めに必要なスキルを習得させます。何をどのように習得すればよいか分からない場合は、育成を支援してくれるITベンダーと相談して対象を決めるのがよいです。

  7. 開発案件に参画し、ITベンダーにOJT形式で育成してもらう
  8. 実際の開発案件に参画し、ITベンダーと一緒にタスクを遂行します。3.で習得したスキルをどのようにタスク遂行で発揮するかをITベンダーとのOJTを通して学び、実践します。

上記1~4を繰り返しながら、内製化の範囲を少しずつ広げて開発案件における内製化比率を高めることを目指します。

まとめ

最後に本コラムのポイントをあらためて整理しましょう。

  • 内製化の目的は「競争力維持・強化のために他社と差別化したサービスを提供する企業」になること
  • IT人材を育成するためには「スキル習得」と「タスク遂行」のセットで取り組む必要があること
  • 自走できるようになるためには、1.スキル習得、2.支援を受けながら実践、3.独力で実践の3ステップが必要であること
  • 支援を受けながら実践する方法として、ITベンダーとの伴走型で取り組む人材育成も選択肢の一つとしてあること
「伴走型」の育成支援のお問い合わせ
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2023年5月30日公開
※この記事に掲載されている内容、および製品仕様、所属情報(会社名・部署名)は公開当時のものです。予告なく変更される場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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