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「「業務の見える化」とは?」

2010.07.04 株式会社オージス総研  小山 孝司

 私は、昨今よく使われている「見える化」という言葉は、親しみやすくセンスがいいと思っています。古くは、トヨタの生産方式に端を発するということですが、「見える化」という言葉は、「見える・ようにする」という意味が、ストレートに伝わり、また、それが優しい言葉であるが故に、「なんとなくできそう」という好印象を与えるのではないかと思っています。

 それでは、「見える化」とは一体何でしょう? 広くは、「なかなか見えないものを、容易に見えるようにする」ことが全て含まれる訳ですが、IT業界に関連が深いところでは、「経営の見える化」、「業務の見える化」、「プロジェクトの見える化」、「運用の見える化」などが代表的ではないでしょうか。

 本論からは少しそれるのですが、最近「経営の見える化」と称して、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入が盛んに行われているように感じます。もちろん、BIツールを導入することによって、経営に必要な指標が迅速に収集され、いつでも見られるようになるというのは大きな効果だと思います。しかし、注意していただきたいのは、BIツールは、現在既にある情報を収集し加工分析することしかできない、ということです。新たな観点の情報を作り出すことはできません。BIツール導入の効果を最大化するためには、まず、業務プロセスを分析し、本当に経営に必要な情報は何なのかを考え、指標(KPI)として設定することが大事です。その指標が得られるようにシステムを改変し、その後にBIツールにつなげるというステップになります。

 さて、今回焦点をあてる「見える化」は「業務の見える化」です。一口に「業務の見える化」といっても、業務のやり方(業務プロセス)を明らかにすることを指す場合もありますし、業務の現在の状況(作業の進捗状況や受注、売上といった営業状況等)の把握を指す場合もあります。ここでは、「業務の見える化」を、業務のやり方(業務プロセス)を一定の書き方に従って記述することと定義し、業務可視化と呼びます。企業の業務プロセスは、製造など手順がきっちり決まっているものを除いて、意外なほど文書化されていないのが実情です。例えば、以下のような具合です。

  • 仕事のやり方は、先輩から後輩に口伝えで受け継がれる。
  • ある仕事は、特定の人でないと分からない。
  • 部分的な作業は分かっても、その目的や仕事の全体像が見えない。
  • 業務マニュアルはあるが、更新されておらず現状とずれている。

 一方、そのような状況を問題視し、業務可視化に積極的に取り組んでおられる企業が増えています。弊社でも大手保険会社様を始め、いくつもの企業の業務可視化をお手伝いしています。業務可視化の目的は様々ですが、概ね以下に集約されます。

  • 業務効率化、業務改善。
  • 業務文書の体系化や業務手順の統一化(業務マニュアル化)。
  • 業務継承や要員の流動化、人材育成(業務の属人性の排除)。
  • 内部統制などの各種法規制対応。
  • 事務リスクや事務ミスの回避。
  • 業務再編や組織再編、企業の合併統合に向けた基準整備。
  • 業務の処理時間や原価分析。
  • 情報システム構築にあたっての業務要件定義。
  • ERPパッケージ導入にあたっての業務機能のフィット&ギャップ確認。

 これらの業務可視化の目的によって、整備すべき文書の種類や業務フローの記述レベル(概略か詳細かなどの粒度)は変わります。
 例えば、内部統制における業務可視化は、財務報告書作成に関連する業務において、リスクを認識し、それに対する統制を明らかにすることが目的であるため、業務フローでリスクと統制の所在を明らかにし、その内容をリスクコントロールマトリクスで表現します。
 あるいは、業務マニュアルの整備を目的とした業務可視化においては、図1.に示すように業務フローで業務の流れなど概要を明らかにし、詳細な作業手順は業務記述書に記述し、システム操作マニュアル等で補うなどの形を取ります。
 また、業務効率化、業務改善や業務要件定義、業務機能のフィット&ギャップなどのための業務可視化においては、業務フローのみを作成する場合もあります。業務効率化、業務改善の場合には、人が行う作業ステップに対応した比較的粒度の小さな業務フロー、業務要件定義や業務機能のフィット&ギャップの場合には、業務の概要を表現するために、いくつかの作業ステップを固まりで表した比較的粒度の大きな業務フローを用います。

業務マニュアルの構成例
図1. 業務マニュアルの構成例

 いずれの目的の場合でも、業務可視化を進めるにあたっては以下の点が重要になります。  

表1. 業務可視化の進め方のポイント
業務可視化の進め方のポイント

 また、弊社では、業務可視化プロジェクトを推進するにあたっては、全体作業量を見極め、無理のない体制で進めるために、以下のような進め方を推奨しています。

表2. 業務可視化プロジェクトの進め方
業務可視化プロジェクトの進め方

 弊社では、上記の業務可視化の進め方のポイントや業務可視化プロジェクトの進め方に沿った業務可視化手法を用いて、お客様の業務可視化をご支援させていただいています。一例として、「業務マニュアル作成による業務改善」支援事例の概要を以下に示しますので、お客様に感じていただいた「改善後のメリット」などをご参考にしてください。

【改善前の問題点】
 ・商品が複雑になり、特殊な事務処理を人手でカバー手処理事務が増大
 ・業務手順書の整備が追いつかないベテラン社員に属人化し、負荷が集中

【業務可視化の内容】
 ・プロジェクトを立案する
・・・
体制、対象範囲、スケジュール
 ・業務手順書の体系・様式を定める
・・・
読み易く、メンテナンスし易く
 ・ツール(PCソフト)を用意する
・・・
業務手順書の作成・チェックを簡単に
 ・業務手順書を作成する
・・・
業務担当者へのヒアリング
  *作成した業務手順書
A4で約5万枚
 ・業務手順書の維持管理ルールを定める

【改善後のメリット】
 ・ベテランでなくても業務を処理できる
 ・新任者の教育を効率化できる
 ・業務手順書を無理なく更新できる
 ・業務の無駄やチェックの不備を発見して、見直しできる
 ・システム化を検討に使える

 弊社では、これらの支援経験とノウハウを活かして、お客様の業務可視化プロジェクト立ち上げをご支援する「可視化スターターキット」2010/5/25産経新聞にプレスリリース)をご提供しています。概要についてはこちらをご覧ください。

 最後になりますが、弊社では、業務可視化における業務フローの記述を「UMLビジネスモデリング」で行います。UMLビジネスモデリングについての詳しい説明は、別の機会にさせていただきますが、Webマガジン2010年6月号の「BPMとABC(活動基準原価計算)の勧め」は、業務可視化の目的の「業務効率化、業務改善」および「業務の処理時間や原価分析」に該当し、UMLビジネスモデリングの概要も分かりますので、是非ご参照ください。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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