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「組織文化とは何か(1)」
株式会社オージス総研

2018年04月号
  • 「組織文化とは何か(1)」
株式会社オージス総研   山海 一剛

1.

はじめに

最近よく耳にする言葉に「デジタルトランスフォーメーション」と言う言葉があります。でも多くの企業は、その実践にあたって壁にぶつかっているようです。例えば、株式会社電通デジタルの調査(2017年 *1)によると、企業の68%が、自社においてデジタルトランスフォーメーションの必要性を認識しているとの結果が出ています。しかしその51%は「未着手、計画なし」とどまってしまっているのが実状です。

デジタルトランスフォーメーションの取り組み状況

では実際にトランスフォームするにあたって、何が成功のカギになるのでしょうか?「デジタル変革に取り組み中」と回答した企業を対象にして、「デジタルトランスフォーメーションを成功させるための主要因は?」との問いに対する上位3つは次のような結果となっています。

デジタルトランスフォーメーション実行上の重要な要素は?

3つのパーセンテージはほぼ同じなので、1位から3位までに有意差があるとは思いませんが、少なくともトランスフォーメーションに取り組んだ企業の多くが、「テクノロジーだけでは実現できない」、「組織文化の変革が必要」と認識していることは確かなようです。
以前からこのWebマガジンでも組織文化の重要性を語ってきました。昨年7月号「IoTのビジネス上の課題 *2」では、当社の水間が「新たな機会に挑戦する意識の問題」を主要な課題として挙げています(この記事では「2016 GEグローバル・イノベーション・バロメーター *3」もご紹介していますので合わせてご参照ください)。さらには11月号でも当社の竹政が「サービスデザイン思考に必要とされるマインドセットと組織 *4」として、マインドセットや組織文化改革の必要性を述べています。

2.

組織文化の重要性

とはいえ組織文化の重要性については、かなり以前から認識され強調されてきたのです。例えば、ドラッカー (Peter Ferdinand Drucker 1909 - 2005)は、「culture eats strategy for breakfast」と語っています。A eats B for breakfast とは「AにとってBは敵ではない」というようなニュアンスですが。あえて意訳すれば「多くの経営者・管理者は戦略こそが成功のカギと考える。しかし戦略は組織文化にはかなわない」「どんなに優れた戦略を立てても、それを実行する組織が良い文化を持っていない限り、成功はありえない」と言うことだと思っています。
多くの企業の経営者を歴任し、IBMを危機から救ったガースナー (Louis V. Gerstner, Jr. 1942 - ) は、「私がIBMに来る前は、組織文化とは企業の一要素だと思っていた。しかし実は企業そのものであることに気が付いた」と語っています。さらに現代のサービスデザインの権威であるデイブ・グレイも「文化とは企業のOSである」と言っています。ところで私は、このOSというアナロジーが非常に気に入っています。テクノロジーが進化して新しい世代のアプリケーションが登場しても、それをインストールするマシンのOSが旧来のままであれば、新しいアプリケーションは良さを発揮できないでしょう。

3.

組織文化とは何か

このようにデジタルトランスフォーメーションがきっかけとなって、組織文化の重要性が広く再認識されつつあることは、非常によいことだと思います。しかし一点気になるのは、そもそも「組織文化という言葉の理解が一致しているのか」という点です。そこでこの記事では、「組織文化とは何か」を少し掘り下げて考えてみようと思います。
まず手始めにWikipediaの助けを借りましょう。イギリスの人類学者のタイラー (Sir Edward Burnett Tylor 1832 - 1917) は「人が社会・組織の成員として獲得した能力や習慣を含むところの複合された総体のことである」と定義しています、でもこれは文章が難しすぎてピンときません。アメリカの社会学者、社会心理学者であるタモツ・シブタニ (Tamotsu Shibutani 1920 - 2004) は、「組織の中で人々に共有されているパースペクティブ(認識枠組み)を指すもの」と定義しました。このパースペクティブや認識枠組みという言葉には、大きなヒントがありそうに感じます。私はシブタニ氏の言うパースペクティブを、価値観や原理原則であると考えてみました。人間は同じものを見ても、その人の価値観や信じる原理原則が違えば、認識の仕方が大きく異なってきます。水が半分入っているコップを見ても、人によって「半分しか入っていない」「半分も入っている」と認識の仕方が異なるというのは、よく聞く話ですが、そういう「認識の仕方の違い」には個人差があり、組織内の「認識の仕方の類似性や共通項」が組織文化と考えれば、腑に落ちます。それゆえ組織文化とは「組織の中で、意識的あるいは無意識的に共有されている価値観や原理原則のこと」と考えています。また組織文化は「組織に依存するものであり、特定の個人に依存するものではない」と言えますし、新入社員もしばらくすると、その組織の文化になじんでいくことを考えると、他との会話や、周囲の行動の観察を通して、「「組織に属することで自然と身に付けていくもの」とも言えると思います。

4.

