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「BeforeコロナとWithコロナ、テレワークのここが違う」

2020.07.27 株式会社オージス総研 コンサルティングサービス部  正木 威寛

2020年、新型コロナの感染拡大を機にテレワークが多くの企業で実施されました。緊急性が高い中で、新型コロナ対策という未知の目的で実施したため、課題も多くでてきました。本稿ではコロナ前にテレワークがどのような経緯で進められて、どのようなテクノロジーが活用されてきたのかを整理し、新型コロナ対策としてのテレワークでどのような課題が明らかになり、どのような施策が考えられるのかについて述べます。

コロナ前のテレワーク

テレワークの歴史は古く、家庭にインターネットが普及して、2Gの携帯電話も普及した2000年頃に遡ります。社団法人の「日本サテライトオフィス協会」も2000年に「日本テレワーク協会」に改称しています。それまでに想定していたサテライトオフィスというと、支社など企業が用意した作業スペースや社員の自宅の意味合いが強かったのですが、モバイルの普及によりノマドワーカーのような場所を特定しない働き方も可能になりテレワークという広い概念に改称したのだと思います。
図 1に、テレワークに関連するテクノロジーと社会で起きた事象を示しています。

図 1 テレワークに関連するテクノロジーと世間の動向
図 1 テレワークに関連するテクノロジーと世間の動向

2000~2010年

2000年から2010年は2Gから3G、そして4Gへとモバイル通信が進化し、営業や外勤の人が携帯電話で連絡を取るだけだったのから帰社をせずに出先でメールのチェックやファイルへのアクセスができるようになりました。ノマドワーカーという言葉も2010年頃には登場しています。筆者もこの頃から外出にはPCを持参し、訪問と訪問の空き時間にはカフェでメールをチェックしたりドキュメントを書いたりしていました。この時点では、あくまで外勤の仕事にテクノロジーを使って効率化するための手段がテレワークでした。

2010~2015年

2010年を過ぎると2011年には東日本大震災で都内に帰宅困難者がたくさんでたり、ゲリラ豪雨や暴風雨で都内の交通機関が麻痺するたびに帰宅困難者や出社困難者がでるようになりました。また、2013年に2020年東京オリンピック開催が決定しましたが、オリンピック会期中に都内で仕事ができるのかという課題も浮かび上がりました。このことから企業は、BCP(事業継続計画)の施策としてのテレワークを検討し始めました。この時点で多くの企業が想定していたテレワークの連続した実施日数は、東京オリンピックの会期前1週間から閉会後1週間の計1か月程度の想定で、この想定はコロナ前まで続いていたと思います。

2015~2019年

2015年を過ぎると、過労死や過労自殺が社会問題となります。また、育児や介護と仕事との両立も企業として"名ばかり制度"ではなく、実体として推進することが世論に求められるようになりました。"ワークライフバランス"や"働き方改革"の語源はもっと前ですが、頻繁に使われ始めたのはこの頃ではないでしょうか。政府が"働き方改革実現会議"を設置したのも2016年です。このことから企業もワークライフバランスや働き方改革の施策としてもテレワークに取り組むようになります。
また。総務省と経済産業省が企業と連携して東京オリンピック会期中のテレワークを想定し、2017年から毎年「テレワーク・デイズ」というテレワークのリハーサルを実施するようになりました。2019年の「テレワーク・デイズ」では2887団体約68万人が参加しています。

テクノロジーの変遷

図 2にテレワークを支援するテクノロジーの変遷を示します。

図 2 テレワークで使われているテクノロジーの変遷
図 2 テレワークで使われているテクノロジーの変遷

通信とセキュリティ

自宅でのインターネット常時接続、3Gや4Gの通信速度向上によってテレワークで活用するシステムやツールも増加し、そのためのデータ通信量も増加していきました。認証はRSA SecureIDのようなワンタイムパスワード(OTP)のハードウェアトークンが使われていましたが、スマートフォンの普及によりGoogle Authenticatorのようなアプリに置き換わっています。また、システムが増加したのでOpenAMやTrustLoginなどシングルサインオン(SSO)の導入も多くなっています。

