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「デジタル・バリューチェーンを具体化する「IoT」×「アナリティクス」」

2017.09.15 株式会社オージス総研  小林 祐介

■「工場内」と「アフターマーケット」

事業環境が厳しさを増す中、企業は新たな武器を手に入れて、よりいっそう自社の製品やサービスを強化する必要があります。そして、新たなサービスの提供、新たな生産性向上策を実現するためには、自社のバリューチェーンを「デジタル・バリューチェーン」に変革していく必要があります。

「デジタル・バリューチェーン」を具体化していくための手段として、「IoT」と「アナリティクス」があります。「IoT」と「アナリティクス」はばらばらに考えるのではなく、両方を戦略的に扱い、シナジーが生まれるように、「IoT」×「アナリティクス」で考える必要があります。

デジタル・バリューチェーン
図1. デジタル・バリューチェーン

製造業を例にとった場合、この「IoT」×「アナリティクス」の利活用シーンは、製品の出荷を分水嶺に、「生産ライン(工場内)」と「アフターマーケット」の大きく2つに分類されます。そして、利活用シーンが「工場内」の場合は、「生産性の向上」が目的となり、生産状況の可視化、製造装置のダウンタイムの削減、検査工程の効率化といったことが活動テーマになってくるでしょう。

また、利活用シーンが「アフターマーケット」の場合は、「製品を使用するお客さまに届ける価値の向上」が目的となり、稼働状況の可視化、製品のスマートメンテナンス、新しいサービスの開発といったことが活動テーマになってくるでしょう。さらに、歩みを進めている企業では、開発した「IoT」×「アナリティクス」の仕掛けを他社に販売するケースも出てきています。ここまで成熟度が上がってくると、「ドメイン・ノウハウ」×「IoT」×「アナリティクス」の3つの要素がうまく組み合わさった形となり、マーケティング活動も必要ですが、相応の収益が期待できるでしょう。

戦略的には、3つの要素のいずれかに圧倒的な差別化要素があることが望ましいです。しかし、実際には多くの企業において、そうではないこともあると思われます。そのような場合は、競争の少ない事業領域または事業機会を見い出し、3つの要素それぞれで創り出した差別化要素を組み合わせて、その事業機会に適用していく方法が効果的です。自社独自の「ドメイン・ノウハウ」があれば、競合他社への模倣困難性にも寄与することが期待できます。

「生産ライン(工場内)」と「アフターマーケット」
図2. 「生産ライン(工場内)」と「アフターマーケット」

■新製品と新サービスの開発プロセス

今回は、利活用シーンとして「アフターマーケット」を選び、話を進めたいと思います。まず、企業の技術プラットフォームを構成する基礎技術の研究以降にあたる、新製品と新サービスの開発プロセスは、一般的に以下の7つから成り立っています。技術開発にステージゲート方式を採用している場合は、各プロセス間には、ステージゲートが設けられ、それぞれの関係者の代表(プロジェクトリーダー、営業、マーケティング、技術、事業責任者)が集まり、進捗や活動結果についてディスカッションを行います。そして、ゲートでは基本的に、「RWW(Real/Win/Worth)」をキーワードに、「できるのか?/売れるのか?/もうかるのか?」が問い掛けられるでしょう。

プロセス1. アイデア出し
プロセス2. コンセプトまとめ
プロセス3. フィージビリティ・スタディ
プロセス4. 開発
プロセス5. 量産化
プロセス6. 市場導入
プロセス7. 市場拡大

ここでのポイントは、各プロセスにおいて、マーケティングと技術の両方に目を配りながら、開発を進める必要があるという点です。DFSS(Design For Six Sigma)でも重要視されているように、顧客の声を聞く「Voice Of Customer」の活動が重要だと考えます。具体的には、アイデアを出した技術者が顧客を直接訪問したり、展示会にプロトタイプを出展したりすることで、顧客の意見を聞き、鵜呑みにはせず、それらを集約し分析します。

そして、効率的にVOCを進めるためには、プロセス1「アイデア出し」と、プロセス2「コンセプトまとめ」のスピードが重要になってきます。早い段階で、フィージビリティ・スタディに持ち込み、実際にモノを作りながら、データを収集および分析することで、細かく軌道修正を行いながら進めていくことが、成功確率を高めます。

■価値ある情報を生み出すアナリティクス

プロセス2「コンセプトまとめ」を完了したら、いきなりIoTを使ってデータを収集するのではなく、コンセプトに表現された価値を顧客に届けるためには、どのような「情報・機能」が必要になるのかを検討します。その情報は、顧客の課題の解決に役立つものでなくてはなりません。例えば、その情報・機能は、製品の状態と使用状況に応じたメンテナンス通知(Condition Based Maintenance)、ユーザのスマートフォンを使った機器操作などです。

 特に、顧客または製品提供側に価値ある情報をもたらすエンジンは、アナリティクスです。このアナリティクスは、ビジネスとデータの両方を分析することを指しています。製造業におけるアフターマーケットに目を戻すと、アナリティクスをうまく使って、独自の分析モデルとプラットフォームを構築するという動きが活発になっています。

また、分析モデルについては、1度作成すれば完了といったものばかりではなく、新たに集まってきたデータをもとに、定期的および動的にモデルを作成することがあります。そこでも、AIの中核技術でもある機械学習が使われています。また、機械学習についても、作業の一部を自動化するツール(平成29年度情報通信白書に記載のあったDataRobotなど)が市場に出始めています。自社内でのデータサイエンティストの育成に加えて、選択肢として機械学習自動化ツールも考慮に入れておくべきでしょう。

アナリティクスの進め方
図3. アナリティクスの進め方

■補完してくれる外部パートナー

このような取り組みを進めるには、自社の資源(人、モノ、金、技術、アイデアなど)だけでは不足することがあります。そのような場合は、自社の弱い部分を補完してくれる外部パートナーを見つけ、協力関係をうまく構築する必要があります。いきなり、オープンイノベーションはハードルが高いと感じている企業でも、まずは取り組みの目的を明確に定義し、自社の資源(技術とノウハウ)の棚卸しを行い、その目的に賛同して、力を貸してくれる仲間を見つけるところから始めることは可能ではないしょうか。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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