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「サービスデザイン思考 ―集団発想における「心理的安全性」の確保について」

2018.12.17 株式会社オージス総研  仙波 真二

はじめに

私は業務の一環でアイデア発想のファシリテータを行うことがあります。経験が浅い時はアイデア発想のプロセスや手法に意識が向いていました。例えば、世の中には様々なプロセスや手法がありますので、それらを調査して実際に試してみる、ということをワークショップの前にやってみます。そして「このテーマだと、STEP1で、AとBの手法を使うのがベストかな」ということを考えて、ワークショップのプログラムを設計します。

ワークショップのプログラムを考える
図1. ワークショップのプログラムを考える

しかし、経験を積んでいくとプロセスや手法以前に重要なことがあることに気づきました。それは「心理的安全性」の確保です。

オンサイトワークショップでの気づき

アイデア発想でよく使われる手法としてブレーンストーミングがあります。ブレーンストーミングは、集団でアイデア発想を行う手法として広く知られています。ワークショップではブレーンストーミングの原則に則って「突飛なアイデア歓迎!」「思いついたら何でも書いて!」というようなアドバイスをします。すると、参加者の多くはその通りにやってくれることが多いです。
しかし、オンサイトのワークショップの場では、たまにうまくいかないことがあります。例えば、若手社員があまり発言していないようなケースです。ワークショップ終了後に雑談してみると、ワークショップ後のことを気にしているようでした。つまり、ワークショップの場における発言が、日常業務での仕事や人間関係にも影響してしまうことを懸念しているということで、その人にとっては心理的安全な場ではなかったということになり、申し訳なく思いました。
一方、ワークショップでは心理的安全な場を構築できたとしても、終了間際にふと冷静になってしまうという場面もあります。例えば、ワークショップでは、ばかばかしいことを言い合えるチームを形成できていたのですが、終了間際の休憩中に「こんなことをやっていたなんて、職場に戻って言えないよ…」と、冗談交じりに雑談しているチームがありました。いずれのケースも組織の慣習や文化など、根深い部分との関係性もあるので、なかなか難しい問題です。

オンサイトワークショップでのひとコマ
図2. オンサイトワークショップでのひとコマ

米Googleの調査事例

完璧なチーム(Perfect Team)を構築するには? ということについて、米Googleの社員を対象に調査した事例があります *1。これによると、かなりの調査と考察を繰り返したにもかかわらず目立ったパターンを見つけることができなかったようです。例えば「チーム編成やチームのルールがチームのパフォーマンスに影響しているのではないか」、「リーダーシップやメンバーの能力がチームのパフォーマンスに影響しているのではないか」という感じで調査と考察を繰り返すものの、決め手となるパターンが見つからない。結果的に導き出した結論は、「心理的安全性」がチームで仕事をする際に他の何よりも重要であるということでした。

「心理的安全性」とは、「チームで話したことで恥をかかせられたり、否定されたり、叱られたりしないという確信感(エドモンドソン,1999)」であり、それは、人々がありのままの自分でいることが快適な対人関係の信用と相互尊重を特徴とするチームの雰囲気を表しています。*1

まとめ

米Googleの調査事例から、良いチームをつくるには「心理的に安全な関係性を作る」ということからスタートする必要があるということがわかります。ワークショップでも、和気あいあいと何でも言い合えるチームは、心理的に安全な場ができている状態で、結果としてアイデアがたくさん出る傾向があります。今回の記事では、集団発想という狭いスコープにおける「心理的安全性」の重要性について記述しましたが、組織においても日常的に何でも言い合える場をつくっていきたいですね。

心理的に安全な場のイメージ
図3. 心理的に安全な場のイメージ

(参考文献)

*1 "What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team"
The New York Times, FEB. 25, 2016

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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