デスクトップ

2Gの通信速度の制約もあり当初はメールや掲示板のチェックといったところだけ社内ネットワークに接続し、ドキュメント作成など作業の多くは持ち出したPCのローカルデスクトップを利用していました。3Gや4Gの時代になるとWindows標準やCitrix XenAppなどのリモートデスクトップサービス(RDS)を使って社内のサーバーや会社に置いている社員のPCに接続や、バーチャルデスクトップ(VDI)に接続してシンクライアントで完結した仕事ができるようになりました。コロナ前の多くの企業は全社員の2割から4割程度がテレワークを実施することを想定しており、新型コロナ対策での在宅ワークでは、ほぼ全社員が同時に利用したことによるキャパシティ不足や通信の異常輻輳による速度低下が起きました。

コミュニケーション

2010年を過ぎたあたりからEメール、グループウェアに加えてチャットツールも活用され始めます。従業員が家庭でTwitterやLINEなどのSNSに慣れたことにより、ビジネスにも同じことがしたいというニーズが高まったのでしょう。Slack、Yammer(現在Microsoft)、Chatworkなどのサービスがこの頃に創業しています。それから少し遅れてCisco WebEx、LogMeIn GoToMeeting(Citrix子会社)、Skype(現在Microsoft)、そしてzoomといったWeb会議のSaaSも活用され始めます。グローバル企業のベンダーではネットでのセミナー(ウェビナー)もこの頃から盛んになっています。余談ですが2020年になぜzoomばかりが流行ったかというと低遅延の性能だけでなく無料プランが用意されていたのが大きいと思います。マスコミで取り上げられてzoomが独走するまで、ほとんどの法人向けWeb会議の競合には無料プランはありませんでした。もしzoomが有料しかなかったら "zoom飲み"という使い方も生まれなかったと思います。
通話に関しては、2010年を過ぎたあたりからBYOD(Bring Your Own Device)という個人のデバイスを仕事でも活用することが提唱され、それを実現するNTTコミュニケーションズ 050Plus、楽天コミュニケーションズ モバイルチョイスなどのIP電話やメールアプリが導入されました。2015年を過ぎたあたりから内線電話のクラウド化を実現するNTTコミュニケーションズ Arcstar Smart PBX、 NTT ひかりクラウドPBX、フリービット モバビジなどのクラウドPBXも導入され始めています。在宅ワークで外線にかかってきた電話が取れない、在宅ワークをしている社員に転送できないといった問題はクラウドPBXで解消できます。

ストレージ

2005年くらいは社内ネットワークにある掲示板にアップロードや共有フォルダを利用する方法が主流でしたが、法人向けクラウドサービスが充実し、Google Drive、Microsoft OneDrive、boxといったSaaSのストレージサービスも登場し活用されるようになりました。また、それまでは個人向けだったEvernote、DropboxといったSaaSも法人向けプランを用意しています。

ユニファイドコミュニケーションツール

Office 365やGoogle G Suiteなど上記のコミュニケーションやストレージで紹介したサービスも含むオールインワンのサービスを"ユニファイドコミュニケーションツール"と呼び、Wordなどの文書作成やExcelなどの表計算ソフトウェアも含めて一括で管理し迅速に導入できるようになりました。

コワーキングスペース

2015年を過ぎたあたりからコワーキングスペースを提供するビジネスが盛んになり、WeWorkなど海外勢だけでなく日本ではカラオケチェーンの第一興商がオフィスボックスという名称でカラオケボックス(BIG ECHO)を仕事場や会議室として貸し出すサービスを始めたり、不動産デベロッパーの東急(NewWork)、三井不動産(Work Styling)が海外と同様のコワーキングスペースビジネスに参入しました。利用頻度が把握できない状況に自前でサテライトオフィスを用意しなくて良いメリットがあります。

Withコロナでの課題

新型コロナ感染拡大によって、テレワークの要件や制約がどのように変わり、そのために明らかになった課題について述べます。比較にあたって、日本テレワーク協会が公表している2015年から2019年の従業員数5000名以上の16の成功事例を用いました。保険のセールス、人材派遣、サテライトのコールセンターなどそもそも外勤や在宅が中心の事例は除外しています。

コロナ前のテレワーク企業の目的は概ね以下に集約されます。
● 業務効率化
● BCP(事業継続計画) ただしMAX1か月程度で復旧する想定
● ワークライフバランス、働き方改革

