先日、「ゆめみ」とオージス総研のメンバーで「UXリサーチからUIデザインへの橋渡し」をテーマに勉強会を開催しました。
登壇者は奈良輪夢美さん(ゆめみ/UIデザイナー)、神農征植さん(ゆめみ/アーキテクト)、原田巌(オージス総研/アジャイルコーチ)、赤坂英彦(オージス総研/研修トレーナー)の4名です。
本勉強会では、「リサーチ→オブジェクトモデリング→UI」という流れを中心に、二社の実践的な視点から議論を深めました。テーマは「UXリサーチからUIデザインへの橋渡し」と「UI/UXにおける気付き」です。
目次
イベント概要
「ゆめみ」とはモデリングカフェのお題作成(モデリングカフェ第6回:ゆめみ奈良輪夢美さんとコラボ企画!モデ筋エクササイズ)の縁があり、今回の勉強会開催の運びとなりました。イベントではUI/UXにおける「モデリング」を軸に「ゆめみ」の行っているUI/UXのアプローチと、オージス総研のシステム開発におけるモデリングの視点を持ちより、互いの考え方を照らし合わせながら議論を深めました。
Connpassイベントページ:https://yumemi.connpass.com/event/369019/
イベントの概要としては以下のようになります。
UXリサーチからUIデザインへつなげていく方法に決まった形はありません。 生成AIやデザインツールが進化する今、多様なアプローチが試されています。 本イベントでは「オブジェクトモデリング」に注目し、UXからUIへのアプローチを探ります。 UXリサーチの結果をどのようにオブジェクトモデリングしていくか オブジェクトモデリングからどうやってUIデザインしているか 実務ではどうやって「オブジェクト」を見つけているか オブジェクトモデリングを実践する二社の対談の後、みんなでワークを行います。 ・「他のチームやデザイナーはどうやっているの?」 ・「OOUIやUMLを実務に活かすヒントがほしい」 そんな方におすすめです。 デザイナー・エンジニア・リサーチャーなど、役割を問わずぜひご参加ください。
イベントの様子はYoutubeで見ることができます。
Youtube動画ページ:https://www.youtube.com/watch?v=kPu0C-cZsc0
UXリサーチからオブジェクトモデリングへ
「ゆめみ」の視点:ユーザーの言葉を中心に据えたモデリング
「ゆめみ」の奈良輪さん・神農さんからは、「ユーザーの言葉をそのまま使うことの重要性」が紹介されました。
ユーザーが「使いにくい」「わかりづらい」と表現したそのままの言葉をモデルに反映することが、体験を正しく再現する第一歩です。開発者側の専門用語――たとえば「論理削除」や「トランザクション」といった技術的な言葉――を持ち込むと、ユーザーとの認識に齟齬が生まれる可能性があると指摘されました。
また、複数人でモデルを描くこと自体に大きな意義があるという点も共有されました。各メンバーが描くモデルを突き合わせ、異なる解釈をすり合わせる過程自体が、ユーザー体験への理解を深める重要なステップであるといいます。その中で、ユーザーの語彙からクラス(概念)を見出すことがポイントになるとの見解が示されました。1人のユーザーからのヒアリング(n=1)では偏りが出やすいものの、複数人の発話を比較していくと共通して登場する「オブジェクト」や「概念」が浮かび上がり、ユーザー像の輪郭がより明確になるといいます。
「ゆめみ」ではこうしたプロセスを「リサーチ」というよりも「ヒアリング」に近いものとして捉えています。言葉や体験の背後にある構造を丁寧に掴み取ることが、モデリングの核心にあると考えられています。
オージス総研の視点:現場から価値を見出す「OGIS Creation Style」
オージス総研の原田・赤坂からは、アジャイル開発・デザイン思考・行動観察を融合した独自の手法「OGIS Creation Style」について紹介しました。現場での観察を通じて実際の行動を抽出し、そこに潜む価値を見出していくアプローチです。モデルを活用することで、「なぜそのシステム構造なのか」をチーム全体で共有し、共通の理解を深めることができます。
議論の中で、「ユーザーの言葉」だけでなく「ユーザーの行動」を捉えることの重要性をお伝えしました。とくに組み込み系の開発では、技術者が装置の視点で語りすぎる傾向があります。たとえば「ボールを出す」といった表現ではなく、「ユーザーがボールを受け取る」と捉え直すことで、利用者中心の視点に立ち戻ることができます。
また、モデリングは“正解”を描く作業ではなく、チームの認識をすり合わせるための「対話の行為」であることを強調しました。UMLの教科書的な正解を求めるよりも、「なぜこの形になったのか」という意図や背景を共有することに価値があると考えています。
