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「業務と情報システムは整合していますか?(1)-整合しているとはどういう状態を指すのか-」

2011.06.05 株式会社オージス総研  白川 浩、宇野 泰三

 本稿では、数回にわたって業務と情報システムの整合性について言及します。
 初回は、情報システムを取り巻く現在の状況を簡単におさらいし、本稿で言う「整合している」とはどういう状態を指すのかを概観し、整合していることの重要性を確認します。

1.情報システムを取り巻く状況

 情報システムがすでに企業経営に必要不可欠な存在になっていることは誰もが認めるところです。昨今では、amazon.comやgoogleに代表されるように、情報システムをうまく活用した企業が圧倒的な競争優位に立つことが出来るということが、広く認知されるようになってきています。
 企業間競争が激しさを増すにつれて、企業経営には今まで以上に俊敏さが必要となっており、情報システムには、「許容できる時間、コストで変化に追随できること」という変化対応力が強く求められています[1]。特に、業務オペレーションの効率化といった現場レベルの改善にとどまらない、事業あるいはその一部の統合・分離といった経営レベルの変化への即応性がますます求められてきています。
 しかしながら、企業が目まぐるしい環境変化に対応しようとすればするほど、情報システムの存在が足かせとなってしまっている状況も見受けられます。
 このような状況の中、情報システムが「変化対応力」を持ち合わせるために、私たちは何をすれば良いのでしょうか。本稿で扱う、業務と情報システムが整合していることが重要になってきます。

2.整合しているとはどういう状態を指すのか

 そもそも、整合しているとはどういう状態を指すのでしょうか。筆者らは次のような状態であると考えています。

・業務と情報システムとがそれぞれの構成要素において対応している

 逆に、整合していないとはどういうことかといいますと、情報システムの構造がビジネスの構造に対応していない、構造は対応しているがシステムの構造へ配置された機能が業務機能と対応していない状態ということができると考えています。

業務と情報システムが整合していない状態<
図1 業務と情報システムが整合していない状態

 上図は、業務と情報システムとの構成要素が整合していないことをイメージで示したものです。もう少しイメージが湧くように、家の間取りで例えてみましょう。料理をつくるためにキッチンがあり、キッチンには生鮮食品を冷やしておくための冷蔵庫があります。整合していないとは、冷蔵庫がリビングにあるような状況です。無用な動線が増えて不便なことこの上ないでしょう。情報システムは直接的に目に見えないためか、様々な症状として現れます。

3.整合していないと何が問題なのか

 整合のイメージを掴んでいただいたところで、次は整合していないとどういった問題が生ずるのかを検討してみましょう。
 一つには、業務と情報システム双方が複雑になってしまうことが挙げられます。さらに、変化に融通が利きにくいことも挙げられます。環境変化やビジネス変化が今後一切起きないのであれば問題とならないのかもしれませんが、それが期待できないのは1章で述べたとおりです。以降で具体例をみてみましょう。

 業務と情報システムが整合していない場合には、それを取り繕うための余計な機能やインターフェースが付加されていることが多々あります。特に情報システムが分散構成の場合は、連携や情報動線のスパゲッティ化やデータの二重持ちの可能性が高まります。情報システムの複雑さは業務の複雑さの原因ともなり、マスタの二重メンテは典型的な事例として挙げることができると思います。

 情報システムの複雑さはシステムの保守費にも跳ね返ってきます。いわゆる維持メンテコストに相当しますが、改修時に影響範囲が拡大する場合があります。それぞれの変更労力は小さくとも、テスト範囲の拡大によりテストレベルも上がります。こういった連鎖から想定以上に時間とコストがかかってしまうのです。これは、一つの業務機能が複数のシステム機能で実現されているために起こるもので、業務と情報システムの不整合に起因した症状のひとつと考えられます。サブシステムや機能の分割によりシステムの視点では独立性が高まっているよう見えますが、(変更を拡散させないという意味において)実質的には密結合に等しい状態といえます。
 業務部門にしてみれば軽微と考えられる変更要求に対し、理解できない工数が提示されてきたというケースは、よくある話ではないでしょうか。

 変化に融通が利きにくいという面では、事業統合や分離といったレベルの変化が発生した場合を考えてみます。例えば、購買業務をクラウド化やアストソースすることでコストダウンを図りたいというようなビジネス変化が起こった場合です。
 このような場合、システムから購買業務に対応する機能のみを切り離すことになります。しかし、先の図1のような状況である場合、機能が業務に整合した形で凝集化されていないことからシステムの様々な箇所(図1の凸凹に相当する)に分離作業が及ぶことが予想されます。ビジネスが求めるスピードやコストで俊敏にシステムの姿を変えることはできないことは想像に難しくないでしょう。

4.なにから対処すればよいか

 これまでに業務と情報システムが整合していないことで起こり得る問題を見てきました。逆に、両者が整合していることが「変化対応力」の保持にとっていかに重要であるかを確認してきたわけですが、そもそも業務と情報システムが整合しているかどうか客観的に把握できているかと問われると、答えに窮するのではないでしょうか。変化対応力の向上のための出発点として、業務と情報システムがどの程度整合しているのか(あるいは整合していないのか)を知っておくことは重要ではないかと考えています。
 一方で、整合性を把握することを精緻にやろうとすると大変な労力とコストが掛かります。例えば、業務の現状分析を行った上で情報システムと関係性を明らかにしていくという方法がありますが、通常では数ヶ月オーダーでの工数が必要となり、ジレンマに陥ることも考えられます。
 そこで次回は、整合の度合いを効率的に推し量るためのアプローチを考えてみましょう

5.まとめ

 本号では、整合しているとはどういう状態を指すのかについて概観し、業務と情報システムが整合していることの重要性を確認しました。
 次号では、整合の度合いを比較的簡単に推し量るための方法を紹介します。

(参考文献)
[1] 南波幸雄、「企業情報システムアーキテクチャ」、2009年、翔泳社
[2] 株式会社オージス総研、「百年アーキテクチャ」、2010年、日経BP社

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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