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「マザー工場システムに学ぼう! グローバルITガバナンスの構築 その4」

2013.07.12 株式会社オージス総研  宗平 順己

 グローバル化を進める製造業ではグローバルなITマネジメントの整備において多くの課題に直面しています。この課題の解決策の一つとして,オペレーティングモデルを通じて,ビジネス・アーキテクチャとEAを関係づけられることをこの連載ではご紹介してきました。
 ところで,このようなグローバルマネジメント先行事例として,新しいマザー工場のあり方が議論されています。
 今回のシリーズでは、マザー工場の機能の変遷を整理したうえで、グローバルITマネジメントの課題と対比させ、マザー工場の展開で得られた知見をグローバルITマネジメントに展開することを試みてきました。
 今号では4回シリーズのまとめを示します。

1 グローバルITガバナンスへの望ましい対応

 グローバルガバナンスを考える場合、製造技術、ITの違いは考えにくい。
 とすれば、新しいマザー工場と同等の役割をIT部門が果たすことが求められていると考えるべきでしょう。
 先月号で示しました様に、マザー工場の進化の歴史と照らし合わせると、日本のIT部門と現地法人のIT部門との役割分担が明確になっていないことが根本の原因にあるのではないかということが類推されます。
 では、そのお手本はないのかというとそうではなく、既にこのWebマガジンでもご紹介しまたが、リコーさんのEAへの取組がまさにお手本ではないかと考えています。

1.1 リコーにおけるEA

 図-1のRICHOの事例では、当社のグローバル比率が5割を超えている状況を反映して、企業機能(第一階層のビジネスプロセス)の世界各地域でどのように展開するのかを示しています。図の左側に示されるように、設計・生産だけでなく、調達、販売、全体マネジメントなど企業活動のすべてのプロセスを網羅しています。そして、この方針検討の最深部にあるのが、製品アーキテクチャと生産アーキテクチャの考え方です。

RICOHのビジネスモデルとEA[1]
図1 RICOHのビジネスモデルとEA[1]

 同社が得意とする「画像&ソリューション分野」は競争の厳しい領域です。その中で何を他社との差異化要素とするのか、すなわち自社のコアプロセスは何かという議論の結果はこの図には明確に反映されています。例えばProductionをみると、差異化要因としての「Ricoh Production System」というものが明示され、但し工場の特性に対応すべくReplicationパターンで展開することが示されています。
 この図は以上のようにビジネス側の方針とシステムの展開方針が一枚の図で示されており、EAのベストプラクティスともいえる内容となっています。
 グローバルITガバナンスの第一歩はこのような全社EAを描くところから始まるのだと思います。

1.2 これからのグローバルITガバナンス

(1)課題の類似性と相違点

 先のRICOHの事例は、もっとも進んだEAのフレームワークを取り入れた全体設計を日本の本社IT部門が率先して実施した例です。ローカライズを許す部分とグループ全体で標準的なパターンを進める部分を見極め、共通化を進める部分に関して、EA4層に対応した標準を定め、それを標準化チームが各国のIT部門に指導する。加えて、各標準については、新しい技術動向を率先して取り入れ、常に最新のソリューションを事業部門に提供している。このようなIT部門の姿を描くことができます。

2 まとめ

 本稿では、マザー工場の発展の歴史とグローバルITガバナンスの課題とを照らし合わせて、望ましいIT部門の姿を提言しました。
 しかしながら、国内でしかビジネスを展開していないSIerに頼り切ったIT部門が多い現状を考えると、このギャップを埋めるのは相当難しいです。IT部門、SIer双方の変革が求められます。

(参考文献)

[5]石野 普之、 「イノベーションを支えるグローバルIT/S戦略~ミッションとチャレンジ~」、 JUASスクエア2011、 2011.9

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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