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「マザー工場システムに学ぼう! グローバルITガバナンスの構築 その2」
2013.05.21 株式会社オージス総研 宗平 順己
グローバル化を進める製造業ではグローバルなITマネジメントの整備において多くの課題に直面しています。この課題の解決策の一つとして,オペレーティングモデルを通じて,ビジネス・アーキテクチャとEAを関係づけられることをこの連載ではご紹介してきました。
ところで,このようなグローバルマネジメント先行事例として,新しいマザー工場のあり方が議論されています。
今回のシリーズでは,マザー工場の機能の変遷を整理したうえで,グローバルITマネジメントの課題と対比させ,マザー工場の展開で得られた知見をグローバルITマネジメントに展開することを試みたいと考えています。
前回は、マザー工場のタイプについてご紹介しましたが、今月号では、このマザー工場のタイプが最近どのように変化してきているのかをご紹介します。
1 マザー工場の進化
マザー工場は,当初から先月号に示したようなタイプが存在していたわけではありません。
中川先生は,グローバル化の進展に伴うマザー工場の役割の変化を図-1にまとめておられます。[1]
図1 マザー工場の役割の変化
海外拠点を展開している時期において,日本のマザー工場の役割は,各国の工場が順調に立ち上がるように,日本の製造ノウハウ(量,質,コスト)を現地工場に伝授することでした。いわば日本のコピーを海外に立ち上げることがミッションであり,量産役の海外工場とマザー工場を中心とする日本工場との役割分担は明確であったといえます。
しかしながら,各国の市場にあわせた製品投入が必要となった最近のグローバル化では,各国の事情にあわせた製品開発を日本で一手に引き受けることは不可能となり,海外拠点の自立化が求められるようになってきました。図-1の左側から右側へのシフトが現在のマザー工場には求められているということです。
自立化においては,各国拠点には現地のマーケットに合わせた製品開発(オリジナルからのカスタマイズ)をし,あわせて生産ラインも設計し立ち上げるという機能を有することが求められます。
旧マザー工場制度では,日本側から手とり足とりの指導がなされていたわけですが,現在は日本からの助言を仰ぎながら,自ら企画・設計することが求められているわけです。
しかしながらマザー工場の真の役割は「自立」支援ではありません。中川先生は以下の様に述べておられます。
「本国と海外を結び合わせた「トータルシステム」の変革は,海外拠点だけの改革だけでは完成しない。変化した海外拠点に合わせて,システム全体が調和するように,本国拠点側もまた姿を変えなければならないのである。
具体的には,本国拠点は自社のグローバル生産ネットワークの先頭で,自社が目指していく次の時代の製品・工程を生み出し,それを海外拠点に発信していく場所でなければならない。」[1]
2.グローバル時代のマザー工場の役割
中川先生の主張を先月号において紹介したマザー工場のタイプと照らし合わせると,以下のように整理することができます。
(3)技術伝承・集中研修型, (4)最終組立知財強化型
(5)先端モデル開発,ソリューション型
「(1)試作・プロトタイプ型],「(2)高度技術・シミュレーション型」という要素は旧マザー工場システムでも,日本での製品開発,工程開発において必要であり,新マザー工場システムでは程度の差こそあれ,海外拠点においても必要となる要素です。
したがって,新マザー工場を特徴づけるのは「(5)先端モデル開発,ソリューション型」であるといえます。
ところで、東大の藤本先生はこれからの製造業に必要なこととして,「モノからサービス化への転換」ではなく,「モノへのサービスの付加である」と指摘してされておられます。[2]
すなわち,「(5)先端モデル開発,ソリューション型」の特に「ソリューション開発」がマザー工場の新たな機能として求められているということができます。
この「モノへのサービスの付加」の典型例がKOMTRAXです。「ソリューション開発」にあたって,クラウド,IOTの急速な進展を最重要要素としておかなければならないと考えて良いでしょう。
一方,KOMTRAXは,業務システムのみを担当している情報システム部門では検討できないシステムの典型例でもあります。
企業は攻めのシステムへの転換が求められているわけですが,その役割の一端をマザー工場が担うことになっているわけです。
次月号では、このマザー工場の役割変化から得られた知見をグローバルITガバナンスに適用してみたいと思います。
(参考文献)
[1] | 中川功一,"変化するマザー工場のあり方 第6回:ダイキン工業,変革の軌跡(3)", |
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20121203/254152/, 2012.12.21 | |
[2] | 藤本隆宏, "空洞化不可避論を鵜呑みにするな「戦うマザー工場」を国内に留めよ"New Leader, 2012.1 |
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