ジレンマに陥った時に組織文化は顕在化する

少し観点を変えましょう。人は何をもって「組織文化」を感じるのでしょうか。組織文化がシブタニ氏の言うような「認識枠組み」なのであれば、当然目には見えません。でも多くの人は、「これってまさにうちの会社の組織文化だよなぁ」と感じた経験を持っていると思います。その時、私たちは何から何を感じ取っているのでしょうか。おそらくそれは、同僚の行動・反応をみて、同じようなシチュエーションでの別の同僚の反応を記憶しており、「うちの社員らしい反応だな」「うちの社員によくあるパターンだな」と感じるのではないでしょうか。つまり「その組織の人間であれば、同じ状況に置かれると、同じような反応(行動)をする傾向がある」と感じる経験が、組織文化を感じる経験だと言えないでしょうか。でも大半の人が同じような反応をするシチュエーションでは、組織文化を感じるような行動は発見しにくいでしょう。例えば美味しそうな料理を見て、「おいしそう!」と反応することに、その組織固有のパターンを見つけることは、まずないと思います(表現の個人差はありそうですが)。では組織文化を発見しやすいシチュエーションはあるのでしょうか。これは私の考えですが、それは「ジレンマに陥っている状況」だと思います。いくつか例をあげてみましょう。
<パターン1>
納期ギリギリになってしまったプロジェクトにおいて、テストが不十分と認識されているとき。
→品質を犠牲にして納期どおり納品するか、お客様にペナルティを払ってでも品質を優先して納期を変更するか
例えば、少し前ですが、あるお客様で複数の品質問題が発生したことがあります。社員の方に経緯をヒアリングしてみると、多くの社員が「テストケースが少なすぎると感じていたが、納期を破るわけにはいかないのでリリースした」「品質を疑問視する声が多かったが、やむなく納品した」「工数の余裕がなく、維持管理のためのドキュメントをほとんど作れなかった」といった説明を多く聞きました。しかもそれらは異なる組織、異なるプロジェクトだったのです。けっして品質を軽視しているわけではないし、維持管理のために何が必要かも理解している。しかし納期やコストとのジレンマに陥ると、みな一様に納期を優先する方を選択しています。
<パターン2>
新しい技術要素を使う、不確定要因の多い提案を顧客から求められた。
→顧客からの提案依頼とはいえ、リスクは少なくない。しかし成功すれば他社に先駆けた適用事例を作ることができる
例えば、ある会社のアーキテクトはこのように嘆いていました。「開発部門と調整しても、リスクの高さを理由にたらいまわしにされてしまうケースが多い」と。彼は社内でも先端的な技術を持っており、お客様から新技術を適用した提案依頼を受けることが多いのですが、技術的チャレンジがあるからこそ、技術力を評価して提案依頼を頂いているのに、結果的にお断りすることになってしまうケースが続いているというのが彼の悩みでした。
デジタルトランスフォーメーションに取り組む場合も、ミッションとして与えられた社員からすれば、これと同じような状況でしょう。新しい技術要素を使うとしても、どのようにそれを価値に転換し、ビジネスとして成長させればよいかわからない…といった状況に置かれたとき、成長の機会ととらえてあえて取り組むのか、失敗を恐れて「出来ない理由」を並べ立てて取り組まないのか?これも組織文化の顕在化です。おそらく今の日本の企業では、後者の文化が大多数であるからデジタルトランスフォーメーションに苦しむ企業が多いのだと思いますし、デジタルトランスフォーメーション自体がそのような性質であるからこそ、取り組んでいる多くの企業が組織文化改革の必要性を痛感しているのでしょう。

5.

組織文化を創り出しているもの

いったい組織文化をかたちづくっているのは何なのでしょうか?先ほど組織文化とは「組織の中で、意識的あるいは無意識的に共有されている価値観や原理原則のこと」と書きましたが、私はその構造を図のような3階層モデルとしてとらえています。この図は以前の私の記事(*5)で紹介したダニエル・キム (Daniel H. Kim).の「成功の循環モデル(2002)」の「思考の質」、「行動の質」、「結果の質」を縦に配置して、少し細分化したものです(成功の循環モデルにはさらに「関係の質」があり、その重要性は認識していますが、この図ではあえて省略しています)。

組織文化をかたち作るもの
図1 組織文化をかたち作るもの

他者の目に見えるのは、行動と結果でしかありません。その見える部分である「行動」に共通するパターン、つまり行動様式を発見して、人は「企業文化」として認識するわけです。この図では、水面下の部分をさらに「価値観」と「原理原則」の2つ分けてました。

そのヒントになったのがアジャイル宣言(アジャイルソフトウェア開発宣言 Agile Manifesto 2001 *6)です。参考にしたのは内容ではなく、表現形式で、アジャイル宣言は「4つの価値」と「12の原則」から成り立っています。組織文化の要素を考えるとき、私はこの「価値」と「原理原則」の2つで考えるとわかり易いと思うのです。

6.

