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「EDIにおける電子帳簿保存法の考え方」

2015.12.17 株式会社オージス総研  今井 英貴

去る平成27年8月24日(月)に国税庁ホームページにて「電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました(パンフレット)」が公表されました。
「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(以下「施行規則」)の改正についてのもので、その内容としては、スキャナ保存対象の範囲が拡充(これまで金額が3万円未満のものが対象だったが、特に金額面の要件が無くなった)されたり、スキャナ保存や適時入力方式の要件緩和が含まれているという点が挙げられます。

一方で今回は、記事タイトルのとおり、「EDIにおける」観点からこの法律を再度確認してみたいと思います。電子帳簿保存法の第十条は下記のとおりです。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第十条  所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

この文面によると、企業(所得税または法人税に関係する帳簿書類の保存を義務付けられている者)が「電子取引」を行った場合は、当該の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないことになります(ただし、出力した情報を書面やマイクロフィルムにしたものでも可)。

では、「電子取引」とは一体なにを指しているのでしょうか?EDIは含まれるのでしょうか?別途出ている電子帳簿保存法取扱通達(以下「通達」)の2-3に定義されています。

(電子取引の範囲)
2-3 法第2条第6号((電子取引の意義))に規定する「電子取引」には、取引情報が電磁的記録の授受によって行われる取引は通信手段を問わずすべて該当するのであるから、例えば、次のような取引も、これに含まれることに留意する。

(1) いわゆるEDI取引
(2) インターネット等による取引
(3) 電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)
(4) インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引

上記の(1)に「いわゆるEDI取引」と記述されていますので、EDI全般はこの法律の対象となってくることになります。また、それだけではなく、(2) 「インターネット等による取引」や(3) 「電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)」、(4) 「インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引」が上がっていることから、公衆回線等を活用して行ういわゆるレガシーEDIだけでなく、インターネットを使った受発注データの交換や電子メールによる取引データの受け渡し、インターネット上での商取引サイト(ECサイトやWebEDI等)も広く対象になってくることになります。

上述した内容から、ITを活用して取引データをやりとりするようなものは全て電磁的記録を保存しなければならないか、もしくは、出力した情報を書面やマイクロフィルムにして保管しなければいけないことになります。

それでは、実際にはどんな情報を保管しなければいけないのでしょうか?
通達の10-1に下記のとおり定義されています。

(電磁的記録等により保存すべき取引情報)
10-1 法第10条((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存))の規定の適用に当たっては、次の点に留意する。
(1) 電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、ディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明りょうな状態で出力されることを要するのであるから、暗号化されたものではなく、受信情報にあってはトランスレーターによる変換後、送信情報にあっては変換前のもの等により保存することを要する。

(2) 取引情報の授受の過程で発生する訂正又は加除の情報を個々に保存することなく、確定情報のみを保存することとしている場合には、これを認める。

(3) 取引情報に係る電磁的記録は、あらかじめ授受されている単価等のマスター情報を含んで出力されることを要する。

(4) 見積りから決済までの取引情報を、取引先、商品単位で一連のものに組み替える、又はそれらの取引情報の重複を排除するなど、合理的な方法により編集(取引情報の内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これを認める。

(注) いわゆるEDI取引において、電磁的記録により保存すべき取引情報は、一般に「メッセージ」と称される見積書、注文書、納品書及び支払通知書等の書類に相当する単位ごとに、一般に「データ項目」と称される注文番号、注文年月日、注文総額、品名、数量、単価及び金額等の各書類の記載項目に相当する項目となることに留意する。

上記の(1)の記述から「暗号化されたものではなく、受信情報にあってはトランスレーターによる変換後、送信情報にあっては変換前のもの等により保存することを要する。」とあり、可読性があり整然とした形式であり、自社で保管する形式により近いものということになると理解できます。 その他の項目からも、確定情報のみの保存で構わないことやある程度合理的な方法で編集することも認められることがわかります。そして、見積書、注文書、納品書及び支払通知書等の書類に相当する単位ごとに、注文番号、注文年月日、注文総額、品名、数量、単価及び金額等の各書類の記載項目に相当する項目が必要であり、単価等のマスター情報も含めておかないといけません。さらに、施行規則の第八条 第1項に以下の記述があります。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第八条 法第十条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、

(中略)
次の各号に掲げるいずれかの措置を行い、(中略)保存しなければならない。

一  当該取引情報の授受後遅滞なく、当該電磁的記録の記録事項に電子署名を行い、かつ、当該電子署名が行われている電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこと。
二  当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと。

まず、上記第1号に書かれている通り、「電子署名を行うこと」と、「タイムスタンプを付すこと」が求められています。タイムスタンプについては、原文は参照しませんが、施行規則の第3条の記述から、一般財団法人日本データ通信協会が認定するもののうち、法の要件を満たすものでないといけません。
また、上記第2号の「事務処理の規程」については、通達の10-2に下記のとおり記述されています。

(訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程)
10-2 規則第8条第1項第2号((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の訂正削除の防止))に規定する「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」とは、例えば、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める内容を含む規程がこれに該当する。(平17年課総4-5により追加)
(1) 自らの規程のみによって防止する場合
1 データの訂正削除を原則禁止
2 業務処理上の都合により、データを訂正又は削除する場合(例えば、取引相手方からの依頼により、入力漏れとなった取引年月日を追記する等)の事務処理手続(訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存)
3 データ管理責任者及び処理責任者の明確化
(2) 取引相手との契約によって防止する場合
1 取引相手とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行うこと。
2 事前に上記契約を行うこと。
3 電子取引の種類を問わないこと。

これによると、規程の中では、データの訂正削除を原則禁止にすることや、どうしても業務処理上の都合によりデータを訂正又は削除する場合の事務処理手続を定めなければいけないことになっています。また、データ管理や処理の責任者も明確にしておく必要があります。
また、取引相手との契約によって防止する場合は、関連する条項を含んだ上で事前に契約を行うことになっています。

と、駆け足でご説明してきましたが、ここまでの内容を踏まえると、やはり、EDIを行っている以上は、電子署名やタイムスタンプ等を適切に付与した上で、適切な形で取引情報を保存していかなければいけないことになります。(もちろん、出力した情報を書面やマイクロフィルムにして保管する場合はこれの例外となります。)
自社でこのような仕組みを一から構築すると、技術的にも工数的にも課題があるかと思います。ITベンダーのソリューションを活用し構築する方法やEDIごとアウトソースを行い、取引情報の保存もそのサービスベンダーに任せるという方法も検討できるかと思います。次回、記事を書ける機会がありましたら、ベンダーのソリューションやサービスを活用した取引上の保存について、考察していきたいと考えております。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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