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「サービスデザイン思考 ―素早く失敗することについて―」
2018.05.22 株式会社オージス総研 仙波 真二
はじめに
デザイン思考、アジャイル開発、リーンスタートアップの共通点の一つとして「素早く失敗する」ということが挙げられます。現代は社会・技術などの変化が激しい世の中であるため「素早くチャレンジ」して「素早く失敗」しながらユーザーが求めるものを模索していくというアプローチが必要です。しかし「失敗する」ということをそもそも受け入れられないという組織が多いのが実情ではないでしょうか。例えば「新たなサービスを創出する」というプロジェクトがスタートしても、「ユーザーの反応を見ながら軌道修正する」とか「ユーザーからのフィードバックを参考にしてやり直す」ということが前提となっておらず、決められたスケジュールのなかで最初に決めたゴールにむかってひたすら突き進むというようなケースです。こうなるとアウトプットをつくることが目的になってしまい、誰のためにサービスをつくっているのかということが忘れ去られてしまいます。そこで、今回は「素早く失敗する」ということの真意について考えてみたいと思います。
図1.フィードバックをもらう
「人に役立つものは、人の心をみないとわからない」
「エンジニアのためのデザイン思考入門*1」という書籍の中に、「素早くチャレンジ」して「素早く失敗する」ということの必要性とその理由についてうまく表現している箇所がありましたので以下に引用させていただきます。
「デザイン思考は、やってみて、フィードバックを受けて、よりよくしていくサイクルだと思うんですが、留学中に感じたポイントは、これは芸を磨くプロセスなのかなということ。(中略)
僕は趣味でジャズをやっていて、大学時代はサークルに入っていました。スタンフォード大学に留学中もジャズの授業を受けたりしました。ジャズも、自分がいいと思ったフレーズを練習して、観客の前で演奏して反応を見る。それで落ちこんだり、喜んだりする。インプロ *2 でアドリブをする要素が大きい。演奏中にお客さんの反応に合わせてこうしようと、フィードバックを繰り返していく。
考えたことをやってみて、最終のアウトプットのフィードバックをすぐに受けて、またそれに合わせていく。そのノリとすごく近いなと思います。アイデアを考えて形にして、「どう?」って見せて。いや全然違うよ、みたいな反応がある。
それまでは研究所で、モノに向かってひたすらデータを採ったりするだけで、自然現象やモノとの戦いだった。でも、人のための製品だったり、感情を動かす製品というのは、やはり人の心を見ないといけない。エンターテイメントのように心を動かしたり、人に役立つものというのは、人の心で反応をみないとわからない。最初から人でテストしないといけない。それと同じだなと感じました。」
(「エンジニアのためのデザイン思考入門 *1」より)
「デザイン思考は、やってみて、フィードバックを受けて、よりよくしていくサイクルだと思うんですが、留学中に感じたポイントは、これは芸を磨くプロセスなのかなということ。(中略)
僕は趣味でジャズをやっていて、大学時代はサークルに入っていました。スタンフォード大学に留学中もジャズの授業を受けたりしました。ジャズも、自分がいいと思ったフレーズを練習して、観客の前で演奏して反応を見る。それで落ちこんだり、喜んだりする。インプロ *2 でアドリブをする要素が大きい。演奏中にお客さんの反応に合わせてこうしようと、フィードバックを繰り返していく。
考えたことをやってみて、最終のアウトプットのフィードバックをすぐに受けて、またそれに合わせていく。そのノリとすごく近いなと思います。アイデアを考えて形にして、「どう?」って見せて。いや全然違うよ、みたいな反応がある。
それまでは研究所で、モノに向かってひたすらデータを採ったりするだけで、自然現象やモノとの戦いだった。でも、人のための製品だったり、感情を動かす製品というのは、やはり人の心を見ないといけない。エンターテイメントのように心を動かしたり、人に役立つものというのは、人の心で反応をみないとわからない。最初から人でテストしないといけない。それと同じだなと感じました。」
(「エンジニアのためのデザイン思考入門 *1」より)
ビジネス現場の問題点
今のビジネスの現場で、上記の「やってみて、フィードバックをうけて、より良くしていく」ということができる組織はどれくらいあるでしょうか。フィードバックを得ることをプロセスに組み込んでいる場合でも、ユーザーから「なんか、ちがうんですよね」とか「いや、全然違うよ」という反応をもらうと、途端に場の空気が重くなったという話をいくつか聞いたことがあります。このケースの問題点は、一発勝負みたいになっていること。その背景には、製品やサービスをあらかじめ計画した期間内に、計画した成果物を作成するという制約があり、さらにその背景には、やっていることの正しさが常に求められる(失敗が許されない)という企業内の暗黙の前提があるのかもしれません。結果としてユーザーのためにはなってないということは言うまでもないでしょう。
図2.なんかちがうんですよね~
まとめ
「素早く失敗する」ことの真意は「人の役に立つものをつくること」であり、そのためには、ユーザーの反応にあわせてフィードバックを繰り返していくというインプロ *2 的なノリが必要でということをご紹介しました。「失敗できる、チャレンジできる」ということが組織としてしっかりコミットされていれば、「素早く失敗する」ということを想定したプロセスを策定できるのではないかと思います。すべてのケースに対してこのような取り組みが必要というわけではなく、少なくとも新しいことにチャレンジする場合はこのような前提が必要ではないでしょうか。
(参考文献)
*1 | 東京工業大学エンジニアリングデザインプロジェクト, 「エンジニアのためのデザイン思考入門」 https://www.amazon.co.jp/dp/4798153850 |
*2 | インプロ(インプロビゼーション) インプロビゼーションとは「即興」を意味します。以下に詳しい内容が記述されていますので、是非ご覧ください。 上平崇仁, 「インプロビゼーションとアイデア発想ワークショップ :いま、この瞬間の世界と向かい合うことの意味」 http://kmhr.hatenablog.com/entry/2016/10/20/212753 |
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