価値

まず「4つの価値」を見てみましょう。4つの価値とは下記のようなものなのですが、ここで重要なのは「AよりもBを(A<B)」という不等号の表現になっており、注釈にあるように「左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく」と、Aの価値を否定しているわけではない点です。よく企業理念や社員行動規範なので、「当社は〇○を大切にします」「〇○第一」といった表現を見かけます。それが間違っているとは言わないのですが、本当に理念や規範に頼って判断すべきときとは、たいてい2つの価値観を両立できない状況に陥っているときです。「A<B」という表現は、明確に「(もし両立できないようなことがあれば)AではなくBを選択せよ」と明文化されているわけです。それが明確で無いがゆえに、誤った選択をしたり、「自分の立場では判断できない」と上位者に判断をもとめた結果、迅速な対応が遅れて事態を悪化させたりするように思います。

アジャイル宣言の4つの価値
図2 アジャイル宣言の4つの価値

前述のパターン1であれば、「納期 > 品質」や「リリース > 維持管理」。パターン2であれば「安全(リスク回避) > 新技術(他に先駆けて新技術に取り組むメリット)」といった不等号で表現できます。この記事をお読みの方も、自分の会社、自分の部、自分のチームの価値観を、この不等号形式で表現してみることをお勧めします。組織の現状だけでなく、目指したい理想の組織文化でも表現してみるといいでしょう。

7.

原則

アジャイル宣言では「4つの価値」の次に「12の原則」を定めています。これは価値観を補強するものとして、実際の現場での判断指針となるものです。ここではあえて「原理原則」と表記しました。原理とは「物事についての基本的の性質、本質(の理解)」、原則とは「物事に対して人はどのように行動すべきかを決めた規則(行動原理)」と定義されます。原理原則は、誰にとっても不変であると考えたくなりますが、それは間違いです。例えば「仕事とは(仕事の本質)」について、「生活費を稼ぐ手段だ」と認識している場合と、「自己実現の手段」と認識している場合では、まったく行動パターンが異なってきます。そしてこれも価値観と同じように、組織に共通する原理原則が存在します。それを明確化するのはかなり難しいのですが、ヒントになるものはあります。それは組織の中でよく使われる言葉・フレーズです。
たとえばあなたのチームでは「言ったもん負け」という言葉をよく聞きませんか?何か問題を指摘したり、改善のアイデアを出したりすると「じゃあ君やって」と言い出した人に押し付けてしまう。このような言葉・フレーズにこそ組織共通の原理原則が表れてくるのです。このような言葉の背景には、仕事に対する認識があり、その認識にもとづく行動原則があるのです。そのフレーズが会議や日常会話でよく登場するのであれば、それは組織に共通する原理原則となっている可能性が高く、まさに組織文化と言ってよいでしょう。

よい文化を持つ組織は、よい言葉やフレーズをたくさん持っています。トヨタ自動車は、「トヨタの言葉」をテーマにしたたくさんの本が存在するように、よい言葉・フレーズの宝庫です。例えば「バッドニュースファースト」。この背後には問題の発見は悪いことではなく良いことだ(問題が隠ぺいされることこそが問題だ)という、「問題」に対する認識が共通しており、発見された問題をインプットとして改善を進めるという原則が存在するわけです。だからこそ「バッドニュースファースト」として問題の発見こそ最優先で報告すべきという言葉が、社内のいろいろな場所、いろいろな局面で使われているわけです。もうひとつ「現地現物」も同様です。これは「実際に現地で現物を確認することこそが、最も効率的な手段である」というマネージメントの原理であり、現場に報告させるのではなく自ら実際に現場に足を運んで確認するという行動原則を表しています。

8.

まとめと次回に向けて

ここまで、「組織文化とは何か」を考えてきました。組織文化の実体とは、組織に共通する考え方や認識の仕方であり、それは価値観と原理原則として表現できます。特に価値観は不等号のかたちで、原理原則はその組織でよく使われる言葉・フレーズをヒントに形式知化できるのではないか?というのが、この記事でお伝えしたかった私の考えです。
では実際に皆さんの組織は、どのような組織文化を持っているのでしょうか?もちろん皆さんにとっては自分の会社であり組織ですので、あるていど感覚的に把握しておられることと思います。でもそれを言語化してみると、いろいろなことが見えてくるはずですし、またそれが組織文化を変革する手掛かりになるかも知れません。一見遠回りに見えるかも知れませんが、そんな基本的な領域から手を付けることこそが、デジタルトランスフォーメーション成功のカギだと信じています。

最後に私なりに、デジタルトランスフォーメーションに必要な価値観を、不等号形式で表現してみました。

デジタルトランスフォーメーションに必要な価値観

次回は自分の会社やチームもつ組織文化を形式知化する方法と、それをより良い文化に変えていくための戦略について考察します。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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