Withコロナでは、それに次の制約が加わりました。
● 期間が数日ではなく無期限
● 共働きで配偶者が在宅ワークをしていることがある
● 子供が休校・休園で家におり、日中の育児が必要なことがある

テレワーク対象者、頻度、勤怠管理

コロナ前の対象者の事例
例1) 育児・介護者
例2) 子供が小学校6年生以下
例3) 上司が認めた者
例4) 全員(対象者であり全員が一斉に実施する意味ではない)

コロナ前の頻度の事例
例1) 週2回まで
例2) 月8回まで
例3) 回数制限なし

コロナ前の勤怠管理の事例
例1) 勤怠:就業開始、終了をメールで報告
例2) 上記に加え終了メールに成果物も含める
例3) ログイン、ログオフ時間をシステムが記録
例4) 必ず7.75時間勤務
例5) 決まりなし

Withコロナでは、ほぼ全従業員が在宅ワークの対象となり、頻度も原則在宅ワークという状況ですので、前章で説明したデスクトップやコミュニケーションで出遅れていた企業は早急に改善が必要となっています。また、勤怠報告も実体として管理職者は大量のメールが着弾するので把握できていないのではないでしょうか?前章ではなかった、チケット管理やタスク管理のSaaSの活用も検討すると良いと思います。

作業場所

コロナ前の作業場所の事例
例1) 子供は保育園に預けて業務に集中できる場所
例2) 自宅のみ
例3) 海外旅行先も可(ワケーション)
例4) 決まりなし

Withコロナでは学校や保育園が閉鎖してしまい、預けないと在宅ワーク不可というのは制度として成り立ちません。感染が再び広がれば今後も閉鎖はあり得ます。業務に集中できる場所というのも、そもそも在宅ワークを想定した間取りではないので一人住まいでなければ難しい家もあるでしょう。共働きも多いので自粛期間中に夫婦がそれぞれ仕事をしているということもあります。Beforeコロナでは住まいのトレンドとして家族の顔が見える間取りというのが傾向でしたが、どちらかというと家族それぞれの仕事部屋や勉強部屋が欲しいぐらいではないでしょうか。在宅ワークを推進するのであれば、企業の制度として在宅ワークに向いた家への住み替えを支援する制度も欲しいところです。コワーキングスペース業者も三密や衛生面での対策を講じているので動向次第で活用するのも良いでしょう。

デバイス

コロナ前のデバイスの事例
例1) 会社支給のデバイスのみ
例2) スマートフォンだけ個人のデバイスも可
例3) PCもスマートフォンも個人のも可

デバイスに関しては、たまに使うのと、ずっと使うのでは要件が異なり、会社のネットワークに入るのに手間が多いわりに、ノロノロのVDIでのドキュメント作成やプログラミングという状況はストレスで、企業の生産性に大きく影響がでます。Withコロナで在宅ワークが継続するのであれば、プロジェクトのタスク管理、ドキュメントやソースのリポジトリ、問い合わせ管理などのクラウドサービスを活用したり、それらを標準化しておくのも良いでしょう。

ワークフロー

コロナ前からテレワークに着手していた企業は、紙文化やハンコ文化からの脱却に既に着手していました。しかし、取引先との書面については依然として紙やハンコでのやり取りが残っていました。双方が紙文化やハンコ文化からの脱却に賛同できるWithコロナの今が、業務の見直しをする良いタイミングだと思います。

まとめ

新型コロナ感染という長期化するパンデミックに対して在宅ワークに切り替えたことによって明らかになった、企業が想定していなかったテレワークの課題について述べました。
テレワークへの取り組みが遅れていた企業は、緊急事態宣言が解除されているうちに企業がテレワークをするのに不足しているテレワークのケイパビリティをキャッチアップすることが必要だと思います。参考として図 2に筆者が考えるテレワーク導入プロセスとテレワークのケイパビリティを紹介して本稿を締めくくりたいと思います。コロナ前に策定していたものですが、自社にどのようなケイパビリティが不足しているかを確認する参考になれば幸いです。

図 3 テレワーク導入プロセスとケイパビリティ
図 3 テレワーク導入プロセスとケイパビリティ

「参考リンク」
● 「テレワークの推進」 総務省 2020年https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/
● 一般社団法人 日本テレワーク協会 2020年https://japan-telework.or.jp

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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