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「「IFRSの収益認識とシステム化」について」

2010.07.03 株式会社オージス総研  竹政 昭利

 IFRSでは収益認識に関しては、IAS第18号「収益」、IAS第11号「工事契約」、IFRIC第13号「カスタマー・ロイヤリティ・プログラム」などで規定しており、論点も多数あります。ここでは、IAS第18号「収益」の物品の販売における収益の認識のタイミングとシステム化の必要性を採り上げて考察をします。なお、本文中、意見に亘る部分は筆者の私見であることを予めお断りしておきます。
 現在の日本では、出荷時に売上げを計上しているのが一般的なのではないでしょうか?収益認識のタイミングは出荷時であり、従ってシステム対応も出荷すれば売上げを計上すればよかったので、業務プロセス面から見てもシステム面から見てもそれほど困難なところはありませんでした。
 ところが、IFRSでは、収益を認識する要件として以下の5つの要件を満たすことを要求しています。

  1. 物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転したこと
  2. 販売された物品に対して、所有と通常結び付けられる程度の継続的な管理上の関与も実質的な支配も企業が保持していないこと
  3. 収益の額を、信頼性をもって測定できること
  4. その取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
  5. その取引に関連して発生した又は発生する原価を、信頼性をもって測定できること

※日本公認会計士協会HP IFRSテクニカル・サマリー IAS 第18 号「収益」訳より引用 (http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/ifrs/summary/index.html

 これによると、「物品の所有に伴う重要なリスク及び経済価値を企業が買手に移転したこと」とあります。たとえば契約書に、出荷時点以降リスクは買い手が負うと規定していれば、業務プロセスもシステムも変更なしでこれらの要件に対応可能ということになるかもしれません。
 しかし、多くの企業ではこれらIFRSの要件を満たすとすると、出荷時はまだ売上げを計上できずに、納品、検収が行われた後にはじめて売上げ計上ということになる可能性が高いようです。
 収益認識のタイミングを従来の出荷基準からIFRSで対応可能な検収基準などに変更するには、最低限、検収書の取得などを行う業務プロセスの変更を検討する必要があります。このとき検収の認識を、人手による検収書の受け渡しで良しとすれば業務プロセスの変更だけで済みますが、これをシステム化するとなると、EDI (Electronic Data Interchange)など大掛かり仕組みが必要になってくる可能性もあります。

 ところが、実際日本国内に限定すれば、物流は安定しており、離島を除き通常1日~2日後には確実に着荷します。そして、製品の不良率もきわめて低いということになれば、出荷日+標準到達日数で売上げを計上することが可能なのではないか、と言われています。この場合はシステムとしても大きな変更にはならないでしょう。ただし、この方法をとる場合、過去のデータに基づいた標準到達日数や製品の不良率などの裏づけが必要になります。これらのデータを人手で集めてくるのか?システムにより収集するのか?といった点は別途検討する必要があります。
 今までの文の中で「と言われています」、「かもしれません」などあまり断定的な言葉を使っていませんが、これらは各会社のそれぞれ異なる状況の把握と検討、そして監査人の方との話し合いで最終的には決定されます。その中で、人手の部分とシステムの部分の役割分担も各会社の事情に応じて決定する必要があります。その意味で、人手とシステムどちらで対応するか?などシステム分析設計以前の業務プロセスとシステムとの見極めが非常に重要という事が言えるでしょう。


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