オブジェクトモデリングからUIデザインへ
オージス総研の視点:システム構造からUIを逆算する
オージス総研の原田・赤坂からは、システムの構造(ドメインモデルなど)をもとにUIを設計するアプローチについてお話ししました。ロバストネス図(アクター・バウンダリー・コントローラ・エンティティ)を活用し、アクター(ユーザー)とエンティティ(データ)の関係を俯瞰することで、「UI」を設計するという考え方です。
原田はロジックの実装や設計を得意としていて、UIは得意分野ではありませんが、業務フローを起点として画面の流れを導き出すことで、ドメインモデルによる情報の構造をUI設計へと自然につなげる工夫をしています。特にUI設計では静的なクラス図だけでは表現できない「関係性」をどのように表現するかが鍵になります。時間軸や文脈をロバストネス図や画面の状態遷移にどう組み込むかが、UI設計とモデリングをつなぐ大きなヒントであると考えています。
「ゆめみ」の視点:ユーザーの関心から構築するUI設計
「ゆめみ」からは、OOUI(オブジェクト指向UI)の活用について紹介がありました。 ユーザーの関心オブジェクト(例:商品・注文)を中心にUIを構築し、「一覧 → 操作」という一貫した流れを設計することで、自然なユーザー体験を実現するというものです。CRUD(Create, Read, Update, Delete)操作とも相性がよく、UIに落とし込みやすい点も特徴として挙げられました。
議論の中では、システム側が“機能一覧”から設計を始める傾向がある一方で、UI設計は“関心ごと”から出発すべきだという指摘もありました。その両者の視点をどのように対話の中で統合していくかが重要であり、「この情報はUIに必要か?」「モデリングではどう表現されているか?」といった具体的なやり取りの積み重ねが、良い設計につながるという意見が共有されました。
さらに、参加者からの「今でもペーパープロトタイピングは行っていますか?」という質問に対して「ゆめみ」ではペーパープロトタイピングを今も重視していますと答えていました。スプリント前に手描きのワイヤーフレームで認識合わせを行い、形式的なアウトプットではなく「会話を促すツール」として活用している点が印象的でした。
グループワークで得られた感想・気付き
今回のワークショップでは、「ラーメン屋のQR発注システム」をテーマに、2つのチームに分かれて演習を行いました。 一方のチームが実際にそのシチュエーションを演じ、もう一方のチームが観察者として体験を記録。その後、それぞれが得られた観察結果をもとに構造化し、UI設計につなげるという流れです。
実演と観察に分かれて行うことで、単なる画面設計を超えて「体験そのものをどう捉えるか」という本質的な問いに向き合う時間となりました。
参加者がまず気づいたのは、観察で得られた一側面だけをそのままUIに反映しても、実際の体験を十分に捉えられないという点でした。 たとえば、ラーメンの味や具材を選ぶ場面と、食後にスープ割りやデザートを頼む場面とでは、ユーザーが注目するポイントが異なります。こうした時間の流れに伴う変化を踏まえなければ、UIは不十分な体験しか表現していないことになります。
また、提供者と利用者では、見ている構造が異なることも議論されました。 ワークでの演者は店全体の流れを意識し、観察者は注文システムとしてのメニュー構造を重視するなど、立場の違いがそのままモデルの違いに表れていました。
さらに、画面には直接現れない “待ち時間” や “注文状態” といった要素も、ユーザー体験に影響する大事なポイントだという気づきがありました。こうしたポイントも含めて体験を整理することで、自然なUIにつながっていくことを学びました。
まとめ
UXからUIへのアプローチは「ユーザー体験を理解し、チーム全体で共有しながら構造化すること」が肝です。 「ゆめみ」はユーザーの関心事からの抽象化(OOUI)を軸に、オージス総研は観察とモデリングをアジャイル的な繰り返し検証することを軸に据えています。
両者に違いはありますが、共通していたのは以下の3点です。
- 図を描く行為自体が認識の統一を促すこと
- ユーザーの言葉・行動・感情を捨てないモデリングがUIの質を左右すること
- モデリングは完成図ではなく、“会話の道具”であること
今回の学びから、UI/UX をモデリングカフェの「お題」として試すのも面白いのではないかと感じました。 その過程で、モデリングとしての共通点もさらに見えてきそうです。
